4.わがまま宝剣フィーサブロス
倉庫ばかりが並ぶ港町。
――とはいえ行き交う人の姿が多く見られるので、おれとルティは念には念を入れて人目のつかない場所に移動した。
「おぉぉ～！ アックさん、おっきな海が広がってますよ！！」
「そうか。ルティから見れば、ここからの景色は全部感動するものなわけか」
「それはそうですよ！ わたしが見て来た景色って、燃え盛る火山ばかりだったんですから！」
レア確定ガチャで引いたユニークレアな彼女はおれと同じ人間だ。そうとしか見えないけど。火山渓谷のロキュンテといえば、ドワーフがいる場所として名高い。
そこから来たことを考えると彼女の外見や性格の特徴はどう見ても――。
ドワーフ族は力が強くそれでいて錬金術も得意だ。となれば、間違いなく彼女は一致する。岩を軽々と持ち上げワイバーンを投げ飛ばしたり、回復水に力を増幅させる効果を含ませられたり。きっとドワーフとしてのスキルがあるからに違いない。
だが回復魔道士らしさは今のところ感じられないし、魔法は苦手なのかも。
「そろそろガチャを始めようかな」
「そうだ、アックさん！ 魔石のガチャってたくさん出たりするんですか？」
「うん？ そういえば、レア確定になってから出てないかな。それがどうかした？」
「わ、わたしも武器が欲しいなぁ～なんて……」
そう言いながらルティは体を左右に揺らしている。
ルティと一緒に出たものといえば重そうな樽のみだ。彼女の持ち物かもしれないとはいえ、これもガチャで一緒に引いたうちに入るはず。
「そういうことなら、複数の武器に期待するしかないね」
「はい！」
期待に満ち溢れたルティがおれを見つめている。それに応えられるように腰袋から魔石を取り出し、手の平に魔石を置いて握りしめる。後はガチャを引くだけだ。
「大鎌かな～？ 破砕棒でもいいな。それともお揃いの剣！？」
「はは、何が出るかな」
【SSSレア わがままのフィーサ Lv.900】 【SSレア 黒鉄剣 Lv.960】
――ん？
二本の武器が出たな。
SSSレアってことはとんでもない剣なのでは？
ルティが希望していたお揃いの武器では無いけど、どっちかをあてがうか。
「どっちも剣だったな。どっちの剣にする？」
「――コホン。聞くまでもありません！ アックさんに相応しいのは、黒く照らす黒鉄素材の黒鉄剣です！！」
いや、おれのじゃないんだけど。ルティに選んでもらおうとしたのに、おれに似合いそうな剣を選ぶなんて控え目だな。それなら別な方をルティに勧めておこう。
「もう一本の剣も銀色の輝きが綺麗だから、そっちの方こそ君に相応しいんじゃないかな？」
「いーえ！ こんなのは見せかけですよ。ミスリルは確かに鋼よりも硬いですけど、それだけであって何の面白味もありませんよ！」
「それなら君はミスリルの剣を。おれはこっちの黒鉄の剣を使わせてもらうよ」
地面に横並びで置いた二本の剣のうち、ルティは銀色に輝く剣を選んだ。
彼女はそれを拾って手にしようとしたが、
「あいたっっ！？」
「――ん？ ルティ、どうかした？」
「な、何でもないです……」
足下にある剣を拾うだけのはず。それなのにルティは剣を拾うのに苦戦している。立った姿勢から少し屈むことになるし、バランスでも崩しただろうか。
もう一度拾うと言って彼女はミスリルの剣に手を伸ばすのだが、
「きゃぁっ！ 何をするんですかっ！！」
「ルティ？」
「アックさん……おかしいんですよ。この銀の剣がですね、わたしに噛みついて来るんですよぉ」
「――ハッ？ 噛みつく？」
「そうなんですよぉ。拾わせてもくれなくて、わたし何かしたんでしょうか」
おれが手にした黒鉄の剣の方に異常は見られない。多少の重みが感じられるだけですぐに使いこなせそうだ。しかしルティが選んだミスリルの剣は地面に張り付いたまま動きたくない意思でもあるかのように、手にしようとするルティに何らかの痛みを与えている感じに思える。
「……黒鉄剣を持っててくれないか？ ミスリルの剣はおれが拾うから」
「うぅぅ～レベルの低いのをアックさんに持たせるなんて、ごめんなさいです」
「気にしないよ。黒鉄剣の重さを考えれば、ルティの方が使いこなせそうだしね」
「はふぅぅ……」
何とも愉快な子だ。ユニークレアは伊達じゃない。それにしても、おれが拾おうとするとおれに対しても噛みついたりするんだろうか。
拾ってみるしかないな。
「マスターイスティさまっ！！ ようやく拾ってくれるんだぁ！」
「――いっ！？」
銀に輝くミスリルの剣を拾おうとした。しかしおれの手にあったのは小さな女の子の手。その手の感触は人間のそれではなく、温かさを感じない冷たい剣そのものだった。
力強く握られた勢いで海に転落寸前。しかも思いきり抱きしめてしまった。
「ああーー！！ アックさん、だ、大丈夫ですか！？」
ルティを拒んだミスリルの剣。その正体は意思を持つミスリルの剣では無く、銀色に輝く長い髪をした小さな女の子だった。
「えーと？」
「イスティさま。わらわのマスター！ 末永く宝剣フィーサブロスを使ってねっ！！」
「SSSレアのミスリル宝剣？ ――そういうことか！」
「フィーサと呼んでいいからね、マスター！」
フィーサブロスで、フィーサか。その姿に驚いたけど、ガチャでルティを出現させてるし不思議なことでもないよな。
「女の子！？ むぅぅぅ……アックさんにベタベタしてるなんて～！！」
