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第117話 第二次特別講座その伍 一発だけなら誤射かもしれない

「その棒とその中身について、あなたはどの程度理解していますか?」

「えーと、伸び縮みできる、特殊な宝貝だというのは」

「聞いているのは中身です」

「……なんか、他の世界から来たやつが宿っているというのは聞きました」


『…………』


「……その宝貝、(にょ)()金箍(きんこん)棒は、崑崙の輪仙ウーダオが、ある素材を見つけたことで思いついて作った代物のようです」


 道士でなく、仙人なのは予測できていたが……崑崙の最上位、輪仙ウーダオが作ったって……!?


「どうしてそんなことに。それに、ある素材?」

「さあ、経緯は分かりかねます。そういうものを作ったから、見つけても壊さないほうがいいぞ、とうちの上に連絡してきたそうで。向こうも色々と嫌らしく動いています」


 ……仙人の意図がわからない。


「そして素材とはその如意棒の核になっている存在ですね。意志を持ち、念話で話せますでしょう? だからそろそろ狸寝入りは止めろというのです」


『…………』


「そこのそれが天外なる稀神シィ・ヴ・ソトゥラスか、遊星神ヴェルグドラか、戯神ダムダーラのいずれの手先かは……まあこの際どうでもよいのですが。あなたの道具になっている以上は、適切に働いてもらう必要がありますわ」


 誰だそいつら。……と思ったところで、黙っていたヴァリスから、どこか観念したような念話が響いた。


『……そこまで掴まれていましたか』


「先日から亜神の皆様が、稀神と戯神の端末駆除に奔走されているようで。我が王は人気者のようで困りますわ、少し前までは見向きもされず見捨てられたものを、虫のいい話ですわね」


『若い神が……古神を倒したらとあれば、致し方ないでしょう』


「連邦のお偉方も余程退屈されておられると見えます。…………古神か。記憶が怪しくなっていますね。ああ、これ【滅相(アムネジア)】の影響ですか、我が王は余程腹に据えかねたと見えます。忘却の風が銀河に広がれば、この事態も落ち着くでしょうかね」


『その風を扱える時点でおかしいです、上位神でも使える方の少ない権能ではないですか』


「おかしいのは連邦の神々です。例えばいきなり連絡もなくお越しになったと思ったら、星系内惑星に時空共振弾やブラックホールやらを撃ち込んで破壊なさったり」

『……………えーと』

「少なくとも万を超える準神級の探査端末を勝手にばらまかれたり」

『……………』

「怒れる我が王が出向いたら、交渉(ケンカ)の直前に分身にすり替わり、分身に平謝りさせている間に本神(ほんにん)は意識を過去に遡って機密を盗み見しようとなされたり」

『…………』

「こちら側の亜神に呪いを撃ち込んで密かに洗脳しようとなされたり」

『………』

「我が王に敵対し眠りについた竜王とコンタクトをとっては神力を授けようとなされたり」

『……』

「これらだけでもどう考えても喧嘩を売っておられるとしか思えないのですが、いかが思いますか? なおもちろんこれらだけではございませんのよ?」

『…』


「もちろん連邦上層部、特に五大神の皆様が、その気になれば恒星どころか星団を束ねて連鎖崩壊させうるような方々であることは存じております。この程度、かの方々にとっては余興でしかありますまい。しかし仮にも連邦加盟星に対して余りにも礼を失した振る舞いではありませんか?」

『……まあ、そうですね』


「挙げ句、非をお認めになり素直にお帰りになられるかと思ったら、恒星系離脱直後にまさか恒星系ごと平行世界化して上書きして、全部なかったことにしようとしたので改めて再交渉(どつきあい)となった、と伺ったときには何してくれやがりますのと心底呆れ果てましたわ」


『……エー、アノー、ソノー、古来より一発だけなら誤射かもしれない、一回だけなら誤解かもしれないといいますし』


「種類が違えば別の一発、別の一回と計上するのが連邦の流儀で御座いましたか、なるほどなるほど。しかし時空共振弾は少なくとも複数回射出され、我々が新土星と呼ぶ外縁惑星が爆散したのですが?」

『そ、それはまた、荒っぽい事をなさる神もおられたものですね』

「あなたの主ですわ」

『さあ、私は主がそのような事をやる所を見ておりませんので回答イタシカネマス、ハイ』

「確かに「見て」はいないのかもしれませんわね、見ては」

『……』


「とにかく、あなたのような存在は本来なら駆除対象なのです。見つけ次第破壊しろと。所属陣営がいずこかに関わらずね。そうしたら、何と要注意人物の手元に一つあるじゃないですか。うちの上司たちの間で問題になったのです」

『……』


「そして上司らの議論の結果、あなたに限っては見逃すことになりました」

『……なぜに?』

「現在進行中の計画において、あなたは都合がいい存在だということになりましたので」

『都合がいい?』


「あなたはこの惑星出身でなく、神の域にもなく、しかしリソースさえあれば相応の奇跡を作り出せる知識があり、地元住民に共有支配されていて、宝貝に封じられ、能力制限もかけられている」


「これは対幻妖という観点で見ると、龍脈からは神性を持たず通常の生者とその道具として計上されると見てよい。我々や上の方々のように制約に引っかからずに済む」

『制約とは?』

「私達から見てそう呼んでいるだけで、実際には違うのですがね」

『……まさか』 

「古代の龍がそんなこと思いもしなかったのは間違いないでしょう。彼らの倫理にはない発想ですし」

『神性持つ者の関与を排さねばならない、まさかそれは……』

「ご想像の通りなのでしょうね」

『……正気なのですか、守護者は』

「是非に及ばず、ですわ」


『……いいでしょう。それでは、他の私の仲間を見つければ、破壊せずとも同様に道具に封じれば有用なのではないですか?』

「あなたの主人が異常であるがための例外です。普通の存在だと逆に支配されかねませんからね、あなたも最初はそうしようとしたでしょう?」

『……一蓮托生状態であるからにはご主人様に協力するのはやぶさかではないのですが、ご主人様の状態について私よりも把握されていそうですね?』


「無論ですわ。あなたからみても、そこの彼ら(・・)は異常でしょう?」

『凄く異常ですね』

「本人らには何が異常なのかの自覚も殆どないでしょうから、周りの迷惑も知らず異常なことを平然とやってのけます。こんな異常事態でなければこれこそ監視と枷をつけられるべき異常ですわ」


 よく分からないがあまり異常を連呼しないでもらいたい。そもそもロイが異常というなら常とは何なのか、誰がそのようなものを決めたというのか。


 だんだん腹がたってくる。いやしかし彼らがいなければ悪夢の通り自分が彼女らを殺す立場になりかねなかったのだから、暴発はよくない。よくないが、唯々諾々と黙っているのもよくなかろう。


「……で、その異常者にあんた達は何をさせたいんだ?」


 少し口調が荒くなったがこれくらいは言ってもいいはずだ。


「……失礼。もちろん、先ほども言ったとおり、あの幻魔王を倒してもらうことです。私達は奴にトドメをさしてはいけません。己の手で直接やるのもどこまで許されるかが不透明です。道具まかせで何とか許容範囲といったところでしょうか」


「仮に戦いたくない、といったら?」

「ロイ……」


「どうしても、というなら別の手段を探しますわ。それがなるまでに、どれだけ被害が増えるかは存じませんが」


「……せめてどうしてあんた達じゃダメなのか、教えてくれ」


「複数ありますわ。一つは古の約束による物。トリーニ様がいったように原則我々は大陸の政に関わらないように生きてきました。ですがこの掟は所詮自粛のようなもの、世界の危機の前には真の理由になりえません」


 そうだ。そんな口約束のようなものは理由にならない。


「二つはもう冥穴の相手をしたくないからですわ」

「したくない?」

「毎日千を超える怪物や過去の英霊らと戦い続ける日々を二年近く送る、そして終わっても、いずれまたくるその日に備え何十年も軍備を整える、これはわが国にとっても苦痛なのです」


「そして何より悲劇的なのは、それを多くの犠牲を出して撃退しても土地や財を得られないどころか、問題を先送りしているに過ぎないこと」


「どういうことだ?」


「幻魔王は言ったでしょう? この世界に魂を捧げねばならないと。冥穴と龍脈という機構は、良質の魂を直接捧げないと機能しないようになっています。それも可能ならできるだけ短期間に、大量に。そのために無理をして収穫した魂の利用効率を高めているのが、大殺界という期間です」


「冥穴より現れる幻妖を撃退するということは、大殺界期間に充分な魂を捧げないということです。それが続くと、龍脈はいずれ燃料不足に陥ります。そして完全に龍脈の燃料が枯渇すると、この世界は死にます」


「……世界が死ぬとは?」


「そうですね。大地と海は凍りつき、大気が星から剥がれます。魔術も停止し、生命は死に絶えるでしょう。そしてこの星の龍脈が作り出していた公転軌道による霊方陣が機能停止した瞬間、老いた太陽は本来の己を思い出す。ほどなく赤色巨星と化し、この星を飲み込んで焼き尽くし、やがてそうあるべき白色矮星として、宇宙を漂う墓標となるでしょう」


「………」


 ……よく分からない言葉ばかりだが、とにかく世界が滅びるということは分かった。


『……やはりこの星は、本来この星域にあったものではないんですね? その状態は、この辺りの星域ではありえない』

「そう聞いています。既に百億の歳をとうに超え、四兆に届く昼と夜を経ているそうですよ。とっくに慈子如来(マイトレーヤ)が終焉を言祝(ことほ)ぎにお越しになるべきな程度には」


『そうであれば、本来はもっと銀河中核円盤よりの星域にあったはず……その年齢帯の最寄りの星団は少なくとも五千光年は先。いやもしかすれば一万光年以上先からこの銀河腕の端に配置された……』

「元の位置は相対的には現在位置からこの星の一年で計算して三万光年は先らしいですわよ」

『むう、龍種はいかなる意図でここに……』

「あなたの主は組み換え当時には既に大神であったはずですが? とはいえ、組み換えに遭った星系は百億を超えると聞きます。その中の一つがどうだったかまで、覚えておられるかは存じませんが」

『……』


 何かもうでかすぎてよく分からん! それに話がずれてる、戻れ! 


「……じゃあ、生け贄を捧げ続けるか、あるいは世界が滅びるのを指を咥えて待つのか?」


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