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三話

翌朝になり、僕は目を覚ますと洞窟を出た。再びピピの背中に乗り魔物のいないルートを探りながら王都ネフタルを目指し進んでいく。



王都ネフタルは聖光国スピルネルの首都であり女神スピルの加護を受けた国としてその名を世界に轟かせている。世界各国から様々な資材物流が流れ交差し様々な人種様々な文化が混在している場所だ。


国教であるスピネラ教に始まり他国の宗教や文化も鷹揚に受け入れる特徴がありそれもあって亜人種などの他国では敬遠されがちな人達も普通に生活に溶け込んでいる。


僕は自由と平等の街であるネフタルが好きだ。だから、パーティーを追放された今も故郷には帰らずネフタルに留まりたいと思っている。


臥竜鳳雛のパーティーは魔王討伐の名目がある為に世界各国を飛び回っているから、ネフタルだけに居続ける事は無いだろう。

彼らが近くに来た時だけに鉢合わせしないように気を付ければいいだけだ。



今後の事を考えている間にもピピの健脚は既にネフタルの入り口である関所までたどり着いていた。ネフタルの周囲を覆う巨大な塀には通行用の関所が設けられており、外敵からの侵入に備え警備兵が常駐している。


僕はピピの背中から降りるとゆっくりと関所を守る警備兵達に近付いていく。


「おはようございます。王都への入場を許可して頂きたいんですが」


そう声をかけると僕が誰なのか向こうは気付いたらしく、露骨に態度を変えてきた。



「ああ、テイルさんですか。お仲間さん達はどうしたんです? まさか、ついに追い出されてしまったんですか?」


言葉にはたっぷりと皮肉が込められている。僕は全く顔色を変える事無く返す。


「ええ、実はそうなんですよ。だから改めてソロで冒険者ギルドに登録しようと思いまして」

「なるほど、そうでしたか。ですがパーティーでの評価とソロでの評価は全く別物。今まで通りの評価でいられるとは思わない方がいいと思いますよ」


これも普通に考えたら失礼極まりない話だ。駆け出しのパーティーならともかく最頂点のSランクまで到達した人間がそんな事を分からない筈がない。

僕は端的に言って舐められているのだ。臥竜鳳雛に在籍していた頃から。


「聖女のお情けでパーティーに残留し続けてるお荷物テイマー、使役する魔物も永遠の雛」

これが世間一般である所の僕の評価だ。


「ええ、分かっています。ご忠告ありがとうございます」


そう言いながらギルドの身分証を提示しピピの首輪に付けられている使い魔証も見せて中に入っていく。後ろからぼそりと呟く声が聞こえる。


「ちっ 勘違いお荷物テイマーが。今も自分がSランクでいられると思ってんのか」


もちろんそんな事は思っていない。同一人物がパーティーで組んでいる時と個人でやっている場合では当然ランクの査定は下がる。


例えばAランクのパーティーに在籍している人間なら個人ではCランク程度まで下がる。大体パーティーを組んでいる時からは二つ程下がるのが一般的だ。広い世の中には個人でSランクに在籍しているような怪物も存在する。


(まあ僕はあちこちからやっかまれてるから恐らくC~Dまでランクを下げられると思うけどね)


一晩経ってみて自分でも驚く程にショックを引きずっていなかった。さすがに長年苦楽を共にした仲間達に見捨てられたのは悲しいが僕達が彼等の足を引っ張っていたのは事実。


虎の威を借る狐のように自身がSランク冒険者として周囲に認知されるのは僕としては肩身の狭い思いだったのだ。

まあ先程の警備兵のようにそれを不服に思う人達も沢山いたのだが。



そして多分これから向かう場所でも……。











「そうですか。臥竜鳳雛から抜けられると。そうしますとテイル様、いや、テイルさんはソロパーティーとして新たにランクを設定されなければいけませんねえ」

「ええ、なので早速審査をお願いしたいのですが」


様からさんに格下げ。これがギルド長の心境を物語っていた。


ネフタルにある冒険者ギルドの建物の奥で僕と向かい合っているのはここのギルド長である。厳つい顔にスキンヘッド、筋骨隆々の彼からすれば僕などひとひねりで倒せるように見えるだろう。


だからなのか、前からこのギルド長には良く思われてはいない印象があった。



殆ど時間を置かずに査定は終了し僕は予想通りDランクまで落とされた。


本来ならばこれまでの功績や能力値を再査定し現在の状況に一番相応しいものを時間をかけて調べて行かなければならないのだが、ギルド長の立場を使って勝手に独断で決めたのだろう。すぐに決まったのがその証拠だ。


冒険者ランクは下からE、D、C、B、A、Sまでがあり、Eが初心者、Dは下位冒険者レベルだ。

恐らく今の僕達の適正ランクはCでこれは普通冒険者レベルと言える。それから僕への個人的感情から更に一ランク下げたと言った所だろう。


仮にもギルドの長がやる事では無い。でも今の僕にはもうどうでもいい事だ。人の評価などどうでもいい。あれだけ努力してもパーティーには評価されなかったのだ。今更赤の他人にそれを求めはしない。


とりあえずDランクでも一つ上のCランクまでの依頼は受けれる。Cランクなら一般的な冒険者としての暮らしは出来る。


とりあえず当面の生活費とピピの餌代が稼げればいいのだ。



審査が終わった僕は改めてDランクソロ冒険者としての資格を得ると早速掲示板に貼られている依頼表に目を通す。


「う~ん……Cでもいいけど、一人と一匹になったばかりだし、ここは慎重にDから行こうかな」


Dランクの依頼表の中からゴブリン退治のものを選び取ろうとした時、上から別の手に持っていかれた。

見上げると、とても大きくていかつい男の人がニヤニヤ笑いながら依頼表を奪っていた。


「おいおい、かつてのSランク冒険者様ともあろうものがいくらソロとはいえDランクの依頼かあ? 随分下げられたもんだなあ?」


どうやらこの人も僕をやっかんでいる人の一人らしい。ギルド長が早速バラしたのだろう。本来冒険者の情報を本人の許可なく外に漏らすのはご法度なのだが、ここはもうギルドとしては落ちる所まで落ちてしまっているのだろう。


平然としている僕が気に入らなかったのか、彼は仲間とおぼしき連れに同意を求めるように視線を送る。すると次々に馬鹿にするような発言が飛び出してくる。


「普通はソロはパーティー時のランクから2ランク下げだろ? それが4ランク下げとはね。余程評価されなかったんだなぁ?」

「ちげえねえや! ガハハハハッ!」


うーん……ゴブリン退治以外で良さそうな依頼はと。

取られた依頼表を無視して新しい依頼表を探していると例の大男が顔を真っ赤にして怒鳴りつけてきた。


「無視してんじゃねえぞ! クソチビが!!」


激昂した大男が殴りかかってくる。スローモーーションのように迫ってくる拳をどうしようかな、と考えていると横から伸びてきた手が男の拳を掴んで止めた。



「低級冒険者が恥を晒してるんじゃないでありますよ」



横から割って入って来たのは、赤髪のロングテールのとても強そうな女の子だった。

ヒロイン登場

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― 新着の感想 ―
[良い点] Dランクかあ。 思った以上に落とされましたね。 そして嘲笑されるがマイペースのテイル。 これは厳しい展開が続くと思ったら、 ヒロイン登場、これで勝つる(多分)
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