五話
「気持ちは嬉しいけど、ごめん」
僕は速攻で彼女の申し出を断った。みるみる彼女が消沈していくのが分かる。僕は慌ててフォローに入る。
「ああいや、別に君と組むのが嫌だとかそういう事ではなくて……僕は長年連れ添った仲間にクビにされたばかりだし、正直人を信用出来なくなったというか……しばらく一人でいたいんだ」
「クビ……ですか? テイル様が? 何故でありますか?」
彼女は僕が臥竜鳳雛をクビになったのが心底不思議だったのか目を丸くして尋ねてきた。この子は知らないのだろうか? 僕が大して実力もないのに聖女ノエルの連れだという事を利用してパーティーに寄生しているという噂を。
「実力不足で役に立たないと判断されたんだよ。実際、彼等について行くので精一杯だったし、そう言われても仕方ない」
ピピがいつまで経っても成長しないから、とは死んでも言いたく無かった。契約を交わしたモンスターが成長出来ないならそれはテイマーの責任に他ならない。
僕が臥竜鳳雛をクビになったのは正真正銘自分のせいだ。
彼女は僕の答えに腑に落ちないような表情をしていたが、それ以上追及してくる事はなかった。
そうですか……と言ったきり考え込むレンカに僕は何だか居心地が悪くなってきて、僕は席を立つ事にした。
「じゃあ、僕は行くから。今日はどうもありがとう」
「テイル様。私は今でも貴方様こそが臥竜鳳雛の中核を担っていた実力者だと信じているであります。一度ソロで活動すればきっとご自分でも理解される筈です」
掛けられた言葉の内容に思わず振り向くと、彼女は真剣そのものといった表情でこちらを見つめていた。
僕はそんな風に真っ直ぐ僕を見つめてくる彼女の視線に耐えられなくて、逃げるようにその場を後にした。
「ピピピィ、ピピ……ピピピ!」
ピピが早歩きで進む僕を追いかけながら必死に「彼女の言う通りだよ、テイルはすごいよ」と声を掛けてくれる。その必死な様子が何だかおかしくて僕はピピの頭を撫でた。
「うん、ありがとうピピ。とにかく、僕達だけでどれだけやれるのか確かめてみよう」
「ピピイッ!」
ピピの気合いの入った鳴き声が路地に響いた。
◆
「さて、ここら辺だったと思うけど」
僕達は王都ネフタルの郊外に位置する人気のない森林の奥に居た。ここに依頼表に書いてあった洞窟がある。
普通は依頼表を見るだけではなく依頼者にあって色々情報を聞くものなのだがこのゴブリン退治は何度もギルドに依頼されているもので定期的に行われているものだ。わざわざ依頼者に会う必要はないと判断した。
しばらく歩くと件の洞窟の入り口が見えてくる。
依頼表に書かれた情報によればこの洞窟はそこまで大きい規模のものでは無い。従って中に潜んでいるゴブリンの数もそう多くはない筈。
そうは言っても過信は禁物なので低ランク冒険者ならばソロで乗り込むような事はせずパーティーを組んで向かうべきではある。
ただまあ実力不足で追い出されたとはいえ仮にも僕はSランクパーティーに在籍していた者だ。Dランク相当の依頼の敵などソロでも十分突破できる自負はあった。
それに今はやはり誰かとパーティーを組んで戦う気にはなれなかった。レンカの申し出は今の立場を考えればとてもありがたいものだったのだが……。
いや、今は余計な事を考えるのは良そう。いずれ誰かとパーティーを組むにしても、まずは現状の自分の実力をきちんと確かめてからだ。その為にこの依頼を受けたのだから。決意を固めると僕は洞窟の中へと足を踏み入れていった。
Sideレンカ
王都ネフタルの冒険者ギルドで私はギルド長から信じられない情報を聞いた。私が長年憧れて追いかけていたSランクパーティーのテイマー、テイル・スフレンクス様が臥竜鳳雛を脱退しソロ冒険者になったというのだ。
にわかには信じられない話だったが、実際にギルドの酒場でDランクの依頼表を手に取るテイル様とその使い魔のピピ殿を見てギルド長の話は本当だったのだと確信した。
テイル様が一人になった事をどう解釈したのかゴロツキが絡んでいたのでつい手が伸びてしまった。テイル様は争い事を好まれるようなお方では無いのでご自分のお力をひけらかすような真似はしないだろうと思い僭越ながら私が代わりに排除させて頂いた。
その後私はテイル様にお礼にと行きつけの酒場へと連れていって貰った。騒ぎを起こしたギルドで話はしずらいだろうという心遣いに私は益々テイル様に惚れ込んだ。
ドキドキしながら憧れのテイル様と会話をしていくうちに不可解な事実が浮かび上がってきた。
ご自分の意志で脱退したのではなくクビになった?
そんな馬鹿な。
実力不足だって? 何かテイル様はとんでもない勘違いを為されておられるのではないだろうか。
むしろ寄生していたのはあの有象無象共の方だ。もちろん仮にもSランクにまで登りつめたパーティーだ。それなりの実力があるのは理解している。
しかしそれを最大限に生かしパーティーとして成り立たせていたのはテイル様のお力によるものだ。私はとある事情から彼等臥竜鳳雛の事を調べ尽くしてきたのでその事を知っている。
テイル様が世間一般で言われているような寄生虫などではない事も重々承知している。
もしかして、気づいていないのではないだろうか。
テイル様を初め、有象無象共も。テイル様の本当の実力を分かっていないから追放等という見当違いも甚だしい行動に移せるのだ。
しばらく考えた後私はテイル様を説得する事を諦めた。ここで私がどうこういうよりも実際に一人で活動してみれば分かる筈だ。
ついでにテイル様がお一人(と一匹)でご活躍なされている姿をストーキ……いや、陰ながら見守りたいと私は密かに後をついて行く事にした。
レンカさんはテイルの熱心なストー……信者でした