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二十九話

ヘルメスとの契約を済ませ準備万端となった僕達はノーストラダムの街を発った。



「元気でな~! しっかりやれよ!」



アズガルドさんが別れ際にそう声を掛けてくれた。本当に彼はSランクパーティー不撓不屈のリーダーであり地の精霊に認められた勇者とは思えない程に垣根なく僕や魔物のヘルメスに接してくれた。


僕達が住むことになる本拠地が無事に完成したのもアズガルドさんがバックアップしてくれたからだ。そうでなければいくら無人とはいえ勝手に住居から材料をひっぺがして住居を建築などという事は許されなかったに違いない。



ちなみに今現在その存在が確認されている勇者は氷の勇者マグナスに地の勇者アズガルドさん、そして風の勇者の三人だ。炎の勇者はまだその存在が確認されていない。


そして、かつての僕達が追い求めていた魔王もまた、実はまだその存在がきちんと確認されてはいないのだ。


だが、いずれ魔王は必ず姿を現す。全員ではないが勇者が既に地上に姿を現しているからだ。魔王と勇者は表裏一体の存在、どちらかが出現すればもう片方も必ず姿を現す。


そういう事になっているのだ。



実を言うと僕は目的を見失っていた。かつての僕が魔王の存在を追い求めていたのは勇者マグナスと行動を共にしていたからだ。魔王を倒せる力を持つのは勇者のみ、だからこそ僕はマグナスの力になれればと思ってパーティーに貢献してきたのだ。


だが、その当の勇者本人にパーティーから追放された今僕に魔王と戦う理由はない。いくら強存強栄の力で強くなろうと勇者以外の者には魔王は倒せないのだ。


ならば他の勇者、例えばアズガルドさんのパーティーに入れて貰って魔王を討伐するのはどうだろうか? とも考えたがアズガルドさんは魔王の討伐を焦ってはいない。


マグナスのように国の威信を背負っている訳では無いし、そもそも魔王自体がまだ出現を確認されていない。


なので今現在アズガルドさんは主に冒険者ギルド本部に身を置いて各地の凶暴な魔物の討伐や厄介な事件の解決に身を入れている。それもまた勇者としては正しい姿だと思う。



なら僕は何の為に旅を続けるのだろうか? 一応Sランクモンスターを契約して強くなるという目的はあるものの、そうして強くなった力を何に使うのかはまだ考えていない。


本当にそれでいいのだろうか?


大志を持ち正義の為にと身を起こしても才能や実力の壁に阻まれて思うようにいかなかった者は数えきれない程いる。


少なくとも今の僕には力がある。何かを成すには十分すぎるくらいの力だ。



──僕はこの力で何を成す?



答えはまだつかめそうになかった。











ノーストラダムを発った僕達は更に北の龍の山脈へ向けて北上していく。

決して短い距離ではなく、また険しい道のりでもあったが僕達は何ら問題にぶつかる事もなく進んだ。



何しろビルドアント達(僕は新種の蟻達をそう呼ぶ事にした。その後確認したら魔導書にもその名前が登録されていた)が便利すぎる。


夜に泊まる住居はもちろんの事、食糧に関しても蟻である彼等には特別な嗅覚があるらしく、どこからともなく木の実やキノコ、食べられる野草等々、沢山の食材を調達してきてくれるのだ。



また、空を飛んでいる野鳥などは鳳凰のピピのスキルである『鳥獣族の王』の力により幾らでも呼び寄せて捕まえる事が出来、貴重なタンパク源として調理され僕達の胃袋に収まった。

また、空からの広い視野により彼らには水場を探す力がある。ピピがその意識を彼等に同調させれば簡単に飲み水も確保出来た。


もちろん蟻達自身の餌も調達しなければならないのだが、それは道中ひっきりなしに襲ってくる魔物達のお陰で心配する必要もなかった。

ブラットアントがしていたようにビルドアントもまた魔物を食糧にするのだ。


何しろSランクモンスター鳳凰にリッチーにビルドアントの群れ(ビルドアントは群れでSランク扱い。単体だとBランク)だ。

北に向かえば向う程に襲ってくる魔物の力も増していったが蟻達にとっては美味しい餌にしかならなかった。



次の目的地であるフラム族の集落に向う途中で幾つかの街や村に立ち寄り、防寒具を買い揃える。


北に向かえば向う程に気温は下がり、青々と茂っていた森林は痩せた枯れ枝になっていき乾いた大地が眼前に広がっていた。

寒風が吹き荒び山脈の頂上付近は雪で白く化粧されていた。吐く息が白く肺が冷たい空気で満たされていく。


夜間の明かりと防寒も兼ねてレンカが炎で道を照らし温め続けてくれた。魔力が切れても錬金術師であるヘルメスが研究室で制作してくれた魔力回復薬を飲めばすぐに元通りだ。


ただし魔力回復薬を使った回復は自然な魔力回復ではないので多用は禁物だと釘を刺された。魔法も魔力回復薬もあまり使い続けると身体に後遺症が残ってしまうらしい。魔法の使いすぎで廃人になった例も多いのだとか。



どんどん寒さが厳しくなり降りしきる雪で視界が白く染められるようになってくると、暖かい王都で育ってきたレンカには堪えるらしく防寒具を纏っていてもガチガチと震えていた。


何かを期待するような熱い視線をレンカから感じたので、僕は臥竜鳳雛時代の経験を思い返し彼女にピピの羽毛布団を堪能してもらう事を提案した。


僕もよくピピの暖かい体温と羽毛に包まれて寒さを防ぎながら移動したものだ。寒さの問題は解決した筈なのだがレンカはどこか不満そうな表情だった。


何故なのだろうと顔を傾げていると、ヘルメスが生暖かい視線を僕らに向けていた。





ともあれ、ノーストラダムを出発してからおよそ二週間程で僕達は龍の山脈の麓、フラム族の集落の目前まで辿り着いていた。

レンカはテイルの肌で(手繋ぎ)温めて貰いたかったようです





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