九話
ピピはお腹いっぱいになって満足そうだが、僕に虫を食うなと躾られていた事を思い出したのか気まずそうに鳴いた。
「ピピィ~ ピピピピイィ……」
ごめんね、お腹が空いててつい……といった所だろう。
「いいよ、ろくにご飯も食べさせてあげられてなかったからね。これからは虫の捕食解禁にしようか」
僕はピピの頭を撫でると、労るように優しく言った。
「ピピィ!?」
本当!? とピピが喜びの声を上げる。嬉しそうに飛び跳ねるピピを見ていると僕も嬉しくなってくる。
「ん?」
ピピを見ているうちに違和感に気が付いた。
「ピピ、お前……なんか大きくなってない?」
「ピピ?」
ピピはよく分かっていなさそうだったが、何だかピピの身体がひと回り大きくなったような気がする。
その時、僕の脳裏に天啓が走った。
「まさか、成長している……? 魔物を捕食する事で成長するのか?」
「ピピッ! ピピピィ!?」
ええっ! 本当!? とピピが驚く。今まで何をやっても成長してこなかったのはそれのせいだったのか……?
「いや、まだ確定じゃない。ピピ、もう一回蟻を見つけて捕食してみよう」
「ピピイ!!」
了解!! と元気に叫ぶピピを引き連れて、僕は見失ったレンカとブラッドアントの探索を始めた。
レンカは一人だから、単独行動をしている気配を探していけばいい。ついでに出会った蟻を1匹ずつ処理して捕食させて行く。群れのブラッドアントには絶対に接触しないように気を付けて進む。
やはり、僕の仮説は間違ってなかった。蟻を捕食する度に目に見えるレベルでピピの身体が大きくなっていくのだ。今までの行き詰まりを払拭するようにピピはどんどん成長していく。このペースなら成体になれるのもそう遠くない。
思わぬ嬉しい誤算に緊急事態だというのに顔が緩むのが抑えきれなかった。
そうしてしばらく探索していると、なんだか焦げ臭い匂いが漂ってくる。匂いの元を辿って見ると、そこにはブラッドアントの死骸があった。恐らくレンカが倒したのだろう。
レンカの渾名は焔の狼──炎魔法の使い手として有名だ。彼女はブラッドアントの血を出さずに倒す手段として炎で焼く事を考えたのだろう。適切な判断だ。ここまで黒焦げにされていては血など残ってはいないし、虫系の魔物には炎がよく効く。一対一の勝負ならブラッドアントに遅れを取る事はないだろう。
などと安堵したのも束の間、複数の生き物の交戦する気配が伝わってくる。
群れに囲まれたのか! 僕はピピの背中に乗ると、ポン、と叩いた。それを合図にピピは凄まじいスピードで複数の気配に近づいて行く。成長したお陰か以前とは比べ物にならない速さだった。
あっという間にレンカとブラッドアントの戦闘現場へ到着する。
「テイル様!?」
「ギイイイッ!!」
僕達の存在に気が付き目を丸くするレンカに、それを隙と捉えた蟻が背後から襲いかかった。
「レンカッ! 後ろだ!」
「大丈夫であります」
レンカは余裕の表情を浮かべ、後方を振り返る事無く手にした片刃剣を優雅に一閃する。
ゴオオオッと炎が燃えあがる音と共に襲いかかった蟻が斜めに両断される。
二つに別れた亡骸は燃やし尽くされ、仲間に共食いされる事も無い。残っていた蟻達も形勢の不利を悟ったのか、逃走を始めた。
「あっ、こら待てっ!」
レンカが慌てて剣を振りかざすがその位置では間に合わない。ここで逃がしたら今度はもっと多くの群れを引き連れてやってくる事は間違いない。絶対にここで逃す訳にはいかない。
「仕方ない。奥の手だ」
僕は呪文の詠唱を始める。
「炎の赤、風の緑、水の青、土の茶、光の黄、闇の黒、無の透明、混じりて虹の原泉と為せ
七色の光」
道具袋から取り出した各種の魔石を触媒に六種の魔力は融合、増幅され一筋の光の巨大な矢となって逃げ出した蟻達を消滅させた。
「これは、なんて凄まじい……」
跡形もなく無くなった蟻達を見てレンカが戦慄の声を上げる。
「僕が独自に開発した消滅魔法さ。全ての属性を均一に混ぜ合わせ各属性の相殺効果を増幅して放つ。当たったら骨も残らないよ」
「そんなとてつもない力があって、何故追放されたのですか……」
呆然とレンカが言う。
「うちのパーティーは火力だけなら過剰に余ってるから。そんな代償ありの力を使わなくても敵は倒せる、ってドヤ顔で言われたよ」
「代償って……? テ、テイル様!? 大丈夫ですか?」
僕の顔色を見たレンカが慌てて駆け寄ってくる。魔力欠乏症による貧血を起こしたのだ。七色の光は魔力の殆どと触媒として沢山の魔石を消耗する、正に最後の手段なのだ。
仲間を呼ばれたら僕達は全滅する。こうするしか無かったのだ。
「申し訳ありません。私が逃げ出したりしなければ……」
「いや、元はと言えば僕が君の勧誘を断ったからさ。ここで助けるくらいなら最初からパーティーを組んで進めば良かったんだ。……僕の事を気にして追いかけてきたんだろう?」
「はい……」
神妙な顔で俯くレンカ。自責の念に囚われているのだろう。けれど僕は彼女に自分を責めて欲しくはなかった。
「君がギルドで僕を助けてくれた事、本当は涙が出るくらい嬉しかった。僕を調査するくらいに、僕に憧れを持っていてくれたんだろう?」
「き、気付かれていたのですか……」
恥ずかしそうなレンカが顔を真っ赤に染める。普通に整った顔の女の子が顔を染めているととても色っぽい。
「まあ、僕に恩義を感じて憧れるような子は限られているから。凄腕の隠密を雇うだけの財力がある家で関わりがあるのはゼンランド家くらいしかなかったから」
「重ね重ね、本当に申し訳ないです……」
「謝らないで。君が居なかったら僕は今頃世捨て人にでもなって山奥に篭っていたに違いない。人間に絶望しないでいられたのは、君と出会えたからだよ。
さっきは断ってしまったけれど、今度はこちらからお願いします。僕とパーティーを組んで下さい。
もちろん、今回限りなんかじゃなくて、これからも」
「は、はい……///」
恥ずかしそうに目尻に涙を浮かべ喜びの表情を浮かべるレンカを見ていると、なんだか僕が彼女を口説いてるようだなと思った。
ピピの隠しスキル 捕食
レンカの隠しスキル ストーキング
テイルの隠しスキル 口説き




