六十四話
一週間の船旅を終えると船は大きな港へ着港した。出島と呼ばれる人工島の一角にあるその港には僕達以外にも世界中から様々な船が停泊していた。
「ヤマトノクニは過去に色んな国から狙われてきたからね。防衛の為にも貿易する国を厳選しているんだ」
プリメインさんが言うには本土からちょっと突き出た形で扇状に広がる形状の立地なのは仮に侵略を受けて征服されたとしても切り捨てて本土を守れるようにする為らしい。
航海の途中でクラーケンの配下に護衛されるような形になったのも僕達の船がその数少ないヤマトノクニに選ばれた取引国の輸送船だったからだ。
僕達が乗った船は当然個人所有のものではなく政府に正式に認定された輸送船に頼んで乗せてもらったものであり基本人を乗せて移動するような旅行用の船ではない。
「運が良かったな坊主達。風の勇者の先導なしでヤマトノクニに立ち入ろうものなら今頃海の藻屑になってただろうよ」
「ダゴンの軍勢はそんなにも見境なしに船を襲ってるんですか?」
「まあそれもあるが、ヤマトノクニ政府が認めてない国の船は入国そのものが禁止されてる。無理矢理接岸しようとしても浅瀬に乗り上げるか荒波や渦潮に呑み込まれて沈むかのどっちかになる」
特殊な立地条件に守られた黄金の国は欲深い者達にとっては手を出したくても出せない危険地帯でもあるという事なのだろう。
「ヤマトノクニ周辺の海にはそういう船の残骸が沢山漂流していてね。海の墓場なんて影で言われてるくらいなのさ」
「海の墓場……でありますか?」
あんまりピンと来ていないのかレンカがオウム返しに尋ねた。
「実際難破した船は潮流の関係で一つ場所に集まるんだ。クラーケンはその船の残骸を根城のひとつにしているから、害意ある者が近づけば沈められる。海の墓場という表現は正にぴったりだね」
「おっかねえ話だ。そんな海の支配者みてえな奴を味方に付けられるってんだから、船乗りとしては有難い事この上なしだがね」
「だからこそ、関わる船乗りは厳選されているんだけどね。船長の伝手あればこその快適な航海って訳さ」
「クラーケンの守りが付いたのはどっちかと言うと風の勇者の関係者だからだと思うがねえ」
互いに謙遜しつつ褒め合う二人はそれぞれの所感を述べつつ、船旅の終わりに別れの言葉を交わして離れた。
「さて、ここからは入国管理局を通して正式に手続きが必要だ。それが終わらないと本土には入れない」
船から降り港から離れた僕達は出島の中央に聳え立つ冒険者ギルドの建物内に足を踏み入れていた。入国管理はここで行われているのでしばらくの間はここで待たないといけない。
ギルドの職員とやり取りをしているプリメインさんを見つつ腰を落ち着けようとしていたのだが、折角だから出島の中を見て回ったらいいと外へ押し出された。
「手続きが終わるまで何時間もかかるみたいだし、ちょっと見て回ろうか」
「そうでありますな」
「この街は儂でも知らんものがいっぱいあって面白そうじゃ」
魔獣達は目立ちすぎるだろうという事でヘルメス(人間の姿バージョン)に面倒を見て貰う事にして、僕達四人は街中へ繰り出して行った。
聖光国スピルネルによく見られるようなレンガ造りや石造りの家屋ではなく木造建築で建てられたもののようだ。屋根には瓦と呼ばれる変わった形をした平べったいレンガが積み重なれている。
その殆どが一階建ての所謂平屋と呼ばれるような造りで二階建ての建物は宿屋だったり重要な施設や高級店のみのもののようだ。
「ふうん、やっぱりヤマトノクニの領内だけあってこちらじゃ見られない格好をしてる人が多いのね」
ノエルが言うように出島を練り歩いている人達の中には僕達西洋人とは明らかに違う格好をしてる人が目立っていた。
「和服、って言うんだっけ? オリエンタルでエキゾチックな出で立ちよね」
「確か……振袖とか袴とか、そういう名前の服装だったと思うでありますが」
実家の書庫に東の国の風俗(衣食住など日常生活のしきたりや習わし、風習という意味合いでの)を纏めた本があった、とレンカの言。
僕達西洋人の洋服のようにきちんと縫製された布地ではなく、一枚の着物をかけて帯で止めるような構成が基本のようだった。
あくまでも基本であって上級階級の人達は上着に羽織下に袴といった格好をしていたりもする。
髪型は僕達とそんなに変わらない人もいれば、結い上げた独特の形を成している人もいた。これも多分身分や立場によって分かれているのだと思う。
ヤマトノクニの人々は小柄な人が多く童顔で年よりもだいぶ若く見える特徴があるらしく、成人男性でも中肉中背くらいの体格がせいぜいと言った所らしい。
「面白い……折角じゃから儂らも同じように着飾ってみるかの?」
目を爛々と輝かせたシェイランが、立ち並ぶ店の一つ、『呉服屋』と書かれた看板を見てそう言った。
料金を支払い服を見繕って貰った僕達は等身大の姿見の前に立ち、あれこれと手解きを受けながら和服に袖を通した。
レンカは紅葉、シェイランは唐草、ノエルは梅をモチーフとした文様の振袖姿に。
シェイランとノエルはそれぞれ長い髪を束ね簪と呼ばれる装飾品を刺している。
そして……僕はと言うと……
「可愛い~! テイル君似合ってるわよ」
「男とは思えんのう」
「下手すると私よりも可愛いのでは……」
何故か僕が着ているのは桐文様と呼ばれる桐の木をモチーフとした振袖である。いや、絵柄に文句はない。桐の木には鳳凰が住む、という伝説があるという逸話を聞いてこの絵柄がいいと言ったのは僕自身だ。
問題はなぜ僕が女物の服を着ているのか、という事だ。店員の人にいくら男だと説明しても信じて貰えず結局そのまま用意された振袖を着る羽目になってしまった。
どうしてこう度々こういう扱いになってしまうのか……。
ため息を付きながらそう言うとノエルはそんな僕を笑い飛ばすように言った。
「仕方ないじゃない。テイル君ってばヤマトノクニの人達以上に小柄で童顔なんだから。ぶっちゃけ私よりも可愛いもん」
思い出した。ノエルは正直に思った事を口にしすぎるきらいがあり、悪く言えばデリカシーにかける部分があるのだという事を。
しかし判断や言っている事は間違ってないので反論もしずらい。僕が僕以外の面々に下手な女の子よりも可愛いと思われているのは周知の事実である。
拗ねてしばらく口を聞かなかった僕なのだが、そんな様も可愛いと言われてしまっては立つ瀬もなく、諦めてギルドに戻った所にプリメインさんにも可愛い似合ってるを連呼されてトドメを刺されてしまったのだった。
東の国に来て皆さんモードチェンジした様です(´ー`)




