十二話
遥か高く上空に飛び上がったピピの背中の上から二人で王都ネフタルの優大な街並みを見下ろし、やがてゆっくりとギルドの建物の前に降り立った。
既にピピの接近に気付いていた腕利きの冒険者達が徒党を組んで迎撃に備えていたが、ピピの上から僕とレンカが降り立つと皆の目が点になった。
「おい、あいつ確か臥竜鳳雛のお荷物テイマーじゃ……」
「隣にいるのは焔の狼だぞ……」
「あいつらパーティー組んだのか?」
「まさか、落ちこぼれと組んで何の得があるんだよ」
「でもあいつが連れてる使い魔、めちゃくちゃ強そうだぜ」
「いつもの雛はどこいったんだよ」
「まさか、進化したのか……?」
ざわざわ、と騒ぐ声を無視して入口へと近づくとドンドン、とギルドの職員達がドアを必死にノックしているのが見える。
「ギルド長!! いつまで執務室に篭ってるんですか! 早く出てきて下さい!」
恐らくSランクモンスターの接近に気付いたギルド職員達は冒険者達と協力して迎撃に向かおうとしているのにギルド長は執務室に篭って避難したままなのだろう。
「情けない……ギルドマスターともあろう者が魔物に怯えて巣に立てこもるとは」
レンカの怒気を含んだ呟きに反応したギルドの受付嬢が外に出てきてすがるように声を掛けてきた。
「レンカさん! ちょうどいい所に来てくれました! ギルド長が部屋から出てきてくれなくて……」
「丁度いい。本部の監査官が来るまでそのまま篭っておいて頂きましょう」
「え?」
監査官、という単語にギルド内がざわめく。監査官というのは冒険者ギルドの本部に籍を置く内部調査機関の者を差す。
各地の冒険者ギルドの働きを審査し問題があれば罷免、懲戒免職をさせる権限を有している。
実は冒険者ギルドに向かう途中で二人で相談していたのだ。
絶滅指定種の発生をギルドに報告した所でネフタルの冒険者ギルドはきちんと動くのだろうか? と
まず僕がお荷物テイマーとして皆に舐められている現状を考えると情報の真偽を疑われる可能性がある。
B級冒険者のレンカの証言があれば信用して貰える可能性は高い筈だが、それが通ったとしてもギルド長が動かなければ冒険者達を洞窟に向かわせる事が出来ないのだ。
なのでレンカは所持している通信魔導具を用いて実家のゼンランド家経由でギルド本部に異常事態発生の報告と監査官の派遣を申請したのだ。
普通なら監査官が送られてくるには二、三日の猶予期間が置かれるのだが緊急事態という事と王都ネフタルにおけるゼンランド家の発言力のお陰で本日中にも転移魔法で監査官がネフタルの冒険者ギルドに派遣されるという話になった。
「で、でもSランクモンスターが王都に近づいてきてるのに……」
「それなら案ずる事はないでありますよ。それはテイル様の使役している魔獣でありますから」
「え……?」
その時になって初めて周囲から胡乱げな視線がこちらに向けられる。
ここまで来てもまだいつも通りの扱いか。
自分が舐められているという事実よりも、先入観に囚われて正しい判断が出来ない、求められる対応を正しく行う事が出来ない冒険者ギルドの情けない現状にいい加減怒りが湧いてきた。
僕は成体になったピピに視線を送ると声を掛ける。
「ピピ」
「クエエエエエッ!!」
僕の意図を察知したピピは大きく翼を左右に広げその圧倒的な力とオーラを見せつけ威圧する。物理的な衝撃を伴う凄まじい圧が周囲を圧倒し、歴戦の戦士達が腰を抜かして倒れ込む。
今のピピの身体は羽根を広げれば横幅全長10メートルはある。それが威嚇すれば凄まじい迫力だろう。
「ひいっ」
「うわ……」
僕は意を決して叫ぶ。
「冒険者達よ! ここにいる魔獣は僕の使い魔、Sランクモンスター鳳凰だ!
いい加減に偏見と侮蔑の目で僕らを見るのは止めろ!!
さもなければ次からは実力行使に出るぞ!!」
普段舐めに舐め切っていた僕がいきなり別人かと思う程の覇気を持って周りに宣言し宣戦布告するのを見て、ようやく彼等は目が覚めたようだった。隣ではレンカがうっとりとした恍惚の表情で微笑んでいた。
「すげえ……周囲の奴らを圧倒してる」
「あれが本当にあのテイルなのか」
ボソボソと囁く声が聞こえてくる。彼等の僕達を見る目が変化してくる。侮蔑と嘲笑から驚きと戸惑いの後に、少しずつ別のものへと。
しかし、それでもまだ今までの評価を捨てきれない一部の者達が気に入らないとばかりに鋭い目でこちらを取り囲んできた。その中にはこの間絡んできた荒くれ者も混じっていた。
「気に入らねえ……まぐれでちょっと魔獣が進化しただけで調子に乗りやがって……」
「どうせその魔獣もゼンランド家から借りてきたに決まってらあ!」
「この人数でかかればどうにも出来ねえさ! やっちまえ!!」
そうして複数人の荒くれ者達がこちらに向かって襲いかかってくる。
ピピの瞳が獲物を屠る無慈悲な狩人の目に変わり、主人を侮蔑した愚か者達に制裁を加えようと羽根を広げたその時、
「「「!!?」」」
全員がいきなり動きを止め硬直した。
よく見ると荒くれ者達の身体を光の輪のようなものが覆い拘束していた。
「まったく、やれやれですね~
ネフタル支部が腐敗しているとは聞いてましたが、想像以上です」
語尾が間延びした独特の口調と共に全身をミイラ男のように包帯でぐるぐる巻きにし鍔付き帽子を被った奇怪な格好の男がいきなり何も無い所からその場に現れた。
恐らく転移魔法の使い手なのだろう。
そしてその脇には荒くれ者同様に全身を光の輪で拘束されたギルド長が芋虫のように地を這っていた。
部屋に篭っているのかとばかり思っていたが、既に拘束されていたのか。
「レンカお嬢様~遅れてすみません~
こいつが無駄に抵抗するもんで」
「気にしていないわ。ありがとうセラフ」
二人は既知の仲のようで、レンカは普段の口調からは想像も出来ない程に可憐で優雅な雰囲気を身に纏わせていた。
多分、こちらが本来のゼンランド家の令嬢としてのレンカの顔なのだろう。
突然の事態にざわめく周囲の反応にセラフは目を細め、鍔付き帽子をくいっと指で上げると自己紹介を始めた。
「ネフタル冒険者ギルド支部の皆さん初めまして。私は冒険者ギルド本部から派遣されてきた一級監査官、セラフ・リコビッドと申します~」
「一級監査官だって!?」
「なんでそんなお偉いさんがいきなりここへ?」
「ネフタル冒険者ギルド長オーキッド・バラムは私の権限により拘束、このまま本部に連れ帰り審問会に掛けます。恐らくギルド長は懲戒免職の処分が下され、更に余罪追求の為に投獄されるでしょう」
セラフ監査官の衝撃発言にどよめきが広がる。ぐるぐる巻きにされた包帯の隙間から鋭い鷹のような瞳が覗く。多分、今の発言に対する周囲の反応を見てギルド長の汚職や悪事に加担していた者を見極めようとしているのだと思う。
ふとセラフ監査官と目が会うと、彼は頭を下げて挨拶してきた。
「初めましてテイル・スフレンクス様。貴方のご活躍は常々お嬢様から聞き読んでおります。以後よしなにお願い申し上げます~」
レンカの連れとはいえ、一介の冒険者に一級監査官が随分丁重な対応だなあと思っていたら、見透かされたように彼にこう言われる。
「いいえ、いいえ、貴方様はそれだけの対応をされる資格があらせあれますよ。貴方様の冒険者ランクは現時点を持ってSランクに昇格させて頂きますから~」
「え!?」
セラフ監査官からまたしても衝撃的な発言が飛び出したのだった。
ギルド長は部屋に閉じこもって避難していた所を転移魔法で中に入ってきたセラフ監査官に捕縛、拘束されました




