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九十二話

「私が……アノン君の探索に……?」


突然のプリメインさんの提案にセラフは目を丸くする。

プリメインさんは一体何を考えているのだろう。一級監査官であるセラフを一時的にでもパーティーに加える事がどれだけ危険な事なのか分かっていない筈はないのに。皆も困惑を隠せない様子だ。


僕らの心配をよそにプリメインさんは薄い笑みを浮かべながら勧誘を続けていく。


「君としても、引渡しした直後に失踪されたのではあまり心証は良くないだろう? 何故彼がいきなり逃げたのか気にはならないかい?」

「それは~……戦闘奴隷なら逃げ出したいと思うのが普通なのでは……?」

「逃げ出すならチャンスは幾らでもあった筈だろう? 私達に引き渡される前から、マグナス達のパーティーに居た時から彼には逃げる好機は幾らでもあった筈だ。しかし彼は逃げ出す所か戦闘奴隷として扱われる事にもまるで抵抗のない様子だった。まるで、自分の命などどうなっても構わない、といわんばかりに」


確かに、今までの彼はそうだった。むしろ遠回しに自分の死を望んですらいそうな雰囲気だった。それは、セラフも十分に知っている。


「それが突然の脱走だ。彼が心変わりした理由を知りたくはないかい?」


言いたい事は分かるが、それはかなり唐突な申し出に思えた。アノンの件は確かに好奇心をそそられる事かも知れないが、それだけで仕事一筋のセラフが探索に加わるとはとても思えない。


「気になるのは確かですが~……仕事を放り出してまで首を突っ込もうとは思いませんよ~」


案の定、セラフは断りをいれようとしてきた。

しかし、この後のプリメインさんの一言がセラフの動きを止めた。


「君は仕事熱心で有名だからね。しかし、その仕事熱心にも理由があるのでは無いのかい? 例えば、どうしても成し遂げたい事があって、その為にも冒険者ギルドに貢献している……とか」

「………………!!」


セラフの顔色が変わった。同時に、警戒の色が顔に浮かぶ。プリメインさんは一体何を掴んでいるのだろうか?


「……貴女はどこまで私の事を掴んでいるのです?」

「さて……どうだろうね。ただ、君がもしも、『捜し物』をしているのなら、ハム二キリ国は是非とも行ってみたい場所の1つなのではないのかな?」

「………………」

「君が一級監査官という職務について世界中を飛び回っているのが、その捜し物の為だというのなら、聖光国スピルネルの影響の及ばないハム二キリ国領内は治外法権、手を出せない場所だろう。そこに、君の探しているモノがあるかも知れないね?」

「……………………」


セラフは変わらず沈黙を貫いている。が、その表情は明らかに揺れ動いていた。捜し物をしていてその為に世界中を飛び回る一級監査官という仕事をこなしているとプリメインさんは言ったが、本当の事なのだろうか?


分からないが、黙ってセラフの返事を見守るしかない。


「……仮に、私がその『捜し物』の為にハム二キリ国探索に加わったとして、貴女はギルドにその事実を伝えるおつもりですか?」

「そうだね……交換条件という事になるかな。臥龍鳳雛の実態について君が黙っていてくれるのなら」


セラフにとってはハム二キリ国探索に加わるという事をギルドに知られるのは都合の悪い事になるのだろうか? 交換条件という事は、それを黙っている代わりに僕らの事も同じように黙っていろという事になるが……


確かに今の僕らのパーティーの現状をギルドへ知られるのはまずい。それを黙って貰える上で更に探索に加わって貰えるのなら僕らにとってはこれ以上の事は無いが、セラフにとってはどうなのだろうか?


「ギルドに知られては不味い何かが臥龍鳳雛にはあると……?」

「さて、それは探索に加わってからのお楽しみというヤツだよ」


探索に加わらないのなら教えるつもりは無い、とプリメインさんが言外に告げると、しばしセラフは黙り込み考える。今セラフの中では天秤が揺れているのだろう。ハム二キリ国探索と何を天秤にかけているのかは分からないが……。


「少し、考えさせて下さい。私としても簡単に決められる事ではありませんので……」


自分の言葉を自らがゆっくりと噛んで含むようにセラフは慎重にそう呟いた。対するプリメインさんは余裕綽々と言った表情で構わないよ、と答えた。


そうして転移魔法で姿を消した彼を見送った後、勝利宣言でもするかのようにプリメインさんは僕らに対して声をかけた。


「ああやって即答を避けて案件を持ち帰る事自体、揺れている証拠さ。そう時間もかからず彼は落ちると見たね」

「そういうものなのかな……?」


僕はプリメインさんのように交渉術に長けている訳でもないので分からないが、彼女がそういうのなら期待出来るのかも知れない。


「普段の彼を思い返してご覧よ。話し口調こそゆったりふんわりで何を考えているのか分からない所はあるけど、仕事に関しては実直で真面目、迅速に対応する男だ。普段の彼ならすぐに返答していると思わないかい?」


確かに言われてみると彼はどんな時でも持ち込まれた問題や案件に関してすぐに動いていた印象がある。いつも忙しくて世界中あっちこっちを回っている人だし時間をかけて検討というのは彼にしては珍しい対応だと思う。



「仕事に関してはクソ真面目な彼が自分の所属する冒険者ギルドと関連する事柄について即答を避けるなんてその時点でおかしいだろう?

つまり、私の申し出は彼にとってそれだけ無視できない重大な案件な訳さ」



勝ち誇ったかのようにそう告げるプリメインさんの言葉を裏付けるかのように、数日してセラフから了承の返答があったのだった。

2023 1/16加筆修正しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新、お疲れ様ですm(_ _)m プリメインさん、上手く交渉してるようですね(; ・`ω・´)
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