第172話 幕間 嗚呼、されど魔はいませり(3/3)
本話内、R15的描写かもです
──【邪王】──
その力を引き出せるのはこの世界の歴史上にただ一人、彼女のみ。瞳を交換した兄のほうには発現しなかった。
その瞳を魅た者は、己の理想を幻視する。
己の目指す境地に至れたと錯覚する。
己の煩悩が全て祓われたと錯覚する。
己の辛い努力が報われたと錯覚する。
己が幸福にたどり着けたと錯覚する。
己が抗う全てに勝利したと錯覚する。
己こそが真の悟りを得たと錯覚する──
即ちその者は、あるべき正道を踏み外す。
──古書に曰わく。かの黄金に魅入られし森羅万象、夢想に淫し道に復すること能わず。ゆえにかの者をして『天魔』という──
ギシッ……
その時聖騎士と天使は、霊圧に魂が軋む幻音を聴き、幻影を見た。
「あ、あ……神、よ……」『……O Dominum……』
かの魔女は【非在】なるものなれば、即ち誰でもなく、誰にでもなりうる。だから、彼が聖騎士であり、『天使』であるならば、彼らは其処に彼らの神を見る。
光輝にして漆黒、善良にして邪悪
荘厳にして軽妙、華麗にして素朴
寛大にして狭量、精緻にして粗雑
瀟洒にして武骨、完璧にして未熟
淫蕩にして無垢、豊満にして貧痩
具象にして抽象、秩序にして混沌……
その黄金はあらゆる矛盾を内包し認識を侵食する幻覚と魅了の呪詛を宿す魔眼だ。
いや、幻覚や魅了とくくっていいものか? 現実を侵蝕し、客観的物理法則すら捻り曲げるそれを、そのように呼んでいいものか? 魂無き無生物も、機械も、形なき力さえも狂わせ、偽りを真実なりと世界自体を欺くものを何と呼ぶべきか。
この眼に魅入られた存在は、生物か無生物かに関わらず、以後幻想の中で生きる。現実を正しく認識できず、見えざるモノを見て、見えるべきものに気がつかない。
被害者からすれば、それは夢でなく現実以外の何者でもない。触れ、語り、味わうことができる、食物であれば、例え他人からは霞や泥に見えたとしても、栄養すら得られ、飢えることもない。
刃を幻視したとすれば、他の者には何も見えなくとも、本人はその刃で実際に骨すら両断されえる。
逆に現実で刃が存在したとしても、被害者本人の夢にその刃が現れないなら、被害者は刃を認識せず、傷つくこともない。
同様に例えば被害者の肉体が高所から転落したとしても、猛毒を摂取したとしても、本人がそれを認識しないなら死なず、毒に苦しむ事もない。そもそも転落せず空中を歩くことさえあるし、海中であろうと溺死しない。
どのような夢をみているかにもよるが、擬似的に不死身な、理不尽と不条理の塊と化すのだ。
被害者にとって夢と現実との区別は不可能だ。夢というより独りだけ別の平行世界に隔離された、というべきか。
そしてその世界は、被害者自身の願望で構築される。財貨を欲するなら財貨を、名声を求めるなら名声を、平穏を望むなら平穏を、全てが都合よく回る夢の世界だ。理想の伴侶や子供すら得ることができる。主観的には幸福そのものだろう。
しかし客観的には、時折虚空に譫言を呟き、目前の人の話を聞いているようで聞かず、奇妙で不可解な行動をとるようになる。
時には居もしない妻子を微笑みとともに紹介し、世界の真理を示すものだと奇怪なガラクタを掲げて見せることもあろう。
そして鎖で縛っても拘束できず、断頭台にかかっても首は落ちず、埋葬されても生き返る。その異常を本人だけが理解できない。周辺からすれば悪夢の権化だ。
そしてこの夢は勝手には醒めない。原因がこの魔眼のせいだと気がつく事自体困難であり、解呪はそれ以上に至難だが、万一解呪できたとしても、それは単に夢の進行を止めるだけだ。
既に混ざって狂った記憶は元に戻せず、本人はその齟齬に苦しめられる。根本的治療法は、魅入られて以降の記憶を全て奪う以外にない。進行具合によってはそれでも足りず、赤子まで戻さねばならないこともある。
そんな邪悪な力を操るセラフィナは紛れもなく魔女であった。人心を歪め、万物を破壊し、存在を創っては消して弄び、知らざるうちに堕落、発狂させえる。
無論無闇にその力を使うことはないが、基本的に敵対者には甘くない。帝国の若者たちには見せなかった、真に恐るべき彼女の魔性、闇の聖母としての側面だ。
ゆえにアリギエーリが信仰篤き聖なる戦士であるなら、セラフィナは間違いなく打ち倒すべき邪悪に他ならない。
しかし、足りない。
いかに天使を降ろそうと、無慈悲にも罪深い堕落をもたらす魔女に打ち克つには、それだけでは足りない。
彼の身を守る聖なる武具も翼も殆ど役に立たなかった。黄金の魔眼は器物すら、『力』そのものすら魅了し、改竄する。神の祝福による守りもそれ自体が『魅了』されて、対象を書き換えられてしまっては機能しない。
まさしくそれは世界を欺く陥穽であり、正道を歪める天魔の所業であった。
それでもアリギエーリは最後の理性で抗わんとする。
「わ、我が心に届く呪無し……『聖兜』……」
神聖術による精神防御術。外部からの精神操作を破棄する術式だ。だが。
「……なぜっ、かみよ……あぁ……」
『……Quare, deus……Aaa ……』
ギリリッ……
騎士と天使の呻きが重なる。
聖なる守護術も効果が無かった。それは確かに兜の如く心を守る術だったが、逆に言えば兜のように肉体という外界に繋がる「隙間」が残っていた。
普通ならそんな隙間など問題にならないし、心と肉体の完全な隔離とは、つまりは死と同義だ。だからそんな防御術は存在しないし、存在したとして教義にて自殺を禁じられている聖騎士では使えまい。
【邪王】は個人の心にかかる力でなく、周囲の世界ごと欺く邪悪であり、肉体という世界とどこかで繋がるかぎり防ぎえない。逃げ場はなかった。反撃しようにも魔女を倒す手段もなかった。
「……あっ……うぁっ……」『……caelum……』
まさに彼等の魂は邪悪に侵食されんとしていた。その心身を蝕むのは苦痛ではない。
(……キモチイイ キモチ イヒ キモチイヒアアアァァァ……)
快楽だ。
それも分かりやすいもの……酒池肉林の喜悦や、神経を冒す酒や麻薬の酩酊感、そして男性としての喜び、さらには女性の肉体でないと知り得ないはずの感覚など……そういった肉体的な「快楽」だけでもない。
例えば理想的な伴侶や家族との出会い、人を助け人に感謝され世に認められたという名誉、邪悪な敵を打ち倒し、あるいは改心させたという達成感、ついには神その方に褒められ天上に迎えられる……などといった精神的な「快楽」も同時に襲いかかってくる。
アリギエーリにとって心地良い人生、天国の体験が、何十通りも圧縮されて、神経と精神に多重侵入してくる。
聖騎士は空中で、伝説の救世主が最期にそうであったように、あたかも十字架に磔となったような姿勢を取りながら呻く。白眼を剥き、口から泡を吹いて、それまでの人生を塗り潰す悦楽と幸福感に襲われ痙攣する。
それでも【邪王】に抗する手段は皆無ではない。
まず単純には、魔女の霊力を押し返す程の莫大な霊力を宿すこと。だが少なくとも星を統べる規模の神域存在でなくては無理だ。
あるいは快楽や我欲を完全に制した覚者の如き精神……世の真理を悟り、脳とそこに宿る精神という物質界の存在が、魂という非物質の高次元事象を律するほどに極まった領域まで至れば、霊力規模の大小に関わらず耐えることができる。
もしくは魔女への「真の愛」でもよい。魔女を愛する者に、この力は効かない。魔女の兄がそうであるように。
無論、信仰も極まればまた抗する力になりえる。古の経典にあるように、正しき神のしもべが魔のあらゆる試練に耐えたように。
だが他人を救いたい、己が救われたいという「欲」が少しでも残った信仰では、与えられた快楽を快楽と感じる心身では、邪悪に抗しえない。
それは、光届かぬ昏い深海の水にも似ていた。あらゆる方位から全てを押し潰さんとする重い闇だ。
ゆえに完成された、元々真なる球体の如き質と形の心か、あるいは海の深さを凌ぐ巨大な存在だけがそれに耐えうる。
矮小で何かしら偏りのある、それこそ「人間らしい」大きさと形をした精神では、この闇海の霊圧の前ではほどなく圧壊するしかなかった。
聖騎士アリギエーリは、おそらく殆どの聖教信徒から賞賛される男だ。優れた実力を持ち、弱者への慈悲を忘れず、私利私欲に走ることなく任務に忠実で、単身で強敵と戦う勇気を持つ。異教徒に対しても頭ごなしに否定せず、礼を失わない。
彼が頑迷に無慈悲となるのは、今回のような魔性相手の時だけだ。
だがそのような人物でも足りない。なまじ人として優れるが故に、信仰が足りない。
それでも常人なら一瞬で堕落するところ、僅かな時間とはいえ抵抗できたのは、アリギエーリなればこそ。強靭な精神と、常人の万倍はある護りの力と、敵の力を減殺する『祝福』を持っていたから。
だが、砂が一粒あろうと万粒あろうと、相手が恒河の砂ほどにもあるのなら、飲み込まれずにいられる道理があろうか?
むしろ半端に抵抗できたことが逆に苦難を長引かせた。客観的には10数えるにも足らない短時間だったが、聖騎士の引き延ばされた主観では魔の誘惑は、人生を何十回も繰り返すほどに及び……。
『「……!……」』
ギリッ ギシィッ
鼻血と血涙を流しながらの抵抗にも、限界が来た。
それは至福であった。それは快楽であった。その狂気は、人の心身で耐えるには甘美過ぎた。
恐怖はなかった。苦痛も無かった。それらは感じる側から快楽に塗りつぶされた。苦痛での拷問なら彼は耐えられたかもしれないが、これは痛みよりももっと恐ろしい冒涜だった。
己が壊れる。溺れる。溶ける。蕩ける。
やがて自分が誰なのか、何故抵抗しているのかさえ、思い出せなくなった。ただただ心地よかった。
かみよ たす け
? かみ とは
なん だ ?
わか
ら
ギリリリィ…………DONE!!
「ア゛ッ」
信仰する神すら思い出せなくなった瞬間、ついに魂が圧壊する。
人が決して耐えることができないほどの衝撃と共に、聖騎士アリギエーリの存在は、黒き聖母に抱かれて溶けた。
「……オギャアアアアアッーーー!!!!!」
そして魂を汚された男は、生まれ変わる悦びに産声を絶叫する。体を限界まで海老反りに反らして……。
ドクンッ!
いかなる麻薬でも至り得ない極限の快楽に、彼の心臓は一際大きく鼓動したあと、停止した。
……がくっ
身体が力を失い弛緩する。
「……」
聖騎士アリギエーリはここに一度目の死を迎えた。
「………」
『うふふ、結構美味しい魂と快楽でしたわ。……あれ?』
つんつん
「…………」
聖騎士は人外の快楽に破顔したまま、息絶えていた。
『限界まで抵抗したものだから落差に耐えられなかったみたいですね。人間にしては頑張りましたね、ぱちぱちー』
普通は【邪王】を受けたからと言って心臓が止まったりはしない。被害者が一般人なら一瞬で敗北し、そのまま夢の世界に移行するだけだ。
こうなったのはアリギエーリの抵抗力が強く、そのぶん却って圧力が高まってしまったからだった。
加えて彼の場合【霊枷】もあって、それが途切れた瞬間、快楽の桁がさらに跳ね上がった。たぶんあの一瞬で感度数十万倍とかそんな感じになって神経が焼き切れたと思われる。
そして厳密に言えば彼はまだ完全には死んでいない。天魔の夢から醒めない限り、魂が肉体から抜け出すことはなく、肉体も夢に沿って動くからだ。
……ただ、このままでは客観的には心臓や生命活動が止まった状態で固定されてしまう。屍鬼のように腐ったりはしないが、土気色の肌の男が動き回るのはいささか不自然に過ぎるだろう。
『今回は体も生きていないと困りますね、仕方ない』
つんつん……ビリビリッ!!
黒い触手から闇色の電光が放たれる。
……びくん!
……どくん、どくん……
神経が修復され心臓が再起動し、彼の肉体は蘇生した。
「……あ……う……」
聖騎士だった男は、自分が死んでいた事にも気がつかぬまま、口をだらしなく開き、涎や何やらを垂れ流したり、色々なものをどくどくと吐出したりしながら、背徳の悦びに痙攣する。
『──眠りなさい。小さな子供のように甘えていいの。私が許すわ。そう、いい子ね。おやすみなさい──』
──神仙術〈昏き聖母の子守唄〉──
とさっ……
天使を宿した男は地に墜ち、そして倒れ臥す。
客観的には明確な敗北ながら、白眼を剥いたその表情には喜悦が浮かんだままであった。
彼は既に敗北と快楽の記憶を封印され、本来の彼が夢見ていた幻想に入り込んでいた。
その夢の中での彼は、苦戦しながらも新たな神の『祝福』に目覚め、その聖なる力をもって邪悪な魔の島の魔女と騎士を倒し、今までいかなる聖騎士も成し遂げたことのない神器の『奪還』という成功を収めた。
この功績と新たに得た力により、やがて帰国すれば彼は聖王より次代の聖騎士団長に選ばれる。そして世のため民のために力を尽くし、死後は最後の審判の日に蘇ったあと、天界にて神のお膝元にて永遠に安らぐのだ……。
呪が解呪されない限り、そんな甘い幻想が彼の認識を狂わせ続け、現実との齟齬にも気がつかなくなる。眠りから覚めたら幻想に従って動きだすだろう。
『やり過ぎたかしら? とはいえ、だいぶ薄めましたし……』
本来の彼女の『愛』に耐えられるのは、【邪王】の呪を解呪できるのは、この世界では魔女本人とその夫、あるいは星を統べる規模の神……即ち彼らの娘夫婦だけだ。
しかし今回のこれは、神仙術の子守歌で敢えて『薄めて』劣化させられていた。条件さえ満たせば多少の後遺症……封印された無数の快楽の記憶のフラッシュバックなど……は残るものの、他の者でも解呪できるはずだ。
彼女としても、ここで天使憑きが再起不能になるのは困るのだ。西方のパワーバランスが崩れてしまう。
とはいえ、その条件に届くのは亜神級存在か、天神器の聖霊のみだろう。聖山では壊山竜と神器ハーミーズのみが該当する。
聖騎士にそんな凶悪な呪いを叩き込んだこと、それ自体が聖山へのメッセージとなる。『今回は邪魔をするな』ということ……だが。
『うん、やはりそうきますか』
──聖騎士は堕ち、夢に溺れた、だが、純粋な、ただ純粋な意志の欠片はまだ其処にある。
騎士よりも純粋であるゆえに、騎士よりも夢に溺れにくいもの。
倒れた彼の身体から、半透明の何者かが抜け出して、魔女へと飛びかかった。そして発動するは、必殺の自爆術式。
〈神剣『グランニュエル』終末展開──聖魔封滅帰天陣〉
例え天魔に魅入られようと、そこに己の理想を見ようと、その理想が純粋に憎悪であるならば、変容は、殺害が心中に代わる程度のものだ。即ち。
アリギエーリに宿っていた、壊山竜の呪詛より生まれしもの、『天使』が、聖騎士の体を抜け出して、魔女に翼もろとも抱きついて、ともに自爆せんと最後のあがきを──
見せようとした、ところで。
『死ニゾコナイガ』
半透明の天使の霊体は、獅子の王の振るう刃に貫かれ、吹き飛んで……消えた。
『あら、ヴィネ。せっかくいいところでしたのに。どうせなら私の腕の中で……』
『天使ナドヲ名乗ルモノノ霊力ヲ吸イ込モウナドスルナ、気持チ悪イ』
『やれやれ。いいじゃないですか、あの『天使』はあなた方の嫌うそれとは似て否なるものでしょう』
セラフィナは、聖騎士を五体満足で返してやる代わりに、天使の霊力を駄賃としてカラカラに吸い取ってやるつもりだった。
今の一撃でも天使は死んだわけではないが、霊的構造の大半にダメージが入り、せっかくの霊力も霧散してしまった。単純に吸収するより損傷は大きく、復活には相当時間がかかるだろう。
『似テイルダケデ、嫌ウニハ充分ダ』
『あの天使も封じたうえで、こいつには聖山に意気揚々と私達を討ったと報告してもらったほうが時間稼ぎになったのですが』
『直接見レバ秒デバレル時間稼ギニ意味ナドアルマイ』
『さすがに秒でバレるほど私の夢は甘くないですわ。万が一そうだとしても最低でも帰る時間のぶんは稼げますでしょう? それに気がつくまでの精神の移り変わりが美しいのです。聖王にはもっと苦労してもらわないと、おいしいところだけ持っていこうというのは通りません』
『我ガ主ハマコト悪趣味ダナ』
『そうですか? 合理と思うのですが? しかしこの壊れようだと帰る途中でもハーミーズにバレますね。仕方ない、少し小細工しますか……』
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グリューネは、騎士に対して新たな偽装を仕掛けるセラフィナを横目に、安堵の吐息をついた。
本来、天使を降ろした聖騎士は決して弱くはない。護法騎士にとってすら、ろくに補給や支援もない大陸で戦うのはできるなら避けたい相手だ。『神剣化』は時間制限こそあるが、すぐに力尽きるほど短くもなし。
とにかく魔人に対するメタ的な意味での特効と防御力が酷い。ことに今の全快でないグリューネにとっては、アリギエーリはかなりの強敵のはずだった。よもや【霊枷】を使えるとは思わなかったし、セラフィナがいなければ普通に劣勢だったろう。
【霊枷】は本人以外の全てにかかる凶悪なデバフだ。速さ、強さ、硬さ、燃費、あらゆるパラメータが劣化する。全力で使えば相手の戦闘力を十分の一、いや百分の一に落とすこともできよう。恐ろしい力である。
だが、零は百で割ろうと、零のままだ。
今回は相手の運が悪かったとしか言いようがない。【非在】たるセラフィナは、あらゆる全てを零にできる。こと自分に対する攻撃に対してはほぼ無敵だ。セラフィナを巻き込んだ時点で、それが神器や神剣の攻撃だろうと、一部の例外を除き消えてしまう。
そもそも彼女は「零」の状態が自然で、逆にただ存在するためだけに莫大な霊力が必要で、双子の兄からそれを調達し続けないと消えてしまう矛盾まみれの世界不適合者だ。
【霊枷】のような力が正しく機能する相手ではない、むしろ下手なデバフはバフに反転する事すらある。
【邪王】の力も凶悪だ、霊威や仙術による防御の殆どをすり抜け、精神の隙をつき、そこから魂に食い込む。あれを防げる相手も殆どいない。
しかもやろうと思えば同時に何千、何万の相手にやれるはずだし、被害者の霊力や快楽も共有して貪れるので力も元気も無尽蔵だ。まさしく他化自在の邪悪極まる天魔の権能である。
それでも普段は自重しているし、今まで天使憑き相手にやったこともなかったはずだ。大陸の存在でも魔人と戦える、という幻想を維持するためにも聖騎士や天使は重要であるし。
それなのに今回【邪王】を実行したのは、忙しいのにわざわざ天使憑きを派遣してきた聖王によほどおかんむりと見える。先方も、せめて事態が終わるまでは自重してもらいたいのだが。
「……ん?」
ふと、夕日を何かが横切った、そのように感じた。目には見えないが、あれは……。なるほど。そうかあの天浮舟、普段は聖山の……。
「……同じ聖山に関わる存在でも、あちらはフリーダムですわねえ」
あの空にいるのは自由な存在だ。今回の件も含め、責任などもなく、ただの傍観者でいられる。まこと羨ましい、とグリューネは肩をすくめた。
世界の真理を示す奇怪なガラクタ
例えば酸素欠乏症にかかった男が「これを記憶回路に取り付ける事で瞬発力が数倍に跳ね上がる」とか自信満々に勧めてくるようなアレ。
ヨブ記の義人ヨブ
あの唯一神をして「彼は正しき我がしもべ」と言わしめる信仰篤き男。その行動は、真の信仰とは常人には至りがたい境地であることを教えてくれます。
恒河の砂 ……とにかく無数にいっぱいあることの例え。ここから生まれた単位の定義としての恒河沙は10の52乗のことを指すのが一般的です。
ただし実際のガンジス川の砂の数はここまで多くなく、推定10の22乗くらいと言われています。それでも多い、仮に1万で割ってもまだ100京あります。
アーテルマーテル・ネーニア
ラテン語で「ブラックマリアの子守唄」の意
インテリトゥス・アスケンシオ
ラテン語で「破壊と昇天」の意。今回のこれはつまり自爆。聖騎士は自殺禁止の教義に縛られていますが天使はそうではありません。
次回から本編に戻ります
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……おかしいな、俺なんで男の快楽堕ち書いてるんだろう。プロットだともう少し物理的な抵抗だったような……どうしてこうなった?
自分の筆の先が読めなかった、このリハクの節穴をもってしても。ほんま節穴や。……こっちにするなら、女聖騎士にして(以下なろうに書けない描写)




