四十四話
あれから二週間ほどが経過し、僕達はフラム族の集落から旅立ち再び王都ネフタルに戻ってきていた。
ピピとシェイランの背に乗せて貰って空を移動すればもっと早く移動出来たのだが、極力目立つ行動は控えようという事で徒歩での移動にしたのだ。
今の僕達は過剰とも言える戦力を抱えている。その存在が周囲に知れ渡ればどんな面倒事を引き寄せるか分からない。
なので、用心に越した事は無いのだ。
僕はシェイランに言われた人間を辞める事になってもいいのかという問いに対して未だ答えが出せずにいて、ずっとその事について考えていた。
ギリギリ人間の範疇に収まっている今の状態なら隠し通す事に徹すればまだ何とか平穏に暮らせると思う。
ただそれは目立つ事は出来ないという事でもあり、例えば冒険者としての活動では成果を出しすぎる事にも気をつけなければならず、行動や指針に制限がかかるという事だ。
しかしそれなら何の為の冒険者なのか、という話になってくる。
冒険者を志す者なら誰だって華やかな活躍をしたいと考えるだろう。生まれの地位や権力に関係なく上を目指せる実力主義の世界だからこそ冒険者は誰もが憧れ志望する職業なのだから。
つまり、冒険者として生きていく事を考えるならいずれは周囲に存在が知れ渡り面倒事に巻き込まれることを覚悟するべきという事だ。
それはつまり、今後の選択肢が二つに絞られる事を意味する。
一つは人間としての平穏な日々を求め、冒険者としての活動は辞めるか控えるかして、現状に留まる事に徹する道。
もう一つは、開き直って人間としての生活を捨て、冒険者としての遥かな高みを目指す道。
どちらの道にも憧れはあり、どちらの道にも問題はある。
正解という正解はない。あくまでも僕がどちらに進みたいのか、これはそういう問題だった。
レンカやシェイランを始め、パーティーの仲間は変に口出ししてくる事はなかった。あくまでも僕の意志を尊重し、僕が決めた道に従うと言った後は今まで通りに変わらず接してくれた。
それは僕にとってはとてもありがたい事だった。
前臥龍鳳雛パーティー時代の辛酸を舐めてきた経験により、僕は仲間というものに良くも悪くも人一倍強い思いを抱えている。
極端な話、仲間が何か意見を言えばそのままそれに従ってしまう可能性が高いのだ。今の僕にとって現臥龍鳳雛のパーティーは僕の全てといって過言ではない。彼らの意向は僕の行動に大きな影響を与える。
だからこそ、必要以上の干渉を避け一定の距離を保ち続けてくれる仲間達には本当に助けられている。
唯一ヘルメスだけは、僕の選択肢次第では袂を分かつ事になる。彼女にはゲオルクを追い打ち倒すというハッキリとした目的があるのだからこれは仕方ない。
それでも彼女は他の仲間達と同じように僕の行動についてとやかく意見する事はなかった。
彼女にとっては僕達が着いてきてくれた方が楽だろうに……。
彼等は僕の行動を縛ろうとは決してしなかった。それは逆に僕を仲間達と強く結びつける結果となった。
それは束縛ではなく、絆という名の繋がりだ。
僕はこの繋がりを大事にしたかった。前臥龍鳳雛のパーティー時代、何故僕が彼らの元から去ろうとしなかったのか……それは、彼らを信じたい気持ちがあったからだ。
マグナス達だって初めからおかしかった訳では無い。少なくとも僕とピピが戦闘で足を引っ張り始めるようになるまでは、普通に上手くやってくれていたのだ。
マグナスに当時どんな思惑があったにせよ、彼が鳳凰の卵を譲渡してくれなければ僕とピピは出会う事はなかった。マグナス達との出会いを否定する事は同時に今の仲間達との出会いを否定する事にも繋がる。
彼らと都合良く昔のような良好な関係に戻りたいと言っている訳では無い。僕だって聖人君子では無い。恨みも、苦しさも未だ僕の心の中に変わらず存在しているのだ。
だが同時にその苦しさが僕を鍛え導き今の僕に繋げてくれた事も否定は出来ない。
僕にとって今一番大事な事は、仲間達との絆だ。それを失う事はしたくない。
そう考えると僕の取るべき道は一つだった。
「冒険者として、これまで以上に上を目指していこうと思う」
王都の宿の一室で僕は仲間達にそう告げた。仲間達は一言も発せずに僕の次の言葉を待っている。
「人間を辞める決意を、今すぐ固められた訳じゃない。だけど、少しずつでも僕は僕の求めるものの為に進もうと思う」
「テイル殿の求めるものとは何でありますか?」
「……絶対に壊れない絆、かな」
レンカの質問に僕はこう答えた。
「冒険者としての活動が、僕達を出会わせ結びつけてくれた。だから、これからも冒険者として活動していきたい」
「ふむ。つまり、穏やかで平穏な暮らしよりも、冒険者としての活動や活躍を選んだという訳じゃな」
シェイランが的確に僕の言いたい事を察し発してくれた。僕はこくん、と頷いた。
「それを聞いて安心しました~ テイル様達に今冒険者家業を辞められると困るのですよね~」
唐突に後ろから声がして振り向くと、そこには一級監査官のセラフが立っていた。僕達が王都に帰ってきた事を知って転移魔法で飛んできたのだろう。
「セラフ。何かあったのでありますか?」
かつて彼から冒険者としての基本を学び師弟としての関係でもあったレンカがセラフに尋ねた。セラフはいつもの飄々とした態度を崩さず、それでいて不穏な言葉を発した。
「少し前に西のルフレ砂漠で魔物の異常発生が起きました。それに伴い冒険者ギルドは非常事態宣言を発令、国の垣根を越えた全国規模での冒険者招集がかけられています。無論、S級ランクパーティーである臥龍鳳雛もその対象です~」
そんな事態になっていたとはつゆとも知らなかった。フラム族の集落は国境近くの僻地でそんな情報は回って来ないし帰りの道では時間短縮の為にノーストラダムへは寄らず真っ直ぐ王都に向かってきたからだ。
僕達は冒険者招集により急遽西のルフレ砂漠に向かう事になったのだった。
実に三ヶ月ぶりの更新となりました~
お待たせしてすみません(;^_^A




