十八話
「[不死王リッチ]……!」
思わず声が震える。
「ククク……ビビったかあ? Sランクモンスターに出会うなんてまず有り得ない事だからなあ」
そうだ。奴の言う通りSランクモンスターに遭遇する事なんてまず有り得ない事だ。
それがわざわざ向こうから目の前にやってきてくれたのだ。
カモがネギを背負ってやってきた。声が震えたのは恐怖からではなく、興奮の為だ。
これで僕はもっと強くなれる。得体の知れない感覚が背筋を駆け抜けていく。
「レンカ」
「はい!」
「全力でやろう。周囲への被害はとりあえず後回しだ」
「了解であります!」
レンカも僕と同じ心境のようだ。瞳はギンギンに輝き興奮で少し鼻息が荒くなっている。そんな僕達の状態を見てリッチーは首を傾げたが、とりあえず気にしないようにしたようだ。
リッチーの指示により死人達の包囲網がどんどん狭まってきて、今にも食いつかれそうだ。
「ピピ」
「クエエエ~~~~!!」
了解、とピピが両翼を優雅に羽ばたかせる。するとピピを中心に衝撃波が巻き起こり周囲の死人達を薙ぎ倒していく。
もちろん、かつての臥竜鳳雛のように僕達を巻き込んだりなんて事はしない。吹き飛ばされて倒れた死人達の身体から火の手が上がり彼等を焼いていく。
「何だと!?」
ピピがSランクモンスター鳳凰だと分かってはいないのだろう。奴がさっき言った通りSランクモンスターに出会う事など普通はまず有り得ない。知識として鳳凰を知っていたとしても目の前の敵がそうだとは思うまい。
要するに、思わぬピピの強さに敵はたじろいでいたのだ。この機を逃す手はない。
「レンカ! 今だ!」
「はい!!」
二人で一気にリッチーに迫る。周囲の死人達はピピだけで十分対処出来る。まず彼等を操っている不死の王を先に何とかするべきだと判断し二人で襲いかかった。
「チッ!」
リッチーは舌打ちすると向かってくる僕達に対して風の魔法で迎撃に出る。目に見えない真空の刃が不可視の刃となって周囲一帯を凪いだ。
レンカは垂直に立てた片手剣で真空の刃を真正面から受け止め、僕は……跳んだ。
「!?」
不死王リッチーの顔が驚愕に染まる。僕は生身で5~6メートルは跳んでそのままリッチーの真正面に着地した。
リッチーが次の攻撃に移る前に距離を詰めて拳や蹴りで牽制する。リッチーの身体に攻撃が当たる寸前で魔法障壁が貼られ硬質な音と衝撃が響いた。
「魔獣使いが何故ここまで動ける……!」
思わずといった感じでリッチーが呟く。気待ちはよく分かる。魔獣使いは魔獣を使役出来る代わりに本人のステータスは低く後方支援が主な役割なのだ。
今の僕のように自身が前線に出るなど考えられない事だ。その常識がリッチーを当惑させ動きを鈍らせる。
勢いに押され後退するリッチーを追う僕。リッチーは右手に大きな鎌を顕現させると横に一閃した。まともに受ければヤバいと判断し身を交わして避けると先程の真空の刃に勝るとも劣らぬ切れ味で、うかつに近寄れない。
……と、リッチーは考えていたのだろうが、僕は構わず一直線に不死王に向かっていく。再びリッチーが鎌を凪ぐ。
遅い。
敵の懐に潜り込み渾身の一撃を見舞う。ビキ、と魔法障壁にヒビが入り拳に鈍い痛みを感じる。その隙にリッチーは再び鎌で迎撃しようと腕を奮う。
その瞬間振りかぶる腕を脚で蹴り止めてからリッチーの身体を駆け上がるようにして後方に一回転。僕だけに意識を集中させていた不死王は真後ろから続けて来たレンカの一撃に対応出来なかった。
僕が立て続けに攻撃を行っていたのは後方のレンカから意識を逸らす為だ。
「炎熱一閃! イグニッションブレイド!!」
高熱を宿したレンカの片刃剣が真紅に染まり、魔法障壁ごとリッチーの身体を切り裂いた。
「ぐうううぅっ!?」
しかし、傷は浅く致命傷を与えるには至らず、リッチーはたまらず宙に飛んで距離を取った。
「ハア、ハア……クソ、油断した! お前らSランク級パーティーだな! 初めから分かっていればもっとやり方があったものを……」
忌々しげにリッチーが言う。
死人達を全滅させたピピが後ろから追いついてくるが、リッチーはかなりの上空に退避しているのでここからだと攻撃が届かない。
「目の前の事に集中するあまり視野が狭くなるその癖、相変わらずですねゲオルク」
「「「!!?」」」
突如現れた第三者の声に僕達だけでなくリッチーも驚愕する。声のする方を見ると、不死王リッチーの黒いローブとは対照的な白いローブを被った骸骨が中型犬くらいの大きさの骸骨犬を脇に携え佇んでいた。
「白いリッチーが……もう一体!?」
白いもう1人のリッチーはどうやら案内役として連れてきた骸骨犬の頭を撫でてお礼を言っていた。
ゲオルクと呼ばれた黒いリッチーに比べるとどことなく柔らかい印象を受ける。
「貴様か、いい加減しつこいぞ、ヘルメス」
「貴方こそ、罪なき者を自身の研究の犠牲にするのはいい加減にお止めなさい」
両者の間で火花が散る。どうやらこの黒いリッチーと白いリッチーは対立関係にあるらしい。黒いリッチーことゲオルクは興が削がれたようにため息を着くと、首を振った。
「やれやれ。つまらん邪魔が入った。勝負は預けるぞ。だが覚えておけ、この借りは必ず返す……!」
そういうと、ゲオルクは姿をあっという間に消してしまった。どうやらセラフと同じように転移魔法が使えるらしい。
一方僕達は突如現れたこの白いリッチーをどう扱えばいいのか分からず当惑するのみだった。ヘルメスはそんな僕達を観察するようにしばらく見ていたが、やがて口を開いた。
「ゲオルクと一戦交えて生き残っているとは、かなりの実力者のようですね。ですが一つ忠告しておきましょう。」
そうして彼(彼女?)が指さした先には僕達の戦闘の影響で炎が燃え広がっている森林と、屋根が吹き飛んだ馬車の中でガチガチと震えて身を寄せ合っている乗客達だった。
「守るべきものがあってその為に戦うのであれば、決して目を離さない事です。失ってからでは何もかも遅いのですから」
そう言ってヘルメスが指で韻のようなものを組むと、馬車を覆っていたと思われる結界が消え、周囲に燃え広がっていた炎も消し止められた。
(まさか、守ってくれていた……のか?)
呆然と立ち尽くす僕達を一瞥すると、最後にヘルメスは、
「では、ごきげんよう皆様」
と言って先程のゲオルクのように一瞬で姿を消したのだった。




