三十話
フラム族の集落が視界に見える所まで僕達は近付いてきていた。雪で視界が狭められてはいるもののここまで近付けば集落の様子も伺える。
本来彼等フラム族の人々は外界に心を開かず、その為に常に入り口には見張り番も兼ねた門番が陣取っている筈なのだが、見て確認する限り今はその姿もない。
中に入るには好都合と言えば好都合なのだが、中に入った途端に囲まれて襲われては堪らない。慎重に進まねばならなかった。
そこで、ピピの能力『鳥獣族の王』を使い付近を飛んでいた鷹の目を借りて上空から集落の様子を伺ってみた。
すると、どうやら彼等は族長の家と思わしき一番大きな屋敷に集まって何やら話し合っているようだった。
「どうでありますか?」
「うーん、何か話し合いをしてるみたいで皆集まってるみたいだね」
「どうしますでありますか?」
「近寄っていって向こうに気付いてもらうしかないかな」
本当は門番に言伝を頼んで族長に話を通して貰うのが望ましかったのだがその門番がいないのだから仕方ない。なるべく威嚇しないようにチィやヘルメスは宝玉の中へ入って貰い、ピピは幼体の姿になって貰って敷地内に歩を進めていった。
「あの~、すいませ~ん」
遠くからでも聞こえるように声を張って呼びかけると、慌てて二人組の男達が武器を持ってこちらに向かってきた。
「い、いつの間に中に入ってきた!」
「いや、入り口に誰もいなかったので……」
「「うぐっ」」
痛い所を突かれたようで門番と思わしき二人組は息を詰まらせた。
「わ、我らフラム族の集落に許可なく立ち入るとは何たる不届き者かっ!」
「いや、だから入り口に誰もいないから仕方なくここまで来たんですってば」
「「うぐぐっ」」
何だかなあ。別に僕達もやりたくて非礼を犯した訳じゃないんだけどな……。門番の二人は自分達の失態を認めたくないのかあれこれ文句を言って取り付く島も無い。
途方に暮れていると彼らの肩を後ろから叩く手があった。
「もう良い。そなたらが門番の役を果たさなかったが故に外界の者がここまで侵入してきたのだろう」
「「ぞ、族長様……!」」
全体的に男はいかつい身体付きの者が多く、皆かなりの強者揃いのフラム族の男達の中でも一際目立つ屈強な身体をした老人が前に出てきた。この時になってようやく集落の者達は外から侵入者が来ている事に気付いたらしく、ざわめきが広がっていく。
「それで、一体何の用だ? 悪いが今は我等フラム族の一大事、外界の者に構っていられる暇はないのだが」
「え~と、僕、魔獣使いなんですが竜を契約しようと思ってですね……」
そこまで話した所で侮りの視線が集まるのを感じる。またか。ピピが幼体だから仕方ないのだが……。
僕はピピに視線で合図を送ると成体に進化して貰った。
美しい虹色の羽根を生やした鳳凰の姿を見て感嘆の声が周囲に広がっていく。
「なるほど、鳳凰を契約した者なら確かに竜を狙うのも理解は出来る。だが、それも我等と何の関係が?」
「フラム族は竜については誰よりも詳しいでしょう。竜と共に生き、されど手を取り合う訳ではなくあくまで同じ地に生きる対等の生き物として渡り合う。貴方がたなら竜の生態にも詳しいでしょう?」
そこまで話すと族長の眉間に皺が寄る。
「確かに我等フラム族は竜と渡り合う一族。だが、それをどこで知った? 外界の者には情報は漏れぬようにしている筈だが」
「氷の勇者マグナスから聞きました」
マグナスの名前が出た事にフラム族の者達もそうだが、レンカにも驚愕の表情が浮かぶ。レンカ達パーティーの皆にもマグナスとフラム族の繋がりはまだ話していなかったからだ。
「マグナスとな……。また懐かしい名を」
「どういう事でありますか? マグナスとフラム族に何の繋がりが?」
「マグナスはこのフラム族の出身なんだよ。本人からそう聞いている」
マグナスの名を出せば彼等の態度も軟化するかと思っていたのだが、彼等は動揺はしても僕らを歓迎するような雰囲気にはならなかった。
「なるほど。マグナスの名を出せば我等の協力を取り付けると思ってここに来たのだな。だが残念だったな。マグナスはもうこのフラム族の一員ではない」
「? どういう事ですか?」
「奴はこの集落から追放されその時からフラム族から除名されている。永久追放というやつだ」
永久追放……?
僕をパーティーから追放した彼が実は既に出身地から追放されていたというのか?
レンカも同じように思ったのか疑問を族長にぶつける。
「追放? 何故でありますか? 曲がりなりにも勇者なのでありましょう?」
「ふ……やはりそうか」
勇者という単語を聞いて族長は皮肉げな笑みを浮かべた。
「奴は勇者を騙り多くの者を欺き欺瞞に満ちた正義を奮っておるのだろう? 大方、そなたも奴に利用され捨てられた口であろう」
「勇者を騙りって……マグナスは氷の勇者なのではないのですか?」
「ふ、そこが奴自身も含めた多くの者が勘違いしている部分だ。勇者はあくまでも地、水、風、炎の4種の精霊に認められた者のみ。氷の勇者など存在せんのだ」
族長の口から語られる真実に僕達は言葉も出なかった。
「より正確に言うならば、氷の精霊に認められたとしても、それは勇者とは呼ばんのだよ。何故なら氷の精霊は四大精霊と違って善なる存在とは言えんからだ」
「善なる存在ではない……?」
「そうだ。例えば闇の精霊だ。闇に選ばれた勇者の話など聞いた事があるか? なかろう。それは闇の精霊が必ずしも人間の味方とは限らんからだ。」
それは分かる。黒いリッチーが操る死霊術などは闇の属性の魔法であり、同時に禁忌の術でもある。闇は必ずしも人間を救ってくれるとは限らない。使い方次第では術者もろとも滅びを招く危険な力なのだ。
「でも……氷は水の上位互換だって皆言ってるでありますよ」
「ふ、それこそ無知による愚かな思い込みよ。確かに氷の精霊は強力無比な力を持ちこと攻撃に関しては長けておるが、だからといって水より上という事は無い。水の勇者がそれを聞いたら怒り狂うであろうよ」
「水の勇者が……別に存在しているというんですか?」
「現時点で存在してるのかは分からん。居るとするなら何故氷の勇者などという紛い物の存在を許しているのかという話になるからな。だが、魔王が現れた時には必ずその姿を現すだろうよ」
マグナスが、勇者じゃなかった……?
確かに彼の冷静さや合理的主義は度を越している面はあった。
しかしだからといってまさか勇者である事を疑いはしなかった。誰もが彼を勇者と認め讃えていたからだ。
「さて、外界の者よ。主らの知りたい事には答えてやった。勇者の真実も語ってやった。まさかそれで何も返さず立ち去るという事はあるまい?」
「……僕らに何をしろと?」
そうか、この為に彼は部外者である僕達にわざわざ懇切丁寧に説明してくれたんだ。恩を着せて頼み事をする為に。
情報を既に得てしまった以上、無視する訳にはいかない。僕のその考えを読み取ったのか、族長は満足げな笑みを浮かべていた。
「ふむ、実は今我等の集落の若人達が成人の為のとある儀式を執り行っておっての、だがいつまで経っても音沙汰が無い。彼等の様子を見てきて貰いたいのだ」
族長が情報と引き換えに要求してきたのは、成人の儀式の可否を確かめる事であった。
マグナスは実は勇者じゃかったという




