七話
レンカSide
私が悪魔の呪いによって心身を蝕まれていたのは今から二年程前の話だ。私は幼い頃から優秀でゼンランド一族の中でも群を抜いた才能を持っていた。私が成長しゼンランド家の跡を継げば一族の更なる発展は約束されたも同然の状況だったのだ。
それを危惧した敵対する公爵家の者が悪魔と取引を交わし私の身体に呪いをかけた。
日に日に私の身体は呪いに蝕まれていきあのままだったらそう遠くないうちに死んでいた事だろう。お父様の依頼を受けて悪魔の居場所を特定してくれたのは当時Bランク(4話でBランクとなっています)パーティーだった臥竜鳳雛のテイマーだった。
当時の私は浅はかな事にテイル様の実力を侮っていたし、彼に命を救われたのだという事もきちんと理解していなかった。
彼は悪魔の居場所を特定しただけで、私の身体を治療してくれた聖女や悪魔を退治してくれた勇者達の方がずっと偉いとそちらに意識が向いていたのだ。
私は呪いが解けて健康な身体になった後彼等臥竜鳳雛のような冒険者になりたいと憧れるようになった。お父様やお母様は私には公爵家の跡取りを目指して貰いたかったようでいい顔はされなかったのだが、私はそれを無視し独学で勉強を始めた。
本来ならば冒険者を目指す者はまず選定の義という儀式に参加して鑑定スキルで自らの適職を調べて貰ってから己の行先を決めるものなのだが、両親に反対されていた私はその選定の義を受けさせて貰えなかったので、自分の適職も知らぬままに手探りで探っていく他なかった。
一番に憧れていたのは勇者だったのだがそれは選ばれし物だけがなれる特殊なもので真似しようと思っても出来るものではなく、諦める他はなかった。
次に目をつけたのが治癒魔法の使い手になる事だった。私を救ってくれた僧侶は聖女と呼ばれる特別な職業で、凄まじい魔力の持ち主だった。
聖女程の使い手になるのは無理でも僧侶として治癒魔法を覚えるのは不可能ではない。半年あまり死にものぐるいで特訓をしたが覚えられたのはたった2種類の魔法、それもスキルLV2までしか上げられなかった。
僧侶が私の適職でないのは明らかだったので、次に魔法使いを目指した。
臥竜鳳雛の魔法使いは勇者や聖女のように選ばれし者という訳では無いが、強力無比な魔法の使い手だった。
彼女のように強大な魔法を扱えるようにはなれず結果として覚えられたのは炎魔法のみ。これはスキルレベル3まで上昇し、どうやら炎魔法だけは私に合っていたようで半年あまりの修行で何とかこれだけは覚えられた。
しかしこれも適職とは言い難いという事で、最後に目を付けた戦士職が私の適職だったらしく、短期間の間でもめきめきと実力を伸ばしスキルを覚えていった。
この一連の流れを通じて私は適職以外の事に手を出すのがどれだけ手間と苦労がかかるのかという事を学んだのだ。
私は臥竜鳳雛に助けて貰った後彼らの大ファンとなり、密かにゼンランド家お抱えの隠密部隊に命じてその様子を事細かに調査させていた。
そうして知ったのは、テイル様が一人で10を超える適正ではないスキルを覚えている事、そしてそれらは全てパーティーを組む上で必要な基本的なものを全て揃えていたという事だ。
私が一年と数ヶ月余りの間に覚えられた適正ではないスキルはたったの三つ。炎魔法に関しては魔法スキルの中では唯一向いていたいう事実を考慮すれば実質二つだ。それを覚えるのですら相当苦労した。
それを考えるとテイル様のスキルの数は異常だと言えた。その時点で臥竜鳳雛が結成されてから3年と少し。それだけの短い期間の中でそれだけのスキルを覚えたのだ。
私がようやくテイル様の凄さに気付き見る目を変え始めた時に、黙っていましたが、と前置きを置いてうちの間者に言われた。
スカウトやレンジャーのような専門職でもないのに王都に潜む悪魔の居場所を特定するなどただ事では無いのだと。魔獣使いも敵の気配を察知する気配感知スキルには優れているとはいえ、それだけで見つけられるなら苦労はない。
公爵家とて馬鹿ではない。悪魔の存在を隠すに決まっている。ゼンランド家を狙う者や敵対関係にある者は多い。様々な隠蔽工作の壁を乗り越え犯人を特定するには優れた観察眼や推理力、現状を見極める眼が必要なのだと間者に言われた。
それがなければ私の生命はなかった。私は、救われて一年余りも経ってからようやく本当の恩人の存在に気が付いたのだ。
そうなるとテイル様のパーティー内での立ち位置が気になって来て、私はそれらの調査も間者に命じた。
すると予想していた通り、テイル様の扱いは酷いものだった。
テイル様は相棒の魔獣とたった一人と一匹だけで敵の攻撃を引き受ける壁役と囮をこなし、更に索敵、斥候、炊事洗濯に武器防具の整備、細々な雑事を全て一人でこなしていた。
ピピ殿は恐らくSランクの幼体であり将来性は抜群であるものの、評価としてはCランクがいい所だった。
臥竜鳳雛という強大なパーティーは、殆どテイル様の労力によって成り立っていたと言っていい。
更に詳しく調査すると、聖女以外のメンバーは範囲攻撃や魔法特化であり敵の注意と攻撃を引き受けるテイル様とピピ殿の後方から同士討ちを厭わず後方からスキルを連発する事で最大火力を発揮していた。
はっきり言って異常だ。味方同士の同士討ちを避けるのはパーティーを組む上で基本中の基本と言っていい。どんな術者とて同士討ちを避ける為に威力を削ってコントロールに魔力を割くものだ。
それがほぼ全く為されていないとしたら……それ故の高火力によって敵を葬ってきたのだとしたら……
私はかつてあれほど憧れていた勇者とその仲間達の評価を有象無象と切り捨てた。代わりにテイル様の評価は鰻登りだった。何しろ、諜報活動のプロであるうちの隠密の存在にすら気付いていた様子だと言うのだ。敵意や悪意を感じなかったから故に放置されていたのでしょう、と隠密部隊の頭領はそう締めくくった。
恐らくは気配感知スキルが最大の10まで上がっているのだろう。そのスキルの高さ故に味方の攻撃も喰らわず悪魔の存在も察知したのだ。気配感知スキルはテイマーやレンジャーの適正スキルだが、10まで上げられるのはほんの一握り。大抵は高くても5~6あたりで頭打ちになってしまうものだ。
テイル様の底知れない実力を目の当たりにするうちにどんどん憧れの気持ちは実際にパーティーを組んで一緒に戦いたいという思いに変化していった。
テイル様が臥竜鳳雛から追い出されたという情報を聞き千載一遇の好機と私はテイル様にパーティーを組む事を持ちかけた。
しかし残念ながら私の申し出は断られてしまった。脱退させられた直後なのだから仕方ない。テイル様の心の傷が癒えてからまた誘えばいい。
だがまあそれはそれとして憧れのテイル様の戦いぶりをこの目で見てみたいという欲求に抗えずに密かに私はテイル様の後を追う事にした。
ストーカーの過去と事情(°-°)
※半年あまりの修行と書いてありますが、全部で半年ではなくそれぞれのスキル修得に半年かかっているという事です。全ての期間を合わせると一年余りかかっています。




