表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/221

第118話 第二次特別講座その陸 深淵を見る者は深淵からも覗かれる


「……じゃあ、生け贄を捧げ続けるか、あるいは世界が滅びるのを指を咥えて待つのか?」


「もちろん、そうした事態にならないようにいくつかの手はうちます。うちますが、その中でもっとも被害が少ないのが、今回であなた達が勝つというものなのです。それが失敗したとして、次善策だと、うまくいったとしても何百万という死者がでるでしょう」


「どうしてそんなになるまで放っておいたんだ」

「かつては対処する能力もなく、緊急度も低かったからですわ。大陸の皆さんは余りご存知ないでしょうが、この世界が抱えている問題は、龍脈だけではありませんのよ。世界の危機は両手の指で足りないほどありますの」


 ……聞かなかったことにしよう、聞いたら危機がロイに向かっておてて繋いでやってきそうだ。これ以上の迷惑話は上の人に任せるべき。


「そして何より……本来なら、龍脈関連の事象は、まだ数千年は大殺界を撃退し続けたとしても大丈夫なくらいの余裕があったはずでした。その余裕が二十四年前の異常事態によって、消えてしまったのです」

「異常事態……魔術衰退か?」

「それは異常事態の原因でなく結果の一つです。3つ目の理由、面倒なことに、魔術衰退のきっかけとなった事件、古神との戦いとその死によって、大量の霊的燃料が龍脈に雪崩れこんでしまったのです」


「燃料が増えるのはいいことじゃないのか?」

「普通の油が燃える際に空気を必要とするように、霊的燃料も正しく燃えるには適切な配分が必要となります。古神がもたらした燃料は酷く偏ったものでした。このままでは正しく機能しないどころか、いわば不完全燃焼のような事態が発生します」


「するとどうなるんだ?」


「生命にとっては毒となる霊的汚染……瘴気が大量発生します。特に霊気を扱えるあなた達にとっては猛毒になりえますね。これが増えると龍脈は機能不全に陥り、やはり停止します。そうして、古神のせいで限界までの制限時間が遥かに短くなってしまったのですわ」


「そもそもその古神とかいうのを殺さなかったら良かったんじゃ?」


「古き神とは真に怪物ですの。殺さなかったら今頃人類は絶滅していますわ。二十四年前の時も、ちょこっと引き連れていた配下だけで古竜数万体ぶんくらいの戦力でした。帝国なんかそれだけで三日かからず滅びますわね」


 マジかよ。


「しかもそれでも、相手の全軍からすればごく一部でしかない。あの時は先方が全力を出さずこちらを舐めているうちに大将首を罠に嵌めて暗殺したようなもの、他に手段がなかったのです」


 そんな事態だったとは知らんかった、本当かどうかは分からんが。


『確かあれは、全盛期は世界を飲むと言われた神だった……ような……はずですし、暗殺のような手段しかなかったのだろうというのは分かります。……その手段が何なのかというのが、我が創造主が知りたがっていることなのです。この世界の神は、我が創造主にとってはそれまで無名の若輩だったようなので』


 なるほど。新人が名の知れた古参を返り討ちにしたからどうやったのか気になったと。神の世界とやらも、人間と根底は大差なさそうだ。


「とにかくそんな神の血潮を飲み込んだ龍脈は狂い出し、燃料配分の均衡を安全な範囲にまで取り戻すために、さらなる魂を必要としています。それが今回の大殺界が特に大規模になって封印がぶち壊れ、こちらの冥穴が開き、あんな幻魔王なんぞが現れた主因ですわ。そしてこの天秤の偏りと、瘴気発生はなかなか待ったなしですの」


 余裕がない、と?


「今回仮に撃退できたとしても、次がすぐにやってきます。そして仮に次を、さらにその次も撃退したとしてもです。撃退してしまえば、充分な魂は供給されない。そうなるとやはり魂不足により、龍脈内部の状況悪化は止まりません」


 人間側が頑張れば頑張るほど崩壊までの余裕がなくなるってか。


「魂不足のままでは、あと五十年しないうちにこの地表は漏れ出した瘴気に覆われはじめ、体の弱い幼児や霊的素質の高い者から死んでいく。そうして大量の死者が出れば、その魂を燃料に復旧が始まるでしょうが、そうした犠牲者の場合魂の質も低下するわけで、そう簡単には復旧できない。このケースでは回復に数百年、下手すると数千年単位の時間が予測されます。一度できた瘴気というやつはなかなか消えないのです」


 そんなに時間がかかるなら……。


「赤子や幼児が死に続けると、人間の短い世代交代間隔では種として生き残れないかもしれませんね。結局、龍脈という機構が現在の構成のままでは、大量の死を飲み干さないことには収まらないのです」

 

 誰だよそんなはた迷惑な構成作ったやつ。


「そこで我が王は、まだ余力があるうちに、今回の大殺界を利用して龍脈を根こそぎ作り替えると決断なされました。現代の状況よりもっと高効率に、犠牲が少なくて済むように」


「少なくて済む? 結局犠牲は必要ってことか?」

「致し方ありません、他に持続可能な対策がないのです。何でも、地上の生命が一度ほぼ全滅していいならその後は特に犠牲がいらない世界に作り替える手段もあるそうですが、それは論外でしょう?」

「当たり前だ」

「まあその論外なことをやる神もたまにいますけどね。例えば方舟に乗せたごく少数の民だけを救い、世界を洪水で押し流して初期化する、そういう伝説のある世界は珍しくないそうですわ」

『……いや、まあ、確かにそういう事をされることは……ままありますが……』

「今の世界を維持しつつ作り替えるやり方では限界があるそうですの。それでも現行よりは桁違いに少なくて済むはず、だそうですわ」

「しかし……」

『……老いた星を無理やり生かすというのは、私の創造主もやっていますが、確かに魂が多数必要なのだそうですよ。この世界みたいな質と量を集中的に要求する手法は珍しいとは思いますが、魂を集め世界循環に利用すること自体は珍しくないと思います』

「そうなのか……」


「そして、龍脈改造のためには……まあ、例えるなら、龍脈を油断させ、誤解させねばなりません。そして普段は隠されている弱点が露わになるのを待つ。そのために必要なのが」


「あんた達でなく、俺達によってあの邪神を倒すこと、だと?」


「端的に言えば、そうです。我が王や私たちのような神性、あるいは邪性、妖性と呼ばれる類いの性質を持つ存在が前に出ると、大殺界は正式には終わらず、龍脈は弱点をさらさないまま眠ってしまう」


『……いや、それ、弱点というか……緊急保護機構ですよね? 神性持ちに介入させないことで、龍脈に、崩壊しかかってるのに管理神が不在という致命的異常事態(フェイタルエラー)が発生したと誤認させて、自動強制初期化(オートリセット)を発動させて、基底介入可能状態(デバッグモード)にしてからの最終手段の神理再生リインストール機構を起動させるという……そこで強制介入すれば確かに基底から変えられますが、下手したら恒星にも異常が起こって赤色巨星一直線で……』


 なんかヴァリスのぼやき、意味わからないけど怖いこといってる気がする。


「問題を先送りするなら我々が何とかしますし、今までそうしてきました。しかし今回はそれでは困るのです」


「仮に俺達があいつを倒したとして、その後どうするんだ?」

「率直に申し上げて、具体的にどうするのかは私も理解しておりません。そこは我が王の領分ですので」

「…………」


「ですが、我が王に伺った限りでは」

「?」


「旧き法が終わるその時にこそ、傲慢にも全てを救う『力』が必要になる、そうですわ」




 ──絆を紡げ。そして傲慢にも願え。全てを救うと。


 ──辿り着いたならば……お前の望みは叶うはずだ。仮にその過程で何があったとしても。




 かつてもそんな事を言われた気がする。


「仕方ないな……」


 望みが叶うというのなら、やるしかないだろう。やらなければ、おそらく望みどころではなくなるのだから。


「だが、俺達がそんな短期間であいつに勝てるようになるのか? 修行してもそんな簡単には……」

「おまいう」

「?」


 桃色の髪の騎士がジト目で睨んでくるが、わけが分からない。


「ダメだこいつやっぱり自分の異常さ分かってないよ!」

「あなたが言わないでください」

「いいか少年! 普通の仙力使いはお前みたいに山ほどの素質持ってないし、まともに修行はじめて1ヶ月で古竜を殴り倒せたり、神の残滓を飲み込んだりはしないんだよ!」


 はあ? 神の残滓? なんだそりゃ。


「ああそうか、これか、こいつ持ち過ぎてて持たざる者の感覚が分かってないから目覚めないんだな!」

「ルミナス」

「やっぱグリューネ、こいつうちの修練場に放り込もう! 持ってるもの剥ぎ取らないと目覚めないよ! そして何もかもなくしてなんかいない、あなたにはまだ命が残っているではありませんか状態にして絶望を教えないと!」

「今からでは無理です」

「涙の数だけ強くなれるんだよ、アスファルトに切りつけられたタイヤのように!」

「何か混ざっていませんか」

「少年老い易く学成り難し、一寸の光陰(ボク)を軽んずべからず!」

「古の(ことわざ)を無駄に拝借しないでください」

「愛とはつまり銭闘なんだよと言い切ってラクになって、恨みや嫉妬や憎しみを抱えて生きるようにさせないと」

「待ちなさい色々とおかしい」

「天に代わってボクがやるしかないな。少年よ、今から始まるのは新しい世界なのだ。君はこれより過去を切り捨てる。じっくり可愛がってやる、泣いたり笑ったりできなくして」

「もういいから黙れ」


 ドゴォッ!


 再び突如現れた巨大な金鎚、それを少女は今度は華麗にかわしてのけた。


「ふっ……護法騎士に同じ技は二度も通じぬ。今やこれは常しk


 ボコォッ!


 次の瞬間、外れて大地を打ったはずの金鎚のすぐそばの地面が盛り上がって岩の鎚となり、下から少女を打ち上げる。


「へぎょっ」


 再びゴマ粒となり、そしてしばらくして落下してきた少女に、今度は金鎚が下から叩きつけられた。


 ドゴッ、ドカンッ!!!!!

 

 すると少女は無数の同じ顔の小人に「分裂」して、バラバラと落下。


「……え?」


 小人たちは地面に落ちると一目散に向こうのほうに逃げていった。


「……………」


「とにかくあなたであれば充分勝算はあるのです」

「あの、あれは」

「何ですか」

「あの人、分裂して」

「気にしてはいけません。気にしても今の現象は理解できないからです。見てはいけません。深淵を見る者は深淵からも覗かれるからです。いいですね?」

「あっはい」



「……いや、確かにそりゃ俺もこの春先に比べたらかなり強くなったなとは思うけども、それであの邪神と英傑達に殴り勝てる自信はまだない。俺達全員でも勝てるもんなのか? 俺は属性とやらもよく分からんし……」


「先ほども言いましたが、あなたは細かく効率を追求するやり方より、力押しのほうが向いています。そして私達が提供できるのは、それを生かすための手段に『気づかせること』と、あなたの仲間の強化です」

「それはどのような?」


「仲間の強化は属性の覚醒とそれに伴う仙術の会得、あとこれから渡すものになります。あなたのほうは、あなたが気づいていない素質や、幻魔王に通じそうな新技などです」

「俺の素質? 仙力か?」


「あなたの仙力の本質は、救うこと、守ることにありますが、そのために敵を殴り倒す力は既にあります。あなたに必要なのは、その力を生かすために、今の自分に足りないものをもっと見つめ直すことですね」

「足りないもの? そりゃ、いくつもあるが……力を得るには相応の修行時間がかかるもんだろ」


「……はあ。足りない、と言われた時に出てくる発想がまずそうした己自身の修行不足だというのが、あなたの問題なのです」

「何故だ」

 

 力が足りないのが、俺の修行や才能の不足でないならなんだというんだ?


「しかしまあ、いきなりそう言われても雲をつかむようで分かりにくいでしょう。しかし直接答えを言うのは、むしろあなたの覚醒を遅らせかねない。そこで私が提示するのは、その前段階です」


 よくわかんねえなこれ。


「あなたの力への気付きの第一歩として、あなたには少々特殊ですが、魔術を使って戦えるようになってもらいます」


 さっきも聞いたが、それマジで言ってるの?

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ