四十五話
ルフレ砂漠。
それは元々前臥竜鳳雛パーティー時代に次の目的地として向かう予定だった場所だ。大陸中央のスピルネル領域には魔王の存在を確認する事が出来なかった為だ。
元々マグナスは北のフラム族の領域から旅立ち南下してスピルネルで僕とノエルと出会いパーティーを結成した。ライザとシルヴィはその南下する旅の途中で出会い仲間になったという。
つまり北と中央では魔王は見つけられなかった訳だ。なので次は西へ向かおうという事でルフレ砂漠へ行こうとしていたのだ。
それに、西の領域には魔族が住んでいる。魔王が産まれ潜むには絶好の土地とマグナスは考えていた。
魔族とは蔑称であり、外の人間達が勝手に決めつけて呼んでいる呼び名に過ぎない。彼等にはシェニグル族という立派で由緒ある名がきちんと存在している。
では何故彼等が蔑まれ魔の者と呼ばれるのか、それは彼等の高い魔力適正にある。
彼等は人族が魔力に適応して進化した種なのだ。
魔族と魔物とは混同されがちだが、両者の間には決して埋まらない隔てがあった。
魔物とは、大気中に漂う魔力に身体を蝕まれ変質し理性を失ったモノを指すが、彼等シェニグル族は人間が魔に呑まれず正しく魔力に適正を得た一つの到達点だった。
魔族とは、魔に適応し高い知性を保ったまま強い魔力適正を得た人間の進化した姿なのだ。しかしシェニグル族ではない者達は彼らを魔王の手先として魔物と同種のものとして扱い、両者の間には度々衝突と戦争が起きてきたのだった。
それは、彼等シェニグル族の中には本当に魔王を神と崇め、信仰する者達がいたからだ。それを理由に魔族を人間の敵とし滅ぼすべきと主張する強硬派も多数存在する。
だが一方で人間達が彼らに対してそういう扱いをして見下すから魔王信仰を増長させてきたのだと指摘する歴史学者もおり、実際の所は分からない。
一応シェニグル族の中では魔王信仰は邪道のものとされ禁忌のものとして扱われている。それを隠れ蓑として国家ぐるみで魔王を信仰し復活させようとしている、と主張する者もいる。
現在は彼等シェニグル族も一つの国家として認められ、冒険者ギルドにも加入している。彼等シェニグル族出身の冒険者達はその強い魔力を活かして魔法使いや僧侶として活躍する者が多い。
今回の緊急招集クエストにおいても現地民である彼等の協力なくして迅速な問題解決は有り得ないだろう。
だが、未だにシェニグル族とそれ以外の人種の間において偏見や差別、敵対意識は根強く残っている。それらを抑え上手く団結していかなければならない。
そんな事を考えながらルフレ砂漠にあるギルドの拠点値を見回っていると、聞き慣れた声が響いてきた。
「おう、お前達もようやく来たか! 待ちかねたぞ!ガハハハッ」
僕らに声を掛けてきたのは地の勇者ことアズガルド・バーンギルスさんだ。
彼の周囲にはパーティーメンバーと思わしき冒険者達が集っている。だが前回ノーストラダムの街で会った時とは顔ぶれが違っていた。
そのほとんどが獣人と呼ばれるシェニグル族の亜種族の者達だった。獣人族は魔族とは違って肉体強化に魔力適正の恩恵を注いだ種であり、魔族がインテリ派とすると彼等は歴然たる肉体派と呼べた。
亜種とはいえ彼らもまた立派なシェニグル族の一種であり彼等もまた謂れのない差別や偏見に晒されてきた筈だ。人族に恨みを持ち一定の距離を保とうとする者も珍しくはない筈なのだが、アズガルドさんと談笑を交わす彼等の姿にはそういう暗い影は一切見られなかった。
これは、どんな人間であろうと正義と強さを持つ者には変わらぬ敬意を持ち胸襟を開くアズガルドさんの姿勢が影響しているのだと思う。
そういう彼の思想と姿勢があらゆる種族を越えて信頼と団結を勝ち取り世界中の冒険者達を一つの組織の中でまとめ上手くバランスを取って運営する一助となっているのは想像に難くない。
彼はその人望の高さと仲間の多さの故に各地方事にそれぞれ専任のメンバーを集めてパーティーを組んでいる。なので今ここに集っているのはSランクパーティー不撓不屈シェニグル国verという事になる訳だ。
レンカは今までシェニグル族との交友が無かったのか目を白黒させていたが、特に戸惑う事もなく彼等と打ち解けていた。
まあ考えてみたらこちらは正真正銘人間じゃないメンバーが殆どなのだから今更人種の違いでどうこう言う訳も無い。不撓不屈のメンバー達も魔物を普通に引き連れている僕らの方が他の無駄に奢り昂った連中よりも心を開きやすかったのか、普通に声を掛けてきてくれてすぐに仲良くなれた。
そうして談笑していると、久しぶりに聞く声が聞こえた。
「やあやあ、地の勇者に臥竜鳳雛の魔獣使い君。久しぶりじゃないか」
振り向くとそこに立っていたのは、『風の勇者』プリメイン・セザルーサその人だった。
シェニグル族は分かりやすく言えば私達の世界の黒人種です。肌も褐色や黒です。




