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第120話 第二次特別講座その捌 君に足りないもの、それは


 首を治し…いや直しながら異形の少女は笑う。


「あ、ちなみにこれ、普通の魔力が強いやつほどよく効くから! 事実上の魔術師殺しさ。あの幻魔王にも原理気づかれるまでは効くはずだよ! たぶん二回か三回くらいは!」


 それ、くらいで、対応される、可能性が、高い、と。そして、対応できる、もの、だと。

 

 そうなると、使える、ように、なったとして、使い、どころは、考えねば、ならない。あと、耐え方も、ある、わけか。


「そして慣れてくるとこういうのもできるぜ!」


 突如、少女が、両手を上げ、指をワキワキと動かすと……掌から、雷光のような、感じで、見えない何かが、迸った……ように感じられた。……これが、魔力?


 ビリビリビリッ!


「ぐっ……」


 そして、その雷に、撃たれると、やはり、痺れと、言いようの、ない、不快感、吐き気が、押し寄せる。少し離れた、遠距離から、でも、可能、なのか……。


「はっはー!! 魔力フォース暗黒面(ダークサイド)と共にあらんことを! よいか、正義は勝つなどというナイーブな考えは捨てろ! 自分だけで皆を守れるという幻想は捨てろ!」


 自分だけで、とは、さすがに……。


「君は? 強いよね。武の才能、霊力、仙力、ついでに変な魔力に怪しい宝貝まで! スキがないと思うよ。だけど、足りない、足りないぞ!」


 足りない、のは、分かって……。


「君に足りないもの、それは……個性、カリスマ、頭脳、経験、怒り、妬み、そねみ、恨み、つらみに望み。そして何より……知名度が足りない!!」


 んん? 何故、それら、が?


「君はねー、素の実力ならもう普通に仙力使いとして一流まで来てるんだよ。うちの国でも五色騎士の上位、崑崙なら十岳仙にひっかかるクラス! しかしそこから一皮剥けて超一流になるには、君はいいこちゃん過ぎる、灰汁(アク)が、悪が足りない! 自分の力の本質を理解しなくちゃああ!」


 本質? 殴り倒す力と、見えて、実は、味方に殴られて、強くなる力、では? 違う?

 

「守るべきは何かを忘れるな。そして喪失の恐れを憤怒に変えろ! 足らざるに怒り嫉妬に狂い、嫉妬の先を強欲に求め、欲する全てを暴食で集め、貪欲に快楽に耽り、怠惰なる楽土を目指して、傲慢にもなお足りぬと怒れ!」


 ビリビリビリビリッ!

 

 きもち、わるっ……。


「足りぬ足りぬは野望が足りぬ、欲しがりましょう勝つまでは! 七罪を循環させ螺旋となし天も次元も突破しろ! それが出来た時、君は新世界の救世主(かみ)となる! でも今は循環が途中で止まってるんだよ! だから君がッ、悟るまで、殴るのをやめないッ!」


 バンッ ボガッ グオオ! 


 くそっ、わけが、わからん……。


「ひゃっはああああ新鮮な救世主だあ、さあ早くそれっぽい教えを適当に聖典にして世界にばらまくのだ! 金蔓にしてしゃぶり尽くしてやるぜえええ!!! ふやすんだ犠牲羊(ゴート)! 燃え尽きるほど殴打(ヒット)! 刻むぞ屍山血河(デスロード)! 目指せ山吹き色の菓子(サンライトイエロー)過剰摂取(オーバードーズ)…」


 ゴチンッ!


「意味不明な脱線するなアホ。まずは魔力について説明してあげなさいアホ」


 今度の金鎚は平面にするほどでなく、杭のように地面に打ち込むにとどまった。


 ……そうして地面に半分埋まりながら巨大なタンコブと共に、少女は比較的真面目に語り出した。


「……つまりだね、ボクらの魔力は直接魔術現象を起こそうとすると効率悪いのだね。従ってまずは魔力自体が持つ特性を生かすことが望ましい。その特性とは、一つは普通の魔力ある者にとって違和感、異物感、不快感、吐き気を催すような邪悪感を与える毒物としての使い方なわけだよ」


「俺には、普通の魔力ないのに、あんたのが、効いてるんだけど」

「君は普通じゃないが魔力ある者だからだよ、体がそれに馴染んでるのさ。魔力を持ってるうえで種類が違うのを打ち込まれるのが問題なのー。だからそこの娘や、そっちの繭にいるハゲの子みたいに、元から魔力ない奴にはあんまり効かないよ。少し気分が悪くなるくらいかね」


 ハゲ……エイドルフか。あいつも、魔力は殆ど、無かったな……。


「というわけで、今からやり方を会得してちょ。これも一種の魔術さ。もし万一、君と同じ魔力を宿す奴に会うことがあるなら、そいつに対しては魔力の譲渡や増幅技として使えるぜー。あ、そうそう」


 ぱんぱんと手を叩きながらいう。


「別のいい使い方もあるよ。この力、鏡像魔力は魔力という性質は同じなのに、この世界では魔力としては機能しない。これがどういうことかというと、まず、相手の魔術に向かって叩き込むと、異常な魔力の混入により、相手の魔術が失敗する」

「魔術を、打ち消せると、いうことか?」


「打ち消すか、暴発させられるか、不完全に機能するか、それらは使い方や、相手との相対的な魔力差によっても変わってくるね、でもまあ便利だよ? この世界、普通の魔術で対抗魔術(カウンタースペル)やろうとすると、相当先読みしない限り人間の反応速度じゃ間に合わないけど、このやり方なら何も考えずに可能だ」

「例えば、どういう使い方が?」


「魔術発動時に発現する魔法陣に向かって打ち込むと発動自体を妨害できる。これ普通の魔力の奴がやると妨害どころか逆に増幅しちゃう事あるんよね。敢えてそれを狙ってやるのは結構タイミングがシビアで、一部の国じゃ門外不出の奥義になってるような類の技だけど、妨害する方は割と雑にいける」


 それ、あんたらの基準で、雑なだけで、普通だとやっぱり、超絶技巧の奥義、だったりしないよな?


「大丈夫、放り投げた小石に別の小石を投げて当てる程度のことさあ」

「ああ。それくらい、なら、楽だな」


「……いや、ロイ。それ、楽なはずナイよ?」

 

 ニンフィアのツッコミは誰にも届かなかった。それが楽と感じる変態しかそこにはいなかったからである。


「既に発動している防御魔術とかでも、魔法陣部分に撃ち込めば消せる。魔法陣を外しても、鏡像魔力を流し込んだ部分だけは弱体化、うまくいけば無効化できる。さらに既に発動しちゃって自分や仲間に向かってくる魔術も、かかった後に魔素制御が発生するタイプ、つまり精神系や肉体系、装備へのデバフみたいな直接型は後追いで無効化できる事が多い」


 それはなかなか、悪くないな。


「特に呪詛系を破却できるのは大きいよー。霊力を使う仙術や霊鎧でも近いことはできるけど、こっちのほうが遥かに低コストで汎用性がある。あの邪神くんと闘うなら、この使い方は絶対修得しておくべき」


 なるほど、確かに防御壁を抜くのに、いちいち霊力を込めるのは、疲れると思っていた。そしてさっきのように、放出する事ができるなら、能動的な使い方もできるだろう。


「……ん?」


 ……なんだ? 何か違和感が。いや既視感? 魔術を打ち消す技……どこかで見た、ような。最近じゃない、な。子供の頃、どこかで……。


 ……思い出せん、何か喉元まで来ているのに出てこない、うーん……。


「そうそう、昨日はこれ応用して精霊を虐殺したよ。魔素だけで構成されてる雑魚精霊にはちょっと打ち込むだけで猛毒なんだね、いやあ、あんなに効くとは! 体のある上位精霊連中としか戦ったことなかったから知らなかったわ」

「あなた自身がもっと己を把握しておくべきなのです。エーカム様が説明していたでしょう、忘れないでください」


「あ、あとこの鏡像魔力を能動的に使ってると、普通なら自分の魔術も破壊されるからね? 並立は、まあ無理ではないけど、凄く難しいというのは覚えときなさい。例えるなら目をつぶりながら右手と左手で同時に別の彫刻を掘るようなもの、普通どっちも失敗するから」

 

 纏勁術は併用しないほうがいいということか。そろそろ本格的に、身体能力向上手段に魔術を使うのはやめて、仙術のみに切り替えるべきなのだろう。


 うん、ようやく身体の痺れがおさまってきた。そこでふと、以前から思っていた疑問が口をつく。


「どうも、よく分からん」

「んんー? 使い方は体で覚えるしかないよ。お代も体ではらってもらおうか!」

「それは分かってる」


 幻妖を倒せばいいんだろ、ん? 何か目つきが怪しい?


「え? いいの? よっしゃーじゃあとりあえず脱」


 ゴチン!


「寝てろエロ猿。で、何が分からないですか?」

「あんた達の、西の島の、そして魔人王か。それぞれの考えだ。どうも、俺の知ってるのとは、だいぶ違うみたいだし、その3つは、それぞれ別っぽい気がする」

「………」


「俺は、西の島には恐ろしい魔人が住んでいる、と親父から聞いてた。凄く強いが、何を考えているのか、分からない連中だって」

「ボクのどこが分からないと!? ホラここのスタイルなんか自分でいうのも何だけ」 


 ゴチン! ゴチン!!


「だから黙ってなさい。……確かに、大陸の人からするとそうですわね。我々は鎖国して情報封鎖していますし、何を考えているかを表明することもない」


「悪魔に呪われているとか、世界征服を企む邪悪だと教会の神父は言ってたが、どう考えても違うよな」

「グレオ聖教なら、彼らの立場からするとそうでしょうね」

「結局西の島、禍津国ファスファラスっていのは、古代に大陸から出て行った仙力などの異能持ちの集まるところってことでいいのか?」

「仙力だけではないですが基本的にはその通りです。何らかの異能持ちや、その親族であるゆえに大陸の人々から恐れられ、敵対した者たちの末裔ですよ」


 ニンフィアが俯く。太古の事情を少し知っているのか。


「だけど、リュースのおっさんもそうだったが、あんたら護法騎士は、その西の島のためじゃなく、もっとでかい何かのために動いているんだな?」

「我々は魔人王陛下直属です。一応は国許においても貴族として扱われますし、国のために戦うこともあります。しかし、国の命よりも陛下の命を優先する陛下のための騎士ですわ。国のために戦う戦士は別におりましてよ」


「そこだ。こうして、俺たちに稽古をつけようっていうのは、国の意志か? それとも王の意志か?」

「皆様への指導は、陛下からの特命です。国の議会に(はか)ってはおりません」

「国としては知らないと?」

「そもそも、我が国においても冥穴のあり方も、陛下の意志も、知るものは極めて少ないゆえに、国としては判断できないというのが正確なところでしょうが……もし知るところとなれば、反対する者のほうが多そうですわね。多くの者にとって、大陸の民への不信感は相当なものですので。結局は黙認せざるを得ないでしょうけれど」

「何故?」

「陛下が望まれるのであれば、それ以外にはあり得ません。ただ、原則として国も陛下の命には逆らいませんが、それは法的、物理的に逆らえないわけではなく、慣習にすぎません」


 んん?


「我が国は王や皇帝がいない代わりに、貴族や庶民から選ばれた元老や議員が国を指導する政治体制です。しかし彼らももはや、生まれた頃には陛下が引退していたような世代が大半です。目に見える加護もないのに時折文字通り天の声を投げかける上位者を疎ましく思う者も多いでしょう。そしてその声に従う私達も、今の国にとっては半ば異端者です」


 王は、それが分かっていて国や民に説明もせず、放置しているのか? 加護も与えていない? 逆らってもいいと? ますます分からない。


「魔人王とは……何なんだ? 西の島の王じゃないのか?」

「陛下は魔人という種の王ですわ。そしてかつてはファスファラスという国の王でもありました。しかし当代は若い頃にファスファラスの王を辞し、以後我が国は王無き国となっております」

「何故?」

「陛下がこの世界の守護者になられたからですわね」

「守護者とは?」

「外世界から見て、その世界を代表する者。その星と世界の文明を守る者。ですから大陸にある人類の文明も、陛下にとっては保護対象ですし、そして……一応は南方大陸の竜人たちも、陛下にとっては保護すべき文明の担い手ではあります。もっとも、皆さんのような北方大陸の民に陛下のことを知る方は殆どいませんから一方的な庇護ですし、別大陸の竜人や鬼達は、知っていても決して認めないでしょうけれど」


 星と文明を守る者。……つまりは、魔人の王というよりも、神というべき者ということ。うすうす、分かってはいたが……。


 そして守るべきものが文明という曖昧なものなら、特定の国や個人のために動くわけではない、のだろうか? 逆に文明のために必要とみれば、依怙贔屓のようなこともするし、あるいは排除したりすることもあるのだろうか? やっぱりわからんな。


『そこです。どうしてここの守護者は知名度を上げて、信仰を集めないのですか? ここに来て分かりましたが、星自体にかなり強力な対外界向けの加護と隠蔽を施しています。それも民には公表していないのですね?』

「陛下は余人の信仰を必要としておられません」

『非効率でしょうに』

「私の知るところではありません。私に分かるのは、陛下はいわゆる信仰対象にも、恐怖の対象にもなるつもりはない、という事だけです」


「信仰?」

『通常、その世界の守護者は、神として君臨し、信仰を集めます。信仰してくれる者の霊力の一部を自分の霊力に加える仙力があるのです。【威光(グランジャ)】や【集信】(インテグレーション)などですね。神になる者にはほぼ必須の力ですよ。逆に恐怖を与えて霊力を奪うという仙力もありますね、【威怖(ドレッド)】や【啜怖】(テラーサッカー)などです。これらは魔王とか邪神とか向けです』


 信仰や恐怖が力になるのか。信者数、あるいは征服した人数がそのまま力になる、と。


『そうやって何千万、何億と霊力を集めないと、むしろ世界の運営なんてやっていられないはずなんですが。私の創造主など、数千億の民の信仰を得ておられますよ』

「へー……」


 規模がでかすぎて実感がわかないが、色んな能力があるものだ。まあ自分には関係ないな、とロイは思った。


(んん? そうだとすると、ロイの力も、対象が違うだけで、そっちの類なんじゃないかなあ……?)


 ニンフィアは思った。

 ロイは守る対象から霊力を貰えるという。じゃあロイにも神様っぽい類の素質があるってこと?


 ロイに宿っている力を『救世主(メサイア)』と呼ぶのは……そのため?


 じゃあ、その力を発揮するために本当に必要なのは……?


 もしかして、さっきのあの女の人が喚いてた、知名度が足りないとかいうのは、単なるふざけた戯言じゃなくて……。



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