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第136話 無効化を無効化するには?


「素晴らしい速さですね、これは思ったより楽しめそうだ」

「くそめっ、やりにくいっ、な!」


 ロイと崩仙との「手合わせ」は、逃げ回りながら反撃の機会を窺うロイと、小走りにロイを追い回すシャオファン、という展開となっていた。最初の数回の攻防で、普通には戦えないとわかったからだ。


 ……まず最初、ロイは先手必勝とばかりに、普通に一発ガツンといれようとした。仙術による縮地術、跨歩(こほ)は短距離なら目視困難な超高速の一撃を可能にする。それこそ、(まばた)きすら隙になるほどの。


 仙力が奴の近くでは無効化されるとしても、そこまで予め加速しておけばある程度速さを維持できるのでは、との目論見だった。


 ……しかし、相手に拳が届くどころか、帰ってきたのは全身への激痛だった。


「!?」


 シャオファンの間合いに入ったあたりで、身体に纏っていた仙力と魔力が強制解除された。さらに超加速は「ありえないこと」扱いとなったのか速度自体も消え去り、さらにロイの体はその反動まで受けたのだった。


 予期せぬ痛みと急減速に崩れかけた体を、かろうじて食い止めたところにシャオファンの前蹴りが襲ってきた。


 それを地面に敢えて倒れながらかわし、仙力を使わない素の身体能力で足払いを仕掛け、シャオファンが飛び上がった隙に前転しつつ、奴の力の効果範囲から離脱した。


 次に遠距離から如意棒での攻撃を試した。これもダメだった。


 シャオファンから数歩程度まで近付くと、仙力、仙術による身体強化の効果が急激に落ちるのだが、如意棒を伸ばし、その間合いの外から攻撃しようとすると……。

 

『すいません、彼の力の範囲内だと私は力を使えないどころか、意識を保つのも難しいです。おそらく5セグ(秒)も範囲内にいたら休眠モードになってしまいます』


 ヴァリスが申し訳なさそうに言ってくる。


 如意棒を超加速して慣性でぶつけてみようとしたのだが、こちらも範囲に入ったとたんに急激に速度が低下し、あたかも砂の塊を殴ったかのような反動が発生した。さらに【金剛】も含めた仙力も瞬間的に解除された。……腕がもげるかと思った。


 どうやら、【掌握】による奴隷契約状態にある如意棒(ヴァリス)はロイにとって体の一部扱いのようで、如意棒が奴の力の効果範囲に入った場合、奴の仙力による奇跡の解除はロイにも及んでしまうようだ。これはきつい。


 かといって石の投擲などは簡単に弾かれるし、仙力無しの素の武術だけでは、シャオファンに対して明らかに不利だった。


 速度、威力の点で打ち合いが不利なら関節技を、とも考えたが、相手もその発想は予測済みだったのだろう。一度隙を見て仕掛けようとしたら、それは相手の罠だった。


 あと一歩で肘を折れるとなったところで突然奴の腕力が爆発的に増し、ロイの両腕が振り払われて腹ががら空きになったところに、なかなかいい一撃を貰う羽目に。


「っ……」


 息が詰まる。【金剛】無しで打撃を食らうなど久しぶりだ。咄嗟に後ろに飛んで勢いを殺さなければ、一撃で終わっていた。痛みをこらえ、距離をとる。


 武の技量には大差ない、むしろロイが上かもしれない。しかし体格の違いによる間合いと破壊力の差は大きいうえ、奴は自分だけは魔術、仙術、さらに宝貝によって自己を強化できた。そうなると、勝っているはずの速さでさえ相対的に同等以下となり、勝てる要素が殆どない。


 だが体格は言い訳にならない。ロイよりも小柄なルミナスはこの状態で、かつ片半身を庇ってそれなりに打ち合えていたのだ。


 問題はそこだ。

 異能無しにそれができるだろうか? 


 無理だろう。速さ、大きさ、質量という物理は奇跡無しには覆らない。拳や蹴りに体重を乗せる、関節を極める、それらは理に則ったもの。


 武術とは理の許す範囲で威を引き出すための技術だ。理論的な上限は変わらない。技術に大差なく、相手だけが上限を高め理を超える術を使えるなら、理の中のままではいかにも不利だ。


 先程のルミナスは普段よりは遅く非力に見えたが、それでも見た目よりは速く強かった。あれは理を超えた強さだ。


 ならばおそらく、シャオファンの仙力の対象にならないように多少なりと奇跡を使い、肉体を強化するやり方があるのだ。それを掴まねばならない。奴の力が体内に及ばないようなやり方が……。


 ……ん?


(ヴァリスお前、休眠モードになると言ったが、死んだりはしないのか?)


 今更に気がつく。こいつは殆ど仙力でできている存在のはずだ、奴の仙力が「無効化」の力ならそれだけで死ぬ可能性はないか? もしかして危ない橋を渡っていた? いや、数セグとはいえ耐えられるなら、どうやって耐えている?


『今回少しばかり耐えているのは、私の技というよりはこの如意棒という器の特性を利用しての話です。この棒は使い手以外の他者の霊気伝導を相当に拒絶します。完全とはいかないので、時間をかければ効いてしまいますが。私自身の技で耐えるとすれば、それこそ休眠モードが第一選択ですね』


 休眠モードになるとどうなる?


『休眠モードになると仮死状態というか、半分死んでますので、無効化系能力も効きにくくなるんです。ただしそれでも長時間、たとえば一日中さらされ続けるとそのまま死ぬかと。あと、休眠モードでは、むしろあの宝貝のほうの対象になるおそれがありますね』


 半分死んでると効きにくくなる? 宝貝のほうの対象になるってことは、普通の物体扱いになる? その境界はどこにある?


『この手の能力のしきいは、だいたいは、使い手の認識と検知能力に依存します。霊気や魔力の有無を使い手が認識する、あるいは無意識に感じ取る、それがトリガーです』


 なるほど。意識的なだけでなく、無意識に感じるのも対象か。……死にかけだと霊気が漏れなくなるか? そこが手がかりか。


『……あともういくつか、無効化系能力には一般的対処法(セオリー)があります。【純潔】ならではの特性もありますし、彼ほど使いこなす相手に効くかは分かりませんが、現在ご主人様に可能なのは……(ごにょごにょ)』


 ふむ? 片っ端から試してみよう。



「せやっ!!」

「はっ!!」



 そこから逃げ回りつつの試行が始まった。


 例えば仙術を用いて上方に多数の小石や枝を跳ね上げつつ、自身は【妖陰】と跨歩で背後に回り、シャオファンを落ちてくる小石などに誘導してみた。これは効かなかった。跳ね上げた事を認識されたのがダメだったようだ。


 無論小石が当たったからといってシャオファンを止めることなどできないが、手法として有効かどうかの確認だ。

 

 次に、以前グリューネが見せた無数の木の矢を放つ仙術と霊穿を同時に可能な限り多数放ってみた。グリューネほどではないが、人を殺せる威力は十分にある攻撃が数十。


 ルミナスがやってみせたように、奴の無効化能力も無限ではない。ルミナスほどの強度を作り出すのは無理として、手数で飽和させられないかを試したが……。


「足りませんね」


 余裕綽々だった。というか木の矢の束のほうは、普通に無効化しないままで武の技量によって弾かれた。


『普通に銃弾を避けたり矢を掴めるタイプですね、彼。あれでは物理投擲攻撃は余程の大運動量の連打でないと効きませんね……』

(余程というと?)

『それこそ竜一頭の体当たりくらい、それを連続で』

(なるほど)

 

 霊穿のほうはさくっと無効化されてしまった。数十発程度では足りないようだ。かといって今のロイでは百を超えるのは難しい。



 ※霊穿の同時多重起動は難易度もさることながら、消費が指数関数で上がる。仮に霊穿を会得していたとしても普通の仙力使いでは十も起動できれば上出来である。百もやれば死ぬ。数が欲しいなら、普通は数発を連続して起動する。

 ロイ本人はともかくヴァリスはその辺を理解しているが、最近はロイが非常識なのはいつものこと、もうどうにでもなーれの境地に達したので気にしなくなった。



 次を試すとしよう……。


 そして何回かの試行のあと、【妖陰】から復帰直後に放った技が無効化された瞬間だった。


 シャオファンの頬に、寸前までなかったかすり傷がついていた。だがロイ自身が何かを当てたわけではない。


 今の試行では【妖陰】の灰色の世界を移動し、その際に近くにあった木に蹴りをいれて移動方向を変えた。


 その木が揺れて、上から栗のような、トゲ付きの木の実が落ちた。


 おそらくだが、その木の実が偶然妖陰の解除時に奴の頭上にあり、奴はそれにぶつかった。ロイがそれを認識できていなかったため「攻撃」扱いにならなかったらしい。


 そしてロイが本来意図していた仙術応用の技……ヴァリスの指定通りの軽い金属の粉と氷の粒を死角になる位置に作り出し、点火させたもの……先ほどのルミナスの兵器のやり方? なるやり方による超高熱の発生。こちらは無効化された。


 仙術で何かやっているのを認識されたのがダメだったか? さっきルミナスに焼かれかけたことで熱に過剰反応するのでは、と期待したが、残念ながらこの男の精神はかなり図太いようだ。


 やはりここでも認識が問題だった、そして木の実のほうは、向こうにとっても認識できていなかったため当たった。


 だいたい分かってきた。


 あの腕輪の宝貝は、仙力、魔術によらないものもそうであると誤認させるためのものと思われるが、発動には何らかの条件はあるはず。


 ここまでの試行での結論として、おそらく奴の宝貝の発動条件は、敵意ある攻撃、もしくは奴自身の知覚にはいったもの。どちらも満たさないモノには対処できないと思われる。


 奴の異能、【純潔】とやらも常時全力で垂れ流しているわけでもなさそうだ。効果範囲は一定でなく、変動している。これは、という瞬間に一際大きくなるようだ。


「そろそろこちらからいきますよ」


 仮説をまとめ、対策を練り上げた瞬間、向こうからの攻撃が始まる。


『宝貝・地竜蹄靴・起動『竜爪閃』』


 シャオファンの靴が光り、そしてその場で蹴りが放たれ……蹴りの軌道に合わせて五本の筋が飛んでくる。まさしく、竜の爪が振るわれたかのような一撃が、空に爪痕を刻む。

 

 しかもそれは普通には不可視の爪撃、霊刃と風刃の同時攻撃だった。霊刃が霊的、魔術的防御を破壊し、そこに間髪入れず物理の衝撃波の刃を叩き込むという殺意の高さ。霊気を感じ取れない常人なら、高位魔導師だろうと何が起こったか分からないうちに死ぬだろう。


 もちろんロイなら感じ取れるしかわせるが、それは一撃だけでは終わらなかった。シャオファンがその場で蹴り技の演舞のような動きをして、その軌道に合わせて複数の爪痕が生じ、それがそのまま飛んでくる。しかも距離を取ると爪痕も広がり、いっそう避けにくい。


 さらにいやらしいことに、シャオファンは徐々にロイの仲間たちを巻き込むように仕掛けてきた。そうなるとかわすわけにはいかず、足を止め、霊盾を作り出して相殺する必要が生じた。


「ふんっ……!」

 

 ただ、これはロイの仙力の特性上、味方を守る状況のほうが霊力が増えるのでまだマシだ。護法騎士の二人のほうに飛んだぶんは放っておく。


 そうして足を止めると、そこに向かって奴自身が追撃してくる。奴もまた跨歩の技法が使えるため凄まじく速い。まずは超高速の中段突き……跳歩崩拳による飛び込み、そして掌打のへき拳、打ち下ろしの砲拳から、竜爪を載せた回し蹴り……はい脚と、基本に忠実な連技を放ってきた。


(めんどくせえなっ!)


 辛うじて急所を外しながら思考する。体格があるうえに、大技を使わず基本の小技を愚直に繋げてくるシャオファンの武には隙が少ない。


 このままでは押し負ける。試しだとして、負けても死なないなら別に構わないといえば構わない、だが、腹が立つ。


 やはりやれる限りを試してみる、それしかないだろう。そしてロイのやれる限りとはつまり……そう、先日から学んだことだ。


 それでは、仮説から組み立てた本命を試してみよう。

 反撃開始だ。


あけましておめでとうございます。

今年もお読みいただきありがとうございます。


何かご意見などありましたら、気軽に感想などをお願いいたします。励みになります。



それにしても年末年始は忙しい、ゆっくり休めた日がなかった……書き溜めもできず。自転車操業状態ですね、どこまで続くやら。

とりあえず書けたら投稿していきます。

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