六十五話
ギルドへ戻ってきた僕達はプリメインさんと合流しその日宿泊する宿へ移った。
「入国管理の手続きは完了したから明日から早速ヤマトノクニの本土へ入って水の勇者と落ち合うよ」
「え? もう連絡がついてるの?」
展開の早さにノエルが目を瞬かせる。どうやら旅の移動中の時間で既に水の勇者とコンタクトを取っていたらしい。
「水の勇者とは旧知の中なんでね。潜伏してる彼と連絡を取る為の色々な取り決めがしてあるのさ」
「取り決め……ですか?」
「うん。彼に会いたい時は例の海の墓場に向けて伝書鳩を飛ばす事になってるんだ。そうして向こうが会う準備が出来たら冒険者ギルドの掲示板に書き込みがある」
そうして掲示板に指定された場所時間で落ち合う事になっているらしい。潜伏している彼の情報が第三者に漏れないようにその書き込みは暗号化されているそうだ。
「入国管理の手続きがてらその書き込みの内容は確認した。だから明日早速その場所へ向かうという訳さ」
「なるほど……それにしても水の勇者かあ。一体どんな人なんだろう」
何しろ秘匿されている存在であるので彼に関する個人的な情報などは全く分からない。その人となりが気になるのが人情というものではないだろうか。
僕のそんな疑問に対してプリメインさんはニヤリと意味深な笑みを浮かべて言った。
「そうだねえ。ある意味では君と同類の人種かもしれないよ」
「僕と同類?」
それはやはり魔獣と心を通わせる存在という共通点の事を言っているのだろうか?
う~ん、気になる……
「まあ、お楽しみは明日に取っておいて、今日はゆっくりと身体を休めようじゃないか。君達和室は初めてだろう?」
そう、今僕達が寛いでいる部屋はヤマトノクニ独自の伝統と文化によって築かれた空間となっている。
床に敷き詰められた畳や、襖と呼ばれる仕切り、採光や通風の為に付けられる欄間といったように西洋の国では見られないものばかりだ。
ヤマトノクニには四季と呼ばれる独特の気候が存在しており、一年が春夏秋冬という四つの季節に分かれている。
春は暖かく夏は暑く秋は涼しく冬は寒い。基本はどの国も気候は一定に保たれているものであり、僕達がいた聖皇国スピルネルは暖かい「春」の気候、西に位置するルフレ砂漠は暑い「夏」の気候、北に位置するザガンドラ帝国は寒い「冬」の気候、といった風に固定されているのが普通で基本変動する事は無い。
一年で気候が四回も変動するヤマトノクニは世界の中でもとても珍しいのだ。
夏は湿気が高く冬は乾燥するのが原因で外気温以上に体感温度の高低が割り増しされる。
木造建築が主になっているのもそれが理由のようだ。ヤマトノクニの建築事情はこの温度と湿度の変化に対応する為に進化していった。
「~と、いう訳さ」
「「「へえ~」」」
とプリメインさんのヤマトノクニ講座を聞きながら皆でお茶を啜ったのだった。
ちなみにこのお茶も西洋で飲まれるような紅茶ではなく、緑茶と呼ばれる緑色の飲み物である。緑色の飲み物というとまるで魔女が鍋で茹でている恐ろしい薬のように感じられるが、飲んでみた感想としては独特の風味と苦味があるもののけっして不味い飲み物という訳でもなかった。
好き嫌いは分かれるだろうが、良薬口に苦しという諺もあるくらいだし身体には良さそうだった。
ピピが興味深そうに見ていたので飲ませてみたら味がどうこう以前に猫舌だったらしく畳の上を転げ回っていた。
◆
そうして翌朝僕達は宿を出て入国ゲートを潜り本土へ上陸した。水の勇者と落ち合う事になっている待ち合わせ場所は出島から数キロメートル離れた海岸沿いにある小高い丘の上に立つ一本松の下だ。
砂浜に足を取られながら荷馬車を引き連れて進んでいくと、確かに海岸から少し内陸側に寄った所に大きな松がそびえ立っていた。
「あれが一本松だね。そして……向こうは既に着いてるみたいだ」
言われてみると確かに巨大な松の下に佇む小柄な人影が見える。向こうもこちらを視認したらしくゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
「やあ、久しぶりだねシズク。半年ぶりくらいかな?」
「ご無沙汰しておりますプリメインさん」
にこやかに笑みを浮かべ風の勇者と挨拶を交わすその姿は……どこからどう見ても絶世の美少女だった。
白い小袖に紅い袴という出で立ちは何と言うか美しさの中にも神聖なものを感じさせる。後で知る事になるのだがこの姿は俗に言う巫女装束と呼ばれるもので神職につく女性が身に付けるものである。
あえてもう一度言おう。女性が身に付けるものなのだ。誰がどう見ても目の前にいる子は巫女装束がよく似合う、とんでもない美少女だった。
身長はおそらく僕と同程度で切れ長の瞳に長い睫毛、薄く色付いた桜色の唇は口紅でも塗りたくったかのように光沢を放っている。白く透き通った肌にきめ細やかな長い黒髪が靡いていた。
後ろで仲間達が絶句しているのが分かる。無理もない。ただでさえ声を失うレベルの美少女だというのに、性別は男なのだから。
そう、男だ。男だった筈だ。プリメインさんは確かに『彼』と言っていた。……言っていたよな?
え、男? だよね……?
と疑念に苛まれてしまうくらいには美しい子だった。
「驚いたかな? 紹介しよう。彼の名はシズク・スサノオ。れっきとした男の子だよ」
男の子、と紹介された件の美少女は恥ずかしそうに俯いているが、男という事を否定はしなかった。
つまり、そういう事なのだ。
「あの……一体どうしてその……そのような、格好を?」
衝撃が抜けきっていないのか、語尾に『であります』を付け忘れたレンカが口を震わせながら尋ねた。
シズクと呼ばれたその超絶美少女……いや超絶美少年はこれまた恥ずかしそうに消え入るような声で言った。
「その……趣味で」
趣味で、と言われて皆がああ、そうなんですね……と妙な納得をしかけた時に彼は更なる爆弾発言を投下した。
「いえ、その! 違うんです。趣味というのはボクの趣味ではなくてその……相棒の」
「「「?」」」
「クラーケンの……趣味で着させられているんです」
今度こそ、その場の(二人を除いた)全員が声を失うのだった。
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