三十七話
シェイランの背に乗って一気にフラム族の集落の上まで来た僕達は、突然の巨大竜の出現に慌てふためくフラム族の戦士達の真っ只中に降り立った。
人混みを掻き分けて族長が真っ先にやってきた。アイル達はシェイランの背から降りると族長に自分達の状況を伝えた。
「ワイバーンの群れが大量発生とは……それでよく無事に戻ってこれたものだ」
「テイルさん達が駆け付けてくれて私達の結界を増強してくれたんです。そうでなければ助からなかったでしょう」
「うむ……どうやら彼等は無事に儂の頼み事をクリアしてくれたようだな」
アイルから一通りの話を聞いて頷いた族長は、その後実に気まずそうにシェイランについて尋ねてきた。
「それで、その……そなた達が乗ってきたその巨大な竜は……? どう見ても人間が契約できるとは思えんのだが……」
「ふうむ、確かに儂は婿殿とまだ契約は交わしておらぬな」
族長の質問にシェイランが答えた事で周囲にどよめきが起こる。
「しゃ、喋ったぞ!」
「この巨体に人語を解する知能、只の竜ではないのでは」
「何故これほどの竜が人間と共にいるんだ」
ざわめくフラム族とは対象的にシェイランは落ち着き払ったよく通る声で話した。
「儂の事を知りたい者が多いようだから教えてやろう。我が名はシェイラン。神竜の末裔であり同時に竜族の王でもある」
「竜族の王?」
シェイランの口から新たな情報が出たので思わず聞いてしまった。シェイランはうむ、と頷いた。
「そう、全竜種の中で頂点に立つ種、風竜の王である」
つまり、最低種のワイバーンですらAランクの実力を誇る竜種の中で最強の種、その中で頂点に立つ者だという事になる。
「そんなとんでもない相手を呼び出しちゃったのか……」
「ナッハッハ! 光栄に思うのだな婿殿! 竜の王に選ばれた己の美貌を!」
「美貌で選ばれたのか僕は……」
「容姿は理由の三割程度じゃな」
竜族は面食い、という事でいいのだろうか。それとも僕の容姿がたまたま竜好みだった? 自分が対象になってるのであまり客観的に考えられない……。
「ま、まさか風竜の王を竜神の泉で呼び出したのか?」
「そうです。ワイバーンの群れを何とかするには新たな竜を呼べばいいと、テイルさんが泉に入ってくれたんです。そうしてやってきたのがシェイランさんです。あっという間にワイバーン達を追い払ってくれました」
「なんという……そのような事が」
族長はアイルの話を聞いてただただ呆然としている。
「うむ。ところでそなたが当代の長か? 少し聞きたい事があるのじゃが」
「な、何を知ろうというのだ?」
緊張気味に族長がシェイランに尋ねる。シェイランが問題の核心に切り込んだ。
「竜神の泉は元々人と竜が出会い番となる為に作られたもの。しかしそなた達はそれを正しく伝承出来てはおらんようじゃな?」
「!!?」
ざわ……とシェイランの発言に群衆が揺らめいた。族長も信じられない事を聞いたといった反応だった。
「人と竜が、馬鹿な……有り得ん事だ」
「そなた達フラム族が人と竜の間に生まれた一族だというのにか?」
「…………!!」
今度は絶句してしまう。そんな彼らの様子を興味深げに観察していたシェイランは、こう尋ねた。
「ふむ、なるほどのう。大体把握した。では最後に聞こう。そなた達の記憶にない者がこの集落に居るのではないか?」
そう言った瞬間、シェイランの額の第三の瞳が開き周囲に魔力の波動を流した。その波に当てられるように、次々とフラム族の戦士達の様子がおかしくなっていく。
「こ、これは……?」
「どういう事だ……確かに、存在しているのに記憶にない者がいる」
「記憶が……頭がおかしくなったのか?」
戸惑う彼等にシェイランは説明する。
「おかしくなったのではない。既におかしくなっていたのじゃ。そなた達の記憶は改竄されていた。あたかも存在していなかった者が存在しているようにな。それを今解いたのじゃ」
「つまり、外部の者がそうとは知らせずに集落の中に混じっていたと……? しかし何の為に」
「さあて、それは当人に聞いて見なければ分からぬじゃろうて。
それで? そなた等の記憶にない者の住居は何処じゃ?」
シェイランの質問に全員の視線がとある一点に集まる。そこには集落の中でもかなりの大きさを誇る屋敷があった。族長には負けるがかなりの権力者である事が伺える。
「そんな……先々代が……偽者だったなんて」
「その『せんせんだい』とやらはどういう立ち位置の者じゃった? そなたらの記憶の中では」
「現族長の前の前の族長だった方で、現在は一線を退いておられますが集落の生き字引きとして皆が頼りにしていました」
アイルが頭を抑えながらそう答えた。シェイランはふむふむ、と頷いて納得した様子だった。
「生き字引きか。なるほどのう。恐らくはそいつが伝承を歪め今の形に変えたのじゃろうて。何が目的かは知らんがしかし……それもこれまでよ」
シェイランは翼を大きくはためかせると宙に飛び、空中で静止すると口を大きく開けた。その空いた口に吸い込まれるように空気が渦巻いて収縮していく。
凄まじい突風が吹き荒れ、気圧が急激に変化しているのだろう、酷い耳鳴りが襲ってくる。
そして、球状に圧縮された空気の弾を解き放った。
「~~~~~~!!」
しばらく経って風が止んだのを感じて目を開けると、先々代の屋敷は綺麗さっぱりこの世から消滅していた。
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