五十四話
プリメインside
聖女を見ているとまるで自分を見ているようで好きになれなかった。
同族嫌悪と言うやつだ。
聖女と勇者。共に世界を救う使命を担う選ばれし者だ。勇者は四人、聖女は三人、たったそれだけの人数しかいない。そして、その双肩にかかる責任はとてつもなく重い。
旧臥龍鳳雛のパーティーに出会った時、聖女が自分の使命の重みに押し潰されそうになっているのを見て自分と同じだと感じていた。そして、ああはなるまいと密かに見下していたのだと思う。
本当は同じように自分も勇者という立場の重みに耐えかねて逃げ出したかった癖に。
◆
私の故郷は魔王を信仰する魔人が率いる魔物達によって滅ばされた。私はただ一人運良く生き残った。何の因果か村が襲撃を受けるその日に私はたまたま村から離れており、風の精霊と契約を交わし勇者となったのだ。
魔人が村を襲ったのは風の勇者が誕生するのを予知していたからだ。私が勇者にならなければ村は全滅しなかったのだと思うと皮肉なものだ。
私は村から離れた場所で風の勇者となり、目覚めたその力で魔物達の襲撃から生き延びた。復讐を果たす為に私は力を磨き、やがて程なくして村を襲撃した魔人を打ち倒した。
その功績と力を認められ、私は聖皇国スピルネルから公爵の地位と王国の勇者としての立場を求められた。
しかし私はこれを断り、本当はギルドにも在籍するつもりもなかったのだが冒険者にならないと国境線を越えられないと言われた為しぶしぶギルドに加入した。
たった一人のクラン。雲竜風虎などと大層な名前を付けては見たものの、中身が伴っていないことは自分が一番良く知っていた。
そもそも私は復讐など考えてはいなかった。村に私の居場所などなかったのだ。実の両親を含め村の連中からは酷い虐待を受けていた。村から離れていたのも自分の住んだ家や村に居場所が無かったからだ。
自由になりたい、と常に思っていた。この陰鬱な環境から逃げ出せるなら何だっていいと思っていた。神様はそれを叶えてくれたと言える。
だが、村から出る代わりに与えられたものは、抱えきれない程に重い勇者という責務の重圧と、生きる意味を見い出せない空っぽの人間が持つ虚しさだけだった。
ただ勇者となったからにはそれらしい理由も必要だろうと故郷の敵討ちをする事にして、そして大した苦労もする事無く魔人を討伐し目的を遂げてしまった。
私には勇者になった喜びや感動などは何も無かった。気持ちがついていかないままに状況だけが整えられ気持ち悪い程に順調に出世街道が開かれていった。
だからスピルネルの誘いを断った。王家に縛られるなど真っ平御免だった。自由が欲しくて力を手に入れた筈の私は、再び自由を求めて逃げ出した。
空っぽの自分を認めるのが怖かった。だから表向きは、風の勇者らしく自由を愛するが故に、という理由で単独世界を旅して周り、勇者の名に恥じない程度ようにと働き、各地で得た情報をギルドや国に売って過ごした。
自分の戦い方では風が強力すぎて仲間を巻き込んでしまう、という理由で他人とパ-ティーを組む事を拒んだ。本当はただちっぽけな自分を知られるのが怖くて拒絶していただけだった。
面目とプライドを保たせる為だけに修行にひたすら励んだ。本当に他人を巻き込んでしまう程の強力な力を身につける為だけに。嘘を本当にする為だけに。
いつしか私の名前が独り歩きし始め、単独でSランクまで登りつめた最強の女勇者、という名声や噂が広まっていった。
名前が売れてくると近寄ってくる人間も増える。しかし私は他人に絡まれるのは嫌だったので、何とかそれを防ごうと立ち回った。
自由を愛する変わり者、けれど実力は折り紙付き、という人物像を描き、それを全うする事に励み執着した。一人称が『僕』なのも、男のような格好をするのも、全てキャラ作りだった。
本当の自分を覆い隠す為に、空っぽの自分を隠す為に。
誰も近寄らせなければ誰にも空っぽの自分を知られる事も無い。
自分を誤魔化し続け、自分を騙し続けていつしかそれが当たり前になってきた頃に、私は聖女と出会ったのだ。
彼女を見ているとかつての自分を思い起こされて堪らなかった。聖女の重責に耐えかねて自分を見失い仲間を見捨てた愚かな女だと見下し蔑む事で自分は違うのだと言い聞かせてきた。
だが聖女は結局私のそんな醜い同族嫌悪と自己保身によって下された評価にいつまでも囚われ続けるような人間ではなかった。
殺される寸前まで追い詰められ逃げろと皆に言われても彼女はそれを拒んだ。
そして、あろう事か彼女はあの凶悪な魔剣を持つ氷の勇者に自ら立ち向かう事を選択した。聖女という能力と立場を考えたら有り得ない事だ。
けれど彼女は水を得た魚の如く、巧みな戦闘技術と修練に支えられた強健な肉体によって氷の勇者を押していき戦況が覆されていく。
あの恐ろしい紅剣の吸収能力が闇の力によるものだと見抜いて自らの光の魔力で封殺せしめた。
そして今度は私に援護に回れという。単独で世界最強と呼ばれた私にだ。風の力は援護に最適だと、彼女は私に微笑んで言った。
なんだが彼女のその笑顔が眩しくて、それならやってみようか、と了承してしまった。あれだけ他人を拒んでいた私が。
そして、実際に氷の勇者が繰り出した吹雪を砂塵を纏わせた風で相殺した時、今まで全く感じた事の無い手応えを感じた。
それは今までの自分とは違う、新たな何かの到来だった。
思わず笑みが浮かんでいた。
楽しい。この気持ちはどこから来るのだろう。後から後から力が、勇気が湧いてくる。空っぽだと思っていた自分が、ここに居るんだと自己主張しているようだった。
「楽しいなあ……こんなに楽しい事があるなんて」
聖女が本当の自分を取り戻し覚醒したように、私もまた、覚醒したようだった。
ノエルに引き続きプリメインさんもパワーアップ(^O^)




