第133話 幻想殺し
ルミナスの背後に十数個の巨大な魔力、霊力の気配が発生する。
それは槍、それは剣、それは矢、それは、それらは……。
『偽地王器・ゲイアッサル・定常駆動・構成『必中痛撃』』』
『偽地王器・ゲイボー・定常駆動・構成・『不癒貫撃』』
『偽地王器・デュランダル・定常駆動・構成『斬岩一閃』』』
『偽地王器・霜巨人の大剣・定常駆動・構成『封魔斬剣』』』
『偽地王器・クトネリシカ・定常駆動・構成『雷竜閃光』』
『偽地王器・雷上動・定常駆動・構成『兵破雷鐘』』
『偽宝貝・乾坤圏・起動『双輪砕額擲』』
『偽宝貝・打神鞭・起動『封仙追飛敲』』
『偽宝貝・定海珠・起動『五色照天墜』』
『偽宝貝・万里起雲烟・起動『万矢烟焼雨』』
『偽宝貝・五火七禽扇・起動『鴻精三昧火』』
『偽宝貝・五火神焔扇・起動『紅蓮殲旋風』』
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ロイ達にとっては殆どは見たことも聞いたこともない、強力な魔導具、宝貝の数々。どこにそんなものを隠していたのか?
衝撃波を伴う槍が、斬撃が、稲妻が、閃光放つ珠が、奇怪な円刃が、無数の火矢が、蠢く炎塊が、炎の竜巻が崩仙めがけて殺到する。
全てを束ねればおそらく数千の軍勢すら鏖殺しうるであろうそれらを前に。
「はは、うはは、うははははははぁ!!!」
崩仙シャオファンは嗤う。
構え、呼気を放ち、大地を震脚で震わせ、襲い来る暴威の群れに掌を向け……。
狂笑し、突進しながら掌打を、拳を、回し蹴りの連撃を放つ。
「あーったたたたたたた!!」
そしてまるで舞踊のように軽々と、次々に攻撃を撃墜、破壊、霧散させていった。
まさに彼こそが仙力を殺すもの、崩仙。生ける破幻の槍なり。
一見ただの人間が、木々をなぎ倒すような槍や矢、超高速の珠を弾き、炎の竜巻を打ち消し、燃え上がる炎の壁の中から平然と現れつつ炎を消滅させる、そんな信じがたい光景を、後方に退避した学生たちは呆然と眺めていた。
「幻覚……じゃえねよな、こっちまで余波がきてるし」
それもグリューネが防御結界を張ってくれていての話だ。結界の外側の木々は爆風などになぎ倒されていた。余波だけでそれほどの威力、では中心部はいったいどれほどか。
「これがクンルンの高位仙人の実力か……?」
「クンルンも冗談世界だった」
「冗談とは逆だ、ガチ世界だろ」
「今までうちの国に見せてたの、ほんの一部だったんだな。こっちも化け物だわ」
「こんなのいくら修行しても勝てる気しねえよ……」
「奴は単独の仙人、としては手強い、ほうですが、幻魔王に比べれば、まだくみしやすい」
「くみしやすいって……あの凄い攻撃が全然効いてないですよ?」
「所詮は、無効化、しているに、過ぎません。彼単独では絶対的な、火力がない」
火力がない? そうか? 確かに相対しているルミナスのほうが火力は凄そうだ。しかし火力があっても効かないなら、奴の間合いに入られたら相対的に負けるのでは?
「そもそもあんな無数の魔導具の攻撃も、どうやって……仙力、なんですか?」
「あれは仙力による、疑似的、召喚術の、一種です。攻撃自体は、召喚物の特性、であって、本人の仙力では、ない。だから火力の割には、省燃費、ですね。まあ、どちらも、いつまでもは、続きません」
「ではあの仙人の無効化も限界があると? 霊力を激しく使うとか?」
「いいえ。単純には、幻想を破壊すると、むしろ規模に応じて霊力は、回復しますね」
「はあ!? 反則でしょうそれ」
「反則的ですが、人間である、限り、やりようはあります。そのやりようも、一つではない」
「くっそ、ほんと極めた崩仙はめんどくさい!」
「ふふふ。この際です、西の護法騎士が人類最強であるとの幻想も崩してみせましょうか」
それを聞いたルミナスが、少し真面目な顔になり……。
「──いいぜ。テメェが全ての幻想を崩せると思い上がってるのなら」
なんか変な構えをしながら……。
「まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す!」
『──偽兵器・統合運用コンバットシステム・選択『FCS Network code "CHIMAIRA"』』
『偽兵器・多連装ロケットシステム・選択『Raytheon M970K with "Sidewinder VI"』
『偽兵器・対戦車機関砲・選択『NOC M930LF 『Bushmaster III』』
『偽兵器・自走榴弾砲・選択『Panzerhaubitze 7k with Rheinmetall 155mm "Excalibur III"』』
『偽兵器・対物ライフル・選択『PGM "Hecate IV"』
『偽兵器・空対地レーザー機関砲搭載ドローン・選択『AVIC GJ-7『翼竜 VII』with Phaser Type7 Laser Autocannon』』
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鋼鉄の咆哮が響く。
炎の尾を引いて飛翔する人間よりも大きい金属塊、耳をつんざく爆音と共に無数に放たれる礫、音が後から追いかけててくる遠距離からの投擲、空に浮かぶ奇怪な鉄塊より放たれる音すらなく大気を灼ききる流星群。
何が起こっているのか、学生らの中で、少しでもその意味が分かったのはニンフィアくらいか。彼女にしても信じられない状況だったが。
今度出現したのは魔導具の武器でなく、古代の科学による兵器。どうみても対人としては過剰過ぎる力……一発一発が炸裂と共に数十万個のタングステン調整破片をばらまく面制圧型弾頭対地ミサイル群、対複合装甲車向け重機関砲や対地誘導弾、遠距離からの超音速の狙撃、そして光速のレーザーを雨のように降らせる対地制圧用ドローン……。
そしてそれらは、本来はネットワークに繋がれ、人外の精度と速度で統合運用されるのが前提となる世代の兵器だ。使い手もそこに繋がるAIもしくはサイボーグ。個別の火器はただの端末に過ぎない。そのシステムとルミナス自身が同化することで、一つの意志の元に本来に劣らぬ命中精度と火力を発揮していた。
それらが現れたのは仙力によるもの。だがそれら自体には魔力も仙力の気配もない、ただの物理攻撃だ。ゆえに、崩仙の力が魔力や仙力の無効化ならば、それらの出現及び起動を許した時点で終わりのはずだった。
普通の人間なら骨片すら残らぬであろう破壊が次々と彼に襲いかかる。
だが爆音と爆塵の中で声が響いた。
「──現世、下天の内をくらぶれば夢幻の如く」
「一切実像一切虚像。一切物性一切仏性。一切万象一切幻象」
「夢中さらに夢あり、劇中さらに劇あり、此界は幻に異ならず、人は夢に遊ぶ胡蝶に異ならず」
『宝貝・夢現転封輪・起動『不異胡蝶夢』』
「故にこの力よ『幻』を崩せ」
凄まじき古代文明の兵器。視認するのが困難な遠距離から城塞をも穿つ砲弾、光の筋……目で追うこともできない速度で連射されるそれらは、現代ならば一国の軍を壊走させるに足る。いや、より進化した未来の軍であろうと、旅団規模の軍隊が一瞬で崩壊しえる暴威。
仙力で再現されたものだとしても、その威力は現実で、それが作りだした衝撃と爆風も現実のはずだった。そんなものが一点に集中すれば、人体など跡形もなく木っ端微塵となり、ただ巨大な隕石坑だけがそこに残る、それが道理というもの。
だが。
吹き上がる砂塵の中、シャオファンの両腕にはまった腕輪が輝き、両手が太極の図を描き、その図がねじれ、無限の輪を描く。
──その輪に表裏の区別なく、輪を進めば表裏は裏返り循環す。ならば現とはおしなべて幻と表裏一体なり。
「万物に幻に過ぎぬ刻があるならば、幻の如く消えぬ道理も無し」
爆発的な破壊の暴雨は、輪に守られた先に届かず霧散していく。
「な…」
ロイたちは唖然とその様を見ていた。
人間など塵芥に変える威力のある攻撃が、拳で迎撃できるような代物になり果てる。だがあれ自体が守りの宝貝かというと、どうもそうではなさそうだ。
霊力と魔力の動きからすると、あの宝貝の腕輪の作用は防御ではなく「付与」だろう。一時的に何らかの特性を与えるというもの。
おそらくは、そうして何かを付け加えることで通常の存在でなくなり、彼の仙力の特効対象になる、ということだと思われる。そしてその対象は衝撃波や見えざる熱にすら及ぶらしい。
そしてまさか……幻想を破壊すると霊力が回復するなら、付与に使うぶんも取り返せるのか?
「……いや、マジで反則だろそれ」
この理屈が通ってしまうなら、防御面で飛び道具の類にはほぼ無敵なのでは?
そして近接でも防御魔術はもちろん、鎧や盾、鱗なども実質的に無効化したうえで、自分は仙術で強化した剛拳をたたき込めるわけだ。まさか、人体に対しても効くのだろうか?
あの武の練度ならおそらく、ロイが扱うような震破勁や雷公掌のような殺人技も使えるに違いない。
絶対的な速さ、強さはジーシゥ、レクラークと大差ないか、やや弱いように見えるが、こちらの魔術、仙術、如意棒の能力などが無効化されるとすれば、ロイにとっても相対的には彼らを超える難敵だ。
どういうやり方なら倒せるのか? あれか、それこそ奇跡や魔術に一切頼らない筋肉の権化とかのほうが勝率高いのか? 筋肉は全てを解決する? というかこの崩仙自身がかなりいい体格の偉丈夫だ、筋肉戦となっても強かろう。
生憎、ロイの体は瞬発力は高いものの、あまり物理的な体格には恵まれていない。そこを仙力で補い、速さを生かした術理を磨いているわけだが、それが効かない相手には……やはり、体格と筋肉があるほうが有利か。
──ああ、少し、羨ましいな
ロイの魂の奥で、何かがぞろりと蠢いた。
「そろそろ、こちらから行かせてもらいます、よ!」
『宝貝・地竜蹄靴・起動『伏竜胎動』』
シャオファンが何らかの宝貝を起動させたようだ。おそらくは靴、だろうか?
「こっちくんなばーか!!」
「はははまあそう邪険になさらずぅ!」
『偽地王器・黄金梵弓・連続励起駆動・構成『火天箭雨』『水天流箭』『風天箭衝』『如意放箭』』
重々しい霊気と魔力を纏って突進してくるシャオファンに対し、ルミナスの手に黄金の弓が現れ、凄まじい攻撃を連射しはじめた。
天に放たれた矢が分裂し、隙間も殆ど見えない炎の雨と化す。そして地面上を激流が押し通り、そこに炎雨が降り注ぐことで灼熱の水蒸気の熱風が生じ、竜巻が水平に螺旋を巻きつつ熱風を巻き込み、周辺の無数の礫が浮かび上がってそれらに混じる。
先ほどより広範囲に、殺意に満ちすぎた破壊がシャオファンに襲いかかる。しかし。崩仙の纏う力はびくともしない。炎はかき消え、熱風は冷まされ、激流は預言者の前の海の如く分かたれ、竜巻は逆に吹き飛ばされた。
そしてシャンファン自身は疾風となってルミナスとの距離を詰める。
「我は無双。我は無比。我の前に虚構無く、我の後に幻夢無し。我が名は『崩仙』その名は……」
何かをぶつぶつと唱えながら。おそらくは何らかの仙術の口訣。
そこに。
『以土金變成有鉱毒的沼澤〈鉱毒沼〉』
ルミナスは激流の跡が残る泥濘に複合属性仙術を放ち、シャオファンの目前の大地を毒の沼に変えた。
「無駄、無駄無駄無駄無駄ぁっ!!」
輝く靴を履くシャオファンが一際強く沼を踏み、術を無効化した時。
沼がふっと消え失せ、赤と橙の輝きが現れた。
「!?」
念のためのお約束
※本話中の兵器やその名称はフィクションであり実在するものや企業とは関係ありません
すごくゲ○トオブバビ○ンな大盤振る舞いでした。
なおルミナスが召喚したものは、数撃ぶんの魔力や弾薬、エネルギーが装填された状態で召喚されます。そのため召喚即ぶっぱが可能です。チートです。
しかしクールタイムがあり、同じものはしばらく呼び出せません。同一物の同時複数召喚は、ミサイルやドローンのように魔力や仙力が無関係な器物・兵器に限り可能ですが、同一物の連続逐次召喚はクールタイムにひっかかるのでできません。
また、彼女の召喚物は一部の例外を除き、放っておくと短時間で消滅します。意図すれば継続的に使うことはできますが、その場合、追加で維持、使用コストがかかります。魔導具や宝貝なら、本来の倍程度に燃費が悪いものになります。
そのため各召喚物を初期装填ぶんだけで次々に使い捨て、切り替えていくのが彼女の基本スタイルです。
今回登場ぶんのそれぞれの説明は活動報告にて。
年末忙しく、今回作文カロリーが多かったせいもあり、少し更新ペース落ちます。




