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六十話

シェイランの協力と活躍により、地平線を埋めていた無数のスライム達のおよそ四割程は駆除する事が出来た。

残ったスライム達が外に広がっていくペースはそこまで早くないので丸一日は滞在して休む時間が取れた。翌朝になり、ピピの背に乗って(ノエルはプリメインさんに運んで貰う形で)僕達はアズガルドさん達が本陣を組んでいるテントまで戻った。



「おう、やるじゃねーか! スライム達の増殖の原因を突き止めて契約を交わして帰ってくるたあな!」



ガッハッハッ、といつもの豪快な笑い声でアズガルドさんは僕達を迎えてくれた。

しかし、それだけで見逃して終わらせるのはギルドの腰を据える地の勇者としては有り得ないだろう。


客観的に見て僕達の報告にはかなりの穴が有るのだから。


シェイランの力や僕の魔王としての力の目覚め等を計算に入れずにあれだけのスライム達を倒すのは無理がある。


なのでスライム達の討伐数はかなり抑えてある。そもそものスライム増殖の原因であるマザースライムの暴走の原因も納得の出来るものを用意しなければならない。


結果としてオケアノスの存在は報告しない訳にはいかなかった。ただし奴の魔王を覚醒させる計画については伏せたままで。当然僕が最早人間の枠を越えている事も隠している。これはプリメインさんにも同意を得た上での事だ。


オケアノスと名乗る謎の男がマザースライムを暴走させスライム達の無限増殖による世界の破滅を目論んだが、それを退けライムと契約を交わして暴走を止めた。


これがアズガルドさんに報告した内容だ。マグナス達やウラヌスの存在は無かった事にされている。オケアノス以上に得体の知れないウラヌスや、力を得る為なら仲間ですら平然と犠牲にするマグナスを下手に刺激するような真似は危険だという結論に至った。


マグナスを止められるのは僕達だけだ。だから僕達が動きやすい状況を作る為にも余計な情報を渡してギルドに拘束される訳にはいかない。



僕達の報告を聞いたアズガルドさん達は最初は先程のように納得するような態度を見せていたが、やはり徐々に疑問が浮かんで来たのか幾つか指摘してきた。


「ふ~む、報告によるとマザースライムの周囲にいたスライム達の群れ、およそ総数の二割程度という事だったか……をお前達だけで退治したと言う事だが……本当にそんな事が出来るのか?


あいつらの総数は数億、下手すれば数兆、その二割なら数千万、数億という膨大な数だ。人間が太刀打ち出来る数ではないと思うんだがな」

「それについては私が説明しよう」


ノエルとの共闘、覚醒を得て本当の自分を取り戻した今のプリメインさんは一人称が「僕」から「私」に変化していた。

アズガルドさんもそれには気付いている様子で不思議そうな顔をしていたが声に出す事はなかった。


「聖女ノエルとの邂逅(かいこう)によって私達の力が覚醒したんだ。今までの限界を遥かに越える力を手に入れた。今回の作戦の成功はひとえにそれによるものが大きい」

「あの凄まじい竜巻はお前がやったのか? 確かにそれなら(うなず)ける話ではあるが」


彼が言っているのは恐らくシェイランが起こした竜巻の事だろう。シェイランの正体を知らないアズガルドさんは、あれをプリメインさんが引き起こしたものだと考えているのだ。


「そうさ、僕がやったんだ。聖女という存在は、勇者の力を覚醒させ高めてくれるものなのかもしれないね」

「聖女ノエルはマグナスのパーティーから離脱してテイル達に助けを求めて来たという話だったな。そこでプリメインと鉢合わせしたと」


聖女という単語が会話に出て来たので当事者であるノエルが話に加わる。


「そうです。マグナス達は今までの失態を帳消しにする為に今回のスライム増殖の件を自分達だけで解決しようと目論んでいました。私は逃げ出すチャンスだと思ったんです。これだけの案件なら必ず大規模なギルドの討伐隊が編成されている。そこに接触出来れば、私を追ってきたマグナス達もおいそれと手出し出来ないだろうって」

「まあ……確かに筋は通っちゃいるがな」


どこか納得出来ない様子でアズガルドさんは頭をがしがしと()く。彼が(つちか)ってきた豊富な経験則や勘が違和感を訴えているのだろう。



「それで、わざわざ戦闘奴隷を連れて逃げてきたってのか?」


アズガルドさんが視線を向けるのは、僕が抜けた旧臥龍鳳雛パーティーに壁役として連れてこられたという戦闘奴隷のアノンという男性だった。

ライザと並び立つ程に恵まれた体格、褐色の肌。ボサボサの銀髪、その間から覗く翡翠色の鋭い眼光、そして全身に渡る(おびただ)しい数の傷跡。


ノエルと出会う前に出来たものなのか、それともあまりに日常的に怪我をするのでノエルの治癒ですら追い付いていないのか、それは分からなかったが、彼の風貌、存在感は彼が戦闘奴隷として扱われ尚且つその中で生き残ってきた事を如実に示していた。


彼の存在は隠す訳にはいかなかった。何故なら彼の戦闘奴隷としての主人はマグナスだからだ。重傷をおったマグナスは動ける状態ではないだろうから今は何ともないが、復活したら自分を裏切ったアノンに制裁を加えるに違いなかった。


そして隷属の首輪の効力によって奴の目に付く場所に居れば電流を流され簡単に命を奪われてしまう。


隷属の首輪を外す為にはどうしても彼をギルドに紹介しなければならなかった。隷属の首輪に掛けられている魔法、もはや呪いとも言うべきシステムだが、その解除に関する情報は秘匿されておりそれにアクセス出来るのは国家クラスの権力を持つ者に限られている。


ギルドの上層部にアノンの立場と危機を訴えて交渉すれば彼の首輪を外して貰う事も出来る筈だ。

そう考えた僕達はアノンをアズガルドさんに引き渡す事を決めた。



「奴隷……特に戦闘奴隷の身にまで堕とされるって事は、相応の事をやらかしたって事だ。危機的状況で放置して逃亡したとしても主人は罪に問われねえ。それなのに、自分自身も逃げ切れるか分からない状態で連れて帰ってきたってのか?」

「罪人と言うのならば、そもそも私自身が許されない罪を犯しています。今の私に人を選別する資格などありません」


自分を卑下するような言葉とは裏腹に、ノエルは堂々と胸を張って答えている。本当の自分を取り戻したという自負が、今の彼女を支えている。


「確かにまあ、そうだな。だが、少なくともノエル・スプライド。あんたには情状酌量の余地はある。心から罪を懺悔し、旧臥龍鳳雛パーティーの情報を洗いざらいぶちまけてくれるなら、な」

「もちろん話しますよ。そのつもりでここまで来たのですから」

「そうか、それなら取り敢えず……保留という事にしようや。あんた自身の処遇もそうだが、その戦闘奴隷についての扱いもな」


ノエルの返答に満足したのか、取り敢えずそれ以上の追求は打ち切るようだ。


「今はスライム達の残党……というには数が多すぎるけど……を処理する方が先決という事だね?」

「そういうこった。スライム達の第一波はほぼ殲滅したが、すぐにまた第二波が雪崩れ込んで来る。お前達には悪いが少し休んだらまた先陣に加わって貰うぜ」


そう言ってアズガルドさんはこれで話は終了だ、と席を立った。



「やれやれ、取り敢えずは何とかなったようだね」

「プリメインさんのおかげです」

「まあ、奴との付き合いも長いからね。やり過ごす方法もそれなりには身に付けているさ」


今回のアズガルドさんとの面談を取りまとめてくれたのはプリメインさんだった。皆で話し合った事ではあるが、概ねプリメインさんの意見を取り入れての報告となった。

情報屋としての力も一級品の彼女の助力がなかったらギルドからの追求をかわしきれなかったかも知れない。


「そこは気にしないでくれ。私は私で今回の件で得られたものは大きかった。持ちつ持たれつ、というやつだよ」

「そう言って貰えると助かります」

「まあ、アズガルドの奴はまだ疑ってはいるだろうが証拠は何も無い。しばらくは静観するはずさ。そしてその内に私としては次の行動に移っておきたい」

「次の行動?」

「新しい戦力の確保さ。マグナス達やギルド本部を敵に回した時の事を考えても戦力が多い事に越した事は無い」


ハッキリと言葉にした訳ではなかったが、彼女にしてみればもう僕達と行動を共にするのは確定事項らしい。

そうして先を見据えた彼女からもたらされた提案、それは──



「Sランクモンスター『クラーケン』と『水の勇者』を仲間に入れるんだ」



二つの強大な戦力の確保だった。

ここでようやく折り返し地点

これから後半戦に移っていきます(゜∀゜)


アノンの風貌描写を付け加えました

22 8/22

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