八十五話
新たに仲間に加わったクアンゼと共にツクヨミの里を出発した僕達は、ヤマトノクニから出国する為に出島へと戻ろうとしてきた。のだが……
「その前に、ちょっと寄り道していきませんか?」
と、シズクから待ったがかかり、再びクラーケンのアジトの一つへと向かう事になった。
水面を歩くシズクの水魔法にクアンゼは感嘆の声を漏らす。どことなく誇らしげにシズクが先陣を切りアジトへと案内してくれる。クラーケンが呼び寄せた魚達が道標となり、海中へと僕らの身を誘っていく。
泡の中から見る美しい海中の世界に、僕らは瞳を輝かせてその景色を楽しんだ。
そうして辿り着いたアジトはこの間来た所とはまた別の場所にあった。前回は大量の巻物や書籍に囲まれていたが、今回代わりに僕達を向かい入れたのは、色とりどりの金銀財宝だった。
「これはまた……凄い量の財宝ね」
「何とも凄まじいですなぁ」
ノエルが驚きの声を上げる。公爵家出身のレンカですらこれほどの財宝は目にしたことがないという。
「今回ヤマタノオロチの討伐を手伝って頂いたお礼です」
「いや、お礼って……」
それにしたってこの量はないのではなかろうか。僕達が今目にしている部屋いっぱいに埋め尽くされた財宝だけではなく、まだまだ大量の貴金属や黄金がこの沈没した巨大帆船の中に積み込まれているという。
これだけの量があれば大国の国家予算何十年分にも匹敵するだろう。
いやそれどころか……
「これだけの金があれば、新たに国を起こし運営していく事も容易に出来るでしょうね」
とヘルメスが言った。
「く、国……」
あまりのスケールの大きさに開いた口が塞がらない。シズクはこくりと頷き、元々そのつもりで貯めてきた財宝ですから、と言った。
「ボクとクラーケンは元々そのつもりでした。この世界に人と魔物の共存を実現させるならば、新たな巨大新興国家が必ず必要になりますから」
「確かに、既存の国家勢力に少しずつ和解政策を広めていくよりも、人と魔物の共存を実現した巨大国家を起こす方が手っ取り早いですからね」
国というものを動かすには様々な建徳利益、各々の思惑が絡んでくる。その中で安全な人と魔物の共存地帯を確保するなら強大な新興国家という大きな枠組みを作ってその中に囲ってしまった方がいいだろう、という事だ。
確かにそれは分かるのだが、いきなりすぎて僕にはまだいまいちピンと来なかった。
「いきなりなんて事はあるまい。むしろ、予想していて然るべき問題じゃぞ?」
「え?」
「改めてここにいるメンバーを鑑定にかけてみい」
とシェイランが言う。鑑定? そういえばもうだいぶ長い事鑑定スキルを使っていない。自軍の戦力をきちんと把握する事はパーティーのリーダーとしては当然行っているべき事だった。
どうにも僕は、旧臥龍鳳雛パーティーから追放されてからの今に至るまでの流れに心がいまいちついてきてこれなかったようだ。
未だに自分が魔王の1歩手前にある状態というのがしっくり来ていない。いや、確かに人間の範疇を超えてしまった自覚はあったのだが……。
そうして言われるがまま鑑定した結果を言うとだ。パーティーの平均レベルは70代に達している(魔獣達を抜きにした人間達の平均)。僕とシェイランのレベルが特に飛び抜けていて、三桁に達している。もちろん僕とシェイランの間にも雲泥たる差が開いているのだが……
HPやMPに関しては四桁に達している。まだクラーケンと契約を交わしていないのにも関わらず、だ。
ノエルやクアンゼのレベルは40は超えている。ちなみに、レベル40代というのはベテラン冒険者の中でも更に精鋭と言える域であり、パーティーレベル平均が40以上なら十分Sランクに達している領域だ。
シズクやプリメインさんを初めとした勇者連中は流石に強く、僕やシェイランの域にまでは届かないものの、大体レベル80前後くらいの人類上限値に近い辺りにまで及んでいる。
かつての氷の勇者マグナスの(僕が在籍していた頃の)レベルはせいぜい30~40レベルといった所だという事を考えれば、熟練した本物の勇者の力量はやはり違うという事なのだろう。
レンカは一番レベルが低く30代半ばといった所だが一般的な基準から言えばかなりの高レベルだし何より勇者として覚醒したのだから戦闘能力には大いに期待出来る。
また、旅の道中で仲間にしてきた魔獣達については、レベル自体はピンからキリまでバラけているものの、モンスターとしてのランクで言えばどれもSランク。決して人間メンバーに引けを取ってはいない強大な戦力だ。
「これだけの戦力が揃って入れば、一国は勿論の事、冒険者ギルドと正面から真っ向勝負しても互角以上に立ち回れるでしょうね」
とヘルメスがそう評した。
「いや、僕はそんな荒事を起こす気は」
「遅かれ早かれ大なり小なり反対勢力は必ず現れます。それならば抑止力としての戦力は必要ですよ」
「ヘルメスさんの言う通りです。和解推進派と反対派、それらの勢力が各々手を取り二代勢力としてぶつかり合えば……世界を二分する争いになるでしょう」
「怖い事言わないでよ」
シズクの発言にゾッと背筋が凍る。が、あながち間違いでもない事を僕は感じ取っていた。
単純な戦力だけなら現在の状態でも世界中を敵に回してもやり合えるだけの力が僕達にはあるのだ。それだけではなく、ビルドアントの建築能力を使えば砦や城塞を築くのも簡単に出来るし、資材はライムに食わせれば量産出来る。
ヘルメスやクアンゼがいるのだから目の前に積まれている様々な財宝や貴金属を使って強力な武器防具を量産出来るだろう。僕が仲間にした魔獣達からは龍鱗や鳳雛の羽根など、錬金術や鍛冶において最高峰と言われる素材も取り放題だ。(定期的に生え変わるので)
また、戦闘を補助する回復薬や道具にも事欠かない。ヘルメスの長年の研究によって蓄積された様々な魔道具や薬も相当量が貯蔵されている。
仮に国に建てた城を落とされたとしても人員が不足していなければ幾らでも立て直せるのだ。白銀の聖女であるノエルの回復魔法があれば死亡さえしなければ負傷しても完治させられる。
要は主要メンバーさえ殺されないように立ち回れば基本負けは無いのだ。
資源に関してはライムが居れば幾らでも補充できる。籠城戦も長期戦も撤退戦も思うがままだ。
何しろ、チィの宝玉世界という動くアジトがあるのだから。チィの宝玉の事さえ知られてなければ最悪、宝玉を地下に埋めたり隠したりして全員アジトの中に籠り敵をやり過ごす事すら可能なのだ。
鳳雛であるピピは鳥類に属する動物や魔物なら自在に使役する事が出来る。また同様に海の帝王であるクラーケンであれば海の生物や魔物はほぼ操り動かせる。
また、陸地や地中であれば兵隊蟻達の数とテレパシー能力を応用して活動させられる。
陸海空の諜報活動や索敵、連絡手段にも事欠かない。
それだけの物資や人員がありながらも(アジトに収納すれば)場所を取らないし移動もフットワーク軽くこなせる。
「……考えれば考える程に凶悪な集団だね」
僕がため息をついてそう言うと、ヘルメスとクアンゼが意味深な笑みを浮かべていた。
「実はのう、まだそれだけではないんだがや」
「研究の結果ヒヒイロカネの量産に成功しました」
「は?」
ヒヒイロカネと言えば伝説の金属、三種の神器の材料であり、当然滅多に手に入れることの出来ない超希少素材である。
それが量産……?
「簡単に言ってしまえば、ヒヒイロカネと金は同じ元素、いや素材と言った方が分かりやすいですかね。で出来ている事が分かったのです」
例えば、石炭やダイヤモンドは炭素と呼ばれる元素(物質を細かく分けていったものの最小単位、らしい)で出来ているのだそうだ。
両者を分けるのはその元素の並び方、構成の違いだけらしい。
そして、錬金術で石炭をダイヤモンドに組み替える事も可能なのだという。
「同じ理屈で金をヒヒイロカネに変えられるというのが実験の結果判明したのです」
「でも、大量の金なんてどこから……ハッ?」
言ってる途中で気付いた。大量の金なら目の前にあるでは無いか。視界を埋め尽くす程に。
「更に言うならのう、ヒヒイロカネの市場価値は金の何十倍にもなる。量産して売るだけで世界一の億万長者になれるだや」
まあ実際にそれをやったらヒヒイロカネが市場に出回りすぎて価格崩壊するだろうだがやな、とクアンゼは付け加えた。
「婿殿よ。これで分かったじゃろう? 自分達が抱えているものの大きさが。ここから先は、二歩三歩先を見据えて行動せねばならんのじゃ」
確かに、強者程自分が力の大きさやそれが与える影響の大きさを考慮して慎重な立ち回りをしていた。大っぴらに空を飛ぶ事を避けていたシェイランや、魔法で変身して正体を隠していたシズクがいい例だった。
「実際問題、この大量の財宝を貯蔵するのはいいですが、売却する際は足が付かないように販売ルートは厳選しなければならないだろうね」
そこは自分に任せろ、と言わんばかりに胸を貼ってプリメインさんがそう言った。確かにこれに関してプリメインさん以上の適任者はいないだろう。
本当に自分は色んなものに恵まれているんだなあ、と改めて思ったのだった。
余談だが、今後の予定についての話が盛り上がったせいで自分の契約の話を忘れ去られていたクラーケンが若干拗ねていたのはここだけの話だ。
本編では省略されましたがこのあとちゃんとクラーケンとの契約は交わされました(^ー^;)




