第105話 精霊機動師団
『偽地王器・ゲイボルグ・励起駆動・構成『死翼絶翔』』
地を這うような低い軌道から、赤い無数の鏃が飛翔し邪神に襲いかかった。
全ては客観的にはほんの刹那のこと。赤い鏃は邪神が張り巡らしていた防御結界に次々に被弾しては爆発し、爆発した破片がさらに無数の鏃に再成型され再度結界に突入。
そして邪神が纏う多層多重の防御結界、一層だけでも電磁投射砲を防ぎ得るそれら全てが、一瞬で飽和して崩壊した。
『む?』
結界を通り抜けた鏃は邪神の背後で集まって一本の赤い異形の投槍となってから邪神に突き刺さり、邪神の体内で再度爆裂。
『ぐおぉ!!』
そして邪神の体は、背中が丸ごと吹き飛び体液と骨と臓物を撒き散らした。
「なっ!? 陛下!?」
「な、なん、なんとおおお!?」
死の槍がもたらした破壊は明らかに致命傷であった。いかに竜王、それも幻魔王といえど、その体が生物として再現されたものであるからには殺すことは可能だ。
そうして死を与えることができれば、幻妖は一度白煙に戻り、より弱体化した別の姿で再臨する……。
……だが。
体が殺された程度で死んでいては、竜王とは言えない。
『……我が結界と【拒絶】を抜くか。何らかの王器の励起駆動か? いや、何か違和感があるな……?』
体の過半が吹き飛び、人間なら間違いなく死に至る魔技を食らってなお、邪神は冷静に攻撃を分析していた。
そして飛び散ったはずの肉片と臓物が、逆再生するかのように戻っていく。白煙になることもなく、ほんの数瞬の間に邪神は完全再生した。
邪神らがいる場所からおよそ3000シャルク(約2.1km)は離れた草原の中の丘の裏側、直接は見えないはずのところで、二人の女性騎士が言い争っていた。
「何勝手に蹴り投げてるんですかこのアホ! まだそのタイミングじゃないですわドアホ! 回収準備できてないですわ」
「いや、やらないとあの子ヤバかったでしょ。今の場合、アホって言うやつがアホなのは確定的に明らかで」
有り得ない距離からの『投擲』……いや、足で蹴ったそれを投擲と言っていいかはともかく、それを為した桃色髪の騎士は、やれやれ、という表情で、ジト目の緑髪の騎士を見やった。
「彼の能力が完成する条件は聞いてましたよね? こういう事態の時はどうするのがベストかは先日言いましたよね? 今フラグ一つへし折りましたね? まだ取り返しはつきますが面倒ですよね?」
ぴしっ
「…………。ト、トウゼン、忘れているはずがないこともないような気がしないこともないかもしれない可能性が微粒子レベルで存在し」
「つまり忘れてたんですね?」
「反省する。ただこれはボクの問題だと思うが反省すると言いながら反省の色が見えないという指摘にはボク自身の問題だと反省」
「反省だけなら猿にでもやらせなさい」
「神は言っている、汝の為したいように為すが良いと」
「どこの暗黒神ですか」
「狂神だったかも。大丈夫だ問題ない」
「……アホに付き合っていられませんわ。仕方ない、とにかくあの子等を回収しないと!」
「使獣・糸紡ぐ影渡り/Spinning Shadowwalker」
緑髪の騎士の手から、小さな黒い蜘蛛がうじゃうじゃと沢山現れる。蜘蛛が嫌いな者なら卒倒するような光景だ。
「縁の糸を紡ぎ、全てを見つけ、全てを捕らえ、影横たわる暗闇より繋ぎ止めよ。行きなさい」
蜘蛛たちは、それぞれ脚の一つを「りょーかいー」とでも言うかのように挙げると、わらわらと影に溶けてかき消えた。
「いってらー」
「それでもこのままでは全員は回収できませんね、影が足りない……ああもう、イレイズもエルシィもいないし、奴にアレを使わせるしかないか。そうなると……」
「それにしてもさー。別に殺せるとは思ってないし、即死にレジストされるのも仕方ないにしても、思ってたよりさくっと再生したなー?」
「『不滅』をかけていたようですね、幻魔になり果てていても用心深い……いやむしろ、かつて我が円卓の始祖達に敗れた記憶ゆえの用心でしょうか。あの指輪をしっかりはめていたのもそのせいでしょうね、あれでは【天罰】でも落とせない」
『不滅』とは第七段階の最高位の回復魔術。記録している過去の状態を呼び戻し肉体的負傷を「なかったことにする」術だ。
それこそ致命傷からでもすぐに全快できる、時戻しの秘技である。装備の破損なども一緒に直せるあたりも普通の治癒術とは違う。
ただし術を維持している間しか効果なく、その維持だけでも莫大な魔力を要する代物で、仮に使えたとして人間の魔導師では他の魔術を使う余裕などなくなる者が殆どだ。他人にかけることもできず、対象は術者本人とその装備だけ。
さらに実際に傷を負った場合、その回復にさらなる魔力を要求される。致命傷になるような重傷を受けたなら、人間では魔力枯渇で気絶必至である。
それに、致命傷すらなかったことにするとはいえ、「一瞬で即死」した場合は覆せない。即死した場合、死体の残存魔力で勝手に傷が治る(しかし死んだまま)という何とも言えない事態が発生することも。これはこの術が「魂」にまでは干渉できないためだ。
人間なら斬首されたり心臓を貫かれただけならしばらくは「生きて」いる事もあり、その場合は再生できるが、脳が一撃で破壊された場合は確実にダメだ。あとは精神的ダメージや魔力も回復できない。
なお防御魔術や強化魔術などのバフ、霊薬による強化などであっても、肉体的変化を伴うものは『不滅』によってかき消されてしまう。受け入れるかどうかの選択もできないうえ、かき消す際やはり勝手に魔力を持っていく。
このように回復力は高いものの、使い勝手はかなり悪い術だ。この術を使えるくらいの高位魔導師なら、その魔力で防御や回避の術を強化したり、攻撃は最大の防御とばかり敵を倒すほうが生存性もいい。
かの邪神がそんなものを使っているのは、人間を遥かに超える莫大な魔力を持ち、そして例え脳を破壊されても「即死」しない竜王だからこそだろうか……とはいえ、どうせ即死しないのだから、『不滅』でなくとも回復は可能なはず。
であれば、敢えて『不滅』を使うメリットは即座に行動可能状態に復帰できる事だけと言っていい。そのためにあんなものを常時維持するなど、用心深いにもほどがある。どうせ、【天罰】のような霊的ダメージは回復できないのだし。
【天罰】の仙力はなにせ天罰と呼ばれるだけあって、防ぎ難い。下手な霊的防御など防御ごと叩きふせてくる、霊的存在にとっては文字通りの必殺技だ。
これを防ぐには、それこそ天を誤魔化す詐術が必要になる。そう、詐術だ。
例えば先ほどの場合。あれは少年の霊撃を跳ね返したのではない。
具体的には次元位相をずらして、擬似平行世界の鏡像に身代わりをさせている。攻撃を防いだのでなく、かわしたのでもなく、食らってはいる。そうやって少年の仙力を欺いた。
そして鏡像側の己の死を利用し、受けたものと等量の打撃を相手に与える報復の呪詛……血返しを発動させた。なまじ鏡像側を「殺せてしまった」ためにそのぶん呪詛としての強度が酷いことになり、少年の強固な霊鎧すら貫いた。
この一連の報復工程を自動発動する守護魔導具「ヴァナ・フリーダ・ディア・オグナ・サリュリュトス」 ……人間の言葉に翻訳するなら、「空を欺いた虫、フリーダ」は、古き龍の手になる神造品の一つ、王器級魔導具だ。
天……霊威、仙力を産み出す原霊の意志にとって、生物の姿形の違いなど些細なこと。人の世の伝説にもあるように、同じ者が全く別の姿をとることなどよくあることだ。
──不知、周之夢爲胡蝶與、胡蝶之夢爲周與
知らず、周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるか。
人と蝶の姿は全く異なる。しかし蝶と人が同じものの別の現れではないと、どうして言えよう? 本人の心にその自覚があるかどうかも分からない。そも心など、器によっていかようにも変わる。
姿形も、器も、心すらも、存在の本質たりえない。ならば何をもって相手を判別するか……仙力の場合は、意図しない限り霊気や魂の有り様をもって個を区別する。
竜人の伝説において、フリーダと言う名のその虫は、魂の表面を偽る術を見いだして、空を行く神なる龍を欺いた。
この指輪はそれに怒りつつも感銘を得た龍が作ったもの。魂の認識を欺き、仙力や魔術による攻撃を別次元の鏡像に逸らしつつ、呪いをもって反撃する力を持つ。
これも使用コストは決して軽くないのに『不滅』と併用するなど、やはり用心深いにもほどがあろう。
まあ実際そのおかげでピンピンしているのだから、その用心は先方にとっては正しかったということか。こちらにとっては面倒だが。
だが、あの指輪も【天罰】相手では無事に済むまい。王器から上の装備は『不滅』でも修復できない。王器は砕けてもそのうち自己再生するはずだが、当分の間は使い物にならないはず。畳みかけるなら今だが……。
「こちらの準備が足りないですわ」
あの少年の霊威が完成していれば勝機はあったかもしれないが、現状では厳しい。ルミナスのヘマがなくともまだ届かなかっただろう。そもそもだ、現段階で奴が前線に出てくるのがおかしい。
傲慢か。いやこれだけ用心しているなら傲慢とはいえまい。おのれ。
「例の指輪かー、それと『不滅』? あー、あのライガが使ってた巻き戻すやつね、ぜいたくー! でも、それにしても効いてなさすぎない? ケツに刺さってそこから体内にトゲトゲ走って爆裂して背中吹っ飛んだよね? 凝核もだいたいトゲトゲで刺したはずだけど。そのためにわざわざゲイボルグにしたのに」
魔槍ゲイボルグを選択したのも指輪対策だ。この槍の凶悪なところは、投射時は一本の槍でありながら多数の礫でもあるところで、一種の飽和攻撃を引き起こす。しかも血返しの呪詛も道具には効かない。
それどころか、槍自身に即死の呪詛が追加効果でついていて、体内でそれを込めた枝が分裂して爆裂する。一瞬で何十回も判定が発生するため、即死呪詛防御をかけていてなお飽和してしまうという悪夢のような槍だ。多数凝核がある相手にもそれなりに効くはずだったのだが。
「所詮あの肉体自体は化身ですし、よしんば本体だとして竜王が体が潰れた程度で死ぬはずがないでしょう。しかも幻魔王となれば凝核も実体化しているものだけではないですし。そもそも星幽サイドが多層構造で、そっちが本命ですよ、よく見なさい」
「えー、マジ!? そっかー幻魔だからそっちも多層だった! うわ? 星幽体のほうが実体より頑丈そうやん! するとゲイボルグ単発じゃ火力不足かー、【拒絶】抜くだけで半分使っちゃうし。かといって複数召喚もつまんないしー、よーしルミちゃん一つ、ぐぼあっ!?」
「なに光翼天弓なんて再現してるんですか、やはりアホですか! 今『梵天神箭』なんてものをぶっ放したらあの子らまで死にますよ」
「彼らは犠牲になるのだ、犠牲の犠牲にな、ぐへっ!?」
「やっぱりこのアホは西に置いてくるべきでしたわ。それにそれで仕留められるようなら苦労はしません。その系統ならせめて星幽次元まで滅ぼす『遍悶信箭』や『黒天滅箭』あたりが必要です。今のあなたには再現不可でしょう? なので必要なのは神器・王器よりも機械兵器です」
「陛下、あちらに何かがいます!」
『そちらか』
「ほら、そんなピカピカした弓なんて呼ぶから向こうに見つけられたじゃないですか」
邪神は呟く。
『見つけ、守り、貫き、溶かせ』
『承知』
『観察』
『把握』
『実行』
『我等、闇をみはるもの』
『我等、闇をまとうもの』
『我等、闇をうがつもの』
『我等、闇にとかすもの』
邪神は真珠のような首飾りをつけていた。その中で他より大きい四つの珠が黒くなり、首飾りから離れて浮き上がる。
邪神の周辺を四つの珠が周り、潰れ、変じる。そこから凄まじい数の何かが呼び出された。
……邪神が使った構成は、人間が精霊術と呼ぶ術式に近かった。それらは七つの色に象徴され、それぞれ得意分野に特化している。
赤は火、破壊、振動の力。
青は水、流体、操作の力
黄は土、物質、存在の力
緑は木、連鎖、生命の力
空は風、転換、変化の力
白は光、電磁、時空の力
黒は闇、虚無、精神の力
これらの色属性は太古の龍が精霊術のために定めた分類であり、面倒なことに他の魔術や仙力などの属性……例えば地水火風の元素属性や、陰陽五行などとは異なっている。
まあそれはよい、それらは所詮便宜上のものだ。問題は精霊術の色属性の場合は、ある色を選ぶと他色属性や、他の魔術が使えない、という点だ。
ただ実のところここは少し誤解がある。
人間がそう思っているのは、単に人間の個体レベルの素質では、選んだ色属性以外に設定されたマイナス補正が大きすぎて使えないというだけの話だ。真竜や竜王ほどの素質があれば、他色の術や他の魔術も行使可能である。
そう設定されているのは、かつて竜人の社会において、精霊による文明の高度化、そして濫用の果ての世界大戦と文明崩壊があったため。世界を再建するにあたり、当時の代の龍が精霊術に制限をかけたのだ。
人間がこの星にやってきた頃、そして現在の南方大陸の竜人たちの社会が比較的原始的なのは、そうした太古の戦禍による種々の制限のせいで、文明の進歩が頭打ちになっていたためである。
もっとも、これは数十万年の寿命持つ竜王ですら何度も代替わりするほどの昔に起こったこと。今の竜人たちももはや理由までは伝えておらず、まして人間らが知る由もなかった。
そして珠から現れたのは、闇。
十の闇の瞳、百を超える闇の穴、千に届く夜鬼、万を数える闇の礫。
常人の目では中位以下の精霊であるそれらを認識することはできない。だがそれでもこれほどの数と密度になれば、何かが在る気配は素質なき者にも分かるだろう。定命の者には本能的恐怖と畏怖を呼び起こす、何かが。
闇精霊は主に非物質、非在、心理に関する事象を得意とする。対象を吸収する、溶かす、分解する、希薄化する、壊す、停止させる、眠らせる、封印するといったことのほか、精神操作に長けている。
今出現した闇の群れは、人間でいえばそれだけで万を超える精霊使いが同じ意思のもと動くようなもの。その打撃力は、帝国三垣魔術師団を全て束ねたものを凌駕する。
精霊術は道具などで増幅できない、残酷なまでに、術者の素質を露わにする手法。
結局のところジュゲア達、帝国の一般的魔術師が精霊術を軽視し嫌うのは、彼らが持たざる者であるからに過ぎない。彼らの素質ではあるべき所に届かないため、分からないのだ。
だが持てる者の放つ精霊術は、道具も呪文もなく、周囲の自然を支配し、塗り替える。
例えば今この空間では、もはや持たざる者の魔術は起動自体すらできまい。ジュゲア達の拠り所であった破幻槍など、存在の維持さえできないだろう。
幸か不幸か、導師自身はそれを見ること亡くなり、未だ【壊伝】の効果に苦しむ部下たちもそれを知ることはなかった。
「おっ? 何あの真っ黒くろすけの群れ」
「黒竜精霊機動師団ですね。黒の王に従う終末の軍勢、正直結構手強いです。あなたが先日あてつけで呼び出したドローン師団、あれのオリジナルは、六千年前にこいつらに一方的に壊滅させられましたよ。……仕方ない、こちらも札を一つ切りますか」
緑の騎士は右腕に嵌めていた腕輪を外す。
奇妙な緑に輝く文字列が彼女の右腕に浮かび、そのままぐるぐると回転を始める。
あの精霊機動師団だけで帝国を半壊させえる戦力だ。
まだだ。まだ早すぎる。少年らを救う必要もある。
勝てるかといえば、なかなか厳しい。
そもそも仮に勝ったとしても、彼女らでは幻魔王を倒す意味がない。ならばいかにするか。とりあえずこの精霊達は邪魔だ。
「──護法騎士第四位【神樹】のグリューネ・マインシュタールが問う」
相手が軍勢であるなら、こちらも軍勢を用意するまで。
「──神なる呪は此処に。神なる威は其処に。神なる罰は彼処に。ならば神よ何処にありや?」
──古き龍の使徒たる黒の王よ。
「──然り、我が魂にこそ神は宿らん。『神咒』」
──新しき守護者の使徒が、これより貴殿に馳走を奉ろう。存分に召し上がられよ。
作中の単語についての説明
今回は多め
ゲイボルグ(地王器)
ゲイボルガ、ガエボルガとも。ケルトの英雄クー・フーリンの武装、使ったら相手は死ぬ的な切り札。原典の伝承群では器用に足の指で挟んで放つ下段攻撃だとか、蹴って投擲するとか、刺さった相手の体内で爆裂して引き裂くなどの描写もある。
なお、原典では心臓より尻穴に刺さる描写のほうが多い。
……うん、下からだと心臓よりそこに当てやすいし、ソコは鍛えにくいからね、仕方ないね。そんなことしりとうなかった。
その逸話を再現したこの世界におけるゲイボルグは主に相手に刺さって体内で爆裂する爆殺兵器となっている。どこに刺さっているのかって? はい、ソコですが何か。
今回のものはルミナスの【想起】による模造品。本物は南海の島国ヴァンドールの国宝であり、カテゴリーは王器ながらも、もっとも神器に近いとされる逸品である。しかしかの国の民は殆どが魔力を持たない蛮族で、槍を起動し正式契約できたものは歴史上で片手の指で足りるほど。
ここ百年ほどでは唯一起動できた王女が昨年ラグナディアに嫁いでしまったので、今は契約者不在。宝の持ち腐れともいう。
ルミナスの魔力は少し特殊で通常の魔術に使用しようとすると問題があるが、王器から上の魔導具に込めるぶんには問題ない。似た体質の者が他にもいる。
イレイズ(人名)
ファスファラス護法騎士の一人で、闇や影に関するスペシャリスト。実体を持たない亡霊の騎士であり、霊輪が開いていない者には見えない。
エルシィ(人名)
ファスファラス護法騎士の一人でリュースの妻。ファスファラスでもっとも魔術に優れており、リディアの師匠の一人。というかリディアの先祖。
ライガ(人名)
大陸西部で信仰されているグレオ聖教、その800年の歴史において最強とされた聖騎士で数百年前の人物。破竜騎士とも呼ばれる。
その実態は自身に『不滅』相当の術式をかけて、それはまさに鉄塊だった的な大剣を手に単身で突撃する脳まで筋肉のベルセルク。人間とは思えないほど莫大な魔力を持ちながら自分の体外に魔力を行使できないという特異体質のためそんな戦法をとるようになった。
人間のはずなのに魔人の護法騎士と渡りあえる戦闘力を持ち、大陸に残っていた最後の真竜すら討伐した天災、いや天才だったという。
光翼天弓 サルンガ(地神器)
インド神話の英雄ラーマが用いたヴィシュヌ神の弓。鳥の両翼のような形をしており、ラーマはこれに光り輝く太陽の光と炎で出来た、山二つほどの質量を持つ矢を用いてブラフマーストラを放ち魔王ラーヴァナを倒したという。
これもルミナスが取り出したのは【想起】による模造品。本物は北方ラベンドラ王国の国宝であるが、こちらも契約者不在である。
起動に莫大な霊力と魔力が必要な地神器で、ラベンドラ五百年の歴史上、唯一使えた建国王亡き後は誰もひけたことのない飾りの弓となっている。やはり宝の持ち腐れ。
そういえば『紅刃』フォンの赤霄剣の本物(皇弟マオシンが持ってたやつ)やアスクレーピオスの本物も宝の持ち腐れ状態であった。
うわっ……この世界、宝の持ち腐れ多すぎ……?
梵天神箭 ブラフマーストラ
梵天の力を借りて放つ必殺の矢。インド神話の英雄はだいたい使える。
威力調整は結構自在らしいが、基本的には大量破壊兵器である。ラーマの場合、ラーヴァナの住む島に向かうためにブラフマーストラで海を蒸発させようとしたりしている。こんな発想の持ち主が理想の聖王扱いなのだからインド神話怖い。やはり力は全てを解決するのか。
この世界におけるブラフマーストラは、サルンガなどのインド神話系神器の技として登録されており、威力可変で必中の大規模破壊技。最大威力はTNT換算で百kt程度、だいたい長崎型原爆数個ぶんレベルともいう。そんなもんをぶっぱしようとしたルミナスはあたまがおかしい。
遍悶信箭 ヴァイシュナヴァーナストラ
遍悶神を信ずる者、即ちヴァイシュナヴァの矢。いかなる防御も貫く貫通特性があるという。ただしヴィシュヌ神とその化身達にだけは効かない。マハーバーラタではアルジュナがこれの標的になったが、クリシュナ(=ヴィシュヌ神の化身)が自分の体でブロックしたのでアルジュナは無事だった。反則やろそれ。
言わばどこぞの赤眼の魔王が竜破斬の前に立ちはだかったようなもの。クリシュナさんあれが効かないなんて凄いですね。それほどでもない。
この世界ではある神器の技として再現されており、虚無属性を持っていて物的、霊的問わずあらゆる防御(ただしヴィシュヌ系神器によるものを除く)を貫通する。単に設定した威力以上の生命力がないと魂も残さず滅びるというシンプルかつ明快な技。
前作「死せる令嬢と二輪の花」でラスボスである魔神相手に使用されたが、当時の魔神の生命力が莫大で、相手の体内で大半が消えたため大きな破壊にならなかった。ただ、あの時の出力の場合、もし撃ち込んだ相手が今回の幻魔王クラスだったとしたら、オーバーキルのうえ少なくとも周辺国は地図から消えて海となっただろう。制御された巨大隕石衝突のようなものなので。
なお発動位置周辺は、余波のため魔神消滅後20年を過ぎてもぺんぺん草も生えない不毛の地のままである。
黒天滅箭 パーシュパタアストラ
大黒たる破壊神の矢。世界の終末に使われるとされる。当たれば相手は死ぬ。ついでに星は壊れる。
この世界ではある界神器の最終奥義として登録されているが、使用されたことはない。出力は割と任意に操作できるが制約が設けられており、最大出力でも太陽一つが消滅する程度にとどまる。せいぜい大地がたちまち凍りつき、花は枯れ、鳥は空を捨て、人はほほえみなくすだけ。




