六十八話
一通り書物の鑑賞が済んだ後に、改めて僕は本題を切り出した。
「プリメインさんから話は聞いていると思うけど、僕達は仲間を求めているんだ。強い力を持った仲間を」
「はい……」
シズクは神妙な面持ちになって頷き、相棒の行った暴挙を執り成すかのように話を続ける。
「ボク達も、ダゴンに対抗する為の強い力を持った仲間を欲していました。クラーケンが先走って盟約を交わそうとしたのもそれが原因です」
「ソノケンニツイテハホントウニモウシワケアリマセンデシタ」
先程シズクに詰められた恐怖を思い出したのかブルブルと身体を震わせながらクラーケンは再び謝罪してきた。うーん、自業自得とはいえ哀れな姿だ。
「あなた方の力になりたいのは山々なのですが、むしろまずボク達の方が助けを欲しているというのが現状なんです」
シズクは伏し目がちにそう告げた。
「ボク達は海の覇権争いで深海の王ダゴンと対立しています。ダゴンが海を支配すれば、世界の漁や海運業は立ち行かなくなり、また海の魔物達によって多大な被害を齎す事になるでしょう。だからこそ、ダゴンと決着をつけずして海を離れる訳には行かないんです」
「つまり、彼等を仲間に加えたいのならまず彼等の抱えている問題に協力して解決しろという事だね」
一連の流れを総括するようにプリメインさんが最後にそう告げた。
「事情は分かった。世界の半分……つまり海の平和が君達の手腕にかかっているのだというなら、それを無視して話を進める訳には行かないよね」
「それって……」
シズクが期待を込めた瞳でこちらを見ている。僕は安心させるかのように微笑んだ。
「うん、僕らもダゴンを退治するのに協力させて貰うよ。その代わりに、事が解決したら今度は僕達に力を貸してほしい」
「~~~~はいっ!」
余程嬉しかったのか、目じりに涙を浮かべたシズクが抱きついてきた。
うわ、なんかヤバい。同じ男の筈なのに柔らかいしいい匂いがするし、心臓がドクドク音を立てているのが分かる。
シズクの肩の上でイカは百合だの薔薇だのよく分からない事を言って恍惚の表情を見せているし、その後ろでは女性陣が面白くなさそうな顔をしている。
なんか分からないけどとにかくヤバい(語藁感)
その後しばらく機嫌を損ねたレンカは口を聞いてくれなかったのだが、手を繋いで「僕が一番ドキドキするのは君と触れてる時だよ」と告げたら途端に顔を真っ赤にして「それなら許してあげるであります」とニコニコ嬉しそうに笑っていた。
「これが魔獣使い君のスケコマシスキルか……!」
とか
「普段は女の子以上に可愛いクセにこういう時は男らしいから反則よね」
とか
「婿殿は将来女泣かせに育ちそうで心配じゃなぁ」
とか
外野から色々言われていたけど気にしない。あとシズク、君は頬を赤らめてこっち見るの止めて。なんか色々いけない気分になってくるから。
◆
シズク&クラ-ケンとの話し合いにもひとまず決着がついて、僕達はシズクの出まれ故郷である里へと向かう事になった。
来た道を帰り陸地に降り立って進み数日後、大きな山の麓、森林に周囲を囲まれた集落が見えてきた。
「あれがボクの生まれたツクヨミの里です」
「ツクヨミの里……」
先導して僕達を案内するシズクは、今は巫女装束ではなく小袖に袴という一般的な男の子の格好になっている。出島にいた人達が着ていたものは主に絹が使われていたが、今彼が着ているのは麻を使って作られたものでありより一般的なものであるようだ。
長い黒髪も結い上げて纏められており、その顔立ちも魔法によって偽装がかけられている。元々ツクヨミの里の出身である彼が顔を出せば正体が住人にバレてしまうという事で顔を変えているのだ。
今の彼は極めて一般的な普通の男の子である。
また、プリメインさんも彼に付き合って男装している。いつもの格好ではなくて和服バージョンの男装だ。神器である神纏風旗は腰帯の代わりとして巻き付けている。
「全員女所帯のパーティーというのも不自然なんでね。この国にいる間は『僕』も男としてよろしく頼むよ」
なるべく目立たず隠密行動を取りたいという事情がある以上自分たちの実力も伏せて普通の冒険者(というか観光客)として見せておきたいので、そうすると全員女所帯というのは不用心で違和感を持たせてしまう。
なので二人には男性として振舞って貰おうという事なのだ。シズクが男装しているのに僕が女装しているというのも何だかものすごく違和感を感じるのだが……。
なおイカ野郎ことクラーケンは声だけの参戦となっている。有事の際にはいつでもシズクの魔力を糧にして
分身体を生成出来るので問題なしだ。
足を踏み入れたツクヨミの里の内部には、中心部に丸太で組まれた櫓が建てられておりそこから四方に提灯が吊り下げられ屋台が建ち並んでいる。
奥の方には神殿と思われる木造の建物に何かを祀って作られたのであろう石の像が立ち並んでいた。
「これは……お祭りをしているのかな?」
「ええ、今日は年に一度の鎮魂祭が行われる日なんですよ今はまだ準備中ですけど」
シズクによく似た、けれど違う声が真横から聞こえてきた。驚いて隣を見てみると、シズクに瓜二つの女の子が佇んでいた。
「外の国から来られた観光客の方々ですね? ようこそツクヨミの里へ。
私はこの里で神事を司っておりますミコト・スサノオと申します」
名前といい、その姿といい、その子がシズクの関係者……血縁者である事は明白の事実だった。
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