十九話
山賊達の襲撃、そして不死王リッチとの邂逅をどうにか切り抜けた後、屋根が吹き飛んだコーチに乗り合わせていた乗客達は来た道を引き返していった。
山賊達やあんな化物が現れる道をそれ以上進みたくないと思うのは当然だろう。
僕達は馬車を降りて徒歩でノーストラダムの街に向かう事になった。
「今回は失敗しちゃったね……」
「真に面目ないでありますな……」
森を抜け街道を歩きながら二人揃って落ち込んでいた。何に落ち込んでいるかというと、結局周りの事をきちんと考えずに危険に晒してしまった事に対してだ。
あの白いリッチー、ヘルメスと呼ばれた不死王が結界を張り馬車を守っていてくれなかったら、森に燃え移った炎を消してくれなかったら、甚大な被害が出ていただろう。
強存強栄の凄まじいパワーアップの高揚感に僕はタガが外れてしまっていたのだ。普段ならあんな無謀な真似はしないし(何しろ今まで実践での近接戦闘などろくにこなしてきた経験がないのだから)周囲への影響も考慮に入れて行動に移していた筈だ。
またレンカはレンカで、明らかに僕の行動指針は間違いだと気付いていたのにも関わらず僕への信仰心により従ってしまった事を反省していたようだった。
「ピピィ~~~~」
落ち込んでいる僕達二人を見かねてピピが元気出せよ、と身体を寄せてスリスリしてくる。
『僕の羽根に包まれて幸せな気分を味わうが良い』、といった感じで慰めてくれるピピに僕達は何だか救われたような気分になった。
「ピピ殿は本当にいい子、いい雛でありますなあ」
「僕の自慢のパートナーだよ」
「ピピピィ!」
もっと褒めてくれ……!(ブルブル)と恍惚の表情を見せるピピが面白くて二人で褒めちぎっていたら両手で顔を隠してしまった。あんまり褒めちぎられ過ぎて恥ずかしくなったらしい。
可愛い。
◆
当初の予定では馬車で半日くらい揺られていればノーストラダムに着く予定だったのだが途中で下車してしまった為にまだ全道程の三分の一程度しか進めていなかった。
歩きでは馬車の三倍以上は時間がかかる事を考えると、今日中に街に着くのは厳しそうだったので、夜営をして夜が明けるのを待つ他無さそうだ。
夜の時間帯は魔物が凶暴化するし、夜行性の魔物も沢山いる。進むのは昼間のうちだけにしておいた方がいいのだ。
また、夜は闇の魔素が多くなり、闇魔法の威力が上がる。(逆に昼は光の魔素が多くなり、光魔法の威力が上がる)
つまり不死王リッチーにとっては有利な時間となるのだ。いつまた奴に襲われるか分からない状態で危険を犯す訳には行かなかった。
森の中で拾ってきた枯れ枝を集めレンカの炎で焼き焚き火をする。ピピが地面に横たわればそれだけでフカフカの羽毛ソファーになる。
あまりの柔らかさにレンカはふわあああ、としまりのない声を上げていた。
パチパチ、と音を立てながら燃える焚き火を見つめながら、携帯食を齧り水を流し込む。空を見上げると天上の星が幾つも煌めいて美しい光景だと感じた。
「テイル殿はどこかで武道を嗜んでおられたのですか?」
沈黙を破ってレンカが尋ねてきた。
「いや、全くの素人だよ」
と僕は答える。
「しかし先程の戦闘ではとても素人とは思えない動きをなされていましたが……」
「う~ん……小さい頃にノエルとよく組み手をやっててね、ちゃんとした教えを受けた訳じゃないんだけど、多分そのお陰かな」
「ノエル……ノエル・スプライド……『白銀の巫女』がそのような事を」
「あれでも選別の義で聖女認定されるまでは、かなりの男勝りだったんだよ」
ほう、と意外そうな声を上げるレンカに僕は少し昔話を語った。
「昔は僕もノエルも勇者に憧れててね。木の枝を振ってチャンバラごっこをしたり、素手での組み手をやったり、幼い子供なりに身体を鍛えようと色々な事をやってたんだ」
「テイル殿の幼い頃ですか……それはさぞ天使のような可愛さだったのでしょうなぁ」
「当時はよく僕が女の子に間違われてノエルが男の子に間違われてたなぁ」
今でもたまに女の子に間違われるという事は男のプライドに関わるので黙っておこう。
「……恨んでいますか? 白銀の聖女を」
レンカは真っ直ぐこちらを見詰めている。レンカが何故そんな質問をするのかは大体僕も予想がついている。
僕は慎重に言葉を選んで答えを返す。
「……恨んではいないよ。恐らくだけど、彼女の立場ではあの時マグナスや他の皆を止めるのは無理だったんじゃないかな」
「……知っていたのでありますか」
「予想でしかないけどね。聖光国の威光を背負ってる聖女と勇者が別行動になるのは良くない、と考えたんじゃないかな。実際、スピルネルからの援助を打ち切られたら、後に残るのは莫大な借金だ。」
あの時マグナスの決定に逆らうのはノエルにとっては身の破滅に等しい行為だったのだろう。
「パーティーを追放された直後はどうして、と思ったけどね。時間が経っていくにつれてだんだんあれはノエルにとっても本意じゃなかったんじゃないかって思えるようになってきた」
「聖女を許すと?」
「う~ん……それを判断するのは彼女と再会して本意を問い質してからだよ。今の時点ではまだ何とも言えない」
「そうでありますか……」
ぼそり、と呟くレンカの横顔は頼りなく心細そうに見えた。
「心配しないで。例えノエルと再会して和解したとしても、彼等の元に戻る気は無いよ」
「テイル殿……」
「ノエルが仮に元臥竜鳳雛パーティーから抜けて今の僕達と行動を共にしたいと考えているのだとしても、君の意向を無視して決めるつもりはない。君が嫌なら断るよ」
その答えが予想外だったのか、レンカは目を見開いてこっちをじっと見ている。
レンカはノエルが僕を見捨てたのが本意ではない事を分かっていたのだろう。そしてそんな彼女と僕が再会し頼まれたら再び元臥竜鳳雛のメンバー達の元に戻ってしまうのではないか、と怖くなったんだと思う。
だから僕は彼女が安心するように言う。
「前にも言っただろ。君に助けて貰って僕は泣く程嬉しかったんだ。受けた恩を忘れる気は無いよ。君は僕の大切な仲間の一人だ」
「///////」
レンカの顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。そんな彼女の反応を見ていると、自然と可愛いな、と思う感情が湧いてくる。
その感情の名前がなんなのか、かつてノエルに向けていたそれと同じものなのか、今の僕にはまだ分からなかった。
その後は二人で見張りを交代しながら就寝し、次の日の昼に再び進み出した僕らは、ついにノーストラダムの街にたどり着いたのだった。
どんなに歯の浮くような恥ずかしいセリフでも
顔色一つ変えず本気で言える、
それが口説きスキルの真骨頂
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