四話
6/12追記
東のルフレ砂漠→西のルフレ砂漠に変更しました。
僕と大男の間に割って入ってきたのは、燃えるような赤髪のロングテールの女の子だった。顔立ちは整っており所作も洗練されている。そして他を寄せ付けないような一匹狼のような雰囲気。
恐らくBランクソロ冒険者だと思われる。ソロでBまで行くのだから相当の実力者だ。(あくまで僕の見立てが間違ってなければだが)
動き易さと防御力を両立させたハーフプレートの下に厚手のジーンズを履いている。腰には属性付与武器と見られる赤い宝玉のついた片刃の剣を刺している。
「なんだあ、てめえ。横から入ってきやがって。引っ込んでな!」
残ったもう一方の腕で拘束を解こうとするが、そちらの手もあっという間に掴まれて一纏めにしてしまった。
ギリリリリ、と腕が締め付けられ圧迫される音が響く。
「痛たたた! 離せクソッ!」
「恥を晒すな、と言った筈でありますが? テイル様の前でこれ以上無礼を働くのなら、この刀の錆にしてやるでありますよ? お仲間の連中も」
そういって大男の連れを睨みつける。凄まじい眼力に気圧された男達は大男を放置して逃げていってしまった。
「お、おいっ 待ちやがれ! 置いてくな!」
「『置いてくな?』随分と弱気な発言でありますな。さすがSランク冒険者を馬鹿に出来る冒険者様は格が違う」
顔を真っ赤にした大男は拘束を解かれると一目散に逃げ出していった。
男が去っていくのを見届けると件の少女はこちらに視線を向けてきた。
「ありがとう、助けてくれて」
「いえ、むしろ助けたのは奴らの方であります。テイル様に喧嘩を売るなど自殺行為にも程がありますよ」
様付けで僕を呼ぶ事と言いこの子は僕を大分過大評価しているみたいだ。
「いや、僕はほら……僕を知ってるなら分かってるでしょ? Sランクパーティーを追放された無様なDランク冒険者さ」
「テイル様は無様などではないであります!!!!」
凄まじい大音量が室内に響き渡る。ギルド内にいた冒険者達が呆然と見ている。我に返ったのか赤髪の女の子は顔を真っ赤にして所在無さげにしている。
衆目に晒されてしまったので場所を変える事にする。
「とりあえず、助けて貰ったお礼にご飯をご馳走するよ。ついて来て」
「あっ ハイ」
手を取って歩き出すと少女は更に顔を真っ赤にして大人しくされるがままに着いてきた。ヒュイ、と口笛を吹いて料理に気を取られていたピピを呼び外に出た。
しばらく彼女を先導して通りの先に進んでいくと目的地にたどり着く。海龍亭と呼ばれる酒場だった。ギルドの建物内でも食事は取れるのだが周りの目を考慮してここに連れてきたのだ。
僕が入店するのと同時に声が掛けられた。
「あらぁ、テイルちゃんじゃない。どうしたのお? 西のルフレ砂漠に向かうんじゃなかったの?」
声を掛けてきたのはこの海龍亭のマスターだ。言葉使いは女だが性別は男だ。昔はバリバリの海賊だったらしいが海の魔物に襲われ男の大事な部分を失ってしまいそれからは海賊家業からは足を洗い酒場のマスターとして腕を振るう日々だ。
昔とある案件で関わる事があり以降ちょくちょくお得意様として通わせて貰っている。
「こんにちはマスター。ちょっと色々事情がありまして」
そう言うと僕が連れてきた赤髪の少女を見たマスターは、
「何か訳ありみたいね。いいわ、二人でゆっくりお話が出来る個室に案内してあげる。二人っきりだからって襲っちゃダメよ」
「そんな事しませんよ。出会ったばかりなのに」
「そっちの女の子に言ってるのよ~テイルちゃんがいくら可愛いからってお酒の勢いに任せて襲っちゃダメよ? ここはそういうお店じゃないんだからん♡」
「わたしが、テイルさまを、おそ……!?」
彼女は更に更に顔を真っ赤にしてもう本当に真っ赤っかになってしまっていた。ギルド内にいた時のカッコ良かった彼女とは大違いだった。
◆
「まずは、今日のこの出会いを祝して、乾杯ー」
「か、乾杯~」
慣れない様子でジョッキを合わせる彼女。その後エール酒を煽るとプハッと豪快に息を吐いた。
「改めてさっきはありがとう。知ってるだろうけど、僕はテイル・スフレンクス。元Sランクパーティ臥竜鳳雛の一人、今はDランクソロ冒険者の魔獣使い。こっちは相棒のピピ」
「ピピィ~~!」
ピピが元気よく挨拶する。彼女はピピに一礼すると自己紹介を始めた。
「私の名はレンカ・ゼンランド。Bランクソロで活動しております。渾名は『焔の狼』であります」
渾名というのは冒険者に与えられる二つ名だ。Cランク以上の冒険者にはその資質と貢献内容によって名前が与えられる。二つ名がついて1人前といった所だ。
僕の渾名? 『臥する鳳雛』です。昔は気に入ってたけど今となっては皮肉でしかない。
「実は私、以前臥竜鳳雛に、いや、テイル様に救って頂いた事がありまして……」
「もしかして……ゼンランド家の」
ゼンランド、という家名を聞いて思い至る節があった。二年くらい前当時Bランク冒険者だった僕達はスピルネルの公爵家であるゼンランド家の当主、ゼンガ・ゼンランド氏の依頼を受けた事がある。
内容はゼンガ氏の一人娘が悪魔の呪いによって死に至る病に侵されているのを助けて欲しいというものだった。
調査の結果、ゼンランド家に敵対する公爵家が密かに悪魔を召喚し後継者であるレンカを亡き者にしようと企んでいた事が判明したのだ。
治癒魔法と光魔法のエキスパートであるノエルが呪いの進行を食い止め、僕が悪魔の居場所を突き止め、マグナスとライザがこれを葬り去った。
今僕の目の前にいるのは、かつて助けたゼンガ氏の娘その人だったのだ。
「思い出して頂きましたか。私はあの時私を救って下さったテイル様に憧れ、冒険者の道を目指したのであります。かつての貴方様と同じBランクの冒険者になる事を夢見て。だけど二年あまりの間に貴方様は更にランクを上げ遂に冒険者の頂点であるSランクにまで……」
熱に浮かれたように喋りまくるレンカは頬を紅潮させ尊敬の眼差しを向けてくる。馬鹿にされるのは慣れているが、こういうのはどうも慣れない。
そうして、一通りの賛辞を言い終わると、レンカは意を決したように言った。
「それで、あの……現在テイル様は臥竜鳳雛を抜けてソロ冒険者になっているとお聞きしました! であります」
それを知ってるという事はギルド長が話を広めるのを偶然聞いていたんだろうな。こくり、と肯定の意味で頷くと、彼女はとんでもない事を言い出した。
「もし、もしよろしければ私とパーティーを組んで頂けないでありますか!?」
彼女はどうやら筋金入りの僕のファンのようだった。
レンカさんはテイルに憧れていたようです