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八十七話

ヤマタノオロチを退治しツクヨミの里を出発した僕らはクラーケンの根城の一つへと立ち寄りそこに貯蔵されていた莫大な量の金塊貴金属を手に入れた。


普通ならどうやってその大量の金を持ち帰るのかという話になるのだが、そこは毎度のチィの腹の宝玉の中にしまい込んで密輸するのだ。チィ様様である。とはいえ、宝玉の中に持ち込むだけでもかなりの重労働で兵隊蟻達の助力がなければ途方もない時間がかかっていた事だろう。


そうして金塊を移し終えた後じゃあ出島へ戻ろうと足を進めようとした僕達にクラーケンがヘイヘイヘーイ! と待ったをかけた。



「何かお忘れではありませぬか?」



そう、そもそも僕達はクラーケンと契約を交わす為に水の勇者であり海神の巫女でもあるシズクへ会いに来たのだ。


「でも、いいのかい? ヤマタノオロチは倒したしツクヨミの里は平和になったけど、ダゴンの脅威が去った訳じゃないのに」


そうだ。ダゴンの脅威を野放しには出来ないからという理由で契約には待ったがかかっていた。根本的な問題が解決していないままだ。


「ダゴンの子供を倒しましたから、しばらくの間は大丈夫だと思います」


シズクによると、ダゴンが産み出した子供は浅瀬や地上に上がっても大丈夫なように適応させた特別性であり、産み出すのにも相応の手間と時間がかかるという事だ。


「今から新たな子供を産んで地上に送るまでにはまだかなりの時間がかかるでしょう」

「吾輩達としてはその間に深海に潜むダゴンを打倒する方策を探したいのです。その為にも二の姫と行動を共にさせて頂きたい」


クラーケンのじっとりとした生臭そうな視線を受けて僕は焦る。そういえばクラーケンは僕を二の姫と呼ぶんだった。女の子扱いは嬉しくない……。


「でもそれなら尚更僕らとは別行動した方が効率的なのでは?」

「そんなつれない事を(おっしゃ)り申すな。ダゴンの情報については吾輩の眷属達(ネットワーク)を使いリアルタイムで常に世界中探索しているでありますぞ」


腐っても海の帝王、そこは配下の海性生物や魔物達に情報を探らせているらしい。そうして世界中から集めた情報はクラーケンの本体へと送られ、それを受けてまた新たに眷属達に司令を発して、と巨大なネットワークが構築されているようだ。


今シズクの肩の上に乗っているイカも本体ではなく分体である。つまり、分体が僕らと行動を共にする分には何も問題はない。僕らと行動を共にする事で得られる情報もあるかもしれないという事だ。


「まあそういう事なら問題ないか。改めてよろしくね」

「はい!」

「では、契約の証として熱いベーゼを……フシュシュシュシュ」

「「「黙れイカゲソクソ野郎」」」


クラーケンが唇を突き出して僕に迫ろうとした時、瞬時に女性陣(シズク含む)により鷲掴(わしづか)みにされ、あべしっ! とお決まりの悲鳴を上げながら粉砕された。


「海の神クラーケンがこんな変態野郎だったとはのう……」


クアンゼが(あき)れを多分に含んだため息をついた。その後、滞りなく契約は結ばれ、僕の力はまた飛躍的に上昇した。


美少年好き腐れ変態イカゲソクソ野郎とはいえ、やはり海の帝王であるクラーケンの力は凄まじく、シェイランを除けばパーティーの中でも抜きん出た実力を持っていた。


直接戦う所を見た訳でもないのに、強存強栄で得られた力の上昇具合を実感するだけでその凄まじい実力のうちが分かるのだ。


ともあれ、これで正真正銘ヤマトノクニでやり残した事は無くなった。僕達は荷馬車を引いて出島へと舞い戻ったのだった。










出島で元の格好に着替えて戻った僕らは、来た時と同じ船と船長にお世話になり無事に大陸へと戻ってきた。


「さて、戻ってきたはいいけれど、これからどうしようか……」

「とりあえずギルドに顔を出そう。アノンの件がどうなったか経過を確認したいからね」


プリメインさんがそう言うので冒険者ギルドの建物へと向かう。戦闘奴隷であるアノンは僕が抜けた穴を埋める補充要因として、マグナス達のパーティーに新たに加入した人物である。


そして冒険者ギルドへ到着すると、プリメインさんが誰ともなくに語りかけた。


「セラフ、いるんだろ? 戦闘奴隷の件はどうなったんだい」


すると、呼び掛けに答えるかのように虚空からいきなり人影が現れる。


「やあやあ。お久しぶりですね~皆さん。新たなお仲間も得られたようで何よりです」


語尾が間延びした独特の口調と共に全身を包帯でぐるぐる巻きにしたミイラ男が被った鍔付き帽子の下から視線を僕らに向けていた。


一級監査官であり、転移魔法の使い手でもあるセラフ・リコビッドである。今も情報伝達と監査で世界中を飛び回っているのだろう。ギルド職員の中でも飛び抜けて忙しい人間としてその名は広く知れ渡っている。


「戦闘奴隷の件ですが、ギルドとしてはその身を臥龍鳳雛へと預けるという結論に至りました」

「僕らのパーティーで彼を預かれと?」

「ええ。冒険者ギルドで彼を尋問したのですが、何も喋らなくてですね~……尋問官によれば何をされても応えない、死すら恐れていないという事で、何も情報を得られなかったそうなんです~」

「僕も色々彼の素性を探ってみたんだけれどね、何も出てこないんだ」


プリメインさんがそう言うのなら本当に何も情報が出てこなかったのだろう。ギルドの情報網でも何も掴めなかったに違いない。


「それでですね、戦闘奴隷なら必ずギルドに登録がされている筈だと情報を洗ってみたんですが~、アノンという戦闘奴隷の情報は登録されてなかったんです」


通常、奴隷というものは勝手に使役出来るものではなく勝手に生まれてくるものでもない。最初に奴隷としての身分を届け出てそれが受理されなければ奴隷として扱ってはならない事になっている。


審査を通して奴隷に堕ちるだけの理由がハッキリしなければ登録を受け付けて貰えないのだ。


なのでギルドに登録せずに奴隷を所持する事は人権侵害となり違法となる。


つまり、どうやらアノンは正規の手順を踏んで登録された奴隷ではなく、違法に奴隷にされた被害者なのかもしれなかった。



「素性がハッキリとしない以上は、(いたずら)に罰を与える訳にもいかなくてですね~、そもそも彼がマグナス達のパーティーでやった事と言えば壁役&囮役。戦闘奴隷としては至極真っ当な仕事です。隷属の首輪を付けていては逆らいようもない訳ですし~」


そもそも戦闘奴隷としてこき使われている時点で罰を受けているようなものなので、極端に言えば死刑囚に鞭打ちをする意味があるのか? という話でもある。


「そこでまあ、臥龍鳳雛の事は臥龍鳳雛に任せようと丸投げする事になった訳ですね~、まあ、今の臥龍鳳雛とマグナス達旧臥龍鳳雛パーティーは全く別物なんですけど」


そこまで分かっているのに何故丸投げするんだ、と恨めしげに見つめていると飄々(ひょうひょう)とした顔でセラフはそれを受け流し適当そうに言う。


「まあ、あれですよ~。テイル様達は世界中を旅しているんですから道中で何かしらの情報が手に入るかも知れませんし」

「世界中を旅するって……これからもそうすると決めた訳じゃないですよ?」

「いえいえ、勇者を二人も抱えたパーティーが目指すものと言ったら魔王討伐しかないじゃないですか~まだ存在が確認されてないから討伐というより探索かな?」


勇者や魔王という単語に一瞬肝が冷える。恐らくセラフは水の勇者であるシズクを知っているからプリメインさんと合わせて二人、と言ったのだろうが実は僕らのパーティーにはもう一人炎の勇者であるレンカがいる。


そして何よりも次期魔王候補である僕がいる。勿論この事はセラフを初めとして冒険者ギルドには届け出てはいない。まかり間違えばその場で討伐という事も有り得るからだ。


もっと悲惨なのはシェイランが僕を(かば)って冒険者ギルドを全滅させてしまうかもしれないという事だ。専守防衛とは言ってもシェイランがどこまで加減してくれるか分からない以上は危ない橋は渡れない。


そう考えながら僕は動揺を表に出さないように務めて冷静に対応する。監査官であるセラフの前で狼狽(ろうばい)などしようものなら痛い腹を存分に探られる事になってしまう。


「とりあえずそういう事なので~、三日後に彼を引渡しますのでよろしくお願いします」


そう告げるとセラフは現れた時と同じように唐突に姿を消した。



「転移魔法……ふむ、もしかしたら使えるかもしれませんな」



とシズクの肩の上でクラーケンがボソリと意味深に呟いた。

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