四十七話
あの地平線に混じって続く水平線、見渡す限りの海に見えるあれが全てスライム……。
ギルグ・ゴルドー氏の発言にその場の全ての人間が呆然としていた。
土の勇者や風の勇者ですらその表情には厳しいものが浮かんでいる。
この場で唯一余裕の笑みを浮かべているのはシェイランのみだ。
彼女にとってはこの事態ですら恐れるに値しないのだろうか……。
「スライムの正確な数は分からん。数千万、数億、あるいはそれ以上かもしれん」
数えきれない程の膨大な数、という事だ。対してこの場に集った冒険者達はいいとこ数百人といった所だ。
「ただ不幸中の幸いか、現出しているスライムはスライム種の中でも最下級種のみである。一騎当千の諸君らの尽力があらば敵の前線を食い止め時間を稼ぐ事は可能であろう」
「時間を稼ぐのはいいけれど、それだけでは事態は収拾出来ないのでは?」
風の勇者プリメインさんがもっともな意見をゴルドー氏に告げる。
ゴルドー氏はうむ、と頷き作戦の概要を語った。
「諸君らに時間稼ぎをしてもらっている間に、上空から別働隊に向かって貰いスライム現出の中心地を目指して貰う」
そこには恐らくスライムを大量に発生させている「何か」が存在しているのだろう、という事だった。別働隊の任務はその「何か」の原因を突き止め、スライムの大量発生を止める事。
そしてその重要な任務の実行部隊に選ばれたのは……。
「風の勇者プリメイン・セザルーサ、そしてテイル・スフレンクス。諸君らに行って貰う」
「…………!!」
周囲の人達の視線が集まるのが分かる。昔の僕なら非難轟々だったろうが、今は僕達新生臥龍鳳雛パーティーの活躍と功績は知れ渡っているらしく侮蔑や不満の視線を向けてくる者はいなかった。
「……一応確認しておこうかな。僕達が選出された理由は?」
プリメインさんがそう言ってゴルドー氏に説明を求めた。
「うむ。単純に長時間空を飛べ続けられる者が諸君らしかいないからだ。地平線の向こうにあるであろう大量発生の中心地まで向かうにはただ空を飛べるだけでは足りんのだ」
これだけの冒険者達が集えば空を飛べる者も一定数存在するだろうが、長時間となるとプリメインさんと僕しかいないという訳だ。
「それに付け加えるならば、中心地で何が起きているのかは全く不明だ。強大な力を持つ魔物が潜んでいないとも限らん。ならば相応の実力を持つ者を向かわせるのが必然である」
「なるほどね。納得したよ。まさに僕と魔獣使い君が適任だね」
そう言ってプリメインさんは軽やかに宙を舞い、僕の真横に降り立つと頬に口付けをした。
「よろしくね、魔獣使い君。いや、これからはテイル君と呼んだ方がいいかな?」
茶目っ気たっぷりにそう言うプリメインさんに少し胸がときめいてしまったのは秘密だ。
「あーーーー!! ズルい! 羨ましい!! 私も……!」
「「「私も……?」」」
「あ、いや……何でもないであります」
レンカはこんな状況でも相変わらず平常運転だった。顔を真っ赤にしながら釈明するレンカを見てプリメインさんはクスクス楽しそうに笑っていた。
◆
そうして各々の準備が終わり、遂に作戦決行の時間となった。こうしている間にもじわじわとスライム達の戦線は押し上げられ広がり続けている。
「さて、いよいよ作戦決行だ。景気のいいのを一発頼むよ。土の勇者」
「おう! 任せておけ!」
プリメインさんがアズガルドさんに声を掛けると、彼は一歩足を前に進め、呼吸を整え魔力を集中させ始めた。
すると巨大な魔法陣が地面に浮かび上がると同時に地震のような地響きが轟き渡る。
「土の精霊よ。豊穣の恵と大地の加護を与えたまえ
大地の揺りかご」
ズズン、と一際大きな揺れが巻き起こされる。大地から組み上げた魔力の流れが振動を介して僕達の身体に伝達していく。
途端に身体が軽くなり、力が湧いてくるのが分かった。
ふわ、と地面から足を離して空に飛びたった風の勇者は、さあ、と促すように視線を向けている。
僕(達)を乗せたピピは羽根を広げ優雅に宙に舞った。
僕達が地面を離れるのと同時に地上部隊の冒険者達が鬨の声を上げて出陣していく。
アズガルドさん達不撓不屈のメンバー達は、アズガルドさんを後方に控えながら獣人種達が魔力で更に各々の肉体を強化し獲物に殺到する狼の群れのように統制の取れた動きでスライムの群れに突っ込んでいく。
鎧袖一触、とは正にこの事で彼らの指先、もとい爪先に触れたスライム達はたちまち引き裂かれ魔力と水の塊に分解されていく。
彼等の後に続けと言わんばかりに他のパーティーもどんどん前に突き進んでいった。
「あくまでも時間稼ぎが目的だ! 前に出過ぎるなよ!」
アズガルドさんの檄が飛ぶ。多少浮き足立っていた冒険者達は落ち着きを取り戻し、スライムの群れを向かい撃つ為に一定の距離を保ちつつかつ取りこぼしのないように陣を組んで向かってくる魔物達を排除していく。
「さすが土の勇者。戦闘の指揮は彼にお任せだね。僕らは先を急ごう」
プリメインさんに促され僕達はスライムの発生源に向かって空を進んでいった。
いつまで時間稼ぎが保つか分からない以上出来る限り急がないとならない。地上千メートルの高度まで上がり進んでいく。
上空から俯瞰して見るとどうやらスライム達はこちらだけに向かっている訳ではなく放射状に広がり続けている事が分かった。
「ふむ。どうも彼等は僕らを殲滅する為に進軍しているという訳ではないみたいだね」
「そうですね。本当にただ中心地から増殖し続けて外に広がっていってるだけのようだ」
つまり、中心部にはスライム達を生み出している「何か」が存在しているという事だろう。
そうして、先に進み続けていくと、その「何か」の子細が明らかになってきた。
「なるほどね。アレか、スライムの発生源は」
プリメインさんの視線の先にあったのは、全長10メートルを超える巨大なスライムだった。
レンカさんは相変わらずでした




