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第122話 あさからおたのしみですかね


 結局その日は、そのまま終わった。

 ロイは1日では感覚を掴みきることができず夜となり、疲労困憊で訓練終了。繭からは誰も出てくることなく、ニンフィアも気絶したままだった。


 なお寝床はどうするのかと思ったら、幼女がとんとんと地面をつつくと周辺に木々が生え、それが奇妙に絡みあったり自ら枝を落としたりして、即席の丸太小屋(ログハウス)が出来上がった。


 そして繭とニンフィアは、草がわさわさとうごめいてその小屋の中に運ばれていった。


「なんつーか……すげー。……これは魔術で?」


 うちの国の魔導師連中なら、一人だけではこれを作るだけで倒れそう。しかしこの幼女本人の弁によれば今は魔力も霊力もすっからかんだという。では元はどれだけ莫大だったのか。

 

「魔術と組み合わせた複合仙術ですね。高等技術になりますので、あなた方が学ぶにはまだ早い。今回はまず基礎の仙術からです。繭の中の子達が明日には起きると思いますから、そこから始めます」

「俺の特殊魔術のほうは?」

「明日からも平行して進めます。」


「わかった。それから、今日だが……」

「なんですか?」

「冥穴近くで、幻妖がかなり暴れなかったか?」

「何かありました?」

「なんかな。山の向こうで気配がした」


 かなり強大な仙力が起動したのを感じた。もしかしたら、規模だけならニンフィアの全力なみだったかもしれない。


「……ふふ。霊覚がだいぶ磨かれてきましたね。良いでしょう。詳しくは明日お伝えしますが、冥穴の魔物の軍勢と、帝国の西方方面軍が本日、冥穴の西、ウージャン原なる地で激突しました」

「西方方面軍か……。負けたんだな?」


 西方軍にニンフィア並の仙力使いがいるとは聞いたことがない、となると幻妖側のはず。そいつにあの英傑らが加われば、邪神が再び休眠したとしても普通の軍では厳しいだろう。


 それにウージャン原なら人里からは遠いはず、不利になれば当然に軍を退いて体勢を立て直す余裕がある……。


「七星が一つ、墜ちたそうです」

「……マジで? 西ってことは、天璇(てんせん)星のフェイ将軍が?」


 ……負けるといってもそこまでとは。退却もできなかったのか? 将軍級の上位軍人が戦場で討ち死にって、少なくとも過去百年は聞いたことがない。


「ええ」

「何が、あったんだ」

「詳しくは我々もまだ調査中です。それもあって、大人の皆様のほう、マゼーパ殿らですか。彼らには早急にお帰りいただきました。あなた達への伝言がありますよ」

「というと」

「『どうやら、お前たちが帝国の希望だ。早く力を得て戻ってこい、それまで我々が食い止める』だそうです」

「……了解」

「戦いの経過は、詳しくは明日にはお伝えできるでしょう」



翌朝。


 ちゅんちゅん。


「ゆうべはおたのしみでしたね」

「何がだ……」

「変な夢は見たかもしれない」

「夢を、夢を見ていました。夢の中でねこが私を。ねこはいます」

「夢どころか昨日の途中から記憶がないんだが」

「俺も臨死体験って言われた後からの記憶がない」

「おれも」

「まさかマジで臨死してたのか……?」

「じゃあ属性引き出されてるわけ? よく分からん」

「まあおいおい説明あるだろ……」

「逃げられねえの?」

「無理だろもう刃向かう気も起きねえわ」


「うげっ何この繭」

「え? 俺たちみんな一晩この中にいた?」

「変な絶叫とかしまくってたって?」

「拙僧はみタ。あかしけやなげ冥府の大鴉(レイブン)よ今こそ発ちヌ」

「お前はもう一度寝とけ」


「……服の汚れとか前からあったのすら消えてるし、空腹感も便意とかもないんだけど」

「考えると怖いやめて」

「何か体に入ってきたような……」

「頭が」

「脳にっ、脳にっ!」

「おもいだしてはいけない」



 「ネヴァーモア」

 「てけり」



「今何かいたか?」

「さあ」



「なんかカノン(ロイ)のやつが痣だらけなんだが」

「あいつだけ別訓練してたらしい」

「あいつが痣だらけ? あの異常な見切りの鬼が? どうやって当ててんだよ、わけわかんねえよ」

「あの金鎚とかなら、あいつでもかわせないんじゃね?」

「冗談過ぎる、強いのに冗談すぎる」

「西の島はまこと魔窟じゃ」


「帝国であの幼女や平面銀色女に勝てそうな人いる?」

「姉上みる限り、宮廷魔術師の方々でも無理じゃないかなあ……。噂の玉衡星様ならもしかしたら一矢報いるくらいはいけるかもしれない」

「無理だろ人間が勝てる相手じゃねえよ、冗談世界の住人だよあれ」

「馬鹿やろう諦めんなよ、俺らが今から修行して勝つんだよ! あ、10年時間くれ」

「馬鹿やろう諦めろよ、あのカノンがボコボコにされてるんだぞ、俺やお前じゃ10年でも無理だ」

「拙僧が人間を辞めれバ」

「だから寝ろ」

「フーシェン様が神器の真の主とかになったらいけるかもよ」

「道具の力じゃんそれ」

「勝てばよかろうなのだ」

「勝てるならな……」




 リェンファは比較的早く起きたほうで、そのまま小屋をでて森の片隅でいじけていた。何か覚えているのか。ロイがそちらに近付いていくと……。


「なんかいじくられた気がするし、変な夢は見るし。私があいつを自分からなんて……あんな浅ましい、いやらしいの私じゃないし。そもそも経験なんてないし。いやこの前は私から口……いやいやあいつあの時は目が見えてないしろくに感触もなかったはずだし。だから、ああもう、こんなのもうお嫁にいけない……」


 ぶつぶつと何かつぶやいていた。

 ……先日のはしっかり見えてたし感触も覚えてる、何かすまん。


「大丈夫か?」

「! 来ないでよ馬鹿!」

「じゃあ俺のところに来い」

「何でよ」

「だから嫁に」


 呆然とぱちくりとした後、目が蒼く輝く。こっちの感情を読もうとしているのか。


「ば!? バッカじゃない馬鹿!?」

「真面目にいってる」

「………こっこの無神経男! こんなところで!」


 ヤバい顔真っ赤でおろおろしてるこいつ凄い可愛い。


「……フィ、フィアちゃんは!?」

「向こうで寝てる」

「いやそうじゃなくて」

「いいかリェンファ。俺は本当に真面目にだな」

「二人とも欲しいんなんて言うんでしょ、感情だだもれよ」

「そうだ」


「やっぱり馬鹿」

「馬鹿でけっこう」

「馬鹿馬鹿馬鹿!」

「声が大きい、向こうに聞こえてるぞ」

「ばかあーーーー!!!」


 反射的にリェンファが平手を出してきた。


 いくらリェンファにあの目があり、少し未来が見えるとしても、彼女の速度でロイに当てることは……余裕をもって回避し

 

 あれっ、地面に穴がっ!?


 ばしいっ!!


「ぐはっ!?」


 昨日異形少女にさんざん殴られたどの一撃よりも綺麗にはいった一撃は、ロイを錐揉み回転させつつぶっ飛ばしたのだった。

 


「何あれ」

「近寄るな馬に蹴られるぞ」

「あさからおたのしみですかね」

「よく当てたな」

「かわさなかっただけだろ」

「ほんと歯がゆいなあいつら、さっさとくっつけよ」

「え? まさかあいつ、まだ手を出してなかったのか? 他に誰か出してる?」

「んなわけないだろ、本命の相手があいつってみんな分かってんだから。だって怖いじゃん」

「そうじゃなかったらあんな上玉が残ってるわけないか」

「いやそれ以前にお前、アレの親父さん知ってる? 『鎧熊』のリィウ隊長、帝都防衛隊指折りの強面だぞ、半端に手を出すと殺られるマジで」




「いいの? あれ。あの眼の持ち主見るのは初めてじゃないけど、痴話喧嘩に【選定】(ディターミネイション)なんか使ってるのは初めてみたよ」

「女にはそういう時があるものです」

「彼相手だと回避する未来が99%超えてるだろうに、それを片っ端から破棄してたらそれだけで霊力枯渇するでしょ、当てたの感服するわー」

「当てまくっているあなたが言うと嫌みですわよ?」

「いやあ? このボクが集中しないと当てられない時点であの子おかしいよ、回避系の異能無しにアレは、もう人間の範疇じゃない」

「かつてのリュースもそうでしたが、武に愛されるというのはああいうものでしょう」

「それにクリーンヒットしてるんだよなあ」

「【選定】こそは必中の異能ですからね、コストはともかくとして」


 【選定】は【啓示】の派生であり、思い通りの事象を引き当てるまで未来をやり直し、選定する力だ。理論上は発生する確率がゼロでないならその未来を引き当てうる。


 ただしその未来選択試行のたびに霊力を消耗する。


 試行自体は何千、何万回であろうと現実では一瞬で終わるが、余りに低確率の事象を発生させようとすると、先に霊力が切れて結局無駄骨になることもある。


「普通あの能力は8、9割方成功を限りなく100%にするための力ですからね、逆でやるのは確かに……ああ、やっぱり枯渇しかかってますね。これだと今日からの講義に差し障りがあります」


 そしてこうなるのだった。


「そこの燃料の方、少し融通してあげてください」

「だからおれは燃料じゃなイ!」

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