七十三話
クアンゼと共にツクヨミの里を出立してからおよそ1週間ほどが経過し、僕達は険しい山林に囲まれた洞穴の入り口へと辿り着いた。
例によってピピやシェイランの背に乗っての空中移動は避けての徒歩の移動だったのでそれなりの時間がかかったが、クアンゼと僕達が打ち解け戦闘中での連携を円滑に進める為の準備期間としては丁度いい長さだった。
クアンゼは黒鉄と呼ばれる普通の鉄よりも硬く柔軟性にも富んだ金属で出来た大槌を縦横無尽に振るう戦闘スタイルだ。
旅の道中に湧いたリザードマン達を硬い皮膚ごと重量に任せて押し潰して回っていた。大槌のサイズはほぼクアンゼの身長と同じくらいありその重量も推し量れようというものである。
さすがにドワーフの血を引いているだけあって(ドワーフとヤマトノクニ人の混血らしい)その逞しい筋肉は飾りではなく、大槌を手足のように扱い自在に奮った。
ヤマトノクニに沸く魔物達は知能が高く独自の装備に身を固め更に集団で行動する厄介な種が多かった。先程のリザードマンしかりゴブリンしかりオークしかり、統率の取れた集団戦法を得意とする連中なのだ。
まともな冒険者達では相手にならないだろう。A~Bランク相当のパーティーが連携を取ってようやく相手に出来るくらいだと思われる。
そんな危険な魔物達が普通に外を跋扈している環境で暮らしているヤマトノクニ人の武力は高く、刀と呼ばれる武器や甲冑と呼ばれる鎧等の装備を身につけ彼等独自の戦法、戦術に乗っ取って戦う。
魔物達と同じように集団戦もこなすし、逆に一対一の所謂決闘の文化もあるらしくオールマイティーに戦える極めて戦闘力の高い部族のようだ。
最もクアンゼの方も規格外の戦力が揃っている僕ら臥龍鳳雛の戦いぶりを見てしきりに目を見張って驚いていたようだった。
ともかく、戦闘の面でもクアンゼと僕達の相性は上々で、海神の洞穴の探索には問題なさそうで安心だ。
そうしていよいよ目的地の洞穴に辿り着いたのだが……。
「ふ~む、海神の洞穴の中まで見るのは初めてだったが……こりゃあちと不味いぜな」
クアンゼが洞穴の入り口に立って奥を覗き込みそう呟いた。ちょっと覗いて見るだけでも幾本もの道に別れており非常に入り組んだ構造となっているようだ。
迷路のような構造のダンジョンでその環境に慣れた魔物達に四方八方から襲いかかられてはひとたまりもない。パーティーが分断されてしまう危険性があるし、洞穴の中であまり非常識な力を震えば落盤の危険もある。
どうしたものかと腕を組んで唸っているとレンカが僕の隣に立った。
今のレンカは紅葉柄の振袖を身にまとい赤毛のロング
テールを和柄の紐でゆるく止めている。パーティーの女性陣は概ね簪を挿していたのだがレンカにはレンカの拘りがあるらしくこのスタイルに落ち着いている。
普段の様相とは違う出で立ちであるレンカは新鮮で……可愛かった。
密かにそんな事を思う僕の気持ちなど露知らず、レンカは何やら考え事をしながらこう呟いた。
「ふ~む、何だかブラッドアントの巣を見ているようですなあ」
確かに、僕とピピとレンカが入って女王を討伐したあの洞穴もかなり入り組んだ構造になっていた。兵隊蟻達があちこちを掘り進んで道を複雑化させていたからだ。
「まてよ……て事は蟻達はこういう入り組んだ構造での探索や戦闘に長けてるって事だよね」
「まあそうでありましょうな。蟻には確か自分達の匂いをマーキングして居場所を知らせたりする能力があった筈でありますし」
「それだ!」
レンカの呟きをヒントに海神の洞穴攻略の糸口が見えた。
チィ率いるビルドアント達に探索の先陣を切って貰う事にしたのだ。
彼等ならば魔物同志襲われる心配は少ないし(魔物同士でも捕食関係や敵対関係はあるので皆無では無いが)離れ離れになっても匂いを辿れば合流出来る。自ら道を掘り進める能力すらある。
万一戦闘になってもチィという絶対女王の統率によって集団戦もバッチリこなせるだろう。
「それなら彼等も連れてってください」
とヘルメスが推したのは、マザースライムであるライムとその子ども達だった。
「スライム達を?」
「ええ。彼等はシンパシー能力で互いの情報を共有出来ますしマザーであるライムの指示には絶対服従です。蟻達と同じように集団戦や探索には向いていると思いますよ」
「でもスライムでは戦力的に厳しいのでは?」
僕がそう懸念を伝えるとヘルメスは地面に転がっていた岩石を拾い上げライムに呑み込ませた。みるみるうちに岩石は消化されライムの身体と同化する。そしてライムがいきむのと同時に身体からポコポコと新しいスライムの子達が生まれ始める。
「この身体は……呑み込んだ岩石を取り込んでるのか?」
「そうです。そうやって取り混んだ物の特徴を子ども達にコピーさせ様々な種を生み出すのがマザースライムの能力です。岩石の身体である言わば『ストーンスライム』ならば戦闘でも遅れを取る事はないでしょう」
「こりゃまた……とんでもない能力ぜや。コイツ一匹がいるだけで鍛冶師は無限にアイテムを創り出せるだやな」
クアンゼが言っているのは、例えば貴金属などをライムに取り込ませてコピースライムを作り量産すれば実質ほとんどタダで鍛冶の材料が手に入ってしまうという事だ。(生み出した子供たちを加工する=殺すという倫理面の問題が発生してしまうが)
コピーの大元となる物質と子供を生み出すための大量の餌は必要になるだろうが、それを補って余りある成果を叩き出せる。
そう説明されて初めて僕達もマザースライムの凄まじい有用性をはっきりと認識する。
どうやら僕は気付かぬうちにとんでもない存在を仲間にしていたようだ。
そうして、ビルドアントの兵隊蟻&ストーンスライムの連合軍という異形のタッグが誕生したのだった。
マザースライムの隠れチート性能(゜∀゜)




