六十一話
「クラーケン……水の勇者」
プリメインさんが提示した二つの名前。クラーケンの方は知らないが、水の勇者の方なら流石に聞いた事がある。
そう、聞いた事がある程度なのだ。
四大勇者の一人でありながらその情報は秘匿されており噂話程度しか出回っていない。
華々しい活躍を見せる土の勇者や風の勇者とは反対に、その存在すら疑問視されている謎の存在。
それが水の勇者だった。
「クラーケンは大海を支配する海の帝王。そして水の勇者はそのクラーケンと協力関係にある」
「協力関係って……?」
水の勇者は僕と同じように魔獣使いなのだろうか?
勇者でありながら魔獣使い。僕が魔王(候補)でありながら魔獣使いであるのと同じように彼、あるいは彼女もまたそうなのか?
「魔獣使い君とは事情が違うよ。クラーケンは大海の覇者でありながら人間との和解を願っている稀有な魔獣……彼の目的を達するには、彼の意志を人間に伝える巫女が必要不可欠なんだ」
「それが、水の勇者なのでありますか?」
「クラーケンが見出した子が水の勇者としての適正もあって覚醒した、が本当の所らしいけどね」
クラーケン、巫女、水の勇者……幾つものキーワードが浮かび上がってくるが、それ以上に僕の頭を埋め尽くしていたのは、人間との和解を望んでいるという点だ。
「よおく考えてごらんよ。大海を支配する海の帝王が存在するなら、海の魔物はその支配下にあるんだ。クラーケンが人間を敵対視しているなら世界中で海難事故が多発していなきゃおかしいだろう?」
「でもそんな話は聞いた事が無い……つまり、クラーケンが人間と和解を願っているというのは本当であると?」
「そう、水の勇者はクラーケン達海の魔物達と人間との間に立ち橋渡しの役目をしている……世界の半分、海の平和は彼によって保たれている」
海の平和が彼(巫女って言ってなかったか?)によって保たれているのなら、確かに世界の平和の半分は彼によって支えられている。
しかし、でもならどうして……
「それならどうして存在を隠す必要が? 海の平和を保っているなら、間違いなく英雄じゃないの?」
僕と同じ事を考えたのかノエルがプリメインさんに尋ねた。ちなみにこの二人は共闘した経験を通じてかかなりウマが合うようで、普通にタメ口を聞いている。
「魔獣使い君なら分かるだろうが、人間と魔獣との関わりに否定的な人間は多いんだ。海の平和が水の勇者によって保たれているのなら、逆に、水の勇者を亡き者にして戦乱を引き起こそうと目論む者もいる」
「そんな……」
元々正義感の強いノエルはショックを受けているようだが、確かに、人間と魔獣との関わりに否定的な人達も多い。
「だから、彼の存在は秘匿されているんだ。それに、彼等の敵は決して人間だけじゃない」
「人間だけじゃないってどういう事ですか?」
「クラーケンは海の覇者だが、彼にも敵はいる。深海の王と呼ばれるダゴンだ」
深海の王ダゴン。なるほど……海の表層を支配しているのはクラーケンだが、深海層を支配しているのはダゴンなのか。そして彼等は対立しているんだ。
「そうだ。そしてダゴンは人間を憎んでいるし滅ぼそうと考えている。」
「ダゴンの存在もまた水の勇者と同じように隠されているって事ですね?」
「その通り。戦乱を引き起こしたい連中にとっては人間を憎むダゴンの存在は好都合なんだ。例えば、水の勇者を殺しその罪をダゴンに擦り付ければどうなると思う?」
「巫女を殺されたクラーケンはダゴンを許さない。両者がぶつかり合い消耗した所をまとめて片付けてしまえば、正に漁夫の利って事になりますね」
「そんな……酷すぎるわ」
眉を寄せるノエルに、僕は言う。
「ノエル。今の君になら分かるだろう。人間は……時にそういう残酷な事を平気でやってのける生き物なんだ」
「テイル君……」
言葉を失うノエル。僕にそう言われては彼女に立つ瀬は無いだろう。少し意地悪になってしまったな。
「もちろん、僕はそれが人間の全てだとは思っていないし、そんな酷い事をさせる気もない。人間と魔獣の間柄でありながら確かな絆を持っている彼等の存在は、僕にとって確かな指針となる」
「そうだ。それが彼らの存在を君に伝えた理由だよ。人間と魔獣との共存……本気でそれを目指すなら、彼等はいい教師になってくれる筈さ」
「ありがとうございますプリメインさん」
僕は情報提供をしてくれたプリメインさんにお礼を言うと、最後に確認する。
「それで、彼等は何処にいるんですか?」
そう、居場所が分からなければ仲間に加えようもないのだ。しかし今までのやり取りとは違ってプリメインさんは頬をポリポリと掻くとこう言った。
「それがねえ……分からないんだよね」
「ええっ!?」
「いやいや、『今は』分からないという事なんだけどね。彼等だって自分達の存在を外部に知られないように隠密行動を心掛けてるし、それを見つけられるのは世界でも情報の扱いに長けた私だけ、という事さ」
「なるほど……」
「とはいえ、大体の検討はついている。恐らくだけど、彼等が今居るのは東の大国……ヤマトノクニだ」
ヤマトノクニ。
新たな目的地が僕の前に告げられたのだった。
男なのに巫女とはこれ如何に(・∀・)
恐らく想像した通りで合ってます(*´罒`*)




