第11話 幕間 古代遺跡の仙と魔と
夜の暗がりの中で、三人の男たちが、さらに昏い大穴を覗き込んでいた。
「ここか? 例の力が観測された場所は」
「そのようだ……この土の断面の滑らかさを見ろ、明らかに空間系の力によるものだ」
呪符が投ぜられ、灯火の魔術が起動する。男たちはそのまま光球を追って中に飛び降りた。そして怪我もなく、十数シャルク(約10m)下の瓦礫の上に降り立つ。
「……古代遺跡だ」
「話の通りだな……どういう代物だ?」
そして男たちはニンフィアが眠っていた構造体を調べる。
「あの棺、古文書にある、時を、超えるための、代物では、ないか?」
「おそらくな。帝国の連中が調べていたようだが、接収するにも重すぎて諦めたようだ」
「高位魔導師なら軽量化もできるはずだが……動員しなかったか」
「まあ接収したとして、連中に価値が分かるとも思えん」
「我らとて、どこまで、分かっているか、怪しい、ものだ。再現は、できんの、だろう?」
「そうだな、分かるのは老師達くらいじゃねえか? しかしこの棺……ほんとに古代人が蘇ったのか……『看仙』の野郎のフカシかと思ったが、つい最近まで機能してるぜこれ」
「古代人となると、今の我々より粒の大きい仙力を持つ可能性もある」
「仙力に、ついては、やはり、個人差が、激しい。古代、だからといって、強いとは、限らん」
「戦い甲斐のある力ならいいんだがよお」
「貴様はまたそれか、少しは自重しろ」
「自重してるぜ、してなきゃとっくに帝城に突っ込んでるさ……竜についてはどうだ、それも古代か?」
「わからん。少なくとも、ここでは、ない」
「ふん……仮に古代人だとして、おそらくは帝国が保護しているだろ。見つけたらどうすんだ?」
「説得し味方にできればよし、脅威になるようなら……拉致して力を封じる。最悪は消すことも……」
三人の背後から声が響いた。
「それは困るな。『地雷』をわざわざ爆発させるようなものだ。それに『彼』の遺志を無駄にはしたくない」
「!」
次の瞬間、三人のひとりが背後に対して『力』を放つ。空間の大気が変容し、生物にとって猛毒に……なりかけたところで、背後にいた男が何かを振った。そして致命の力は霧散する。
「……!」
「【錬成】か、なかなか速い。さすが無道の弟子たち。だがこんなところで活性酸素領域なんぞ作るなよ。自分らを巻き込んだときに洒落にならんぞ? せめて酸化炭素類くらいにしとけ」
初老の、鞘に入った刀らしきものを持った男と、より小柄なフードをかぶった者、二人がそこにいた。
「魔人…!」
「ちっ」
三人のうちの一人の姿が掻き消え……ほんの瞬きの間に初老の男の背後に現れつつ拳を……放とうとしたところで、片手で受け止められた。
「ははっ…!」
「こっちは【妖跳】か」
「はっ、初見で止めるか、凄えな! これが魔人かよ」
「フェイロン! 退けっ!」
「……しゃあねえな」
その声と共に何かが光り、三人の姿と気配は消え去る。まるで最初からそこには居なかったかのように。
「【合鏡】……人材豊富だな」
「……追わなくていいんですか?」
フードの影が女の声で尋ねた。
「『縁』は紡いだ。別に戦わねばならんことはねえよ。今はな」
そして二人組は棺を調べ、そこに書かれていた文字を読み取り……落ちていた髪の毛を取って、何かの機械のようなものに通す。
「起動日時は、方舟歴539年の……やっぱり、あの日か」
「遺伝情報をジブリルの記録と照合しますね。……はい、間違いありません、言われていた通りです」
「未だに眠っていたとはなあ。グレイの野郎の奴もそうだが、最後のロットは不良品ばっかりだったんじゃあるまいな」
「そもそも、こんなのが魔術もなしに実現できていたほうが驚きですよ」
「いや。こいつは魔術こそ関係ないが、開発時点で霊威が絡んでる。桜佳姉の【怠惰】の力を借りて作られた代物だ。科学だけでは実現できなかった、その辺が不安定さの原因かもしれんな……」
「さっきの三人のもそうですが、仙力……霊威はほんと私には分かんないです」
「お前は魔術のほうを極めれば十分だ、さっきのにだって対処はできる」
「いや少なくとも今はまだ無理ですよ。特に後ろに現れたのなんて速すぎでしたよ、精進するしかないですね……」
「さっきのは別に速くない、そう見えるだけだ。……まあ、誰だったのかの裏はとれた。いずれは本人に挨拶しておかんといかんだろう。教授もこうなるとは思わなかったろうが……」
「ほっとくとさっきの三人に襲われそうですよ」
「朱洛もそうだが、【憤怒】や【憤怒】の使い手は怒らせると怖い。そして怒りの度合いに応じて大変なことになる。破壊方面限定になるが、物理法則を完全に無視してくるからな。できるだけ友好的に対処したほうがいいが……さっきの三人がそこを理解しているかどうか。まわりの騎士たちに期待するか」
「騎士?」
「ああ。まあ先に穴のほうの調査をやっておくくらいの時間はあるだろう」
「あれは正直まだ怖いです」
「こっちの穴がでかくなると少し面倒なことにはなる。逃げ込んだ奴らがどうなっているか。魔術の弱体化の歪みがこんな風になるとはなあ、いや当然そうなると分かっているべきだったのか……」
男は一人ごちる。
「トリーニ様に報告と……場合によっては当代の無道たちにも挨拶しなきゃならんか、正直気が進まんな……」
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