三十二話
竜神の泉へと急いで向かうと、そこには結界を張って竜達の侵攻をどうにか持ちこたえているフラム族の若者四人と、その周囲に今にも食らいつきそうなワイバーン達が群がっていた。
「ピピ」
「クエエエッ!」
僕が声をかけるとピピは僕の意志を汲み取り、大声で鳴きワイバーン達の注意をこちらに引き付けてくれた。
続けてピピは両翼を羽ばたかせて衝撃波と炎をワイバーン達に叩きつける。
「ギャゥッ」
「ギイイッ」
竜達が怯んだ隙に僕らは結界の中まで駆け抜ける。基本的に敵意のない者を結界は弾く事は出来ない。術者が個別に設定すれば対象の者だけを弾く事も出来るが……彼等は竜を侵入させないようにする事で精一杯でそこまで考えている余裕はなかっただろう。
絶対絶命の危機に突如現れた第三者に彼等は目を丸くしていた。四人組のリーダーと思わしき長い金髪の凛々しい女戦士が声を掛けてきた。
「あ、貴方達は……!?」
「族長の依頼で助けに来ました! ヘルメス!」
「ええ、分かっていますよ」
僕とヘルメスは結界の中に入ると早速竜達の攻撃で既にヒビが入り始めている結界の修復、再展開を始めた。
ヘルメスが旅の間に研究室で量産してくれていた結界石や精霊石をありったけかき集め、二人で強力な結界を張り直す。これでしばらくの間は時間を稼げる筈だ。
ヘルメスは結界を張ってヘトヘトになっていた四人に魔力回復薬を渡す。魔物であるピピやヘルメスの存在に警戒心を露わにしていた彼等だが、ヘルメスに
「飲んで。死にたくないのなら」
と諭されて覚悟を決めたのか、次々に薬瓶に手を付け始めた。
「あ、ありがとう。お陰で助かりました」
「何故これ程のワイバーンが……?」
お礼を告げてきたリーダー格に話を通すのが一番やりやすそうだと判断し彼女にどうしてこうなったのか理由を尋ねる。
「分かりません。通常成人の儀で呼ばれるのはワイバーン一匹のみ。こんな事は有り得ない筈なのですが……」
「良く結界を張れましたね。お陰で何とか間に合った」
「私達のグループは私以外が全員術士の適正があるパーティーでしたので……」
徐々に警戒心と緊張が解れてきたのか、口を開かなかった他のメンバーも会話に加わってきた。
「供物を捧げてワイバーン達の群れが現れてすぐアイルが結界を張るように指示した。そのお陰で竜達の攻撃を受けないで済んだ」
術者には見えない位に体格のいい朝黒い肌の大男、グラハムがそう言った。
「アイルは私達の世代では抜きん出た戦士ですの。その判断力と統率力は里の皆にも一目置かれていますわ」
そうアイルを称えたのはグラハムとは対象的に一番小柄な身体をした三つ編みの女の子、ネルルだ。
「アイルを除いた俺達三人で協力して結界を張ったんだ。だけどあんた達が来てくれなかったらすぐに破られて食い殺されていた筈だ。ありがとう」
四人の中では一番背が高くて細い、ボサボサの髪で目元まで覆っている青年、ジュラフは僕達に感謝の意を示した。
フラム族の里の中でも優れた戦士だというアイルを筆頭によくまとまったパーティーだった。三人の術者はそれぞれが攻撃、回復、援護を担当しているらしい。
フラム族の術者は皆雪を避ける為に結界術を会得していたのが彼等にとっては幸運だった。
「それで、これからどうするでありますか?」
「「「………………」」」
レンカの質問に誰も答えられない。こうして話している今も竜達は結界を食い破ろうと殺到している。長い時間は持たない。今のうちに早く作戦を考えてこの状況から抜け出さないと……。
「テイル殿がピピ殿の背に乗ってフラム族の集落に行って助けを呼んでくるのはどうでありますか?」
ここからフラム族の集落までは十キロ程度。成体のピピが全力で飛ばせば数分で着くだろう。だが……。
「集落まではすぐに着くけど援軍が到着するまでは多分持たない。それに、ピピを追って集落に竜を呼んでしまうかもしれない」
ピピの背中に乗せられるのはせいぜい頑張っても三、四人だ。それだけの人数では状況を覆すだけの戦力は整えられないだろう。フラム族の集落から自力で向かうにはこの差し迫った状況では時間が足りない。間に合わない可能性の方が高い。
いい案が思い浮かばず沈黙が広がる。その静寂を破るように、アイルがボソリと呟いた。
「せめて集まっているのがワイバーン一色だけじゃなければ……」
「別の竜種がいたらどうなるの?」
「一口に竜種といっても様々な種がいます。そして彼等は皆同様に他種族の竜には攻撃を加えます。竜族の中でも位があり彼らは序列争いをしているからです」
「つまり別の竜を呼べば同士討ちを始めるという事でありますか?」
レンカの質問にアイルはコクリと頷いた。
竜族の習性、そして竜神の泉……僕はアイルの話を聞いてこの状況を打破する方法を考えついた。
「ねえアイル。竜神の泉に供物を捧げると竜を呼べるって話だったよね? 具体的にはどうすればいいの?」
「豚や牛などの家畜の血や肉を泉に沈めれば呼べますが、まさか……」
「うん。竜神の泉の力を使って新たに竜を呼び寄せるんだ。ワイバーン以外の種を呼べれば彼等は同士討ちを始める」
「なるほど、それは妙案ですね。しかし、確実にワイバーン以上の種を呼ぶには、その分供物も上級なものにしなければなりません」
「例えば?」
そう尋ねると、アイルは一瞬躊躇った後にこう告げた。
「一番確実なのは、人間です」
再び重い沈黙が辺りに広がっていった。
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