九十九話
テイルside
「ゲオルクの仕業かもしれないって──どういう事? ヘルメス」
ゲオルクとはヘルメスに並ぶもう一人の不死者の王である。かつてノーストラダムという街で住人達の死体を操り僕等を亡き者にしようと襲いかかって来た。ヘルメスの協力もあり撃退する事には成功したが、倒せてはいない。
その後の動向は知れていなかったのだが、それがここに来てハムニキリ国という遠く離れた地で再びその名を聞く事になろうとは思わなかった。
「単なる盗賊、盗掘者なら死体は消えたりしません。死体まで持ち去ったのは配下として使う為じゃないでしょうか。それに、貴金属や装飾品は錬金術の材料には持ってこいですし」
絶対、とまでは言えませんけどね……と顎先に指を入れ当ててそう言う金髪の美女には妖艶な色気が漂っており、とても正体は骸骨とは思えない。魔法によって肉付いた姿になっているとはいえ、その姿は無から生み出したものではなく、生前の姿を再現している。
彼女のペットであり長年を共にした盟友でもある骸骨犬アイザックがク~ンと鼻を鳴らして何かを彼女に訴えかけているようだ。
「この子が表に出てくるとは珍しいですね。どうやらアイザックもゲオルクの関与を疑っているみたいです」
「なるほどねぇ、なら、確かめてみようか?」
ふんふんと相槌を打ちながらプリメインさんがそう言うと、
「確かめるって、どうやってだがや?」
仲の良いヘルメスが表に出てきたので一緒に釣られて出てきたのか、普段はヘルメスと共にチィの宝玉の中に篭っているクアンゼが尋ねた。
「盗掘者が次に狙いを付けそうな場所には目を付けてある」
そう言ってプリメインさんはハムニキリ国内の地図を広げると、その中心地を指差した。
「霊峰クムヤカムニ。これはハムニキリ国の発祥の地ともなった、先祖信仰の聖域さ。ここには、王家の墓がその魂と共に祀られているんだ」
「盗掘者が死体と財宝を狙うならもってこいの場所という事ですね……!」
「それにしても、まあ……罰当たりなヤツねぇこの犯人って」
プリメインさんの説明に感銘を受けたかのように今度は水の勇者シズクがふんふんと相槌を打って同意を示す。その横では、聖女であり僕の同郷の徒でもあるノエルが呆れたような表情でそう言った。
「死者の魂を汚すとは、神をも恐れぬ邪悪! 吾輩らが天に代わって裁きを下さねばなりますまい!」
シズクの肩に乗った分身体のクラーケンが鼻息荒く声を上げたが、『邪悪の化身のようなお前が言うな』と誰もが思い返事をしなかったという。
「フム、話は纏まったようじゃのう。では、ひとっ飛びと行くかの」
シェイランが再び翼を大きく広げ、僕らは大して時間もかからずハムニキリ国の首都エムラムダまで接近していた。
「おいっ、あの巨大な影はなんだっ」
「竜だっ! 巨大な竜だ!」
「上にも大勢何か乗ってるぞ!」
兵士達が上空の僕等を見上げて大騒ぎしているのが見える。冷や汗をかきながら僕はプリメインさんに問う。
「ねえ、プリメインさん……これまずいんじゃあ」
「いや、大丈夫。どうやらヘルメスの予想が当たっていたみたいだよ」
「え?」
プリメインさんが指先をクンヤカムニ山の方へ向けたので目線をそちらに移してみると、何やらやたら禍々しい暗雲と共に邪悪な影が幾つも霊峰の各地から沸き立つのが見て取れた。
「この魔力……間違いありませんね。ゲオルクです」
「よし、このまま首都を突っ切ってあの暗雲の所まで突っ込もうか」
「任せるのじゃ」
プリメインさんの指示通り、翼で風を切りながらシェイランはその巨体を靡かせ雲の元まで迫っていく。僕達の接近に気付いたのか、雲の周りに魔法のものと思われる雷がバリバリッとけたたましい音を立ててまとわりつき始めた。
「おっとっと……! それっ!」
急ブレーキをかけ空中で静止したシェイランは、今までの運動エネルギーを全て風の魔力に変え、竜巻と化して暗雲と衝突させた。
バヂヂッと衝撃と電気を撒き散らし、雲が風によって吹き散らされていく。
そこには、空中に浮遊したままこちらを凄まじい憎悪の表情で睨む不死王ゲオルクの姿があった。
「邪魔者が現れたと思ったら、貴様らか……!!」
「ゲオルク! 死者を弄ぶような真似をするのはお止めなさい!」
「不死者の王である貴様が言えた義理か! 過程や目的はどうあれ、貴様は俺と同じ理の逸脱者だろうが!」
久方ぶりの再会となる両者は会うなり早速舌戦を始めた。
「ええ、分かっていますよ。私も貴方と同じ穴の狢……!」
「なら……!」
「だからこそ!」
ヘルメスの伸ばした腕から幾つもの無数の骨が継ぎ足し伸ばされ、それは一つの塊となって銃弾のように跳ねた。
「同胞の犯した罪は私が止める! 償う!」
「ワオオオオオオォーーーーン!!」
それはやがて骸骨犬の姿となりゲオルクの腕に到達すると鋭い牙と逞しい四肢を持って錐揉み状に回転しながら削ぎ取っていった。
「ぐうっ……! このっ……クソ犬があぁっ!!」
ゲオルクは吹き散らされた雲を砕かれた腕に集めると、瞬時に腕を再生しながら先端の指先から稲妻を放つ。一方骸骨犬は引きちぎったゲオルクの骨を自らの身体に取り込み頭を膨張させていく。
「「「グルルルル………ウオオ~ン!!!」」」
やがて膨張した頭は三つに割れ、骸骨犬は三つ首形態となった。三つの首から炎と氷と雷、三種のブレスが放たれゲオルクの放った稲妻と反発し衝突する。
「あの雨雲……闇の衣を発展させたものですね。攻撃防御のみならず回復まで備えるとは」
「クッ……体内に使い魔を仕込むだけではなく放ち進化させるとは……」
やる!
両者の互いを認める呟きがここまで聞こえてくるようだった。相反する立場とはいえかつての同僚、同胞である。認めざるを得ないものがあったようだ。
ゲオルクはチラリ、と二人の勝負を見守っていた僕等を邪魔に感じたのか、眼下にある無数の邪悪な影を仕向けてきた。
闇の魔力を纏いながら前進してくるそれは、かつては墓地に弔われ静かに眠っていたであろう歴代の皇族達の遺体であった。
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