十四話
ようやく勇者サイドの話です
ノエルSide
「何だと!? ふざけるな!!」
「どういう事よ~!! 巫山戯るんじゃないわよ!」
今となっては最早聞き慣れたライザやシルヴィの怒鳴り声が部屋に響く。
元々テイル君がまだパーティーに居た時からあまり我慢の効く性格ではなかった二人だが、彼が抜けてからはより短気になり不機嫌さを隠そうともしないようになった。
理由はもちろん、魔獣使いであるテイル・スフレンクス──私の幼なじみでもあるテイル君がパーティーから抜けたせいだ。
元々私達の戦術は壁&囮役となって敵を引き付けるテイル君とピピ君の存在あってのものだ。彼らが抜けた今私達は今までのように後方から広範囲攻撃で敵を殲滅するという戦術を取れなくなっていた。
敵の攻撃を受けながら味方を巻き込まないように攻撃する、言葉にすればただそれだけの事なのにマグナスもライザもシルヴィもそれを実行する事が出来なかった。
回復魔法を使う私はパーティーの生命線だ。私だけはどうあっても前衛には出れない。
後方から仲間たちの戦闘を見ているとそれがいかに自分本位で連携が取れていないのか嫌でも分かる。
互いの広範囲魔法や攻撃が同士討ちを誘発し、その火力の高さ故に敵を倒す事は出来るが代わりに戦闘で受ける傷も圧倒的に増えていた。
本来の予定ならばテイル君を追放した私達は西のルフレ砂漠に向かう予定だったのだが、あまりの苦戦に出戻りする羽目になったのだ。
そうやって今まで通りに上手く戦えないフラストレーションを抱えていた私達の前に突如現れたのは一級監査官と名乗る奇妙な格好をした男だった。
彼は私達に臥竜鳳雛の名の剥奪と冒険者ランクをSからAに格下げする事を決定事項として告げたのだ。
二人に怒声を浴びせ掛けられた男は表情一つ変えること無く淡々と言葉を紡いでいく。
「べつに巫山戯ちゃいませんけどね~
むしろ、今まで貴方達の所業を見逃していた事を感謝して欲しいくらいです」
「何だと!?」
「テイル・スフレンクス」
その単語にその場にいた全員の身体が硬直する。
「その反応は心当たりあり、って所ですかね~?
いやいや、実はですね~とある貴き身分のお方から貴方達臥竜鳳雛のパーティーの実態が密告されましてですね~
まあ、法的にはギリギリグレーゾーンで通る所ですが……勇者と聖女の属するパーティーとしては如何なものでしょうか」
ギクリ、と私とマグナスの身体が強ばる。そうだ、先日パーティーを抜けたテイル君の扱いに関しては、明らかに異常な酷使をさせていた。虐待と言ってもいい。それを公にされれば、勇者マグナスと、私、聖女ノエルは今の立場を失いかねない。
私達臥竜鳳雛はただのパーティーではない。世界に4人にしかいない勇者に世界に三人しかいない聖女が属しているパーティーなのだ。聖光国スピルネルの威光をその身に背負っている。
無様な姿を晒す事は許されないのだ。
スピルネルからの全面的な支援を受けているからこそ私達は豊富な資金や資源を提供され国境も自由に超える事が許されている。
スピルネルから切り捨てられれば、今まで好き放題やってきたツケを払わされる事になるだろう。
国から潤沢な資金を提供されていたのをいい事に、ライザは最高級の防具や武器を幾つも所持していたし、シルヴィは大の貴金属や宝石好きで無駄に買い物をしては自らの美貌を飾っていた。
テイル君が居た頃はいつも財布の懐具合に頭を悩ませていた。
私達四人が最高級の宿に泊まる傍らで、テイル君は相棒のピピ君と外で野宿、などという事も沢山あった。
マグナスは表向き自分から率先してテイル君を粗雑に扱う事は無かったが、それも勇者としての外面を考慮しての結果であり実はパーティーの中で一番冷酷な人間だ。
テイル君とピピ君を壁&囮役にして後方から範囲攻撃でもろとも攻撃するという、正気を疑われるような戦術を提案したのはマグナスだ。
一見相手に選択の自由を与えているように思えるが、テイル君の性格とパーティー内での立場を考えたら無謀でも話に乗る他は無い。
この男はそれらの事を全て理解してやっているのだ。
一級監査官のセラフと名乗る男に一方的に臥竜鳳雛の名の剥奪と冒険者ランクの格下げを言い渡された今も、シルヴィとライザは怒り心頭といった感じで食って掛かっているが、マグナスは彼らのように抵抗する素振りは見せていない。
頭の中で冷静に合理的に、どうするのが一番被害が少なくなるのか計算した上での事だ。ここで一級監査官に逆らっても何もいい事は無い。
しかしそれは彼が損得利益を計算した上での事であって、彼自身の誠実さだとか心根から来るものでは無い。
もっともここでそんな事を考えられる人間ならテイル君に長年あんな酷い扱いを受けさせる筈もない。
それは私、聖女ノエルにも言える事だ。私に彼等を非難する資格はない。むしろ私こそがこのパーティーの中で最も穢れ汚れた存在だろう。
聖女の名を冠しておきながら目の前で苦しんでいたテイル君をずっと放置してきた。
彼がパーティーを追放される時も、最後に私に縋ってきた彼を助けなかった。見殺しにしたようなものだ。
彼にとっては、同じ村の出身で一番長く同じ時を過ごしてきた私だけが最後の頼みの綱だった筈だ。
私は、あの時テイル君の顔をまともに見れなかった。
もしあの時テイル君を庇いマグナスに切り捨てられれば、勇者から切られた役立たずの聖女として私に行く宛ては無くなる。それどころか臥竜鳳雛パーティーが散々貯めてきたツケを彼等の代わりに払わされる可能性すらあった。
私はそれが怖かった。
勇者と聖女が離れ魔王打倒の勢力が弱まる事も不安ではあったが、結局私は自分の身が可愛かったのだ。
私は、パーティーから追い出されそうになっていたテイル君を留め置く代わりに、マグナスの恋人とされていた。
恋人と言ってもお互いに気持ちはなく、ただ自分の元に聖女を留めおく為の策である。
寝る所かキスもした事は無い。私が本当に心を寄せるのは、テイル君なのだから。
私は、マグナスの口から自分達の関係をバラされてテイル君に見捨てられるのが怖かった。テイル君を見捨てておいて何を言っているのだ、という話なのだが、テイル君にもしそれがバレたら私はもう一生彼の前に立てないと思って怯えた。
今のままでもテイル君は私と顔を合わせようなどとは考えないだろうに。
「とにかく、貴方達は今この時を持って臥竜鳳雛の名を剥奪、そしてAランクに降格です。これを受け入れられないのであれば……」
「分かった。処分を受け入れる」
セラフ監査官に最後まで言わせずマグナスが認める。
「懸命な判断です。しかし、テイル様を追放したのは失敗でしたね。彼はブラッドアントの巣を発見、女王を討伐し生物災害の発生を未然に防ぎました。相棒のピピ殿は鳳凰に進化し、今は元Bランクソロ冒険者のレンカお嬢様とパーティーを組み、結果Sランクに返り咲いています」
「「「「!!??」」」」
さすがにこの結果は私にもマグナスにも予想外の事で、空いた口が塞がらなかった。私達がテイル君を追放してからまだ一週間も経っていない。臥竜鳳雛時代から彼への風当たりは強かった。
ソロ冒険者になった今余計に辛い扱いを受けてしまうだろうと心配していたのだが、彼にそんな心配は無用だったという事か。
そうだ。
本当は、テイル君は、優しさの中に折れない芯を持った強い人だった。
彼の優しさに甘え切ってその強さを外に出させなくしてきたのは他ならぬ私達だ。
彼はようやく自身を縛っていた鎖を外して自由になったのだ。
その後パーティーメンバーは荒れに荒れ、揉め事は日常茶飯事の酒場においてさえ追い出されそうになる程に周囲に当たり散らし醜態を晒した。
マグナスは、相変わらず考え込んでいたようだったが、最後に私の所に来て耳元で囁いた。
「逃げられると思うなよ、ノエル」
これから私には恐ろしい罰の日々が待ち受けているのだろう。
全ては自らが招いた事。私は、ただ目の前の現実を黙って受け入れる他は無かった。




