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第15話 夏の氷舟

 ルイシェン湖公園は、帝都民の憩いの場として整備されているところだ。湖自体も悠大さを感じさせるなかなかに大きい代物だが、少し上流にいくだけで湖に流れ込む瀑布(ばくふ)を持つ川が複数あり、その辺りも人気がある。


 一番巨大な瀑布のある、見応えも一番の区域は皇族専用になっているが、その他は平民にも開放されていて、水遊びをする家族連れで賑わう日もある。


 ただ今日に限っていえば人は少なめだった。今年は雨が少なく渇水気味のせいか、瀑布の大半がちょろちょろ状態になっており、しかも水草が大量繁茂していて、地元民にはハズレ年と認識されている。


 そのうえで一昨日、帝都側の岸辺で土左衛門(すいしたい)が上がる事故があり……泳ぎに来るものが激減していたのである。


 ただ初めて来る者にとっては、なかなか見応えのある風景であった。


「オオキイ、ウミ!」

「海じゃなくて湖ナ」

「向こうに入れる滝がなかったか?」

「今年は滝が微妙って聞くぞ」

「前に来たのって初等学校前だったから、十年近く来てなかったなあ。意外に近場のこういうところって、行かないことない?」

「わかる」

「あれは舟釣り?」

「しかも女連れか、いいよナ」

「自分達をもっと客観視すべきでは?」

「ここって釣り良かったっけ?」

「建て前的には許可制で専業漁師か貴族だけになってるが、役人に袖の下すると行けるらしい」

「やはり金、金は全てを解決するー」

「たぶんそんなに高くはないぞ」

「いや、釣りはいいや。でも舟には乗ってみてえな。舟、どう?」


 ロイがそういって振り向くと、何故かリェンファが少し目を逸らし、他の男性陣がにやにやしていた。


「………なんだ?」

「念のため聞くが……ここで釣舟じゃない舟に乗ろうと誘う意味知ってっか?」

「………なんとなく分かったからやめとく」

「……ま、乗りたいなら一人で乗りなさいね?」


 (少なくとも、今は)との声に出さない続きを聞いた者はいなかった。そして分かっていないニンフィアが言う。


「フネ? ノレナイ?」

「今日は、乗らない」

「ワカリマシタ」 


 いたたまれなくなったロイが少し足を速める。

 ああ、畜生。からかわれるのは分かる、認めよう気にはなってるんだ二人とも、でもそんなのひとときの迷いかもしれないじゃないか。――水にでもうたれたら迷いも消えるだろうか。


「あー。俺あっちの滝のほう行ってみるから」

「待ちなさいよ、シーラから離れないで」

「マッテ、リェンファ、ロイ」


(やっぱりさーどこかで三人にしてやるべきだと思うんだよーそしてそれを見物ー)

(悪趣味だが気持ちはわかる)

(分かりたくないが分かるよ)

(しゃーねえ一肌脱いでみるカ、どこで仕掛ける?)

(向こうの小屋の向こうあたりとかどうかなー、人がいないでしょー)

(何かあったらいつでも俺が転移できるようにしておく)

(直後だったら僕が再現できるから、他は盾に任せる)

(ハーイ拙僧はどうせ盾ドルフだヨ悪かったナ)


「ちょっとロイ達、いいもの見せてやるからー、少しあっちのほう行ってくれー」

「いいもの?」

「俺の力でねー、ちょっと池の辺りに仕掛けてみるからー、そうそうあと20歩くらい向こうなー」

「何やるんだよ」

「いいからいいからー」

「何かやーな予感するんだよな」


 といいつつロイが湖の岸辺に近づく。そして男性陣はこっそり離れつつ……


「いっくよー」


 シーチェイの力が発動し……目の前の岸辺から、瞬間的に巨大な、何十人も乗れそうな氷の板が作られる。夏の太陽光と周辺の緑とを反射するそれは通常ではありえない奇跡の産物だった。


「Great!! スゴーイ!!」

「へえ……綺麗ね……それに涼しい」


 仙力ならぬ魔術でも近いことはできるが、これだけの規模では一瞬とはいかない。


「夏の氷舟か……すげえな! 乗れるか? ……うわ、ツルツルする」

「ノレル? スゴ……あっ!?」


 ニンフィアの足元のところは、まだ陸地なのに凍っていて、それに足をとられつるっと滑ってしまった。そして慌ててリェンファの服を掴んでしまい……そちらもつるっと。


「あっ」


 助けようとしたロイの腕に女性陣が滑って飛び込んでいくことになり、そして全員が氷の上で抱き合ったまま滑って転倒する。


「あたた……あ」

「あ……」

「アノ……」


 女性陣二人が、ロイを押し倒したような形で、吐息のかかる距離で見つめ合うことになってしまった。


 三人とも赤面しつつ慌てて離れようとしたが、下がツルツルなのでうまく動けない。ワタワタと焦りながらやむなくお互いに掴まったりしつつ岸に戻ろうとする姿は見ものだった。


「……おお、見事だぞシーチェイ誉めてつかわ……ん?」


 少し離れたところから匍匐(ほふく)状態で見ていたウーハンは気がつく。突然、周辺の気配が変わったことに。


「………!」


 精神を瞬時に切り替える。他の皆に警告を発するべく、立ち上がろうとしたところで、少し後ろにいたレダとエイドルフが全く動けていないのに気がつく。


(空気!?)


 異常が空気の変化であることに気がつき、息を止める。眠りか、麻痺か。そうだ、仙人にはそういうふうに空気や物を一時的に変えられる者がいる。確か……『錬仙』。眠り薬には盾……じゃないエイドルフの【賦活】も効果が薄いから、そうした技であれば無力化できる。


(ちっ)


 即座に【転移】で変化した範囲から逃げようとしたが……発動しない。ウーハンの【転移】は、自分以外の人間に触れていると使えないのだ。誰かに触られて……いつの間に!? そして背中に打撃が入り、思わず息を吸ってしまう。


「くっ……そ……」


──────────────────


「反応が、思ったより、速い、少し、危なかった」

「腐っても士官学校生だろうからな、だがこうなったら半日は起きん」

「事前に伝えておいて助かったな」

「さて、次は、あっち、だぞ」


12/28 表現微修正

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