三十一話
6/30 竜神の泉までの距離を二キロ→十キロに変更しました。
僕達は、族長から成人の儀式が行われている場所を聞くと、その儀式の成功の可否を調べに出発した。
「フラム族の集落から北東に十キロ程進んだ所に竜神の泉と呼ばれる聖なる泉がある。そこで成人の儀は執り行われる」
この竜神の泉に供物を捧げると竜が現れるという。成人の儀に挑む若者達は数人のグループを作ると泉に供物を捧げて、やってきた竜と戦う。
竜を無事に退治して帰ってきた者達はフラム族の成人として認められる。呼び出される竜は捧げる供物によってある程度決まっているらしく、族長が予めそのグループの力量を見極め最適な相手となる竜を呼べるようにするのだとか。
とはいっても大体は竜族の最下級モンスターであるワイバーンが一匹呼び出されるだけである。それでもAランク相当の強力な魔物であり、倒すにはやはりAランク相当の力量が求められるのだ。
フラム族は誇り高き戦士の一族であるが、一人だけで竜に挑むなどという事はしない。蛮勇は勇気とは違う。彼等は太古の昔からパーティーを組んでその連携術によって竜を屠ってきたのだ。
「奴は、マグナスは、掟を破り単身で竜を召喚し倒した。封印されていた禁忌の武器コキュートスを携えて」
マグナスは何故単身で竜に挑んだのか、と尋ねた族長に対してこう言い放ったという。
『足手まといは必要ない』
ズキ、と胸が痛む。臥竜鳳雛パーティーの時代も表向きマグナスは僕をすぐ見捨てるような事はしなかった。最後の追放の時も妥協案を提示してきた。
だが、それは勇者としての対面を気にしたからの結果であって、やはり彼の本質は使えないモノは容赦なく切り捨てる冷徹な男なのだろう。
「奴の心の奥底には冷徹な氷の刃が煌めいておる。だからこそ氷の精霊、神器コキュートスに選ばれた。そんな危険な男を同胞として迎える訳にはいかぬ。儂は奴を追放した」
「マグナス……」
「奴は大人しく去っていったが、それもわざわざ儂らを殺す必要も理由もなかったからだ。だが、逆に言えば、必要があれば躊躇いなく殺すという事だ。奴の行動理由に感情は付与されておらんのだ」
「…………」
「魔獣使いの者よ。そなたは運良く奴から無傷で解放されたらしいが、これに懲りて二度と奴には近づかぬ事だ。あれは、災いしか呼ばぬ」
そう言って族長は僕達を送り出した。降りしきる雪の中を進みながらレンカが僕に疑問をぶつけてくる。
「族長が話していた竜神の泉、それを利用すればSランクの竜も呼べるのではないでありますか?」
「そうだね。その可能性は高いと思う」
「それならば何故あの場で族長に交渉しなかったのでありますか?」
「交渉をするのは族長の頼み事を果たしてからだよ。今の僕達は借りを返せていない、言わばマイナスの状態にある。族長に交渉を持ちかけるならせめてプラスマイナス0にしてからにするべきだ」
本来外界の者を受け入れない排他的な彼等が話し合いの場を持ってくれただけでも幸運なのだ。欲張って足を踏み込みすぎれば容赦なく叩き出されるだろう。
まずは信頼と実績を勝ち取るべきだ。相当強かな族長に交渉を持ちかけるにはそれしかない。
そう説明すると、レンカはキラキラとした視線をこちらに向けている。
「やはりテイル殿は凄いでありますな。先程のやり取りでそんな所まで見抜いているなんて」
「見抜くだなんて大袈裟な……そうした方がいいんじゃないかって、ちょっと思っただけだよ」
「けど、その思考の冴えと勘の良さで貴方は臥竜鳳雛を支えてきた。それも事実でありますよ」
当の僕自身が未だに自分の凄さというか強さを受け入れきれてないのにレンカは堂々と言ってのける。
僕は呆れ声で返した。
「レンカは僕を過大評価しすぎじゃない?」
「テイル殿は自分を過小評価しすぎでありますよ」
「それはまあそうかもしれないけど……」
自分でも自覚はしている。長年の臥竜鳳雛パーティーでの酷い扱いに慣れすぎて卑屈になっているという事は。黙り込んだ僕にダメ押しとばかりにレンカは微笑んで言った。
「確かに私はテイル殿に対しては絶大な評価と信頼を持っております。それを過大評価と言われればそうなのかもしれません。でも、私は誰にでも甘い点数をつけるような女ではないでありますよ。
テイル殿がご自分を過小評価してしまうのには理由があるのでしょう。同じように私にも貴方を過大評価してしまう理由があるのでありますよ」
「その理由って?」
「それは……乙女の秘密でありますよっ」
レンカはそう言って人差し指を立てると、いたずらっ子のような茶目っ気たっぷりの笑顔を返してきた。
「ピピピィピィ~(青春だなあ~)」
「あらあらあら、若いっていいですわねぇ~」
野次馬と化していた成体のピピとヘルメスがそうやって横から好き放題言っていた。いつ魔物や竜に襲われてもいいように彼等には戦闘態勢を取って貰っていたのだ。
そんなやり取りをしながら進んでいたら、視界に黒い雲が立ち込めているのが見えた。
「あれは……ワイバーンの群れ……!?」
黒い雲のように見えていたのは、密集したワイバーンの群れだった。
僕達は急いでワイバーンが集まっている地点、つまり竜神の泉へと向かうのだった。
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