七十五話
洞穴の最奥にて蟻達と激闘を繰り広げていたのは八つ首の龍、ヤマタノオロチだった。
「な、何でこんな所にヤマタノオロチが!?」
驚きのあまり僕は声を上げる。ぴくん、と僕の声に反応し一つの首がこちらに視線を向ける。新たな侵入者達が現れた事を認識したヤマタノオロチは警戒を強めつつも攻勢は緩めない。
「ギャオオオオオ……!!」
威嚇の唸り声を上げながら八本ある首が自在に動き回り、蟻達に襲いかかる。鋭い牙に噛み付かれないように四方八方に動き回り回避するビルドアント達。
それを待っていたかのように八つ首の口から巨大な炎のブレスが放たれた。
ゴオオオオオオ……!!
あまりの高熱に青く燃える炎が蟻達とストーンスライム達を包み込む。位置の悪かった個体は凄まじい火力により身体が炭化させられてしまう。ぶすぶす……と全身から煙を上げながらひっくり返った状態で手足をピクピクと痙攣させる蟻。そして動かなくなる。
「………………!!」
いとも簡単にあっさりとビルドアントがやられる情景を目にして衝撃が僕の身体を駆け巡る。
「なんて火力ぜや……! まともに食らったら一発でアウトだや」
クアンゼが冷や汗を浮かべる間にも蟻達は勇猛果敢にヤマタノオロチへ反撃に移る。四方八方から壁伝いに渡り歩き八つ首の標的を一つに絞らせないように撹乱しながら素早く近付いていく。
八つ首龍の首は長さが7~8メートル幅は50~60センチ程はあるだろう。胴体部分は泉の中に沈んでおり全体の正確なサイズはハッキリとは分からないが相当の大きさである事は間違いない。最奥の空間がそれなりに広いので巨体のヤマタノオロチでも自在に動き回れるだけのスペースはあった。
ヤマタノオロチは首にしがみつこうと寄ってくる蟻達を振り払う為にハチャメチャに暴れ回り、壁や鍾乳洞に激突しパラパラと小石や砂が舞う。ストーンスライ厶が弾丸のようなスピードで洞穴内を跳ね回り熱で弾け飛んだ栗のように八つ首龍の顔や首に体当たりをかます。
オロチが怯んだ隙に蟻達は首に飛び移りどんどん上へと登っていく。蟻達が上へと登る度に重みでバランスを崩し龍の頭は下へと降りていく。
「見事な連携じゃな……ああやってまとわりつけば炎のブレスは喰らわん。自らの身体を焼く事になるからのう。そして頭を下げれば自然と口も下に向きブレスの射程距離も縮む」
「やはり蟻達もブレスを最大限に警戒しているという事でありますな」
「警戒しているのは後ろに控える儂らへの攻撃じゃよ」
シェイランの説明に思わず「え?」と声が漏れる。
「彼等には防御を優先させる事を命じていたのじゃろ? なのにああやって身の危険も顧みず突撃しているのは、主であるチィやライムに攻撃が行かないようにする為じゃろ」
「彼等は、そこまで考えて……?」
「作戦と言うよりかは本能じゃろうがな」
僕はシェイランの話を聞いて愕然とした。彼らは自らの命も顧みず戦っているのか。そして目の前で一匹また一匹と傷付き倒れていく。
なのに動けない。助けに入れる状況ではない。それなりの広さがある空間とはいえ蟻とスライムの混合部隊が全て集結している今僕達が割って入れる程の隙間はないし、下手に割込めば彼等の連携を崩す事にもなりかねない。
かといって撤退しようとすればその瞬間にブレスが飛んで来るかもしれない。シェイランやプリメインさんの風なら跳ね返すなり弾くなり出来るかもしれないがよほど上手く意識して炎を散らさなければかえって仲間達に飛び火してしまうだろう。
蟻&スライム達の判断は正しいのだ。まずはオロチの炎のブレスを封じなければどうしようもない。
頭は冷静に目の前の戦況を分析しているが心は張り裂けそうだった。
「ミンナ、ガンバッテ……!」
「チイィ……!」
ライムとチィも心配そうに配下の魔物達にエールを送っている。彼等としても気が気では無いのだろう。
「グオオオオオ……!」
そんな中、一つの首がブレスの発射体制に入る。
不味い! あれが放たれたら……! そう思う間もなく次の瞬間には大爆発が起こり、オロチの首が一つ弾け飛んでいた。
「い、一体何が……?」
「スライムの一匹がオロチの口内に突っ込みおった。出口を塞がれ行き場を無くしたブレスが爆発したんじゃ」
「そ、そんな……!」
なんて無茶な真似を……と思うがしかしそうしなければもっと多くの被害が出ていただろう。
去り際に転がっていた岩石を飲み込むという謎の行動を見せた後に、首のひとつを失ったヤマタノオロチは泉の中へと潜って引っ込んでいった。
「逃げた……」
「なかなか思い切りのいいヤツじゃな。形勢の不利を悟ったか」
「最後のアレは何だったんでありましょうな……?」
あまりにも唐突に戦闘の終わりは訪れた。オロチの去った戦場には、焼き焦げた蟻達と爆発で粉々に砕け散ったスライムの死骸が転がっていた……。
オロチの最後の行動は一体……?(’◇’)




