二十一話
ストックが切れたので今日から一日一回更新に切り替えます
墓地からワープして飛ばされてきたのは、研究室と思しき場所だった。うずたかく積まれた書物、幾つもの実験道具やガラス容器に閉じ込められたサンプル。
幸い部屋はかなりの広さがあったのでピピが入ってきても全然余裕があった。
何らかの研究の最中だったと思われる白いリッチーことヘルメスは手に持っていた試験管をそっと机の上に置いた。
案内役として僕達を先導してきた骸骨犬は主人であるヘルメスの元に進むと甘えるように頭を垂れた。ヘルメスが白骨化した掌に撫でられ気持ち良さそうにしている。
「私の隠れ家にようこそ皆さん」
「隠れ家?」
レンカが不思議そうに尋ねるとヘルメスはこくり、と頷く。
「ノーストラダムの街はゲオルクの支配下に置かれています。ここに来たという事は死人達の群れを貴方がたも目にしたでしょう」
「ゲオルクの目から逃れる為の隠れ家でありますか?」
「そうです。そしてゲオルクを滅ぼす為の機会を伺っているのです」
やはり黒いリッチーことゲオルクとヘルメスは敵対関係にあるらしい。
「貴方とゲオルクは一体どういう関係なんですか?」
「私とゲオルク……兄は元々この街の出身です」
兄、という言葉を聞いて兄弟だったのかと納得する。
「私の家は大体ノーストラダムの領主を務める大貴族でありました。錬金術を司る家系として名を轟かせておりました。」
「錬金術……」
錬金術といえば卑金属を貴金属を錬成する学問だった筈だ。またそれだけに留まらず様々な物質な、人間の肉体や魂をも対象としてそれらをより完全な存在に錬成する試みも指す。
「詳しいですね」
関心したようにヘルメスが驚く。僕のかつてのパーティーメンバーには魔女シルヴィがいたので錬金術についても多少は話を聞いた事があるのだ。
「私達兄妹はそれぞれ錬金術の奥義とされる二つのアイテムを作り出す事を目票としていました」
「二つのアイテム……でありますか?」
「賢者の石と秘薬エリクサーです」
聞いた事がある。賢者の石はあらゆるものを金に変え、人間を不老不死にする事が出来る究極の物質だと言われている。
エリクサーは賢者の石と同じように金属変成や病気治癒を可能にする霊薬だ。
「兄と私は長年の研究によりそれぞれが賢者の石とエリクサーを錬成し、その力によって不老不死の力を手に入れました」
「その結果として今の姿に……?」
「そうです。私は不老不死となった今もこれまで通り研究が続けられればそれで良かったのですが、兄はそうではありませんでした。更なる秘術の完成を求めて非人道的な研究に手を染めるようになったのです」
死人へと変えられた山賊達やノーストラダムの街の住人達。彼等はそのゲオルクの研究の犠牲者なのだろう。
「貴方がたが何の目的でこの街に来たのかは知りませんが、兄を倒すのに協力して頂けませんか?」
「血の繋がったお兄さんを倒すというのでありますか?」
レンカの質問にヘルメスは悲しげに俯いた。
「彼はもうかつての兄ではありません。目的の為ならどんな残虐な手段を使う事も厭わない。私はもう兄の研究の犠牲者をこれ以上出したくはないのです」
「分かりました。どのみち僕らも彼の標的にされているでしょう。協力しますよ」
「ありがとうございます」
ヘルメスはそう言って僕達に頭を下げた。
「それで、具体的にはどうやってゲオルクを倒すのでありますか?」
「私が開発したエリクサーを更に強化した秘薬、ハイエリクサーを使えば賢者の石の力を無効化出来ます」
「それはすごいでありますな」
「ただ、この薬の効力を発揮させるにはゲオルクの魂の核である心臓部分に埋め込まれた賢者の石に直接これを振りかけなければなりません」
長年の研究の成果によってハイエリクサーを作り出す事が出来たものの自身と骸骨犬だけでは多数の死人達を従えるゲオルクに立ち向かうには手勢が足りなかったのだという。
「兄は私の手で滅ぼします。貴方がたには死人達の露払いをお願いしたいのです」
「分かりました」
大方の方針が固まると、ヘルメスは僕達にご飯を用意してくれた。
「研究用に採取していた薬草や木の実しかありませんが、それで良ければ」
「ありがとうございます」
ヘルメス自身は食事を取る必要がないので研究用に使っていた素材から食べられるものを分けてくれた。この街に着いてから何も口にしていないので食べられるだけ有難い。ピピが凄まじい勢いでついばんでいるのを見てヘルメスはまあ、食いしん坊さんですね、と微笑んでいた。
こうして見るとやはりヘルメスは貴族の家系だかあって所作が洗礼され高貴な身分の者だったという事が分かる。それを伝えるとヘルメスは頬を染めて、
「フフ、これでも生前は街でも評判の美貌を誇っていたのですよ」
そういうと何かの術を唱えた。すると、骸骨だったヘルメスの姿が見事なスタイルを誇る金髪の美女に変化した。
「おお……」
思わず感嘆の声を上げる僕にレンカが不服そうに頬を膨らませている。そんな僕達の姿を見てヘルメスは何か眩しいものを見るように目を細めてあいた。
「あらあら、まあまあまあ……若いっていいですわね」
おばあちゃんか、とツッコミを入れそうになったが実際ヘルメスは生きていた時代からすると百歳を超える年らしかった。
そうしてその日はヘルメスの隠れ家に世話になり一夜を過ごすのだった。
ヘルメスの生前はナイススタイルの金髪美女でした
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