九十七話
2023 8/7
神聖魔帝国→神聖魔共和国に名称を変更しました。
アノンside
俺はミング族の族長の娘である女戦士エルダの案内により霊峰クムヤカムニの麓にある首都エムラムダへと向かっていた。
ジャングルの端にあるミング族の集落は辺境と言っていい位置にあり、ハムニキリ国の中心に位置するエムラムダに辿り着くにはそれなりの旅路を要した。が、長い奴隷生活に慣れたこの身は水と食料さえあれば何の不便もなく熱帯雨林の森を耐え駆け抜けてみせた。
エルダも同様で、伊達に倒れていた俺を見つけて助け出した訳では無かった。
ただ、道中立ち寄った様々な集落の中で、何処に行ってもついて回る奇妙な話題があった。
話題と言うか、事件だ。
「どうも最近死者の墓を荒らす不届き者が出没しておるようだ」
と言ったのは確か二つ目に立ち寄った集落の長だったか。
ハムニキリ国には大小を問わず様々な種族、集落が混在しており部族ごとの特色や決まり事、習慣など細かい所をあげていくとキリがないくらいに細分化している部分がある。
が、しかし祖先の霊を信仰の対象にするというのはハムニキリ国内ではどこにも通用する共通のルールでありハムニキリという国を一つに纏める重要な要素でもあった。
そんな土地柄の場所でわざわざ死者の寝床を掘り起こす不届き者がいるという。ハムニキリ国は聖光国とは違って死者を火葬せず土葬する習慣になっている。墓荒らしからすれば生前の財宝や装飾品を横取るには持ってこいなのだろうが、如何せん相手が悪い。
見つかって捕まったら即首を跳ねられ骸を晒されるだろう。
ハイリスクハイリターンというやつだ。見返りは大きい事は分かっているが住民達の報復を恐れて犯罪者でさえも手を出さないというのがこれまでの常識だと思っていたが。
最も俺の言う常識というのはあくまで聖光国でのものでありハムニキリ国内ではまた異なる事情があるのかもしれないが……。
「いや、ハムニキリ国でもそんな馬鹿な真似をする奴はいない。いなかった。少なくとも、今までは」
思考が口から漏れていたのか、エルダが俺の独り言に答える形で教えてくれた。
エルダの言を裏付けるように墓荒らしの話題になると集落じゅうの者達が口々にいきり立ち怨嗟の声をあげていた。
犯人が捕まった時の事を思うと心底恐ろしい。どう考えても真っ当な死に方は出来まい。もっとも、犯人の方はそんな事歯牙にもかけていないのかもしれないが。
とまあ、道中そんな事がありながらエムラムダへと向かったのだった。
テイルside
「墓荒らし……ですか?」
「うむ。腹立たしい事に国中のあちこちで盗難騒ぎが起きていてな。しかも犯人は貴金属や宝石といった金目の物だけではなく、遺体そのものも持ち去っているようじゃ」
戦闘奴隷アノンが南の国ハムニキリ国へと逃亡してから遅れて10日ほど、僕らはプリメインさんの手引きでハムニキリ国内のとある集落を尋ねて来ていた。そこで族長から件の話を聞いたのである。
フンフンと何処か楽しそうに聞いた情報をメモに書き留めるプリメインさんとは対照的に、不死王のヘルメスはどこか厳しい表情をしていた。
死者を司る王『リッチー』である彼女には今回の件で何か思う事があるのだろうか。
村人達から話を一通り聞くと僕らは足早に集落を後にした。そうして次に近い位置にある集落を地図に照らして尋ねて回っていた。ジャングルの入り口から時計回りに円を描くように、わざわざ遠回りしながらの旅路だった。
「プリメイン殿。どうしてわざわざこのような回り道をするのでありますか? 真っ直ぐ行けば簡単に追い付けるでありましょうに」
僕と同様の疑問を感じたレンカがいい加減に耐えられなくなったのだろう。疑問をプリメインさんにぶつけていた。
「真っ直ぐ追いかけたからといって素直に捕まってくれるとは限らないさ。途中で隠れたり引き返したり、変装したり匿って貰ったり……見逃す可能性はあげるとキリがない」
「見逃す可能性を無くす為の隷属の首輪でありましょう?」
「その首輪だって外されている可能性もある」
「そうならないように一刻も早く追いかけるべきでは……」
最もな言葉だが、しかしプリメインさんは指を左右に振りチッチッチッ、と舌を鳴らした。
「ノンノンノン、レンカちゃん。一流の軍師は一つの策だけで動きはしないんだ。一つに見えてもそこには幾重にも意味が込められているのさ」
「はぁ……」
「もし追いかけた隷属の首輪が既に外され別の何者かに付け直された後だったら? 或いは途中で反応が無くなったらどうする? その時になってから考えても遅いんだ。事が起こる前にあらゆる可能性を模索して、起こりうる事象に対処出来るように動くのが大事なのさ。急がば回れって言うだろう? 急いては事を仕損じる、とも言う」
プリメインさん曰く、わざわざ遠回りしてまでハムニキリ国内の集落を外から内へと回り込んでいったのは、セラフに集落の位置を全て覚えさせる為らしい。
「あ……もしかして、転移魔法で?」
「そうさ。予め国中の要所をマーキングしておけば、何処へ逃げても袋のネズミだ。何か予想不能の事態が起きた時も簡単に対象出来る」
そうだ。ここは聖光国内ではない。敵国と言っていい場所に今僕達は潜り込んでいるのだ。用心が過ぎるに越した事はないという事だ。
「なんたってこっちには天下の竜王様がいるんだ。人目を憚らなければ移動自体は一瞬で済む。なら、後の事も考えて色々手を打っておかないとね」
プリメインさんが言った通り、ハムニキリ国内に入り聖光国の影響が少ない土地に入ってからは存分にシェイランの翼を借りさせて貰っている。冒険者ギルドも、ハムニキリ国周辺へはあまり手を広げてはいないのだ。
プリメインさんは口には出さなかったが、多分この人は神聖魔共和国と周辺諸国が戦争になった時の事まで考えて動いていると思う。セラフを仲間に加えている事が絶対条件になるが、仮にハムニキリ国と敵対関係になったとしてもセラフの転移魔法は充分過ぎる程の切り札になる。
「……皆さん、ちょっと良いですか?」
話題を変えるかのように、一人難しい顔をして考え事に耽っていたヘルメスが口を開いた。
「ひょっとしたら今回のこの墓荒らし事件……ゲオルクが関与しているかもしれません」
久しぶりの更新です。お待たせしてすみませんm(_ _)m




