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六十三話

王都ネフタルを経って三週間が()ち、予定通り僕達は港町イーストサイドへと辿り着いた。


海に面しているだけあって塩気を含んだ風が独特の匂いと共に鼻腔(びこう)を刺激する。カモメやウミネコの鳴き声と共に帰港した漁師達の掛け声や市場で魚を卸す商人達の活気が路地まで届いてくる。


立ち並ぶ屋台や人々の喧噪(けんそう)、どこまでも青い水平線に港に停泊する大小様々な帆船。


内陸部では決して見られない光景にレンカや僕などは目を(またた)かせていた。



「さて、それじゃあ私は船長に顔出ししてこようかな」

「いってらっしゃい」



イーストサイドに到着する前から既に大方の準備は済ませていたらしいのでこれからプリメインさんがやろうとしているのは顔合わせと細かい調整といった所だろう。


彼女は荷馬車に揺られながらも伝書鳩を用いた独自のネットワークを使い水の勇者の情報収集や舟の手配などをこなしていた。本来ならば港についてから交渉となっていた筈だから時間短縮して貰えるのは素直に有難かった。


プリメインさんは夜までに戻ってくるという事だったので僕達は物見遊山(ものみゆざん)をしながら時間を(つぶ)す事にした。

路地には様々な屋台が建ち並んでおり、新鮮な魚や海産物を見て回るだけでも飽きない。


オクトパス焼きというイーストサイドの名物料理を買って味わいながら食べ歩いた。オクトパス焼きとはタコを小麦粉で包んで焼いた生地に海苔や鰹節をまぶせソースを付けて食べる料理だった。


外側はカリカリ、中は熱くてトロトロの生地の中には独特のコリコリとした歯応えのある感触。癖になりそうな味だ。


帰ってきたプリメインさんが僕達の口に付いた海苔やソースの跡を見て自分達だけ楽しんでズルいと()ねたのはここだけの話だ。その後彼女はノエルを誘ってこっそりと屋台にオクトパス焼きを買いに走ったらしい(ノエル談)



宿で一夜を明かした後僕達はプリメインさんの手引きでヤマトノクニへ向かう船へと乗船する事になった。あまり大きい船だと小回りがきかず浅瀬や渦潮を越えるのに不向きだという事で中型帆船を手配したらしい。

小型のものだと仲間達が道中(くつろ)げるスペースも無くなってしまうからある適度の大きさがあった方がいいのだ。


魔獣達を引き連れている僕達はあまりいい顔はされないと思っていたのだが、プリメインさんがどう交渉したのかは分からないが船長を初めとして船乗り達は実に快く僕達を向かい入れてくれた。


「心配すんな、皆が皆そうって訳じゃねえが、基本船乗りってのは(げん)を担ぐもんだからな。鳳凰を引き連れている奴を邪険に扱ったりはしねえよ」


どうも鳳雛という魔獣はヤマトノクニを初めとする東方の界隈では朱雀という聖獣として扱われるらしい。

『ボクのお陰で歓迎されたんだ、感謝しなさい』とピピの久しぶりのドヤ顔を拝みつつ、有難くあやかる事にした。





そうして船旅が始まって二日程が経過してこれまでは順調に進んでこれたのだが、ここに来て航海を邪魔する障害が現れた。


「おい、ありゃあクリムゾンアングラーじゃねえか」

「かなりの数がいるな」


漁師達の話によるとこの紅い体色のアンコウは本来は深海に()む魔物らしく、水圧の関係で海上にまで上がってくると身体が(ふく)れ上がりニメートル近い巨体になるらしい。

そんな大きな体躯の魚が群れをなして舟の進行を妨げるかのように水面をぴちゃぴちゃと跳ね回っていた。


「船長、いったいどうしたら……」

「心配する事はねえ。向こうがダゴンの手先なら、こっちにはクラーケンの眷属だ」


心配になって尋ねると船長はそう答えた。

気が付くと船を守るかのように幾つものトゲトゲした丸いシルエットが取り囲んでいた。


「あれは……?」

「ハリマンボン、フグの仲間なんだが先端のトゲには強力な毒素を含んでる頼もしい連中さ。海上に来て膨らんだ奴らには丁度いい相手だろ」


ハリマンボンと呼ばれた魚の群れは一直線にクリムゾンアングラーの方へ向かっていく。やがて膨らんだ風船を針で突いたような破裂音が鳴り響き、アンコウ達は文字通り海の藻屑と化していった。


「凄い……魔獣ならともかくあんな魔物達が人間の味方をするなんて」

「正にクラーケン様々ってやつだな。海に関わる仕事をしてる奴でクラーケンを信仰してない奴は居ねえ。文字通りの海の守り神だからな」


クラーケンが人間との共存を望んでいる、というのは本当らしい。頼もしい事この上なしだった。


「とは言っても、こちらも守らなきゃなんねえ決まり事は幾つかある。海の魔物達の縄張りを荒らさねえ事とかな」


クラーケンの眷属達が(たむろ)している海域と漁師達が立ち入る区域は厳格に棲み分けが成されており、それを破った者には人間魔物問わず海の帝王直々による制裁が加えられるらしい。


クラーケンは十本の触手を持つ全長20メートルの怪物だという事で、逆らおう等と考える者はいない。

それこそ、深海を支配しているダゴンの一味くらいのものだ。


これだけの広く強い影響力を持つ海の帝王クラーケン。そしてそのクラーケンと通じ合う水の勇者。


これから起こるであろう彼等との邂逅(かいこう)に僕は期待に胸を膨らませるのだった。

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