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四十九話

空の上から地上を見下ろすと、全長10メートルを超える巨大なスライムが鎮座しているのが見える。波打つように脈動し、魔の波動と共に外側に向かい排出されるそれは、小型のスライムだった。


「マザースライム……」


ぼそり、とシェイランがピピの背中の上で呟く。プリメインさんが近くにいる為に正体を晒す訳にはいかず人型の姿を彼女は取っている。

シェイランに何とかして貰う事は期待出来そうにない。


本来の姿に戻った彼女がひとたび本気を出せばこの地平線を埋め尽くすスライムの山もあっという間に消し炭に出来るだろう。

正体をバラし世界に危険視される事と引き換えに。


それは最終手段という事にして、とりあえず自分達の力だけで何とかしなければならない。あくまでもシェイランの立ち位置は今のところゲストであり、はなから彼女に頼るような素振りを見せればそれは彼女を失望させる事になるだろう。


「あの巨大なスライムの正体を知っているのかい?」


シェイランの正体を知らないプリメインさんは彼女をただのちょっと物知りな冒険者くらいにしか思ってないだろう。彼女に気取られないようにしないと。

風の勇者VS竜王のカードは魅力的ではあるが見たくはない。


「うむ。スライム種の頂点に立つ者。全てのスライムの母じゃ」

「なるほど、だから『マザー』スライムなんだね」

「じゃが……どうやら今回の件はマザー自身の意思で起こされている訳ではないようじゃな」


よく見てみい、というシェイランの言に従い巨大なスライムをよく観察してみると、マザースライムの内部に何者かが入り込んでいるのが分かる。

そいつはマザーの中心点にある赤い核に手を翳し強い魔力を送っているようだった。


「マザーの核、あの赤い中心点に何者かが干渉し無理矢理子スライム達を産み出させているようじゃ」

「なるほど。では、マザーの体内に入り込んでいるあの正体不明の人物を倒すなり追い払うなりすれば子スライム達の増殖は止まるという事だね」


プリメインさんと皆を乗せたピピはマザーの身体の上にふわりと着地する。



マザースライムの中に潜んでいた何者かは僕達の接近に気付き、意識をこちらに向けた。すると、それまで無秩序に放射状に外に広がり続けるだけだった周囲のスライム達が途端にこちらに向き直った。


「どうやら中の奴はマザーだけではなく子スライム達の行動もある程度操れるみたいだね」


そう言うとプリメインさんは踊るように優雅な所作で両腕を振るう。


「風の囁き 魔迅旋風(まじんせんぷう)


濃密な魔力が乗せられたそれは突風となり近付こうとしていたスライム達をまとめて吹っ飛ばす。威力は手加減されているようで吹っ飛ばされたスライム達は形を崩す程度に留まっていた。



思わずプリメインさんのほうに視線を向けると彼女の透き通るような瞳とかち合った。彼女は薄く微笑むとこう言った。


「彼らは操られているだけのようだからね。魔獣使いの君の前で無為に魔物を殺戮するのも目覚めが悪いから」


厳密に言うと僕が使役する魔獣と魔物とは似て非なるものだ。

魔物は魔に全てを支配され知能もなく本能だけで動く存在だが魔獣は魔に呑まれず正しく魔に順応した進化した種なのだ。


高い知性を持ち人間ともコミュニケーションが可能だからこそ魔獣使いと契約を交わす事ができる。僕はそうした彼等に尊敬と畏怖の念を持っているが、冒険者は大体が魔獣と魔物を一緒くたに扱い化け物としか考えていない。


魔物と敵対する者の代表とも言える勇者が偏見を持ち込まず正しく物を見る目を持っていることに僕は喜びの念を禁じ得なかった。



プリメインさんの魔法によって吹き飛ばされたスライム達が時間を置いて再びこちらに押し寄せてくる。プリメインさんがいくら有能でも相手は尽きる事の無い数だ。


ここは僕らも彼女に協力してひとまずマザーの内部に入り込む時間を稼がなければならない。道具袋から宝玉を取り出して呼びかける。


「チィ、子供たち。出番だよ」


すると最初にビルドアントの女王であるチィが顔を出し周囲をキョロキョロと見渡す。状況を理解した彼女は一旦顔を引っ込めた後、兵隊蟻達を引き連れてぞろぞろとマザースライムを囲む形で陣を貼った。


「プリメインさん。こっちの半分はこの蟻達が引き受けます。もう半分をお願いします」

「分かった。近寄らせなければいいんだね?」


ビルドアントは単体でもBランク相当の力を持っているかなり強力な種である。対して周囲を覆い尽くしているスライム達はブルースライムと言われる種であり最下級のEランクだ。


もちろんスライムにも様々な種があり、強さも様々でありスライム種自体が弱いという事では無い。ただ今のところ最下級の最弱スライムしか出てきていないのでビルドアント達で十分に対処可能だろう。


「チィ、彼等は操られているだけなんだ。だからなるべく殺さずに追い払うようにして欲しい」

「チィ~? チィチィ!」


分かりました! とチィは頷くと鳴き声で兵隊蟻達に指令を与えたようで、ビルドアント達は陣の内部にスライム達を近づかせないように動き始めた。


続けて宝玉の中から出てきた白いリッチーことヘルメスは手にした小瓶の中身をチィの身体に振りかけた。


「チィ?」


するとチィの身体が眩い光に包まれ、続けて兵隊蟻達の動きも見違えて良くなり彼ら全体が強化されたのが分かる。


「ヘルメス、何を……?」

「こんな事もあろうかと強化薬を作っておいたのです。女王蟻であるチィを強化すると連動して兵隊蟻達も強化されるようですね」



宝玉の中から出てきたチィや兵隊蟻達、ヘルメスをプリメインさんは興味津々といった感じで見ている。何しろ何も無い所からSランクモンスターが二体も現れたのだ。興味を引かない方がおかしいだろう。


しかし今は戦闘中でありそれどころではないという事なのだろう、プリメインさんは黙って自分の仕事に取り掛かっている。

僕も自分の仕事に取り掛からないと。


「ピピ、君は空から戦闘の状況を見つつ、ヤバそうな所を適宜助太刀してくれ。衝撃波で同士討ちしないようにくれぐれも気を付けてね」

「クエェ~~!」


任せておけ、と胸をドンと張った成体のピピに見送られながら僕とシェイランとレンカはマザースライムの体内に潜り込んだ。


中で窒息しないようにとたっぷり息を吸い込んで入っていったのだが、どうもシェイランがバリアを張ってくれたらしく、薄い膜に包まれた僕達はマザースライムの体内でも息をする事が出来た。



泳ぐように下に潜っていくと、マザーの中心点に佇む何者かの姿が見えてきた。黒いボロボロのフードで身を包み、顔は青い仮面によって隠されている。


その何者かが僕の顔を見るとニイイ、と笑った(ように感じた)。



「初めまして、()()()()殿。貴方が来るのを待っていました」



奴が何を言っているのか、僕には分からなかった。


魔獣使いとしての本領発揮、そして衝撃の発言……!

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新、お疲れ様です\(^_^)/ 魔王候補…かなり驚きなワードが出てきましたね(; ・`д・´)
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