九十話
2023 8/7
フランベルグ帝国→フランベルグ帝魔国に変更しました。
アノンside
俺の名はアノン。正式名称はアノン・グラヴィス=フランベルグ。
かつて西ルフレ砂漠に存在していたフランベルグ帝魔国の王子だ。
いや、王子「だった」。
50年程前にフランベルグ帝国は滅ぼされている。聖光国スピルネルと北の大国ザカンドラの連合軍によって攻め込まれ、抵抗はしたもののあえなく滅ぼされてしまった。
人族の人族以外の種に対する差別意識は目に余るものがあった。我々魔族と僭称されるシェニグル族に始まり、獣人族等の亜人種、そして知識を持ち人間と交友関係を結んでいた魔獣達。人族にとってそれら全てが敵であり滅ぼすべき存在だったのだ。
元々フランベルグ帝国が建ちあがったのも、それら人族の横暴や差別から自分達の身を守る為だった。砂漠の蜃気楼のようにその存在は常に揺らめき、頼りない存在だった。
国内は大きく二つに分かれ、争いを嫌う穏健派と人間への敵愾心に燃える過激派とで対立しており結束が十分ではなかった。その脆弱性を敵に突かれた。
内部工作による反乱や陽動。世論を誘導しての国際社会での地位低下。中にも外にも敵だらけで、助けてくれる者もいない。信じられるのは己の力のみ。そんな状況でも自分達の強さに誇りを持っていた歴戦の勇士達は一歩も引かず最後まで戦い抜いた。
だが如何せん数が違いすぎた。元々魔族とは魔素に適合し生まれた人族の突然変異種。絶対数が少なく繁殖力も低かった。個々の力量や戦術が通用するのは、あくまでも双方の兵数に絶対的な差がない場合にのみの話なのだ。
数千のフランベルグ軍に対しての連合国軍およそ十万。誰がどう見ても勝ち目は無かった。
だからこそ穏健派は対話による和平や降伏も見据えた交渉も視野に入れ行動していた。しかし、過激派はあろう事か伝説上の存在である魔王の名を持ち出し当時の国王を魔王の生まれ変わりとして崇め奉ったのだ。
シェニグル族には信心深い者が多い。普段から虐げられ立場の低い彼らにとって縋り付ける神の存在は救いの船だった。獣人族は神ではないが、精霊や先祖の霊を祀り大切にする習慣がある。
つまり、冷静に考えれば狂気とも言える魔王信仰が蔓延る下地は十分に整っていたのだ。それに恐らくは連合国軍から送り込まれてきた工作員達の暗躍で更にそれは加速されていったのだと思う。内通者の存在も囁かれていた。
それでも、国王が……父上がそれを跳ね除けていれば開戦に振み切る事は無かった筈だ。しかし、父上は……いつの間にか俺の知る父上では無くなっていた。
狂王と化した国王に、付き従う兵達。彼等を尻目に、国王の懐刀と呼ばれた腹心は密かに俺達を外国へ逃がそうとしていた。
王子と王女。フランベルグ王家の血を継ぐこの兄妹さえ生き延びれば、再建は可能なのだと。自分に言い聞かせるかのように彼は俺達にそう言った。
しかし、それも敵には筒抜けだったらしい。連合国軍か、それとも過激派か、どちらかなのかは分からないが、逃げ出そうとした俺達の前には刺客が待ち構えていた。
妹は、俺を庇って死んだ。
妹は、俺なんかより余程価値のある存在だった。生き延びるべき存在だった。
何故なら彼女は王家の血を引いているだけではなく、世界に三人しか現れないという聖女の一人だったからだ。
月影の巫女。褐色の肌と黒色の髪を持つ異色の聖女。彼女は、我々人外種の希望だった。魔王と並ぶ信仰の柱だった。だからこそ、彼女の命は狙われた。
彼女さえ生き延びていれば、再建は可能だった。それを、こともあろうに兄である俺が潰した。
俺が死ぬべきだった。俺の方こそが妹を庇い凶刃に倒れるべきだったのだ。それなのに、妹の命を犠牲にしておめおめと逃げ延びてしまった。
「貴方まで死んだら、誰が王家を再建するのですか! 妹君の死を無駄にされるおつもりか!」
別れ際に、彼は俺にそう言った。その言葉が、俺を生に縛り付けてしまった。彼は最後まで諦めなかった。依然として追撃してくる刺客達を一手に引き受けて、俺を逃がした。
俺の命にそれだけの価値があったのか、今でも分からない。分からないが、今もこうして俺は生きている。
王家再興を果たす訳でもなく、目指す訳でもなく、戦闘奴隷にまで身を落として、未だ尚生き続けている。
そして俺は今、再び逃げている。
時間が経ち、風化して消えていった筈の過去が、フランベルグ王家の生き残りという事実が、俺を追いかけてきて。
堪らず俺は宿を飛び出したんだ。
アノンの独白(。-∀-)




