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第131話 仙人、襲来

 あの邪神との戦いに敗れて、第二次特別講座が始まってから半月。


 帝国を遠く離れた森で修行三昧の日々を強いられていた煌星騎士団の特務学徒兵10名は、ようやく解放に向け修行の仕上げに入りつつあった。


「皆さんもそこそこ使えるようになりましたか、そろそろウジ虫を卒業して仙術師になれるかもしれませんね」


「殆どはまだ口訣(じゅもん)が必要ですが……」

「あとは習熟の問題です。それではそろそろ仕上げに入りましょう、これが終われば帰国…………?」

「何か?」


 突然黙り込んだ幼女にグァオ先輩が声をかける。


 そこに空から羽音が響いた。


「あれは?」

「……鴉?」


 幼女に向かって鴉が飛んでくる。普通の鴉よりふた周りは巨大で、下手すると幼女と同じほどの大きさで……。


 その鴉が幼女の差し出した腕に止まって一声鳴いた。


 ネヴァーモア


 鳥の声ならず、しかし人の声でもない奇怪な鳴き声。


「なんか、これ、聞いたことが、ある、ような」

「あっはいあっぼくはあっあっ」

「思い出すな、壊れてしまうぞ!」

「ああ、繭に! 繭に!」

「何  だ?」


 鴉の鳴き声を引き金に、突如脳内に溢れだした存在しない記憶に何人かが朦朧とする中、幼女は頷くと。


「分かりました。そちらですか……おや? これ、は」


 また言葉が途切れる。そして。しばらく黙って……。


 ……ごふっ


 突然吐血して、崩れ落ちた。


「どうした!?」

「グリューネ?」


 ロイとルミナスがかけよったところで、座りこんだ幼女が呟く。


「……分身が、殺られました」


 言われてみれば、今朝は分身たちがいない。本体一人だけだ。あの分身は負傷などをある程度共有するのだったか。


 とはいえ分身でもとんでもない使い手だったはずで、それを殺した……?


「グリューネ。東のアレ?」

「ええ……。十岳仙、ら、が」

「となると……あれらがやられるとしたら、「鉱仙」かい? それとも「崩仙」?」

「分かり、ませんね。霊威に、やられたのでは、ない、ので」

「魔術?」

「いえ。二人、でしたが、片方は、仙人、ではなく。そちらが、まさか、あの方が……」

「あの方……?」

「さまよえる、蝶、が」

「……あーっ、そっか、そっちがいたかー!」


 あの方? 蝶? 誰だ?


「クンルンの仙人が攻めてきたのか!?」

「攻めてきたと、いうほど、でもない。この程度、挨殺(アイサツ)の、ような、ものです」

「うんうん会殺(アイサツ)は大事だからねー」


 なんかいま言葉がおかしかったような。きっと気のせいに違いない。そうだといってくれ。


「いささか、刺激、しすぎ、ましたか。中央山脈の、南半分は、彼らの、自称、縄張り。ここはその、西端にあたります、からね。舐められる、のは向こうも、嫌でしょう」


 クンルンの本拠地は中央山脈の南東側のはず。あいつら、西側含む山脈を全部縄張り扱いしてたのか?


「とはいえ、ここは、崑崙の、結界の外。彼等の真の、実効支配域では、ない。結界外なら、例え輪仙や、雷仙相手でも、私が万全なら、遅れはとらないのですが」

「あんた、まだ回復していなかったのか?」

「そうです、ねえ、それを見抜かれ、た。私も、まだ未熟です、ね」


「神咒と禁呪なんか使うからだよー、あれはなかなか回復しない。本国ならともかく、こっちじゃまだ数ヶ月かかるだろーね」

「仕方、ありません。さもないと、幻魔王から、逃がすのは、難しかった。……ルミナス、相手できますか」

「しゃーないなあ、でも十岳仙だとボクらよりリュースが相手すべきだよねー。当代のラインナップ全員知ってる?」

「さて……確か、崩仙、睡仙、流仙、嵐仙、鉱仙、五人、までは」

「ボクもそいつらだけだなー。当代だと翔仙、闘仙と錬仙や化仙、映仙に殺仙も十岳に入ってなかったでしょ、確か」

「そも、そのうち三仙の、当代は、死んでいます」


「その、十岳仙というのは?」

「崑崙では百人以上仙人がいるけど、その中に死んでも能力を引き継ぐ仙人がいるの君らも聞いたことある? それを特に崑崙三十六仙という」

「引き継げるのがいる、というのは。三十六人なのか?」

「正確には最大で五十くらいのはずだけど、同時代にいるのが大体三十人くらいだから、連中はキリのいい数字でそう自称してる」


 36ってキリがいいのか? 仙人の考えはよく分からない。


「割といい加減な……。しかし、三十六仙という言い方は知りませんでした」


「あいつら外に宣伝しないからねえ、でももっと敵の事は知るべきだね君たちぃ。で、その中でも別格なのが能力だけでなく記憶まで大昔から引き継ぎ続けてるトップの二人、輪仙ウーダオと雷仙ユンイン。次いでその側近の聞仙と看仙だね。これくらいは知ってるでしょ?」

「まあ、その四人なら。雷仙なら分身に会ったこともある」


「んだんだ。そして残るおよそ三十二仙のうち、その時代において特に優れ、上位の宝貝を与えられた十人を十岳仙という。これも連中の自称」

「そちらも聞いたことがない」


「十岳仙は仙人として凄いわけよ。そして仙人として凄いってことは、俗世と縁が薄いってこと。いやーボクが言うのもなんだけど、良くも悪くも浮き世離れしてんのよ。だから俗世の知名度はむしろ下っ端よりないかもだけど、実力はあるよ。彼らは純粋に己の本質を極める求道者だ」


 元々クンルンは一枚岩の組織ではないとは聞いてたが、少なくとも帝国との戦に出てきた連中の中に、さっきの崩仙だの睡仙だのはいないはずだ。今までの帝国との戦いはクンルンにとってはまだ小競り合い程度だった、ということなのだろう。


「その代の十岳仙ともなれば、特に固有仙力と宝貝の扱いは極めてると考えるべきだね。仙術は……まああいつらあんまり重視してないっつーか、基礎的なのだけで、高位のは雷仙くらいしか使ってるの見たことないけどさ。もしかしたら使えるかもねー」


「それでそのやってきた仙人たちは?」

「ゆっくり、こちらに、向かってます……おや」


 いつの間にか、黒ずくめの男がそこにいた。

 

 気配の薄さからすると、帝国で先日までニンフィアの護衛をしていた闇星の手の女性と同じような存在か? 仙人ではなさげに思える。


「誰だ!」

「……俺はこの地の女王に仕える者だ。帝国の者よ。俺が用があるのはそちらの方々だ、どいてもらいたい」


「あなたは、『黒曜』(オブシディアン)、でしたか」

「はい。グリューネ殿、ルミナス殿、既にご存知かもしれませんが、謎の二人組に東の境界を突破されました。仙人風の若い男と、年齢不詳の東方衣装の女です」


「分かって、います。何か見え、ましたか」


「されば男は道士服に無手の巨漢。女は煙管をくわえ着物を着崩し、細い紐、あるいは鞭のようなものを持っております」

「そう、ですか」

「我が手の者らが阻もうとしたところ男に一蹴され、負傷し突破を許した次第で……面目なく」


「構い、ません。あれらと戦っても、あなた方では、勝てない」

「申し訳ない。私はこれより長に報告に向かいます」


 そして黒衣の男はそのままふっと消えた。


 ロイとしては、こういう気配を消す術もそのうち会得したいとは思っている。


 だがロイの気配はかなり目立つらしい。まだ霊絶をものにしきっていないから、仙力使いにばれるのは仕方ないとしても、どうやら霊気の素質のないはずの人にとっても微妙に存在感があるそうで。これはニンフィアもそうだ。


 これらはロイやニンフィアの霊力が仙力使いとしてもかなり多いほうなのが問題らしく……。


 このあたり、仲間だとウーハンはかなり習熟してきていて、霊絶とまではいかないが霊気の気配が薄く、転移による奇襲も生かせるようになりつつある。ちょっと怖い。


「無手と紐っぽい鞭か。無手は分からんけど、鞭ってまさかアレ?」

「そのまさか、ですね。今の私には、つらい。実際かすっただけで、分身は、やられましたから」

「かーっ、あれこんな東方に流れてたんだ、となるときっついなー……うわー、ボクがうかつにあの方に触ったらあいつら暴走するし、かといって手を抜いたらヤバいじゃん、どうすべ」


「何か知っているのか?」


「下手な仙力、魔術は効かない相手ってことだよ。そしてボクら二人はあれと相性がかなり悪いね。色んな意味で。……ああ、そうだ」


 ルミナスは手をぱんと叩きながら笑った。


「わが弟子かもしれない君よ、ボクらより君のほうが相性がいいはずだ。いざとなれば君をけしかけるからヨロシク! それならもし万一あいつらが暴走しても矛先は君にいくはずだ」


 ちょっと待てい。あとあいつらって誰だよ。


「しかしさあ、本来あれは竜機神を封じてたやつでしょ、竜機神がぶっ壊れてからどうなったんだっけ?」

「行方不明、というやつ、ですわね」

「はーっ、誰か追跡しなかったの? つっかえ……」

「できません、でしたのよ。誰かさんの、せいですわ」

「誰のせいだよそいつ、殺そう」

「竜機神の、いた、『本来の』聖山アナトが、陽子(プロトン)崩壊砲(ディケイヤー)の、直撃で、山体崩壊、したのは、誰のせいでした?」

「ハテ記憶ニゴザイマセンナ」



 「その竜機神というのは何どすえ?」



「竜人が作った魔導聖鎧(ロボット)の中で最大最強だったやつだね。身長80シャルクの巨体で、雷バチバチの巨大電磁竜巻を纏って回転しながら突撃してくる危険物。千年近く前に、西の聖山アナトで復活して暴れそうになったから、うちの連中が壊した。だいたいあれはオニールの奴と塊山竜が悪い。んでその怪物を縛って封印してたのが、貴女の持ってるソレさー」



 「へえ、これにそないな由来があったとは知らしませんどした。今の(・・)うちのところにきた時にはもう東方にありましたさかい」


 艶やかかつ脳天気な、女性の声が響いた。

作中の80シャルクとは約57m

重さは550トンかもしれない






陽子崩壊砲の設定について


 本作の設定上の架空兵器。

 物質を構成する陽子は通常10の32乗年の寿命を持つとされる。陽子崩壊砲はこの崩壊を超加速して極短時間で発生させるという設定の兵器で、単純には物質を分解し、強制的に陽電子や中間子、ニュートリノ、反電子ニュートリノなどを取り出しエネルギーに変換するもの。


 陽電子をはじめとする粒子は即座に対消滅などにより高エネルギーのγ線などになる。これを利用した熱核兵器の一種で、作中の旧人類文明が持っていた切り札の一つ。ミサイルと違って発射に時間がかかるものの、出力が可変で使い勝手がよい。


 ルミナスが【想起】する兵器の中では最大の火力があり、最大出力なら爆風による殺傷範囲は半径百kmを超える。そのエネルギーはTNT換算でギガトン級、熱量はエクサジュールに達し、大震災級地震のエネルギー総量に匹敵する超兵器。

 なお大震災級というと凄そうに思えるが、大型台風は100エクサジュールを超える。大自然つおい。



 ただしこの砲は、純科学の産物なので魔術などで簡単に対処できてしまった。作中の歴史では、6000年前の戦いにおいて、赤龍を砲撃しようとして崩壊プロセスに介入され、搭載していた六隻のスーパーコンティネント級宇宙戦艦「バールバラ」「ヌーナ」「ロディニア」「パノティア」「パンゲア」「アメイジア」ごと全基宇宙空間にて爆散、喪失した。



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