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第184話 七勇者の帰還


 七勇者が還ってきた……邪悪の手先として。


 ……馬鹿らしい、と一蹴はできなかった。幻妖の性質からすれば、かの伝説の邪神と相打った七勇者がいるのはおかしな話ではない。


 魔導大隊の者も、邪神の側に、蒼貌鬼ジーシゥを名乗る人間の幻妖と、その仲間らしき者どもがいたと証言している。眉唾と思っていたが、実際にそれらしい被害が出ている以上、本当だと考えねばならない。


 目撃されている『紅刃』(仮)の力はまさしくあれが伝説の勇者か、と思わせるもので、こちらに打ち合える兵は誰もおらず、その剣風は飛竜どころか儀式魔術すら断ち切った。


 女のほうも侮れない。強力な魔術を使うほか、周りの幻妖どもに向かって広範囲に、信じられないほど高速に治癒する癒やしの力を使ったという。これはもう、こちらも伝説の『白皙小姐』であると見なさざるを得ない。


 伝説の英傑たちが魔物の仲間に堕ちてこちらを襲ってくる、との認識は士気に少なからず悪影響を与えていた。何とかして早めに打ち倒したいところだったが、うまくいかない。


 一度は、『紅刃』らしき者に向かって現状の全力の魔術を複数集中させた攻撃を放った。鋼の矢雨と周辺溶岩化の魔術、雷撃を重ねたそれらは、周辺の竜を含む数十の幻妖を打ち倒した。威力は充分に高かったはずだ。


 だが肝心の『紅刃』の防御には殆ど通用せず、矢は全て断ち切られ、溶岩は剣圧に吹き飛ばされた。それどころか、雷撃すら斬られたように見えた。


 それでも無傷とはいかなかったようだが、『白皙小姐』が即座に癒やしてしまった。周りの幻妖もだ、白煙にすらならず復活してしまった。常識的な治癒術とは桁が違う、まさしく伝説の聖女の力だった。


 彼らは優れた戦士であるのみならず、王器相当の強力な武装を使いこなしているものと思われた。


 一応、畿内方面軍にも王器はある。今回戦場に持ち込まれているものとしては、強力なる弓『竜舌弓』、長柄の豪槍『点鋼槍』、攻撃と同時に確率で即死の呪いを引き起こす『刎頸剣(ヴォーパルソード)』の三つか。


 いずれも強力な武器であり、それぞれの使い手は前線で戦線を支えているが、ファの見るところ、残念ながら3人とも目撃された『紅刃』達には勝てそうにない。一流ではあるが超一流ではない。それでも血筋で七剣星となったフーシェンの奴よりはマシなはずだが……。


 こちら側の王器自体も『紅刃』の持つ剣より劣るように見える。元々の格が低いのか、あるいは単に使いこなせていないのか……。少なくとも破壊力や防御力では劣っているようだ。


 つまり現状、1対1で『紅刃』に勝てる手駒はいない。かといって王器持ちを一カ所に集めると、その間に戦線が保ちそうにない。


 手ごわそうなのは『紅刃』だけではない。幻妖の群れの後方には、明らかに他よりも大きな竜……もしかすると古竜種や、一際(ひときわ)魁偉(かいい)な姿の大鬼なども残っているのが確認されている。おそらく今回の連中の切り札であろうと思われた。


 まこと、いかがすべきかと思案に入ったところで、紫微垣魔術師団長のフォン郡侯爵と魔導院のジュゲア長官から提案があった、


 ──伝説の秘術、『隕石招来』ならば平原に跋扈(ばっこ)する幻妖どもを悉く焼き尽くせるはず。魔術師団の威信をかけてやってみせよう、援護して欲しい──


 他に妙案もなく、その提案に乗るしかなかった。


 そこから準備に五日かかると言われ、必死の防衛が始まった。攻勢に出ようにも敵に魔導師を写したものが増えはじめていた。これにより儀式魔術が無効化されたり、あるいは向こうから儀式魔術が飛んでくるようになった。


 やがて幻妖魔術師どもの式神が飛ぶようになり、その式神から魔術が飛び始め、制空も優勢でなくなる。


 式神まで幻妖化しているようで普通の攻撃が余り効かず、倒せても簡単に再生してくる。しかも夜になっても奴らは眠らない。物理的な数ではまだ優位だが、時間的な手数の多さではむしろ劣勢になった。


 無論手をこまねいているだけではない、可能な限り戦術を変更し、時間を稼ぐよう努力している。局所的には押し戻せた戦域もあったが……問題は業魔なる黒鱗の魔だ。こいつらが現れると、どうしようもない。


 こちらの放つ殆どの攻撃が効かず、逆に向こうはこちらのあらゆる防御を貫通してくる。魔術師たちがもっていた破幻槍とやらも早々に使い果たしてしまった。


 ただ奴らの奇怪な防御術も、一応疲労はするようで、ひたすら夥しい攻撃を続けることで倒せた事はある。しかしそれまでに一体あたり何百回ぶんも殺せるほどの攻撃が必要だった。殆どの場合それだけの攻撃を加えることもできず、逃げられている。


 今は『紅刃』対策も含め、黒鱗の魔に効くという王器を全力で集めさせている。一口に王器といっても戦闘向けでないものも多いが、この際種類は問わない。最悪棍棒のように使ってもよいし、少なくとも防御の役には立つ。


 また、魔導大隊どもからの提案で、登録されていた近隣の仙力持ちの予備兵たちを徴用することにした。


 仙力持ちなら幻妖や黒鱗の魔に並みの人間よりも戦えるというなら、訓練無しでも雑兵よりはマシであろう、と──


 ファにも、これは、仙力使いを敵視する魔術師たちが将来の敵になりえる者を排除しようとしているのだな、という意図は分かった。分かったうえでその策を受け入れた。そのぶん魔術師たちを働かせるために。


 既に四十人ほどを呼び出し、強引に前線に送り込んだが、戦果があったという報告はない、どうやらあっさりやられたらしい。


 もとより期待はしていなかった。所詮、ろくな訓練もしていない素人だ、うまくいけば儲けものという程度。


 仙力持ちで強いのはクンルンの仙人どもだが、奴らが強いのは仙力を増幅する宝貝という特殊な道具のせいだろう。やはり宝貝無しには仙力など大したことはないようだ。


 あるいは訓練すれば多少は使えるのかもしれないが、宝貝無しの仙力持ちなど、育ったところで極めた魔導師には敵うまいし、生き残ったとしても法統派の手駒が増えるだけだろう。この程度の犠牲で魔術師たちの気が済むなら、必要経費といえる……。


 ──結局ファ将軍ら武統派将帥らは、仙力について正確な知識をもっていなかったし、知ろうともしなかった。仙力使いの貴重さを分かっておらず、幻妖に対し何故仙力使いが有効なのかについても、多くを誤解していた。


 幻妖という存在が仙力の産物であることも知らなかったし、幻妖に対して霊力がどのように働くのかも知らなかった。


 己に適した王器を手に入れ、仙力を開花させつつあるフーシェンの現在の力量も把握していなかった。実のところ、今や方面軍の三人の王器持ちを束ねても、『紅刃』どころかフーシェン一人に勝てない状態なのだが、それも認識していない。


 王器を真に使いこなすには、魔力だけでは非効率的で、相応の霊力もあったほうが望ましいことさえ知らない。というか王器や神器、宝貝についても「優れた魔導具」としか思っていない。


 そのあたり、魔術師たちは仙力使いや仙人を直接の競合相手とみなしていたため、偏見は混じるものの、より正確に評価していた。例えば紫微垣魔術師団首脳部の認識は以下のようなものだ。


 ──固有仙力は極めて属人的ながらも、その現象限定であれば魔術を凌ぐ効果を持ちえる……。


 ──仙術なる技法は、体力消費比率でいえば効果は魔術の半分以下、かつ不安定である。しかし、発生速度に優れ応用性に優れている。魔術に長けた者に比べ、総火力では下回るが、少数同士での個人戦闘力では上回ると見るべき……。


 ──宝貝なるものは基本的には魔導具を魔力でなく霊力とやらで扱えるようにしたものだが、崑崙のそれは、同規模の魔導具より出力が高いと推定される。これは王器級以上の魔導具の特性に近く、両者に少なからず共通点があるものと考えられる。鹵獲・解析を要する……。


 ──幻妖なる存在は地脈を利用できる何者かの仙力によるものと考えるが妥当である。これに対するには魔術より仙力のほうが有利であるのは現時点では否めない。よって我々は、より魔術ならではのやり方を開発しなくてはならない……。


 このように秘奥に至らない範囲の理解としては概ね正確だった。決して侮ってはいない。


 だが、他人の前で競合相手の事を誉めるはずもない。まして精神干渉の汚染が広まっている今はなおさらだ。ゆえに、ファ将軍らが正しい知識を得ることもなかった。


 ファ将軍らが気にしたのは外聞だ、それも身内に対してのものだ。後で兵部省から、あの苦難の時に手を尽くさなかったのか! と無為を(そし)られるのを恐れただけだ。


 必死で全力で戦っての敗北ならまだ許される。これに無為と逃走が加わると処罰が重くなり、自分だけでなく一族郎党に累が及ぶ。だから追い詰められると無謀な作戦が増えていく、帝国軍とはそういう組織だった。


 ──元を辿れば、武統派筆頭の兵部尚書らが仙力使いを敵対派閥の駒とみなし、取り込むのではなく排除せんと考えた事が愚かだった。そのツケが巡り巡って、彼らの足元を崩し始めていた。

 


「……苦労されておられるようで」



 苛立つファ将軍の背中に声がかけられた。この声は……。


 振り向くとそこに、見覚えのある老人がいた。


「貴様か、何用だ」

  

 ……名前は知らぬ。だが分かっていることがある、この老人は皇帝直下の諜報組織、「闇星」に属する者だ。


 今の服装は方面軍の士官服だが、実際には士官などではない。顔も変装だ、ファに会う場合に分かるように同じ顔にしているだけ。幕の外に出れば別の顔になっていよう。


 こやつら裏の者たちは気配が酷く薄いとはいえ、普段ならここまで近付かれる事はない。先程の被弾に混乱した隙に幕に潜り込んだと見える。

 

 ここまで堂々と人前に出てくるなど普通はありえないこと、何事か。


「お手を」


 『触信』……肌で触れた相手への念話の魔術だ。心を読み取る『読心』を接触限定で双方向にしたもので、秘密会話向けの術である。


 魔術の使用を了解して拳同士を合わせる。


『主上より。『言いたい事は山ほどあるが、今は三つ』と』


 ……この状況となれば、自分の命令が一部形骸化されたことには気がついていよう。何を言われるか……。


『一つは、まもなく我らの希望が帰還する、今少し耐えよ、とのことでございます』


(誰だ?)


『さて、私は聞かされておりませぬ。ただ、蘇りし七勇者は既に六勇者なりと。それを為した者達が、帝都の盾となるであろう、と』


 紅刃の仲間が、既に一人倒されたと!? 誰だ? 勇者を打ち倒せるならば、それこそ新たな勇者ではないか。


 ……まさか、仙霊機兵とやらのうちの誰かか?


『さらに加え、東と北の『星』も呼び寄せたと。隕石の術とやらが起動するまでにはこちらにお越しになるでしょう』


 ……東と北の七剣星。


 東は天枢星ラーグリフ万卒長か。巌のような分厚い巨漢で、大槌を振り回す豪傑だ。方面軍枠で七剣星となった男で、特にこれといった逸話は聞かない。……いや、凄まじい飲んだくれの酒豪というのがあったか。家に瓶でなく樽が複数置いてあるとの噂を聞いたことがある。


 なお、東方方面軍の七剣星である天枢星は代々結構な酒豪揃いで、連中はその地位を、出自や武技ではなく飲み勝負で決めている、とまことしやかに語られる。ふん、田舎者どもらしい話ではないか。


 そして北の玉衡星ヂャオ千卒長。様々な魔術とそれを組み合わせた魔戦技を使いこなして北方国境を支える、帝国最強とも言われる魔導剣士。奴ならば、おそらく『紅刃』とも戦える。


 だが、すぐではない、か。北の国境まで、普通なら飛竜を乗り継いでも4、5日はかかる、おそらく明日か明後日か。随伴できる人数も少ないだろう。同士討ちしないよう周知する程度で良かろう。


『二つは……神器イルダーナハが語った事でございます。防衛に加わる魔術師にて魔力が濁った者が多数いる、と』


(魔力の濁りとは何だ?)


 まさかそれのせいで敵への魔術の効き目が悪くなっているのか?


『敵から何らかの悪性の魔術の干渉を薄く受けている、と言う事のようで。いかなるものか特定できぬようですが、ご注意なされませ。もし魔術師どもに自浄の力なく、如何(いかん)ともし難ければ、ルーティエ妃と共に陛下自身が赴いてもよい、と』


 ルーティエ妃。あの魔術を破壊する魔女か。


(我らの防御を消したり、万里長城の邪魔をせぬなら構わんが……)


 待てよ。皇帝がこちらにくる、ならば……。


『三つは……そなたらの担ぐ御輿は軽すぎたな、と』


 不埒な考えが浮かんだ直後に、冷や水が浴びせられた。


(……何事ぞ)


『かのお方が帝都南部にある『療養先』から姿を消されました。影武者にすり替わっておられる。どこに逃げられたか、誰かに匿われたか、あるいは……時を、間違われたか』


(………)


 思考が漏れやすい仙術の念話と異なり、魔術での念話は明確に相手に伝える意志がないと伝わらない。それゆえに動揺は押し殺せたが……。


『主上は『本物より影のほうが優秀そうだ、いっそ本当に入れ替えるか』と仰せです』


(何故、儂にそれを伝える)


『主上は『今は割れている時ではない。だが次はない。帝国の臣なれば、邪念は捨てよ』』


 ここだけは、念話ゆえに可能な声色の再現だった。苛立たしさを押し殺した、若き皇帝の怒り。


 『『さもなくば、高祖より受け継ぎし秘儀に、貴様等も呑まれることになる』……このように仰せにございました』


 拳を離し、影の老人は一礼して……目前にいたはずなのに、一瞬で消え去る。おそるべき陰形の技だ。


 ……。


(例の武力政變(クーデター)の企み、感づかれておったか……)


 警告があっただけマシか。これだけ掴まれていたなら、あるいは、この戦なくば決行する前に関係者が一網打尽にされた恐れもある。


 先走った何者かが動いてしまったようだが、おそらく無事で済むまい……というか、兵部尚書と、兵部省側の影「太陰」の者どもは何をしている? この状況下で殿下を連れ出すならそれは実質的に決行ではないか。


 おそらく見張られていた中で、それを行えた事自体は良かろう、それだけは太陰も捨てたものではない。だが結局は決起前に皇帝側に悟られたうえに、実行部隊であるファ達に伝達できていないようでは成功は覚束(おぼつか)ない。予備兵力の奴らでは、近衛と闇星の守りを突破できるとは思えん。


 そもそも事の決行は、星神教の坊主どもに工作し、現皇帝が至天星神の天意を失った、昨今の奇怪な魔物の出現はそのせいである、との噂を広めさせ、それが充分に広まってから行うはずだった。まだ早すぎる。


 武力政變は当分無理になったと考えるべきだろう、ここは素直に皇帝の警告に従うべきだ。さもないと己の首どころか、一族が危ない。


(しかし……『秘儀』か)


 秘儀……建国伝説に隠された、超越的な力の顕現。


 建国の高祖、煌輝帝フゥイシンが扱った大いなる力のうち、神器、光剣イルダーナハの力は割とはっきりと伝わっている。


 例えば光剣の神力解放により、高祖に抗ったある国の首都は一撃にして消滅した。あらゆる建物がなぎ倒されて消え、地表は溶けて玻璃(ガラス)状となり、全てが燃え尽きた後に黒い雨が降りそそいだ。その有り様はこれぞ地獄というほどのものだったという。


 この神器の力ならば幻妖の軍勢にも勝てよう。だが……。


 イルダーナハが滅ぼした地は副作用で死毒の穢れに覆われたとされ、数十年の間立ち入りを禁じられることになったと伝わっている。今は立ち入りは可能なものの、かつて都市があったことすら分からない荒れ野にすぎない。


 帝都の側でそんな技は使えない、というのが今回イルダーナハの使用を見送られた理由だ。これは西宿砦で防衛しても同じだ、あそこはちょうど帝都への西風の通り道である。毒がばら撒かれる力など使えない。


 そして『秘儀』……高祖およびその息子万照帝ヂァオシンの時代には、記録にはその一端が残るものの、真偽が不明なものや、どのようにやったのかが分からない奇跡、通称『煌帝秘儀』があったと伝わる。


 ()わく、一夜にして山が消え、軍が通れる道ができた。

 曰わく、国の東西の端の別の戦場に、同時に高祖本人が現れた。

 曰わく、天を衝くほどの土巨人が現れ高祖の命令に従って敵軍を踏み潰した。

 曰わく、枯れた田が突如として穂を実らせ、万の兵を賄う糧食を生み出した……。

 

 眉唾もいいところだ。一般的には、箔付けや神格化のために後世付け加えられたホラ話であろう、と認識されている。


 だがホラ話、御伽噺の中に隠された真実もないではない。ファの一族のように、当時から続く家にはこれの『秘儀』の中には事実もあるという話が伝わっている。


 おそらくは公表されていない強力な魔導具、それも個人向けでなく対軍の魔導具によるものであろう。もちろん簡単に使えるようなものではあるまいが……。


 どうやら皇帝は、『隕石招来』で相手を倒せるかどうかも懐疑的らしい。いざとなれば味方ごと巻き込んでも秘儀を使うつもりなのだろう。


 思案するファに紫微垣魔術師団のチュン副長が問いかけてきた。


「何事かございましたかな?」



 七英雄の名がふたたび語られはじめた。そして、彼らは来た……だが(ロマサガ2風に)


 え? 既に一人欠けてる? なんでかなあ。




「イルダーナハが滅ぼした地は副作用で死毒の穢れに覆われた」

 

 神器イルダーナハの励起駆動「アラドヴァル」は、TNT換算1ktから100kt級(威力可変)相当の大爆発を引き起こす大量殺戮技です。そして死毒とはつまり放射性物質です。




 竜舌(りゅうぜつ)

 …… 中国伝説の武将、フォンシェン・リュは天下無双の豪傑で、弓の名手との逸話も残っています。彼の弓としては竜舌弓や虎筋弦弓などが知られており、それらを元にした地王器としての竜舌弓は、極めて高い命中精度と一矢で複数人を同時に射抜ける威力を合わせ持つ優秀な武器です。


 しかも本来はそれにとどまりません。真の主が使いこなす場合、この王器は方天画(げき)と呼ばれる手持ち武器形態へ変形します。むしろ正確には、王器としての真の状態はそちらです。


 しかし現在の使い手は真の主に至っておらず、別形態の存在も知らず、その力を引き出せていません。


 え? この武将由来ならば赤い汗血馬と人馬一体であるべき? 人・馬・鎧・武具が完全にひとつに融合を果たした最強の人馬兵、UMA男となるべきではって? またまたご冗談を、そんな自分を主と合体した存在だと自称する不審馬いるわけないじゃないですか。



 点鋼槍

 ……西遊記にて獨角兕大(どっかくじだい)王という牛の妖怪が、太上老君のところからパクって使っていた道具のうちの一つ。水滸伝にも同名の名槍が登場しますね。

 本作におけるこれは宝貝扱いでなく地王器です。実は竜舌弓同様に別形態を持つ武器で、特に『金剛(たく)』形態は相手の武器奪取、武器破壊、絶対防衛圏構築などの多彩な能力を持ちます。


 しかし現在の使い手は真の主に至っておらず(以下略)



 刎頸剣 ヴォーパルソード

 ……『鏡の国のアリス』にて、怪物ジャバウォックを斃した剣です。モンティパイソンやWizardryにおける首刈ウサギことヴォーパルバニーの元ネタ。

 本作中のこれは、帝国軍では即死効果持ちの地王器の名剣と認識され、そのように使われていますが、本当の姿は、剣ではありません。実は「本」です。魔書、天王器「テイルズ・オブ・アリス」は極めて多彩な幻覚術、変形、変質の機能を持っています。


 しかし現在の使い手は(以下略)



 いずれも性能では、『紅刃』フォンのものに劣るものではありませんが、現在の使い手たちは仮の主状態のため、本来の一割ほどしか引き出せていません。それでも僚器以下の魔導具よりはずっと強いですが、王器の真の主状態のフォンには三人まとめても敵いません。


 王器以上の武器に認められるのは結構大変です。単なる武術や魔術、仙力の技量だけでは、足りない事もあります。特に天器は気難しく、人格や相性が大事です。……まあ、相性によっては、何の力もない幼児が認められたりする事もなきにしもあらずです。「テイルズ・オブ・アリス」などはむしろ子供のほうが使いこなしやすいでしょう。





 私事ながら。先日、長年一緒だったペットの豆芝わんこが天に召されました。16歳、もう平均寿命を超えたいい年で、数ヶ月前から明らかに弱ってきていて覚悟はしていたのですが……。南無阿弥陀仏。諸行の無常にして、朝に紅顔ありて夕に白骨となれるは世の摂理ではありますが、分かっていても、いざそうなると悲しいものです……。

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