六話
「それにしても……ゴブリンはどこにいるんだろう?」
まず思い浮かんだのがそれだった。ゴブリンは単体で現れる事は殆どない。大体は徒党を組んで行動するし、洞窟の中とか自分達の集落とかそういう本拠地に群れで住み着くのが普通だ。
そしてこういう洞窟に住み着いたら普通は入り口に最低でも二~三体は見張り番が居座っているものなのだが。
しかし入り口付近には魔物の気配がせず、中に侵入しても迎撃に誰かが出てくる気配も無かった。
外に狩りにでも出掛けているのだろうか? もしそうだとしても本拠地を完全に空にする事は有り得ない。
何かが起きているのでは? という疑念の元に警戒レベルを一つ繰り上げてゆっくりと慎重に進む。
何かの罠なのかとも思ったが僕の罠感知スキルには何も引っかからなかった。僕の罠感知スキルはせいぜい10段階のうち3~4LVがいい所と言った所だが、ゴブリン程度が仕掛ける罠などそれで十分感知出来る。
「あ、そういえば……最近ステータス確認してないな……まあいいや、とりあえずセーフティポイントを確保してからだ」
索敵役の僕がピピの背中に乗り敵の姿が確認でき次第前衛兼壁役として前に出るのが臥竜鳳雛時代のいつものやり方だった。
今回はまあ後ろから僕が指示役&補助をこなせばいいか。
と頭の中で戦闘時のシミュレーションをしながら進んでいったのだが、それが生かされる事なく丁度よさげなセーフティポイントを見つけてしまった。
セーフティポイントとはその名の通り安全が確保できるスペースの事を指す。鍵の掛けられる密室の中とか、魔物を寄せ付けない光の魔素が満ちた場所とか、こういう場所を見つけて確保するのは主に斥候役のスキルだ。
周囲に何も危険がない事を確認すると、僕は荷物袋から取り出した光の魔石を砕いて結界を作る。これで自分のレベル以下の弱い魔物なら中に入って来られなくなる。
結界を張るのは魔法使いのスキルになるがスカウトが兼任する場合もある。
ちなみに結界を貼るのは必ずしも光の魔石である必要はない。その場に一番濃く満ちている属性の魔石を砕いて術を発動すれば結界は貼れる。ただそれには対応する属性の魔法が使えないといけない。
例えば、火山の近くとか火属性の魔素が濃い場所で結界を貼ろうと思うなら火属性魔法スキルがLV2以上必要になる。
僕はどんな場所でも結界を貼ってセーフティポイントを作れるように無属性も含めた全ての属性魔法スキルのLVを2まで修得している。
ちなみに精霊石という砕いて使えばどんな場所でも結界が貼れるという便利アイテムもあるが、通常の魔石よりもずっと値が張るので僕は基本的に使ってない。
「よし……ステータスオープン」
僕はそう叫んで鑑定スキルLV3を発動した。翳した手の平の二回り程大きなサイズの魔導書が顕現する。
鑑定スキルのレベル1は誰でも使える、全ての者が生まれ持ったものだ。ただしそれで見れるのは自分のステータスだけで、それも詳細までは見られない。
レベル1で分かるのは自分のレベルと最大HP,最大MPだけだ。
自分の職業やスキルを確認出来るようになるのはレベル2から。詳細なステータスが見れるようになるのはレベル3からだ。このように、レベルが上がる程に鑑定出来る項目が増えていき、高レベルになるとあとどれくらいの経験で次のレベルに上がるかとか、次に覚えられるようになるスキルとかを先読み出来るらしい。
ただしこれは相当の高等技術でありそれを実際に出来る人間は殆どいない。
なのでどうしても詳細に調べたかったら高レベルの商人を仲間にするかまたは金を払って鑑定してもらうかのどちらかになる。
教会が独自に行っている活動で年に一回無料で鑑定をして貰える選別の義という行事がある。これで皆自分の適職を調べるのである。
僕の鑑定スキルは長年の弛まぬ努力により何とかLV3までは上がっている。開かれた魔導書に記された自分のステータスを確認する。
テイル・スフレングクス Lv27
職業:魔獣使い
HP120
MP260
攻撃力75
防御力210
素早さ65
魔力88
魔法防御力182
魔獣使いの特徴としては全体的にステータスが低い事が上げられる。その代わりに使役するモンスターのステータスに+の補正効果がかかる。魔獣使役というスキルだ。
一部高い能力値があるのには訳がある。
まず最大MPに関しては職業に関係なく新しいスキルを覚えたりスキルLVが上がる毎に上昇するという特徴がある。
通常、適正ではないスキルを覚えるのはかなり手間と時間がかかり、そこまで労力を費やすなら長所を伸ばした方がいいという理由から適正スキル以外を覚える者は殆どいない。
その代わりに最大MPが増えるという恩恵を受けられる訳だ。
僕は成長しないピピの穴埋めをする為に一人で沢山の役割を請け負いスキル技術を磨いてきた。その結果としてMPはかなり高くなっていた。
防御力と魔法防御力が高いのは単純にそれだけいい装備を身に付けているからだ。素のステータスは他の項目と同様高くない。
能力値を確認した後は所持スキルの項目を確認する。
所持スキル
契約
│
魔獣使役LV6
気配感知LV10
気配遮断LV6
鑑定LV3
調理LV2
罠感知LV2
精霊魔法
│
炎LV2
水LV2
風LV2
土LV2
光LV2
闇LV2
無属性LV2
耐性
|
氷耐性LV2
魔法耐性LV2
物理耐性LV2
耐性が沢山ついているのには理由がある。臥竜鳳雛のパーティーメンバーの使うスキルを長年受け続けてきたからだ。
とはいっても別に虐待行為を受けてきたとかそういう訳ではなく、壁&囮役として敵を引き付けた僕とピピを後ろから仲間達が僕達ごと範囲攻撃をかけてなぎ倒すというとんでもない戦術を長年取ってきたせいだ。
これも別に強制された訳では無い。僕が自分から志願したのだ。(提案したのはマグナスだが)
ピピはとにかく物理と魔法の耐性と体力に優れていた。仲間の攻撃を受けてもあまりダメージが通らない。さすがにまともに直撃すればそれなりにダメージを受けるがそこは僕の気配感知スキルにより攻撃を先読みする事で直撃は避けていた。僕自身も防具や特殊効果のあるアクセサリーは一番いいものを優先して回して貰っていたし、戦闘終了後にはすぐにノエルの治癒魔法をかけて貰っていたので大事には至ってこなかった。
「うん、特に変動はないかな……」
魔導書を閉じると結界から出て再び先に進む。すると、嗅ぎなれた臭いが奥の道から漂ってくる。
血の臭い。戦場では必ずといっていい程嗅いできた臭いだ。鼻をくんくんとさせながら臭いを辿っていくと、やがて大きな空間に辿り着いた。
山々と積まれた荷物、樽、食料。犠牲者のものと思われる人骨がバラバラに散らばっている。どれもだいぶ時間が経っているようで、惨劇が起こったのだとしてもそれはもう風化して朽ち果てていた。
そして一番奥には玉座。木の枠で作られた粗末なものだが、恐らくここにゴブリンの首領が陣取っていたのだろう、本来ならば。
しかし今は玉座には誰もおらず、何の気配もなかった。
ただ1つ、人間のものとは違う青い血がそこらじゅうに撒き散らされており、それが引き摺られるように奥の穴へと続いていた。
大きな岩盤がぶち抜かれたかのように四方に欠片が散らばり、何者かの手によって一撃で大穴が開けられた事を示していた。
「ピピィ……」
「うん、わかってる」
ピピが普通じゃない、と警告を発している。そしてその警告はこれ以上ない程に当たっている。
洞窟の様子は、何者かが外部から侵入し中にいたゴブリン達を全滅させた事実を指し示していた。
ステータスやスキルの項目、数値は変更される可能性がありますので予めご了承ください




