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第196話 空に赫い流星


 やあやあ、遠からん者は音にも聞け。近くば寄って目にも見よ!

 

 彼こそは、伸縮自在の如意なる神棍を手に、斉天(せいてん)の神力振るう、当代に現れし英雄。碧眼阿修羅をも(しの)ぐ金剛夜叉の化身なりや──


「おらあああああっ!!!」


 ゴンッ、カン、カンゴンッ!


 やや鈍い、金属を殴打する音から僅かに遅れて。

 

  BOOON,BOoON,BOooON……

    ……BANG!,DOoNG!,DDonG!!

 

 風を引き裂く何かの音が、腹の底に響くような重い音が複数空から響く。音の名残が地を舐める。風が()き、撃音が応える。


 前者は、雲上を駆ける朱棍の使い手が、飛来する『死』を弾いた音であり。


 後者は、その朱棍の持ち主や、あるいは近くの帝国軍に向かって『破城槍』が発射され、飛翔してくる際の音だ。


 破城槍の初速は音よりも速いため、帝国軍の位置からは音が槍の実体より遅れる。そのため朱棍に弾かれる際の音や飛翔で空を切り裂くのほうが早く聞こえ、発射音が最後に聞こえるという逆転現象が起こっていた。


 本来なら、その発射の轟音が聞こえた時にはもう目標を貫通している、そんな術式なのだが……。今この時、金属音と轟音は幾つも、何十も連続し、終わらず、止まらない。


 ブンッ!カン、コンゴンッ!

  BOOON,BOoON,BOooNBOooN

    ……BANG!,DONG!,DONDDDON!!!


     ……Dooon……Zbar……DonGara……


 遥か遠くからも一拍遅れて鈍い音がする。戦場から弾き出された巨槍が樹木をなぎ倒したり、あるいは岩を砕いたり、大地に突き刺さったりした音だ。そうしてあちこちに半径数シャルク(m)の衝突痕(クレーター)が造られていく。


「せいやっ!!」


 神速の長き朱棍の先端もまた音の壁を超越していた。余りの速さに付近の空気は急激に圧縮され灼光を生じ、水蒸気の糸が()かれて円弧の軌跡を描く。


 そうして光の鞭となったそれが、何十と解き放たれる死を迎撃し、追い払う。赤き残光と白い糸が、音の壁を超えた証の音と共に観客らの五感に焼き付いた。


「空を見ろっ」

「鳥か!?」

「飛竜か!?」

「鳥人間か!?」

「お前は阿呆か!」

「なんなのだあれは!」

「あの術を、魔術無しに弾くだと……」


 多くの帝国兵が、いや、それだけでなく幻妖軍の一部すらも、呆然と空を見上げる。

 

 『破城槍』の射出は火薬による砲と違って爆発や閃光を伴わない。そのため発射の瞬間がいつなのかは、砲門前に展開される魔法陣の動きを見ないと分からない。


 魔法陣そのものは術式の高度さゆえに直径十数シャルク(m)と巨大だが、その変化を遠方から読み取るのは至難の業だ。しかもそれが数十もある。


 飛翔する槍自体も細く、視認は難しい。遠くから見えるとしても、槍によって空気が引き裂かれる際に発する蒸気錐(ベイパーコーン)くらいだろう。それも一瞬しか残らない。


 だから常人にとって射出の有無は、それによる衝撃波の余波と音で知るしかない。ロイの偉業も音が教えることになる。


 ガンッガガガガゴガガゴガン!

  BooNBBBBoOooNBBBBBouuoooNN…

   ……BANG!DDDDoOoooN!DDDDDDDoN!


 ついに全ての砲がタイミングを同期して同時射出しはじめたが、それすらもロイは凌ぎきる。


 本来なら帝国軍の本陣や各所に着弾し、防御に甚大な被害を与えるであろう巨槍群が悉く、神速で伸縮し方向を転じ円舞する朱棍によって、戦場の外に弾き出されていく……が。


(きっついな!)


 帝国軍を眼下に、空中にて砲弾を迎撃しながらロイは舌打ちしていた。


 音速を超える大砲の弾を棍で迎撃できているのは【天崩】( ヘヴンフォール )と【維持(リメイン)】そして【偏向】( ディフレクション )の応用だ。


 超音速で衝撃波を伴って飛んでくる金属の長槍。普通なら人体などかすっただけで血煙に変わる。そんなものを棍で叩いて弾く、およそ人に為し得ることではない。


 重さも、運動エネルギーも、速さも、何もかもが足りない、当てることさえ不可能……そのはず……だが。なんと今のロイには、これを凌ぐに必要な全てが備わっていた。


 城門を貫通するほどの破壊を弾ける「重さ」と「硬さ」が、音を超える速さが、その弾丸を認識できる知覚力が、今の彼にはある。


 どうやっているのかというと……実のところロイ自身にはよく分かっていない、ヴァリス任せではあるが。一応理屈はあるらしい。


 曰わく、巨大なる質量(エネルギー)の近傍では重力により空間が歪み、時の流れは遅くなる。ならば逆に、時を遅らせる力とは、即ち質量と重力の現出にも(ひと)しい……。


 ゆえに【怠惰(アケディア)】という時を遅らせる仙力を使うロイは、「重さ」を出現させる力を持つ……ええ? そうなの?


 ……まあ理屈はともかく、できるのならそういう事にしておこう。考えてはいけない感じるのだ。


 だからこそ、『破城槍』という、運動エネルギーだけなら近代の艦砲射撃に匹敵する破壊を、人の姿で弾くことが可能だ。今のロイと如意棒は、それを為せる「重さ」をインパクトの瞬間にだけ生成している。そして時間の遅延により、音速の槍も主観的には対処可能な速さに──ただしロイという変態にとっては、だが──まで低下する。


 巨槍群の纏う衝撃波は【維持】で一瞬だけ空気の動きを遅らせて硬化することでやり過ごす。


 さらに如意棒は自らの延長であり、そうなると飛び道具を曲げる【偏向】の力も利用できる。これにより、弾いた後の落下地点をおおよそ制御し、できるだけ人の居そうにない地点に落ちるようにしていた。


 もし誰かいたら……諦めてくれ、そんな不運まで責任は持てない。


(ふざけた、力では、あるけどなっ)


 本来城壁を貫通するための砲撃を棍で迎撃できている時点で、ちょっと遠くに来すぎた気がする。今更気にしてはいけないかもだが。


 こんな事ができるのも、仙力という奇跡は物理法則をある程度まで「つまみ食い」できるから、らしい。都合の悪いことは少しなら無視できる、と。


 仙力というものは使い手の認識に左右される。認識外にある現象は、本来それが関連したり、付随して発生すべき物理現象であっても、発生しにくい、とのこと。


 仮に炎にて物を燃やす仙力があるとしよう。使い手に化学の知識があれば、当然その炎には酸素が必要だと無意識に認識する、ゆえに閉所で使えば酸欠を引き起こし、酸素が無くなれば炎は消える。


 だが、炎を、単に光って熱いもの、物を燃やす代物である、と思っている原始人が、その力の使い手だとすれば?


 彼の創る炎も通常は酸素を消費する。そのほうが自然であるから。しかし……酸素がなくなったとしても「燃え続ける」のだ。酸素でなく霊力を元手として。


 使い手が燃焼に酸素が必要だと認識していないからこそ、そうなる。そのほうが「使い手にとって」は「自然」であるためだ。


 彼は燃えないはずの物質さえ燃やす事ができる、なぜなら、彼にはそれが燃えないという先入観(ちしき)がない。


 使い手の認識や意図に応じ、現実がねじ曲がる。奇跡と現実が矛盾する場合、霊力の続く限りは認識(おもいこみ)が法則を凌駕する。


 そこが一般の物理現象(げんじつ)と仙力による仏理幻象(きせき)との決定的な違いだ。(なお、魔術は比較的仙力よりであり、より大規模であるものの、仙力ほどの問答無用さはなく、ある程度現実の理に縛られる)


 下手に科学や常識に囚われると、仙力の適用範囲はむしろ狭くなる。半端な知識であれば尚更だ。酸素が無くなれば燃えるはずがない、固体は気体より重い、絶対零度より冷たい物質は存在しない……そんな風に思ってしまうと、力の範囲もその(おり)に囚われる。


 だが、正しくその事を理解し、知識ある者なら……現象のメリットを発現させつつ、同時に発生すべきデメリットを抑制し、都合のいい部分だけを選択しうる。


 先の例であれば、例えば逆に炎を出さずに燃えたという結果を押し付け灰にする、実体を変化させずに酸素を消費する、といった応用すら可能になる。


 そして複合した能力ならば、能力はさらに自在。その実例がここにある。


「おらああああっ!!」


 グゥンキンッドンッガンッ!


 雲上を駆ける少年が、伸縮自在の朱棍を神速で振り回し、飛来する巨大な鉄塊を次々に迎撃する。


 重力を無視して空を駆けて雲に乗り、しかして巨大な質量と硬度を己と如意棒に与え、音より速い暴威を打ち砕く。


 これもまた、ありえざる奇跡の具現。起こるべき現象を都合よく選択したゆえに可能なことだ。


 現時点での帝国の科学と魔術の(すい)を集めた『破城槍』は、何発も束ねれば、かつて母なる星に存在した浮かべる城、超弩級戦艦すら沈ませうる力だ。だがそれでも今のロイには効かない。


 ロイ本人の科学と仙力の知識は微妙だ。しかし彼の持つ特殊な仙力に、脳に焼き付けられた古の技と、ヴァリスの知識が組み合わさることで、今の彼は単独の人間の仙力使いとしては破格の力を行使できる。守るべき者がその背後にいる限り。


 そして足元に雲ができているのは、時間と運動の遅延に伴う冷気が周辺の空気中の水分を凍らせているがためだ。


 意図してのものではないものの、雲上にて空を駆け、朱色の棍を振り回すその有り様は、古き忘れられた物語における石猿の王(スン・ウーコン)の姿に似ていた。


 「観客」たちは見る。後世に英雄として語られる怪物の戦いを、ありえざる奇跡の軌跡を。


 金剛夜叉ロイ・ウー・カノンの、数多(あまた)の戦いの中で最も目撃者の多い、後にその全てを纏め「破落星の戦い」と呼ばれる帝都防衛の戦。第一幕『紅朱跳舞』に次ぐ、その第二幕──『赫星滑翔』の一端──


「あれが仙力だと……何と凄まじい……」

「信じられん……信じたくない」

「助かった、のか? 勝てるのか?」

「味方なのか? 何と心強い」

「何故あんな小僧が、あれほどの……」

「あんな怪物、いていいはずがない」

「魔に魂を売った力なのでは……危険だ」


 感嘆と畏怖と、感謝と賞賛。そして……嫉妬と敵意。様々な感情が渦となり、その一部が【救世(メサイア)】の力により霊力となってロイに流れ込む。


 しかして、奇跡の当人は。


(くっそ、体に響く!)


 ありえざる奇跡を起こしてはいるが、その当の本人には見た目ほどの余裕はなかった。


 霊力消費は正直かなり重く、それを補うために敢えて「手応え」を残して己に痛みを与え【苦( ペインフル・)楽】(プレジャー )による回復を図る、なんてことまでやっている。


(ここだけなら、ニンフィアの壁とか、先輩の、重さを直接変える力のほうが、楽なんだろう、けどな!)


 ニンフィアの結界の力があれば、弾くのはもう少し楽なはずだ。彼女では音速の物体には反応できないが、ロイならできる。


 また、ラー先輩の固有仙力【詐重】( フェイクウェイト )は手にする物の重量を任意に変え、さらに慣性も全体としては余り変えられないものの、その分布……つまり重心は任意に変えられる。


 如意棒を高速大質量棍棒として使うなら、その力のほうが【怠惰】を高度に切り替えて使うより遥かに霊力コストが低い。今のロイのやり方は、かなり霊力まかせの強引なもので、霊力も無限というわけではない……が。


(それでも、少しは、マシか!)


 周囲から集まってくる「力」がある。


 どうやらフォンとの戦いとこの迎撃で、多少は、この帝国軍の大勢の中に、ロイを「応援」してくれる兵が出てきたようだ。正直雀の涙なところはあるが、無いよりはずっといい……。


 と思っていたところで、敵の術式が変化する。


 ヴゥン! ヴンヴゥンヴォォォン!!


 砲台群の手前に新たに十数個の巨大魔法陣が出現、そしてそこから合わせて少なくとも百以上の炎の槍が発生した。それぞれがロイでなく別の方向に向かって投射される。


「火がっ」

「『紅蓮炎葬』かっ!」

「対火の術をっ急げっ」

「無理だ、魔術は封じられ!」

「間に合わ‥‥」

「伏せろっ」


 ……かつて砦で古竜も使ってきた対軍魔術か。灼熱の炎槍は一つ一つが人間より遥かに大きく、確かに直撃すれば被害者は死ぬだろう……が『破城槍』と違ってこの炎槍群は封魔陣の影響を受けるのじゃないか?


 そう思ったがヴァリスの分析によれば。


『この術は炎を燃える油脂ごとを作り出す技です。あちこちで使われている封魔陣により空中で「槍」では居続けられなくなりますが、灼熱の油部分は消えず、着弾の直前に膨張、爆発となるでしょう。そうすると火力の密度は下がりますが広範囲で燃える飛沫と熱風が地上を舐めます。即死者が殆どでない代わりに、逆に負傷者は大量に出るでしょう、しばらく魔術での応急治療もできないとなれば……』


 また嫌らしい技を選択したな。耐火の術や魔導具も使えない、治療もできないとなると……帝国の誇る術式を逆用し、心を折りにくる次は、物理的に足を止めにきたか。


 となるとこの次にもっと本命の攻撃があるか?


 ならどうする?


『折角だからこれは食べて(・・・)回復しましょう』


 分かったよ畜生!



 ──次の瞬間、人々はさらに信じられないものを見た。雲に乗り朱棍を振るう少年が加速、(あか)い流星となって空を駆け、炎の大槍たちに次々に体当たりを始めたのだ。


 そして瞬く間に炎の槍は空中で爆発……しない、閃光にぶつかった瞬間、ふっと消えていく。


 空に輝く星が九十九(つづら)折りの軌道を描き、鉄塊を弾きつつ炎槍の雨を「食べ尽くして」いく。


「炎が、消える!?」

「なんだあれは、いったいどうなって」

「あいつは本当に人間か!?」

「クンルンの奴らですらあんなの見たことねえ……」

「あれが、金剛夜叉……」


 周囲の兵らの多くは……中には幻妖と化した者でさえ、感情のある者は……感嘆と驚愕をもってロイの動きを見た。なお当の本人は……。


(むっちゃ熱いんだけど!?)


 炎にぶつかるたびに熱さに苦しんでいた。


(『そういうものみたいですねえ……』)

(ちっくしょうが! 霊力にはなるが、熱い感覚は変わんねえのか!)


 ロイは先日、五大仙の火鼠より【吸熱(エンドサーム)】の仙力を得た。炎を吸収し霊力に変換する力だ。そうして得た霊力を元手に【天崩】によって超加速を繰り返し、次々に炎槍を消していく。 

 

 仙力のおかげで燃えたりはしない。だが、自分の身体に倍する炎の槍に突っ込むごとに、相応に熱さと痛みは感じた。特に芯に固形の油があるのが厄介だ、燃えながらべっとりとくっついてくる。仙術で洗浄……したいが時間がない!


 どうやら、元々この能力をもっていた火鼠は、熱さ自体を殆ど感じない身体だったようだが、それを感覚を持つ人間が使うと……。


 熱いと言う感覚はあるが実際に燃えはしない、単純に神経と精神へのイジメである。むしろ普通なら神経まで焼けて途中で感じなくなるはずの痛みまで、感覚が鈍くならずそのまま……。くそったれ!!


『おお? なんだそれは、知らぬ、識らぬぞその力! 情報にはないが、なかなかに非常識だな少年よ! 貴様、火喰鳥(ヒクイドリ)の仲間だったか?』


 ナクシャトラの、驚きと呆れ、揶揄さえ含んだ声がする。好きでやってんじゃねえよこの野郎! 貴様もこの痛みを味わえ!!

 

 どこだ? この糞野郎、どこから見ている!? 防御だけでは埒があかない。奴の端末、魔眼の魔導具はどこだ!? 叩き潰して黙らせてやる!



 最初、赤い彗星と書きかけましたが、よく考えたらその称号はどこぞの足なんて飾りなMSに乗る金髪のファミコン専用だったと思い出したので赤を赫くしてさらに流星になりました。

 ……え? 流星の場合、僕の名はロイ、帝国は狙われている! とか言い出しそう? そうかも。

 とりあえず本話は八章タイトルの回収回でもあります。





 空気の圧縮で灼光 …… 宇宙船や隕石が落ちてくるときの赤熱と発光は、空気の断熱圧縮による高温とプラズマ発生等が引き起こすものです。

 これで発光するほどに至るには本来マッハ10以上とかの速度が必要ですが……仙力による演出ということで。

 水蒸気の糸のほうはもっと現実的な音速付近の速度で発生します。こちらは空気の圧縮のあとの膨張によるもので、「紅の豚」で飛行機の翼の先端が「雲を引く」と描写されているやつです。


 

  


「空を見ろ!」

「鳥だ!」

「飛行機だ!」


問・このフレーズの次に来る台詞として本来正しいものを以下の選択肢から選べ

 1 「いやスーパーマンだ!」

 2 「タケちゃんマンだ!」

 3 「UFOだ!」

 4 「ケロロ」


 ……少し古すぎましたね、これ。






 斉天の神力、石猿の王 …… 西遊記において、花果(かか)山の石猿こと美猴王孫悟空(スン・ウーコン)には斉天大聖チーティェンダーシォンという呼び名があります。斉天とは天に等しい、という意味です。なお物語の最後には闘戦勝仏という、お前そんなに戦闘狂か? という名前に進化します。

 

 悟空のライバルの牛魔王は「平天大聖ピンティェンダーシォン」、天を(たい)らげる者、天を倒せる聖者を名乗っています。斉天大聖より単独では格上と自負しているゆえの自称ですね。


 西遊記原典の如意(きん)()棒は、太上老君が海の深さを計るために造った伸縮自在の神造の(おもり)で、東海竜王敖広の竜宮に置いてあったものです。第76話最後の言い回しはそういう意味でして。


 本来は錘なので非常に重く、その重量は一万三千五百斤(約8トン)相当。こんなのを振り回す孫悟空、そりゃ強いわ。そして筋斗雲のペイロードは少なくともそれ以上、恐るべし。





質量の生成について


 第182話の後書きにて、重力と時間の関係に関する作中設定を述べていますが、基本的に時間を遅らせる【怠惰】の力は重力やエネルギーを増やす方向の力でもある、という設定なわけです。しかも都合のいい所だけつまみ食いも可能。


 ただ、そのためには余計な霊力と、つまみ食いしている部分についての本来の物理に関してできるだけ正しい認識が望ましいです。元の物理法則に従っているほど、霊力消費は下がるという設定。そこは使い手の認識(おもいこみ)とは別に存在している理です。


 では作中で【怠惰】の反対と定義されている【勤勉】は何かというと……もちろん、殆ど逆の効果になります。【勤勉】の力は時を加速させ質量を減らしエネルギーを削ります……が、よく考えると、時間を加速させるものって、現実には見あたりませんね。


 ? おっさんや老人になると1日が子供の頃の1日より短く感じる? 酒飲んで寝たらさくっと時が過ぎていた? だから時は加速しうる? それは単に老いに精神が追いついてなくて、老化に伴いフリッカー融合周波数などが低下して認識できる時間分解能が落ちただけですね。作者も最近ひしひしと感じる次第。まこと光陰矢の如し……おかしいな、この矢、矢のくせに初速から年々加速してるんやけど? そうか実はロケットだったんだな。


 時間が実際に加速するとしたら、ある一定の段階から、直感的におかしい現象が沢山発生しはじめるはず。慣性質量が負になって作用ベクトルが反転するとか万有斥力とか世界が一巡して人類が覚悟を得るとか、まあいろいろ。


 よって時の加速は、通常空間では発生しえないのでしょう。そのため、仙力としての【勤勉】は【怠惰】よりレアで高コストな能力になっています。時の加速が発生しうることにしたら、いろいろ楽しい事態が起こりそうで面白そうです。奇跡万歳。


 せやからあくまで奇跡としてなら、マイナス1000℃とかもあってええやんか。……それは、おんどの ていぎが こわれる、なので、別の定義が必要になりますが、あってもいいですよね。


 存在の熱運動が停止するのが絶対零度ことマイナス273.15℃の定義ならば(厳密にはミクロの量子レベルでは絶対零度でも停止しませんが)、それ以下の温度の物質とは、熱量を投入しても分子の運動が発生しない熱の相殺消滅を予約する負の熱ポテンシャルを持つ存在、と考えられます。即ち絶対零度以下の温度とはそのポテンシャルの大きさと定義可能で……そんなもの現実にはない? 無くてもええやん、作品中なら作者があると言えば無いものも在るし宇宙空間でも音が鳴るんだよ(G.W.ルーカスは偉大)


 ……こんな感じの屁理屈をひねり出せる者なら、仙力は物理の限界を低コストに突破できます。そもそも理屈など知らないっつー者でも信念があれば突破できますが、その場合霊力的に高コストです。常識を知っていてそれに縛られる者は、常識の範疇では低コストに運用できますが、限界を超えるのが難しいです。




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