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三十八話

2023 8/7

黒竜の一人称を私→我に変更しました。

シェイランの放った圧縮空気弾によって跡形もなく先々代族長の屋敷は消し飛んだのだが、その跡地には小さな影が差していた。


それは上空に退避した何者かの影でありそれは人間のシルエットをしていなかった。


全身の黒い竜が防御結界を張りながら宙に浮いていたのだった。



「おのれ……一体何が起こったというのだ……屋敷が消し飛んでしまったわ」



忽然と消えてしまった自分の住居跡地にばかり目がいって他の所に意識がいっておらず、自分が正体を明らかにしてしまっている事もそれを集落の人間達に見られている事にもまだ気付いていなかった。



「ほう、どんな虫が忍び込んでいるかと思ったら黒竜か。相変わらずみみっちい手段を取りたがる種よのう」

「誰だ!? 我が種を馬鹿にする奴は許さんぞ!」


そこまで言ってから自分が竜の姿を(さら)してしまっている事に気付き、更に声を掛けてきた者が竜の王である事に気付き黒竜は二重に衝撃を受けて仰け反った。


「シェ、シェイラン!? 風竜の王が何故ここに!?」

「愚かよのう……(はか)り事の場としてこの集落を選ぶのなら、儂がこのフラム族の集落と関わりが深い事も知っていてしかるべきであるのに」

「な、何だと?」

「儂の先祖は遠い昔に神竜の泉を作り人間と(つがい)となった。その遠い子孫がこのフラム族の民よ。つまり、フラム族と儂は遠い遠い血の繋がった親戚という事じゃ」



シェイランの説明にフラム族の戦士達は驚きを隠せない。黒竜は思いもしなかった事実を知り憤りを抑えられなかったようで、シェイランに食ってかかった。


「誇り高き竜族が人間如きと番になるだと!?巫山戯るな! そんな愚かな種が竜族の頂点に立つなど許さんぞ!」

「だから、引き摺り下ろしてやろうというのか? 魔に身体を明け渡した黒竜如きが」

「く……」


黒竜の怒りもシェイランが圧倒的な威圧には形を失ってしまう。それにしても、魔に身体を明け渡したとはどういう事なのだろう。


「簡単に言えば、力に溺れ竜としての誇りを失った種という事じゃな。最下級のワイバーンよりもある意味では(さげす)まれ忌み嫌われておるのじゃ」


僕の思考を読んだかのようにシェイランが教えてくれる。黒竜はそんな侮蔑とも取れるシェイランの発言を鼻で笑う。


「フン、力を求めて何が悪い! 強さこそが竜族の全て! その強さを手に入れる為なら何だってやるのが我ら黒竜よ」

「だから誇りを失ったと言っとるんじゃ。下賎の種よ」


シェイランの挑発に黒竜の顔に血管がビキ、と筋を立てた。下賎とまで言われては流石に流せなかったようだ。


「フン、丁度いい! どうせいずれは貴様も消してやるつもりだったのだ! その予定が今に繰り上がっただけの事よ!」

「ほう、儂を消すとな? 矮小なその力でか?」

「我一人でやるとは言っておらんわ!」


黒竜が思い切り身体を仰け反らせると、大音量で鳴き声を発した。やがてその事を合図にしたかのように、何処からともなくワイバーン達が集まってくる。



「ワイバーンの群れ……! さっきよりも数が多い!」



今集結しつつあるワイバーン達は総数五十を超える大軍隊と言える数だった。周囲を竜達に取り囲まれたフラム族の戦士達は怯え惑っている。


竜を相手取ってきた彼等だからこそ竜に囲まれたこの状況がいかに絶望的か理解しているのだ。


しかし、だ。彼等は竜族の恐ろしさを知ってはいても竜王の恐ろしさは知らない。これだけの数を集めようと、シェイランにとっては物の数ではないのだ。



そしてその事は当の竜族達自身がよく分かっているようで、取り囲んでいるのが竜王であるのが分かっているのか殆どの者が怯え縮こまっている。


そんな彼等に黒竜は声を張り上げて叱咤(しった)する。


「貴様ら! 何だそのザマは! 最下級から這い上がりたいと我が軍門に下ったのは貴様らだろう! 今こそその力を示す時なのだぞ!」


しかしそんな黒竜に彼等ワイバーンはいかにも気が進まない、といった表情を見せて動こうとしない。


情けないワイバーン達に(しび)れを切らしたのか、黒竜は魔法陣を展開し、何らかの呪文を唱え始めた。すると、ワイバーン達が途端に苦しみだしその身体が黒く染まっていく。



「これは……魔化の秘術」

「魔化の秘術?」


余裕綽々(しゃくしゃく)だったシェイランがその表情を変え厳しい声を出す。魔化の秘術とは、大気中に存在する魔素を限界以上に身体に取り込む術なのだとシェイランは言った。


「そうして魔素を大量に身体に取り込んだ竜は遥かに強くなるが身体が黒く染まり元の身体には戻らなくなる。そうして生まれるのが奴等黒竜種なのじゃ」

「それじゃあ、あの黒竜も元は別の竜だったと?」

「そうじゃ。強さと引き換えに生まれ持った身体も血も種も捨て魔に降る。だからこそ黒竜は忌み嫌われ蔑まれているのじゃ。誇りを捨てた者と」

「黙れっ!! 生まれ持った資質で頂点に立てる奴らに何が分かる! 力無き竜など誇りを捨てるより惨めなものよ!」


吐いて捨てるように言う黒竜に呼応して周囲のワイバーン達も黒化して強大化していく。そんな彼らを前にしてもシェイランは全く揺るがない。その堂々たる姿は正に竜の王といった面持ちだった。



「行けっ! 今こそ、持たざる者の怒りを奴に思い知らせてやるのだ!」


黒竜の指示によって黒化したワイバーン達が一斉にシェイランに襲いかかった。シェイランは一歩も引かず彼らを迎え撃った。


ワイバーン達が吐き出す炎はシェイランの周りを包む風の防壁に阻まれ届かない。その防壁はどんどん勢いを増していき周囲を囲んでいた竜達を巻き込んでいく。


「グワアッ」

「ギャアアッ」

「グエエエッ」


次々とワイバーン達は風の防壁に巻き込まれ仲間同士ぶつかり合い翼を折られて地に落ちていく。

圧倒的な力の差だった。シェイランは直接身体を触れる事も動かす事もせず風を操り竜達を翻弄し駆逐していく。


そうして瞬く間にシェイランに向かっていったワイバーン達が倒された後、黒竜は姿を消していた。


「しまった……! 攻撃は陽動でこっちが本命じゃったか」


この時になって初めてシェイランの表情に焦りが浮かぶ。



姿を消した黒竜と同時にまた、レンカの姿も消えていた──。

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